軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めてのお見合いに乱入してきた元婚約者

カタリナにとって初めてのお見合いは、なぜか元婚約者の生家であるサウェル公爵邸で執り行われることとなった。

さすがに元婚約者とお見合い相手に不誠実すぎないかしら、と思ったカタリナだったが……。

公爵夫人と母から「大丈夫よ。今回はこれでいいの」と押し切られ、今日という日を迎えた。

しかも、当日まで相手の詳細は伏せるという徹底ぶり。その言葉の意味は、相手を見て理解した。

「フェリックス……まさかあなたがお見合い相手なの?」

セッティングされたテーブル席で待っていたのは、オーギュストと似た容姿ながら、纏う印象は正反対のフェリックス。

彼の姿を捉えた途端、カタリナの眉間には皺が寄った。

(ありえないわ。だって彼には……)

しかし、カタリナの質問には答えず、フェリックスは余所行きの笑みを浮かべた。まるで、これが初対面かのように。

「まずは、ご挨拶を。私、サウェル公爵家嫡男、フェリックス・サウェルと申します。本日はよろしくお願いいたします」

「……私はクロムウェル侯爵家嫡子、カタリナ・クロムウェルと申します。お会いできて光栄です」

言いたいことは全てのみ込み、茶番に付き合うことにした。フェリックスのエスコートで着席する。

その後も続く、当たり障りのない会話。あまりの白々しさに耐えきれなくなったカタリナは口火を切った。

「それで……まだ教えてくれないのかしら?」

圧を込めて尋ねれば、フェリックスは苦笑した。

「カタリナ嬢は相変わらずせっかちだな」

「効率的と言ってくれる? あなただってこういう無駄な時間は嫌いでしょう?」

交流時間がガクッと減ったとはいえ、彼は幼馴染だ。彼の本質をカタリナは理解しているし、逆も然り。

先程の紹介通り、互いに生家の嫡子だ。見合いの相手としては不適格。

では、いったいこの場は何のために開かれたのか。

フェリックスが嘆息し、小声で漏らす。

「仕方ないだろう。コレは我が家にとっても必要なことだからな」

「え?」

意味が分からず、訝しげに見つめれば、彼は今度は聞こえやすい声色で説明してくれた。

「今日のこれはあくまで予行練習だ」

「予行練習?」

「ああ。カタリナは今まで一度も見合いをしたことがないだろう?」

フェリックスの口調から硬さが取れた。まるで幼少期に戻ったかのようだ。眼鏡越しの瞳が愉しげにカタリナを射抜く。

(なるほど。公爵家としては私の見合いを絶対に成功させたいのね。あなたも大変ね、兄の尻拭いをさせられて……)

だが、この見合いが不本意なのはカタリナも同じ。ならば、とカタリナは多分に含みをもたせて笑みを返した。

「お気遣いはありがたいけれど……もうだいたいのことは理解したわ。要は互いを売り込む商談のようなもの、でしょう。それに、経験という意味ではあなたも大して変わりないはずよ。一回か、ゼロかの違いでしかないんだから……第一……」

鋭い視線をフェリックスへと向ける。

「セシリアが知ったら悲しむわよ」

セシリア・ローウェル。ローウェル伯爵家の長女で、彼の婚約者だ。

しかし、フェリックスはカタリナの指摘を鼻で笑い飛ばした。

「今回のお見合いも、今後のサポートについても、私以上に気合を入れているのは彼女の方だ」

「……はい?」

カタリナが目を白黒させると、なぜかジト目で見られた。

「セシリアがカタリナのことを実の姉のように慕っているのは君も知っているだろう?」

「まあ……そうね」

会うたびに、「カタリナお姉様」と呼んでぴったりくっついてくる彼女の姿を思い浮かべる。

彼女曰く、カタリナのプラチナブロンドの髪も、アイスブルーの瞳も、泣き黒子も全てが彼女の『理想のお姉様像』にぴったり合うらしい。

フェリックスが溜息を吐きながら、視線を数センチ開けられた扉の外へと向けた。

「今回の婚約破棄について、セシリアがかなり腹を立てていてな」

「え? あの子に教えたの?」

「まさか。勝手に知っていた……使用人には注意しておいた方がいいぞ」

声を潜め、忠告される。

それはつまり、公爵家の使用人が買収されていたか、セシリアの手の者が潜入していたかのどちらか。

(さすが情報関係に強いローウェル伯爵家だわ。ただ……その貴重な人材や技術を私的な趣味で使うところは理解できないけれど)

カタリナの気持ちを見透かしたかのように、フェリックスが首を振る。

「完全に排除するのは諦めた方がいい。根気戦になるからな。まあ、カタリナが本気で縁を切ると言えばセシリアも止めるかもしれないが……」

「実害がないなら別に構わないわ。でも、教えてくれてありがとう」

「ああ。……って、何だか変な感じがするな。こうしてゆっくり話すのは久しぶりだからか……一応、私も幼馴染なはずなんだが」

彼の物言いに、カタリナはクスリと笑った。

「そうね。フェリックスとこうして話すのは……おそらく十年ぶりだものね」

「そんなに経つのか。たしかに、私に婚約者が出来てからは三人で話すこともなくなったし、それ以前もオーギュストを必ず間に挟んでいたから……」

二人で過去を懐かしんでいると、聞き覚えのある足音が近づいてくるのが聞こえた。

扉の外が騒がしくなる。女性と男性の争うような声。

フェリックスと顔を見合わせ、ほぼ同時に溜息を吐いた。

元々開けていた扉をさらに開けば、そこには部屋に押し入ろうとしているオーギュストと、それを止めようとしているメイドに扮したセシリアがいた。

「まったく……あなたたちは何をしているの?」

「も、申し訳ありませんお姉様!」

慌てて、深々と頭を下げるセシリア。

オーギュストは謝ることすらせずに、非難の目をセシリアに向けている。

「僕はカタリナに用があって、会いに来たんだ。それなのに、セシリア嬢に止められて……。って、それよりも、どうして二人だけで茶会を? フェリックスの婚約者はセシリア嬢だろう?」

「それは……」

「ただの茶会ではありませんわ! これは婚約者公認のお見合いです!」

カタリナたちが説明する前に、セシリアが言い切った。

オーギュストは目を丸くし、「見合い?」と呟き、ぐっと眉間に皺を寄せた。鋭い視線をフェリックスにぶつける。その目には怒りと侮蔑の色が混じっている。

「婚約者公認の見合い? なんだそれ……。カタリナと上手くいくようなら、フェリックスはセシリア嬢との婚約を破棄するつもりなのか? そんなの、不誠実じゃないか! せめて、きちんとセシリア嬢との婚約を白紙にしてからにすべきだろう!」

カタリナは唖然とした。オーギュストの言い分は分かるが、それ以上にもやもやする。

それに、この見合いは『予行練習』だ。勘違いだと、カタリナは説明しようとしたのだが横やりが入った。

「私がいいと言っているのです! 今この場で一番邪魔なのはオーギュスト様ですわ! さあ、出て行ってくださいませ! 婚約を破棄したのですから、今後二度とお姉様に近づかないでくださいませ! さあさあさあ!」

セシリアに追い立てられるオーギュスト。

「な! 僕は君たちのためを思って……。というか、僕は婚約者としてではなく、幼馴染としてカタリナに話がっ」

「カタリナ嬢とお呼びくださいませ!」

「そ、それは、分かった。……カタリナ嬢に用事がある。これでいいんだろう⁉」

顔を顰めたまま、セシリアはちらっとカタリナに視線を向けた。

カタリナは疲れたように「はあ」とため息を吐く。

「オーギュスト様。用事とは何でしょう。急ぎですか?」

そうでなければ話を聞くつもりはない、と言外に伝える。

カタリナの拒絶ともとれる態度に、オーギュストは傷ついたように顔を歪ませた。

(なぜ、あなたがそんな顔をするの……)

その表情にカタリナが弱いことを知っていて、わざとしているのかと問いただしたくなった。

「それは……ここではちょっと……」

オーギュストの視線の先にいるのはセシリアだ。

どうせ彼女が本気になればその情報は筒抜けになるのだが、それでも今は隠したい……というより、目の前では言いづらい内容のようだ。

ならば、とカタリナは口を開いた。

「では、お話はまた今度。それではさようなら。……セシリア、少しだけ借りるわよ」

「ええ、もちろんですわお姉様!」

目を輝かせて頷くセシリアは、フェリックスにアイコンタクトを送る。

それに応えるようにフェリックスもすぐに動いた。

「カタリナ。続きは中で話そうか」

「ええ」

カタリナの腰に、フェリックスが優雅に手を添える。

実際は触れていない距離を保っているのだが、オーギュストからは親密に見えるよう調節している。

エスコートされ、カタリナは踵を返す。

「どうして、カタリナ……」

後ろで何かオーギュストが呟いた気がしたが、それには気づかないフリをした。

セシリアが強引に扉を閉める。もちろん、わずかな隙間を開けて。けれど、それだけでもオーギュストとカタリナの間に線を引くには良い小道具になっただろう。――今の二人の関係を示すためにも。