軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プライド

トンキーは、妖精女王陛下の強靭な足だ。

山野を駆け巡り、濁流うず巻くタルブ川を泳ぎ渡り、魔獣が棲息する森林地帯を走破する。

所謂(いわゆる) 、野獣の姿をした重戦車である。

しかし、トンキーのプライドは、ライトニング・ベアの登場によってへし折られた。

メルが三輪バギーの乗り心地に快適さを見出して、メジエール村での移動にトンキーを使わなくなったからだ。

「プギィィィィィーッ!」

はらわたが煮えるほど悔しかったけれど、トンキーは我慢した。

何故なら、じきにユグドラシル王国はミッティア魔法王国との戦争に突入する。

そのとき活躍するのはトンキーだ。

三輪バギーなどに出番はない。

ライトニング・ベアなんて、赤ちゃんが乗るものだ。

そう考えたトンキーはエルフの里に棲みつき、来る日も来る日も自分を鍛えあげた。

魔法文明に甘やかされて野生を忘れてしまったエルフたちを助け、恵みの森に棲息する危険な魔獣たちを片端からぶちのめした。

ふと気づけば筋肉質のボディーは二回りも大きくなり、ギガントエイプでさえ悲鳴を上げて逃げ出すほどの立派なブタに成長を遂げていた。

トンキーの体当たりは、一撃で硬い大岩を砕く。

その瞬発力は、ハンテンの全力ダッシュを軽く上回る。

得意の土魔法で自分の周囲に 礫(つぶて) のリングを展開させ、敵の攻撃を寄せ付けない。

魔法だろうが矢だろうが、問答無用で叩き落す。

まさに『俺TUEE!』を体現した、無敵の 重戦車(ブタ) である。

「ぶっ、ぶぅーっ!」

この勇姿をメルに見せんと、トンキーはメジエール村を目指した。

それなのに…。

メルは空き地で、戦闘用ゴーレムを試乗していた。

「ピギィィィィィィィィィィィィィーッ!!」

トンキーが切れた。

ブタだけに猪突猛進である。

鍛冶屋のドゥーゲルとゲラルト親方は、完成したゴーレムの試作品を見上げて、肩をすくめた。

人が乗って操縦するゴーレムなど邪道も邪道、問題外だ。

「工夫する喜びはあったが、根本的な問題は全く解決できていない。技術者としては、試乗でさえ認めたくねぇ!」

「なんで、こんな不細工なものに乗りたがるのか…。理解に苦しむわ」

「妖精女王陛下の御希望だし、しゃーない」

操縦席によじ登ったメルは上機嫌だ。

梅味の仁丹は持ったし、待ちかねていたロボが格好よい。

ワイヤーを巻き取るタイプのロケットパンチも、装備されていた。

全高は八メートル近く、ミッティア魔法王国の魔導甲冑と比べれば巨人のようだ。

完璧だ。

文句はない。

「よっし。起動すゆ!」

操縦席のペダルを踏み込むと、駆動部の動力ディスクがうなりを上げて、ゆっくりとゴーレムが立ち上がった。

「すげぇー。カッケェー!」

もうメルは有頂天だ。

「はじめの。いーっ歩」

ゴーレムが右足を上げて、記念すべき第一歩を踏み出したとき、雑木林からベージュ色の怪物が突進してきた。

「うおっ!敵襲!!迎撃すゆ…」

すかさずレバーを引いて、ロケットパンチを発射する。

どぉーん!

呆気なく弾き返された。

「うがぁぁぁぁーっ!」

『ズゴォォォォォォォォォォーン!』と、怪物のブチかましを食らい、ゴーレムの華奢な足が捥げた。

ゴーレムは勢いよく宙に舞い、逆さになって落下した。

頭はぐしゃりと潰れ、腰部が荷重に耐え切れず、グキッと折れ曲がった。

コックピットのハッチが、弾け飛ぶ。

「ぎゃふん!」

操縦席から投げ出されたメルは、コロコロと草むらを転がった。

「プギィィィィィィィィィーッ!」

空き地に、トンキーの咆哮が響き渡った。

勝利の雄たけびである。

「と、とんきー。おまぁー、なにさらすねん!?」

「ブヒ、ブヒ!」

「いや…。そやけどね。コレ、わらしの大切な…」

「ピギャァァァーッ!」

「おまぁー、怒ってるん…?そう…。浮気はアカンと…。わらし、悪かったデス」

トンキーはメルの顔に鼻を押し付けて、ベロベロと舐めた。

仲直りのキスだ。

「ヒィーッ。やめんかい!」

妖精たちは、壊されたゴーレムを心配そうに見ていた。

新しいオモチャを一瞬にして失ってしまい、とても悲しそうである。

「ドゥーゲル。修理…」

「こりゃ駄目だ。バラバラだぞ」

「もとから重量バランスが悪かった。それを誤魔化そうとしてフレームを削ったから、さっきの衝撃で全体に歪みが生じた。オーバーホールは無理だな」

「メル坊よ。残念だが、ゲラルトの説明が正しい。そもそも、もとのデザインに問題があり過ぎた。無事なように見える部位も、ガタガタだ。もう潰すしかねぇ」

「そんなぁー」

メルのロボは、修理不能のスクラップと化した。

新しい玩具を壊された妖精たちが、悲しそうにゴーレムの周囲を飛んでいた。

スーパーロボットの夢は、 潰(つい) えた。

トンキーの完全勝利だった。

◇◇◇◇

ルデック湾にミッティア魔法王国の巨大な軍艦が停泊していた。

その横には、鈍重そうな輸送船が三隻並んでいる。

「この日を待ちかねたぞ…」

アイスブルーの瞳を細め、ワルターが呟いた。

「これで…。ようやく事態が動き始めますな!」

ウォレス少佐は、感無量といった様子だ。

輸送船が運んできたのは、魔導甲冑を搬送する多脚ゴーレムである。

帝都ウルリッヒ攻略のために開発された、最新式のゴーレムだ。

クレーンから吊り下げられたコンテナには、多脚ゴーレムのパーツが収納されている。

全ての荷を陸揚げしてから、作業場で組み立て作業に入る。

「枢密院が総力を挙げて、多脚ゴーレムの開発に二年を要した。全く以って、忌々しい話だ」

「文明レベルの低さが障害となって攻めあぐねるとは、皮肉な話です」

「それも、これまでの話よ!」

ウスベルク帝国の道は、まともに舗装されていない。

魔導甲冑を拠点まで運ぶには、インフラから整備する必要があった。

しかし、バスティアン・モルゲンシュテルン侯爵領に、そのような余力はない。

多脚ゴーレムの開発は、苦肉の策である。

「11番倉庫に生えた 方尖塔(オベリスク) の正体は、未だ分からぬまま。モルゲンシュテルン侯爵からは、『何をしているのか?』と 嘲(あざけ) られて辟易としていたが、あのような石柱はどうでもよい。魔導甲冑さえ輸送できれば、既にゴールが見えたようなものだ」

「 屍呪之王(しじゅのおう) については、どうなさるおつもりですか?」

「そちらは、大口を叩いたモルゲンシュテルン侯爵に任せておけばよい。得体の知れぬものに関しては、あれこれ考えたところで無駄に終わる」

「なるほど…。我々は戦争屋だと言うことですな」

「その通り。戦場こそが、我らの輝かしい舞台だよ」

ワルターは機嫌良さそうに、エルフ耳をぴくつかせた。

◇◇◇◇

久しぶりに、フレッドが帰ってきた。

アビーとディートヘルムは、大喜びだ。

心温まる家族団欒のシーンが、メルの見ているまえで繰り広げられた。

「今回は、長かったぁー。さすがに 草臥(くたび) れたぜ」

「お疲れさま」

「アビー、浮気してなかったか?」

「馬鹿を言わないでよ。あなたこそ、帝都で浮気してたんじゃないの…!?」

アビーがフレッドの横っ腹をギュッと抓った。

「イテェー。俺はアビーだけさ。ちゃんと分かってんだろ。愛してるよアビー」

「あたしも…。愛しているわ、フレッド」

メルは抱き合うフレッドとアビーから視線を逸らし、『ちっ!』と舌打ちをした。

「ぱぱ、ぱぱ…。ボクはヨイ子で待ってたよ!」

「おーっ。ディーは、少し大きくなったな…。ママを困らせたりしなかったか…?」

「うん。ボク、さみしくても泣かなかったよ」

「そいつは偉かったな」

フレッドは、抱きついてきたディートヘルムの頭を撫でた。

「おいメル。おまえは、何かないのかよ?」

「何かって…?」

「再会の挨拶だよ。ずっと待ってたよとか、パパがいなくて寂しかったとか…。何かあるだろ?」

「わらし、パパがおらんで寂しかった。抱っこして…」

メルはフレッドに飛びつき、頭を突き上げた。

フレッドの顎に頭突きが入った。

「おごっ…。イテェー。滅茶クチャ痛い…。オマエは、勢いつけすぎだろ!?」

「…………」

家族間の愛情表現は、何となく照れくさいメルだった。

その夜は、アビーとメルが力を合わせて、御馳走を作った。

食堂のテーブルには、アスパラガスや玉ねぎをベーコンで巻いて炒めたもの。

タラの切り身にシメジや長ネギを添え、バターと酒で香りをつけて蒸し焼きにしたもの。

コッコさんのもも肉を使った温かいホワイトシチューに、旬のキノコを和えた醬油ベースの和風パスタなどが並んだ。

フレッドとアビーのドリンクは、メルが用意したハイボールだ。

お子さまチームは、もちろんノンアルコールである。

「なあ、おい。妙に静かだな。一人ばかり、面子が足りなくないか…?」

「ビンス爺ちゃんは、メジエール村を去りました」

「えっ、そうなの…?」

「戦火に見舞われた村々で、美味しいを布教して回るそうデス!」

「マジかよ」

「しゃーないので、餞別に山ほどカレーのルーを持たせました」

メルは花丸ショップで買った魔法のバッグに、カレーの材料をギュウギュウ詰めにして渡した。

カレーのルーだけではなく、ニンジンにジャガイモ、玉ねぎ、牛、ブタ、鳥の肉など、あらゆる材料を放り込んだ。

「カレーねぇ。あの爺さんに、料理ができるのかよ」

「一応、調理の手順は教えました。材料を切って、鍋に入れて、煮るだけ」

「それなら、何とかなりそうか…」

材料は山ほど渡した。

あとは自分で工夫して貰いたい。

「当分は、困らんデショ!」

「厚かましい爺さまだったけど、居なくなると寂しいもんだなぁー」

「ボク、お爺ちゃんに会いたい」

「ディーはビンスさんに、たくさん遊んでもらったものね」

「爺さま、また帰って来るといいな」

「うん」

「…………」

メル(樹生)には、ちょっと理解できない感性だった。

だけど、ほんのりと胸が温かくなった。