軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

マリーズ・レノア中尉の受難

メジエール村で、トラクターが使われるようになった。

『積載量とパワーが欲しいけれど、スピードは控えめで…』

ラヴィニア姫の運転を経験して、メルがドゥーゲルに提示したスペックだ。

その際に描いた絵が、小型のトラクターだった。

製造されたのは数台だが、従来の荷馬車と併用されて大活躍している。

耕耘機(カルチベーター) をトラクター後部に連結させることで、きつい畑仕事も楽ちんになった。

もとから妖精の助けが得られるメジエール村なので、さほどの効果を期待していなかったメルも、新しい玩具に喜ぶ妖精たちを見て『そぉー言うものか』と納得した。

ドゥーゲルのトラクターと 耕耘機(カルチベーター) は、遊園地並みに妖精たちを魅了し、結果として作業効率をアップさせた。

「まあ…。妖精さんたちが楽しいなら、エエわ!」

スピードと効率には、あまり関心を持たないメルである。

精霊樹の分け身なので、何事ものんびりだ。

ドリアードの娘であるラヴィニア姫も、ドライブテクニックを磨くことに余念がなかったけれど、急いで何処かへ行きたいとは考えていない。

メジエール村をグルグルと周回しているのに、タイムアタックには全くと言ってよいほど興味を示さなかった。

最近では、片輪走行に嵌っている。

「次のプレゼントはアレだな。トライアルバイクやね!」

メルとラヴィニア姫は、のんびり屋さんだった。

どちらも人族と違って寿命が長そうなので、種族特性と言えるかもしれない。

その二人が今悩んでいるのは、自らの成長である。

メルはラヴィニア姫の屋敷に遊びに来ていた。

木陰でアイスを食べるメルとラヴィニア姫のまえをハンテンが横切って行った。

ハンテンの頭には、チビ( 吉祥鼠(フォーチュンラット) )がちょこんと座っている。

ハンテンは、相変わらず悩みと無縁そうな顔をしていた。

「タリサとティナ…。でっかく成りよった」

「すくすくと育ってるよね」

「タリサなんぞ、お胸がふっくらして…」

「メルちゃんはペッタンだよね」

「…………」

メルは無言で、ラヴィニア姫の胸を見た。

ラヴィニア姫もペッタンである。

「わらし…。知らんでもエエことを知ってしまいました」

「なに…?」

「デブに背丈を追い抜かれたで、悔しゅーて、八才のときに測った背丈と現状を比べたった。嫌だけど…」

「ふぅーん。それで…?」

「爪の先ほどしか成長しとらんわ!」

メルが、ムキーッ!となった。

そう…。

気づいてなかった訳じゃない。

気にしていたからこそ、八才から背丈を記録していなかったのだ。

「怪しからんことですわぁー」

「そうね…」

数百年もの間、ミイラをしていたラヴィニア姫は、幼児ーズでチビのカテゴリーに振り分けられても気にしなかった。

美味しいご飯を食べてハンテンと走りまわり、地面に穴を掘って精霊樹の苗木を植える。

毎日が楽しくて仕方ないので、自分の王子さまがメルでも構わない。

ラヴィニア姫は小さなことに拘らない少女だった。

タリサやティナにマウントされても、どこ吹く風である。

大物だ。

それに比べてメルの小者っぷりは、半端ない。

「わらし、タケウマ止めたわ」

「どうして…」

「チビだからタケウマしてるって、言われとぉーない」

「うわぁー。そんなことを気にしてるの…?」

シークレットブーツがバレたら恥ずかしい、オジサンの心理である。

得意げに厚底靴を履く、オシャレ少女の発想ではなかった。

詰まるところメルは、背丈の低さに劣等感を覚えていた。

そこを突っ込まれたくないのだ。

「そんな風に言いますけどね。タリサ、ティナ、デブの3人が大きくなったら、わらしらは幼児ーズの残留組ですヨ!」

「はぁ?」

「あいつらは、幼児ーズを卒業するデショ。わらしとラビーは、留年です。卒業できません!」

「そんなの退学でいいよ。いっそのこと解散すればぁー」

「えーっ。わらし、ひとりは嫌です!お別れとか、泣いちゃいます!!わらしを置いてかないでぇー!!!」

出会った頃は、タリサが煙たくて仕方なかった。

フレッドにつけられた幼児ーズと言う名は、屈辱だった。

それなのに今では、現状の変化を憂えている。

慣れとは、実に恐ろしいものである。

「でもね…。いつまでも幼児のままは、おかしいよ」

「いやいやいや…。仲良しグループの名前ですから…。幼児ーズは、永遠に不滅デショ?」

「うーん。それは違うかな…。幼児とか、普通に嫌だし…」

「フォォォォォー。そんなセリフ、聞きとぉーないわ!」

メルが発狂した。

「心配いらないって…。メルちゃんがお店をしていれば、みんな遊びにくるよ」

ラヴィニア姫の慰めは、メルの心に届かなかった。

自分だけ取り残されるのは、前世からのトラウマなのだ。

一方、メルと違いラヴィニア姫は、子供服しか着れないことに不満を感じていた。

帝国貴族を嫌悪していても、お姫さまのように美しく着飾ってみたい。

その欲望は、三百年経っても変わらなかった。

「この服もカワイイけど…。そういう事じゃないんだよなぁー」

豪奢なドレスは、身分などと関係なく少女たちの憧れである。

「ふぅーっ。ちんちくりんのペッタンでは、大人のドレスなんて似合いませんよね」

ラヴィニア姫が、遠くを見る目つきになった。

幼児ーズのメンバーに背丈で追い抜かれたって、ちっとも悔しくなんかない。

だけど、お洒落をする楽しみは味わってみたかった。

◇◇◇◇

「三つ編みの似合う、あの 娘(こ) はだぁーれ。耳毛がカワイイ、あの 娘(こ) はだぁーれ♪」

銀髪の少女が、ミジエールの歓楽街を歩いていた。

楽しそうに歌いながら、ときおり奇妙なステップを踏んで腰を振る。

「あれはエルフの娘か?」

マリーズ・レノア中尉が、草臥れた様子で呟いた。

「なんだか違うような気もしますが、同族っぽくはあります。だけど耳毛が生えたエルフなんて、見たことも聞いたこともありません」

マーカス・スコット曹長が、自慢の視力で観察した結果を伝えた。

「手がかりもない事だし、取り敢えず声をかけてみるか…」

マリーズ・レノア中尉の小隊は、散々な目に遭いながらミジエールまでたどり着いた。

魔動船は、大破して沈没。

這々(ほうほう) の 態(てい) で岸辺まで泳ぎ着き、一番近い開拓村を目指して歩かなければならなくなった。

タルブ川に沿って、危険な森を進むコトとなる。

森の中で遭遇した魔獣との戦いは、熾烈を極めた。

そのせいで開拓村へ到着するまでに、装備の殆どを消費してしまった。

漸くたどり着いた開拓村では、更なる問題がレノア中尉たちを待ち受けていた。

ミュラ軍曹が代わりの漁船を購入しようとしたところ、帝国通貨では売れないと船大工に断られた。

仕方なく両替商へ出向くと、そこにはトラ猫がいた。

驚くべきことに、ケット・シーだった。

物語の中にしか存在しないと思われていた、妖精猫族である。

四百万ペグが、二百万メルカに両替された。

開拓村を離れてから分かったことだが、どうやら足元を見られたらしい。

一ペグ、一メルカの交換が、相場だと言う。

ケット・シーの両替商は、とんでもない悪党だった。

そのうえ開拓村の船大工は、粗末な漁船に二百万メルカも吹っかけてきた。

粘り強く交渉して、百五十万メルカまで値引きさせた。

新しい衣装を買い求め、飲料水と食料を船に積み込んだところで軍資金が尽きた。

「何と言うことだ…。調停者の手がかりを得るまえに、活動資金を稼がなければならん」

レノア中尉たちは、追い詰められていた。

「魚だ…。あの忌々しい魚から、我々の計画が狂いだした。オマエたちは、何者かの悪意を感じないか…?」

「バカげた被害妄想のように聞こえますが、アッシには否定できません。何だかこう…。アウエーで、アホ面を曝しているような気分ですな…。どうにも気に喰わない」

「全くだ」

レノア中尉の意見に、ミュラ軍曹とポラック兵長が同意を示した。

隠蔽の魔法を使っているのに、身元がバレているようだ。

気さくそうな開拓民たちが、何故かレノア中尉たちに 胡乱(うろん) な目を向ける。

挙句の果ては、詐欺まがいのボッタクリだ。

「このような最果てに、派手な酒楼を建てやがって…」

「どう見ても歓楽街だな…。こんな場所で、採算が取れるのかよ」

「ここへ来る途中、大きな倉庫が並んでいた。交易品の中継地点だろう。おそらく客の大半は、商人や人足たちじゃないか?」

「開拓村なんだから、開拓していればいいだろ!」

「それは違うぞ。ヘイズ…。メジエール村は、ウスベルク帝国の開拓村じゃない。国家に属さない、独立した集落なんだ」

スコット曹長が、ヘイズ上等兵の誤りを正した。

ポラック兵長の受け売りである。

ミジエールの歓楽街は帝都ウルリッヒより美しく衛生的で、娯楽が充実していた。

開拓村の質素な暮らしぶりを想像していたレノア中尉たちは、美しく着飾った遊女たちを目にして、腑に落ちない気持ちになった。

「エルフだとバレて敵視されているなら、あの娘はどうなんだ…?エルフの里があるのは、アスケロフ山脈だろう!」

「マリーズ…。どうなんだと言われても、当人に訊いてみるしかありませんな」

ミュラ軍曹が、レノア中尉の癇癪を 窘(たしな) めた。

「ああっ。つまらぬことを言った。不運続きで、少し冷静さを欠いているようだ。スマナイ」

「あのぉー。オレが行って来ましょう」

ポラック兵長が名乗りを上げた。

レノア中尉の小隊で、もっとも渉外に適した人物だった。

物腰柔らかく、穏やかそうな目つきをしている。

目鼻立ちが整った、美男子だ。

高圧的に要求を通す必要があれば、強面のミュラ軍曹が請け負う。

女子供が相手なら、色男の出番だった。

「村一番、カボチャパンツが似合うあの 娘(こ) はぁー、精霊の子ぉー♪」

まだ歌っている。

腰の振りは、一段と激しさを増していた。

『頭がアレな 娘(こ) だったら、どうしたらよいのか…?』と、ポラック兵長は不安になった。