軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48.結婚祝いの贈り物

エイヴリルが驚くと、クラリッサは頬を染めて教えてくれた。

「はい。船でエイヴリル様に助けていただいたとき、何か望みがあるのなら自分が動かないといけないと知ったんです。それでこの度、元婚約者の元に行って話をしてまいりました。私は彼と一緒になりたいから、ランチェスター公爵家で働く間待っていてもらえないかと。彼は喜んでくれて、実家がランチェスター公爵家から受け取った前払いの給金を肩代わりしてくれると」

「まあ。よかったですね……!」

(クラリッサ様が結婚したいことをお伝えすれば、ディラン様もクラリッサ様が引け目を感じない程度の期間働いていただいて、円満に退職できるよう取り計らってくださったとは思うのですが。婚約者の方がクラリッサ様を助けてくださるのなら、本当に良かったです)

クラリッサがランチェスター公爵家に来るまでの道中で攫われてしまったことは不幸だったが、彼女の人生にとっては悪い結果にならなかったことにほっとする。

「結婚式は来月行うことになりました。没落した貴族の娘の私と、借金の肩代わりをしてくださった婚約者の式ですから質素なものです。さすがにそんな式に領主様をお招きすることはできませんが、ご報告に」

「おめでとうございます、クラリッサ様」

クラリッサの手を取り、祝福を伝えたエイヴリルはふとあることを思いついた。

「質素なお式ということは、ドレスは?」

「実家の母のドレスはすべて売り払ってしまいましたし、さすがに婚約者に準備していただくこともできなくて。平服で行う予定です」

「…………」

エイヴリルも、クラリッサの実家リミントン子爵家の事情は知っている。多額の借金を抱え、大切に育てた娘を行儀見習いではなく使用人として泣く泣く売りに出したほどの家だ。

結婚資金の準備については相当に苦しいのだろう。そしてこれ以上婚約者に迷惑をかけたくないクラリッサの気持ちもよくわかる。

(辛い思いをされたクラリッサさんには幸せになってほしいです)

エイヴリルは会話を見守っているディランを見上げた。

「ディラン様。一つお願いがございます」

「……さっき、本邸でクラリッサ嬢からこの話を聞いたときから、エイヴリルがどんな選択肢をとるのかの予想はついた。好きにしていい」

諦めたように笑うディランに、エイヴリルも笑みを返す。

「ありがとうございます」

そうして、ちょうど同じ部屋に居合わせた洗濯メイドのジェセニアにお願いする。

「ジェセニアさん。私のクローゼットの中から、リボン付きの白い箱を出してこちらのクラリッサ様にお渡ししていただいてもよろしいでしょうか?」

「? はいかしこまりました、すぐに」

エイヴリルがここへやってきた初日にエイヴリルとクラリッサを間違えたそそっかしいジェセニアが、元気に白い箱を持ってきてくれた。

中には、先日アレクサンドラが王都から持ってきてくれたウエディングドレスが入っているはずである。

その箱をお土産として渡されたクラリッサは、エイヴリルに向かい何度もお礼の言葉を口にしながら帰って行ったのだった。

クラリッサが乗った馬車が木々に囲まれた田舎道を走り、見えなくなるまで見送っていると、隣のディランがポツリと呟く。

「もしかしてまた式が延びるのか……?」

心なしかディランは遠い目をしているようだ。いけない、そう思ったエイヴリルはあわててぶんぶんと首を振る。

「いいえ。あのドレスを着た写真はもうありますし、それをディラン様のお母様にも送ることができました。私だけのドレスの思い出はもうできましたから十分です。本番のお式は、選び抜いた既製品を着ます!」

「……なるほど。だが、エイヴリルらしいといえばらしいかもな」

いくらディランが許可をくれたとはいえ、贈り物を譲ってしまったのだ。もしかして傷つけてしまったかもしれない、と思ったけれどディランが笑ってくれてホッとする。

(一度目の式の時は、恥ずかしくもドレスに執着してしまいました。だって、私のために作られたウエディングドレスを着られる日が来るなんて思いもしませんでしたから。でも今は違います。ディラン様と皆様と、一緒にドレスを作ったこの思い出だけで十分です)

この思い出だけで、幸せすぎて怖いくらいだ、と自分でも思う。