作品タイトル不明
59 エピローグ1/2
ふわふわ赤毛の女の子は、今日も王都の街並みを行く。
見た目は六歳、一人で歩いて大丈夫かと聞かれながら、キュートなそばかす少女は、王宮前広場から王都を横切り、いつもの家へと向かうのだ。
「聖女リーディア様の祝いに祭りをするそうだよ」
「いや、王子イーゼル様の栄誉を讃えるためだって聞いてる」
「赤い竜を祭るんじゃないのか?」
「別にどれでもいいんじゃないか?」
「全部お祝いごとだしな」
あの日、二匹の神獣に王都は破壊されたものの、その規模はさほど大きくなく、王宮玉座の間の屋根が吹き飛んだことと、その破片が飛び散って王宮周りの建物にぶつかった程度で済んだ。
とはいえ、復旧は必要だ。
その工事に取りかかる人の会話を聞きながら、女の子は弾むような足取りで歩を進める。
素朴だけれども大きなその邸宅にたどりつくと、女の子は門番に挨拶をし、邸宅のドアをノックした後、スタスタその中に入っていく。
「ミゲル〜」
邸宅の中、研究室の一角ミゲル=マティーニを見つけた女の子は、ニコニコ笑いながら、彼の近くまでやってきた。
「おや、おかえり、シルクちゃん」
ニコニコ笑っているミゲルに、シルクちゃんも機嫌よさそうにしている。
「お前、もうここに住んじゃえば?」
「いや、もう住んでるじゃん」
「ほとんどここに居るしな」
「そんなことはいい。今日も勝負だぞ、ヴィキヴィキ!」
「「「その呼び方はやめろ!」」」
あれからシルクちゃんは、ミゲル兄さんの家に足繁く通っているのだそうだ。
実は、なんでもできる最強ドラゴンの彼女は、機械音痴だったのだ。
ゲームで黒鳥ヴィッキーにボコボコに負かされた彼女は、必死に彼らに対戦を求めているらしい。
「勝つまであきらめない!」
「それ、一生続くじゃん」
暗に一生勝てないと言われ、うるうるお目目のシルクちゃんに、ミゲル兄さんがお菓子を差し入れる。
彼らはこうして、なんだかんだ、毎日楽しそうに暮らしているらしい。
~✿~✿~✿~
スザンヌ様は、あの事件の翌日に目を覚ました。
ウィリアム王太子殿下は、さらにその翌日だ。
彼が目を覚ましたとき、枕元には妻がいて、それは嬉しそうに微笑んだらしい。
「また会えてよかった」
泣き崩れるスザンヌ様に、起き上がれないウィリアム王太子殿下は困った顔で、彼女の手を握っていた。
ひとしきり泣いて、ようやく顔を上げたスザンヌ様に、ウィリアム殿下は静かに尋ねる。
「寿命は、どのくらい」
「……十年」
それを聞いた彼は、しばらく目を閉じた後、「そうか」と小さく呟く。
「安い買い物だ」
そう言って笑った彼を、スザンヌ様はきっと一生忘れることはないと思ったそうだ。
そして、この人のこれからの人生を、幸せなものにしていくと心に誓ったらしい。
後日、スザンヌ様はそう、わたしにこっそり教えてくれた。
そのときの彼女は本当に美しくて、彼女の行く道を知ったわたしは、友人として、背中を手形がつくほど押しておいた。
~✿~✿~✿~
問題の、隣国スルシャール王国のことだけれども。
隣国王スルトが、法に則り処罰される一方、今後の隣国の取り扱いについては、定めるものがなかった。
国王があれだけのことを起こしたのだ。
そのまま、王太子を王に起用し、何事もなくスルシャール王国を続けていいものなのか。
結論から言うと、エタノール王国の王弟エドワード殿下主導の元、隣国王太子スタンリー=スルシャール殿下との調整の上、スルシャール王国はエタノール王国の属国とすることとなった。
これは、王宮崩壊により一時中断していた国際会議を延長し、近隣諸国の全会一致で決まったことである。
エタノール王国が、今回の事件を他国の助力なしに解決したこと。
王国内に居る緋色の竜の存在。
黒髪忌避の歴史。
エタノール王国エドワード殿下の進めていた黒髪融和策。
そしてなにより、エタノール王国の王太子妃である、元スルシャール王国王女スザンヌ=エタノールの存在。
スルシャール王国をエタノール王国の属国とするためのピースが、揃いに揃っていたのだ。
これに反対しようにも、いい案の浮かぶものはおらず、スルシャール王国王太子スタンリーが賛成したことにより、なんの障害もなく、エタノール王国への属国化が決定された。
今、スルシャール王国だった場所は、エタノール王国スルシャール侯爵領となっている。
属国化となると、民は不安に駆られるものだけれども、次期国主の妻が、元自国の王女なのだ。
しかも、彼女が、スルトが無理に竜珠を使い続けたせいで荒れに荒れた大地を正常に整えたため、スルシャール地方はこの二年間で最も気候が安定している。
人々の表情は明るく、きっとスルシャール地方は問題なくエタノール王国に馴染んでいくことだろう。
「最近、ここまで企んでいたのではないかと、周りに聞かれるんだ」
エタノール王国の王弟エドワードは、スルシャール地方を治める侯爵スタンリー=スルシャールと、マーカス=マティーニ男爵とともにティーテーブルを囲みながら、熱い紅茶を口にしつつ、そうこぼした。
肩を落とす王弟殿下に、他の二人は失笑している。
「エドワード殿下ならできそうなことだと、みんな思ってしまうんですよ」
「私は人間だぞ。甥っ子とスザンヌ妃殿下との結婚を取り持った段階で、ここまで予見などできるものか」
「とはいえ、私が父スルトと相打ちになったらと考えたとき、少しはこういう展開も脳裏によぎっていたでしょう?」
「それは、まあ、そうだが」
「じゃあ噂は真実じゃないですか」
ケラケラ笑う二人に、エドワード王弟殿下はため息をつく。
「しかし、黒髪融和策もほぼ完了に近いですね、エドワード殿下」
「子ども達の空中散歩のおかげだ。いや、マーカスの息子の放送がよかったな」
「それはどうも。……最高の一押しを子ども達にもらいました。あとは大人達の仕事です」
ここが踏ん張りどころだと笑うマーカスに、エドワード王弟殿下とスタンリー=スルシャール侯爵は、笑顔で頷いた。