軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アイナのひとりごと

リツハルドお兄ちゃんが領主になった日のことは、よく覚えている。

突然両親が村を飛び出して、道端に捨てられた子猫のような顔をしていたことが印象的だったのだ。

私は一人っ子なのでリツハルドお兄ちゃんを本当の兄のように慕っていたが、お母さんに、これまでと同じように接したらいけないよと言われた。

それからのリツハルドお兄ちゃんは、なんだか空回りしていたように思える。

領主として立派に務めを果たそうとしていたけれど、異国の血が流れているリツハルドお兄ちゃんに好意的な態度でいる人は少ない。

領主になったリツハルドお兄ちゃんは、本を売る行商を呼んだり、旅芸人を招いたりと、村人たちが楽しめるように新しいことを始めた。けれど、それも喜んだのはごくごく一部だけだった。

この村は閉鎖的で、新しいものを受け入れる余裕はない。

それは、物だけでなく、人もそうなのだ。

だから、リツハルドお兄ちゃんを領主だと認めない人もいた。

けれど、リツハルドお兄ちゃんはめげずに、せっせと毎日働いた。

そんな中で、結婚話もいくつか浮上する。

近くの村の娘と、という話もあったらしい。しかし、リツハルドお兄ちゃんには異国の血が混じっているということで認められなかったのだとか。

村の女性達は、近い血縁関係にある。だから、結婚は避けたかったようだ。

よくわからないけれど、近親婚は強い子どもが生まれないらしい。

それが原因で、滅びた王家もあるほどだとか。

だから、リツハルドお兄ちゃんは、父方の親戚を頼って結婚相手を探しに出かけるようになった。

最初に連れ帰ったのは、綺麗なドレスを着たお嬢様だった。

あまりにも田舎過ぎると叫び、トナカイを見て卒倒し、やって来たその日に帰って行った。

リツハルドお兄ちゃんの花嫁探しは、一年目から不発に終わった。

それからというもの、毎年のように花嫁を連れ帰って来る。

けれど、どの花嫁候補もこの村を受け入れなかった。

無理もないだろう。

住んでいる私でさえ息苦しく思っているのだ。

都会暮らしで、苦労を知らないような貴族女性に耐えられるはずがない。

年々、リツハルドお兄ちゃんも躍起になっているような気がした。

きっと、寂しいのだろう。

私にできることは多くない。

森で見つけたベリーを、たまにこっそり届けるくらいだ。

一回だけ、リツハルドお兄ちゃんと鉢合わせしそうになったことがある。

家の近くにあった木に登って隠れたけれど。

リツハルドお兄ちゃんは玄関に置いてあるベリーを発見し、「また、森の仲間からベリーのプレゼントが届いた!」なんて言って喜んでいた。

誰が森の仲間だと言いたかったけれど、バレたくなかったので黙っておいた。

そして去年、リツハルドお兄ちゃんは何人目かもわからない花嫁を迎えることになる。

初めて、花嫁を連れ帰らなかったのだ。後日、準備ができたら迎えるらしい。

リツハルドお兄ちゃんも学習したのだろう。

日々、嬉しそうにせっせと新婚生活の準備をしていたけれど、どうせまた婚約破棄されてしまう。

村の誰もが、そんなことを思っていた。

そして、ついにリツハルドお兄ちゃんは花嫁を連れて帰る。

どんな人を連れてきたのかと見に行ったが、花嫁らしき人はいない。

代わりに、赤毛ですらりとした青年がやって来た。

まさか、あの人が花嫁の代わりなのか!?

女性に相手にされないので、男に走ったのか。

なんて憶測が流れていたけれど、後日、赤毛の青年は女性だったことが発覚する。

ジークリンデ・フォン・ヴァッティン。

リツハルドお兄ちゃんより年上で元軍人という、今までの花嫁候補と一味も二味も違っていた。

なんでも、一目惚れらしい。リツハルドお兄ちゃんは、乙女のようなうっとりとした表情で話していた。

その気持ちはよくわかる。

ジークリンデさんは精悍な顔つきで、村の男の誰よりもカッコよかった。

村の女性陣はおばあちゃんから子どもまで、みんなジークリンデさんのファンになってしまったのだ。

異国人は受け入れないと断固として拒絶していたのに、この手のひらの返しようである。

けれど、ジークリンデさんの存在は、村を変えるきっかけとなった。

前よりも、村の雰囲気は明るくなったような気がする。

リツハルドお兄ちゃんは、今まで以上に明るくなった。

幸せそうに、ジークリンデさんの隣を歩いている。

本当によかったと、心から思った。

リツハルドお兄ちゃんは幸せになったけれど、ベリーを届けることは毎年していた。

なんとなく、これをしないと夏を迎えた気になれないというか、なんというか。

しかし、いろいろあって今年はぼんやりしていた。

背後から迫る、リツハルドお兄ちゃんの気配に気づいていなかったのだ。

玄関先にベリーを置いたあと、背後の気配に気づく。

「アイナ、君だったのか。毎年、うちの玄関にベリーを置いてくれていたのは……!」

「!?」

とうとう、バレてしまった。

みるみるうちに、顔が熱くなる。

「リツ、どうしたんだ?」

「昔から、玄関にベリーが置かれていることがあったのだけれど、姿が見えないから、森の仲間達が置きに来てくれたと思っていたんだ」

「だ、誰が森の仲間よ!!」

やっと突っ込むことができた。

リツハルドお兄ちゃんは、本気で森の仲間達がベリーを運んでくれたと信じて疑わなかったらしい。

「っていうか、森の仲間達ってなんなの?」

「リスさんとか、ウサギさんとか」

がっくりと、脱力してしまった。

「帰る」

「アイナ!」

「何よ」

「ベリー、ありがとう! 毎年、誰かが励ましてくれていたみたいで、嬉しかった!」

私の気持ちは、きちんとリツハルドお兄ちゃんに伝わっていたらしい。

気恥ずかしさと嬉しさが、同時にこみあげてくる。

ベリーを届け続けて、よかった。

私のしていることには、意味があったのだ。

この時は素直になれなくて言えなかったけれど、今なら言える。

リツハルドお兄ちゃん、結婚おめでとう。

お幸せに、ってね。