軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7. エルリィ王国潜入捜査

自分に強気な態度をとる人が今までおらず、初めてキースの俺様に触れてしまったシルフは――あっという間に恋に落ちてしまった。

思わぬ急展開に、全員が言葉を失う。

『ノームとは昔からの知り合いで、私がいないと食料調達だって出来ないのよ! 鍛冶のことばっかり考えてるような奴だから……その、ルチアローズ様を連れ去ったっていう理由はわからないけど』

そもそもノームがそんなことをしたことも、シルフは知らなかった。

『というか、ノームがそんなことをするとは思えないのよね。……何かあったのかしら』

これは調べてみる必要がありそうだと、シルフは思う。

『とりあえず行ってみましょう。もう夜だけど、どうする? 私はいつでもいいわよ』

今すぐでもいいし、明日になってからでもいいと言う。

正直に言えば、暗い中で行くのは危ないのではと思わなくもないが、それよりルチアローズの下へ行くことが先決だ。

「すぐに行きたいです! お願いします、シルフ様」

『……わかったわ、準備して』

ティアラローズが食い気味で答えると、シルフは頷いた。

***

『こっちよ、キース様』

「くっつくんじゃねえ、離れろ」

『ああっ』

シルフがるんるん笑顔で案内をしてくれているのだが、キースに絡んで迷惑がられている。

ティアラローズたちはそれを後ろから見ながら、顔を見合わせて苦笑するしかない。最後尾には、エリオットとタルモがいる。

「それにしても、こんなところにノームの国……エルリィ王国へ繋がる道があったんですね」

「……はい。ですが、内密にお願いいたします。彼らは、ただ鍛冶をして、静かに暮らしたいだけなのですから」

「もちろんです」

今いる場所は、フィラルシアの首都の近くにある山の麓だ。馬で走っても三十分かからないので、かなり近い。

その山にある鍾乳洞の奥が、エルリィ王国への入口になっているのだという。

足元に気を付けながら歩き、一時間ほど経ったろうか。

大きな扉と、見張りの騎士が二人いるのが目に入った。どうやら、この扉の先がエルリィ王国になっているようだ。

ティアラローズたちに気付いた騎士は、すぐに「何者だ!」と声を荒らげ剣を抜く。しかしそれを制するように、エメラルドが前に立った。

「わたくしです」

「エメラルド様!?」

「こんな夜中に、いったいどうして……」

騎士たちはすぐに剣をおさめるが、戸惑いの色を見せる。

けれど、それも致し方ない。エメラルド以外は初めて見る顔で、しかも時間は真夜中。何か怪しい事件に巻き込まれたのでは? と、考えても仕方がない。

エメラルドは、騎士たちを安心させるように微笑んでみせる。

「早急に確認しなければならないことがあります。こちらの方たちは、わたくしの大切なお客様です」

「失礼いたしました」

「扉を開きます」

騎士たちが扉に手をかけ、開く――と思いきや、なかなか開かない。

「……ん?」

「どういうことだ、いつもは開くのに」

戸惑いを隠せない騎士たちに、エメラルドは「何かあったのですか?」と問う。

「すみません、原因はわかりませんが……扉が開きません。普段は夜中でも開くのですが」

「私たちへの連絡は、ドワーフたちからはありません」

さっぱり理由がわからないと、兵士たちもお手上げ状態のようだ。

「そんなことがあるのか?」

『私がやってみるわ』

キースが訝しむと、すぐにシルフが扉に手をかけた。人間に開けることができなくても、精霊であれば開けられるかもしれない。

『んぐぐぐっ』

しかし思いっきり扉を引っ張ってみるが、開かない。試しに押してもみたけれど、びくともしない。

シルフが必死に扉を開けようと試みたが、どうやら不可能のようだ。

『駄目ね、全然開かないわ! ノームは防御魔法に優れているから、破るのは難しいわね』

「そんな……」

シルフの言葉に、ティアラローズは顔を青くする。

普段は出入り自由なのに、このタイミングで開かない扉――何かあると言っているようなものだ。

「シルフ様、どうにかしてエルリィ王国に行く方法はないんですか!?」

『……ないわけじゃないけど、この山の中腹の洞窟から下って行かなきゃいけないから、大変よ?』

「この山の中腹……」

ティアラローズが見上げると、ひゅおおおおと風が吹いた。

岩がむき出しの山で、木々の割合がひどく少ない。登山経験が少ないティアラローズでは、山の中腹までいくのはかなり厳しいということが一目でわかる。

――というか、足手まといになる予感しかしないわ。

母になるには、体力も必要だったのだと項垂れる。

けれど、自分の娘のためであればそんな弱音をはいているわけにもいかない。そう考えていたら、頭にぽんとアクアスティードの手が置かれた。

見ると、ティアラローズの考えはすべてお見通しだとばかりに微笑まれてしまう。

「私とキースで行ってくるから、ティアラはエメラルド姫と一緒に待っていて」

「ですが……わたくしも、ルチアを……」

足手まといになるということはわかっている。

それでも連れていってほしいのだとティアラローズが告げようとすると、アクアスティードに優しく抱きしめられた。

「ティアラの気持ちは十分にわかってる。でも、今回は父親の私に任せておいて。いつもティアラが頑張ってくれているからね、たまには格好つけさせて」

「アクア……」

「必ず連れて帰ってくる」

アクアスティードがティアラローズの背中を撫でると、キースもやってきてティアラローズの頭をぽんと撫でた。

「アクアもルチアも、まとめて俺が守ってやる。お前は心配しないで、堂々と帰りを待ってればいい」

「帰ってきたら、ティアラのお菓子を食べたいな」

「それはいいな」

笑う二人を見て、ティアラローズの顔にも笑顔がこぼれる。

「……はいっ。ルチアをお願いします、アクア、キース」

***

装備の準備をすることもなく、アクアスティード、キース、シルフの三人は山を登り始めた。

アクアスティードがなかなか距離がありそうだなと考えていると、キースに腕を掴まれ――次の瞬間には、山の中腹にいた。

「……助かる」

「おう」

キースもたいがい反則だなと思いつつ、周囲を見回す。

むき出しの岩肌の山に、少しの植物。崖が多くあり、ティアラローズが登るとなっていたらかなり大変だっただろう。

『ちょっと、私だけ置いていかないでよ!』

「遅いぞ、シルフ。とっとと入口に案内しろ」

『仕方ないわね……』

遅れて転移をしてきたシルフは、しぶしぶながらも歩き出す。

『ここの入り口は、魔法がかけてあるから普通の人にはわからないの。私以外に知っているのは、それこそノームくらいね』

シルフは五分ほど歩いたところで足を止めた。

そこはただの岩があるだけで、とてもではないが洞窟があるようには見えない。

「……かなり巧妙な魔法のようですね。私一人だったら、気づかなかったかもしれない」

アクアスティードがそう言うと、シルフが少し得意げになる。

『そうよ、ノームはすごいんだから!』

「そのすごいノームが人さらいをしてるんだぞ」

『あ、それは……すぐに行ってノームに確認するわ!』

シルフが魔法を使うと、アクアスティードたちの目に洞窟の入り口が見えた。

「これで入れるわ、行きましょう」

暗い洞窟の中、アクアスティードたちは足を踏み入れた。

そして辿り着いたのは、探し求めていたノームの国――エルリィ王国。

エルリィ王国は、とても活気があり熱がこもっていた。

夜中だというのにカーン、カーンという鉱石をたたく音が響き、昼夜を問わずに仕事をしているということがわかる。

ドワーフを見たキースは、「こんなに生きていたのか」と驚いた。

「ドワーフたちと私たちでは体型が違いすぎるな……このままで大丈夫なのか?」

『大丈夫よ。ドワーフたちはフィラルシアの人間を見慣れているから、警戒をしてくることもないはずよ』

せめて外套の類をと思ったアクアスティードだったが、問題はないようだ。

『それより、ノームのところに行きましょう。城にいるはずよ』

「ええ、案内を頼みます」

『任せてちょうだい。キース様、私とっても役にたってますよねっ!?』

シルフはキースにアプローチしつつ、堂々と大通りを歩いていく。まっすぐ進むと、ノームの居住の鉱石の城に着く。

てっきり抜け道か何かを使うと思っていたアクアスティードは、本当に大丈夫なのかと頭を抱えたくなるが……確かにこれが一番速い。

そして鉱石の城へ行くすがら、剣を販売・展示している様子が目に映る。

そのどれもが業物の武器や防具で、アクアスティードは驚きを隠せない。マリンフォレストで国宝級の扱いになっているものが、ごろごろしている。

しかしそれ以上に、農具や調理器具が各種取り揃えられている。

ティアラローズが一緒にいたらテンションが上がりそうだなと、アクアスティードは思う。

「シルフの言った通り、ドワーフたちはこっちのことなんて気にしてないみたいだな」

『まあね。彼らが鍛冶以外にそこまで関心がないっていうのもあるけど……』

「なるほどな。……ん?」

ふいに、ドワーフたちの話声が耳に入ってきた。

「うちの工房の火力が弱くなっちまったんだが、お前のとこはどうだ?」

「なんだ、そっちもか!? うちもだ。これじゃあ、仕事にならん!」

――火?

アクアスティードとキースは、瞬時にそれがルチアローズを連れ去った原因だろうと気付く。

火の魔力に関して、ルチアローズの右に出るものはそうそういない。

「これは少し調べた方がよさそうだな」

「ああ。というか、シルフは何か知らないのか?」

『えぇっ!? ドワーフたちの使う火って言ったら……炎霊のことかな。この国の炎で、ノームやドワーフたちが使う火の源みたいなものなの。鍛冶にはこれがかかせないのよ』

シルフの説明を聞き、アクアスティードはなるほどと頷く。

「なんらかの原因で弱まってしまった炎霊を、ルチアの力を使って復活させようとしている可能性が高いな」

「十中八九そうだろうよ。サラマンダーの炎ほど、鍛冶に適しているものもない」

『えぇっ、ルチアローズ様ってサラマンダー様のことなの!?』

「似たようなもんだ。とりあえず、急ぐぞ!」

キースのざっくりとした返しに慌てつつ、シルフは大変なことが起きていることはわかったので鉱石の城に向けて走り出す。

鉱石の城の扉には、門番をしているドワーフの兵がいた。――が、そんなのに構っている余

裕なんてない。

「な、なんだお前たちは!!」

「止まれ、ここはノーム様の――」

キースが腰の扇を取り、疾風を一撃。

あっさり兵を気絶させて、そのまま扉を魔法で破壊してしまう。いつも以上に乱暴なキースだが、アクアスティードに止めるつもりはまったくない。

むしろ、キースがやらなければアクアスティードがそうしていただろう。

「ルチアの気配は上だ」

「すぐに取り返す!」

鉱石の城へ足を踏み入れると、メイドや使用人など多くのドワーフがいた。全員が何事だと驚いているが、気にせず階段を駆け上がる。

「シルフ、そっちは任せたぞ!」

『えっえっ、私がですか!?』

群がってくるドワーフたちに、「どういうことですかシルフ様!!」と問い詰められている。きっと、こちらのことを説明してくれるだろう。

その隙に、アクアスティードたちはルチアローズの魔力の気配がする部屋を見つけ扉を開けた。

「ルチア!!」

アクアスティードが名前を呼ぶと、すぐに元気な笑い声が聞こえてきた。

「あーう、きゃぁ~!」

「無事……だった」

笑顔でこちらに手を伸ばすルチアローズの下へ行き、アクアスティードはその小さな宝物を抱きしめた。