軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49.誤解していたようです……

ならば幸せは誰かにお裾分けするべきだろう、とも。すると、ディランは徐に切り出した。

「――さっきの話の続きだが」

「はい?」

なんのことだったか、と目を瞬くと、ディランは手を伸ばし、海からの潮風でエイヴリルの頬に張りついてしまった髪の毛を耳にかけてくれる。そして笑った。

「前公爵が養っていた女たちを王都のタウンハウスの別棟に住まわせるのでは、ときみが勘違いしていることだ」

「えっ? 勘違いなのですか?」

そんなの聞いていない。ならば、彼女たちは一体どこに住むというのか。予想外すぎてぽかんと口を開けたエイヴリルに、ディランはやれやれと教えてくれた。

「当たり前だろう? 何のためにあの離れを解体すると思っているんだ? 彼女たちの引き取り先は、全部住み込みで受けてくれる場所を探した。だから、エイヴリルが思っているようなことにはならない」

「では、私は明らかに経験値が上の皆様を束ねる役目を負わなくていいと……」

「そうだ」

「ディラン様も皆様と平等に仲良くすることはない、と」

「その通りだ。どこからどう考えてもおかしいだろう?」

「……」

冷静になってみれば、完全にその通りである。一体、どうして自分はこんな勘違いをしていたのか。恥ずかしくなってエイヴリルはへへっと笑った。

「私は、おかしなところで悩んでいたようですね」

「悩んでくれたのか?」

「はい、それなりに。皆様とは経験値が違いすぎて、女主人として申し訳ないと」

「……やっぱりそっちか。エイヴリルはどこまでも何かに執着しないな」

「? もし、その執着がディラン様へのものを指しているのだとしたら間違いです」

そう伝えると、ディランは意外そうな視線を向けてくる。

「つまり、エイヴリルはそれでも妬いてくれているというのか?」

「というよりディラン様を信じているからです。確かに、ディラン様とお会いする時間が少なくなったら寂しいとは思いましたが、お気持ちを疑っているからではありません。ヴィクトリア号でうっかり捕らわれてしまったとき、落ち着いていられたのと同じ理由です」

「きみは、本当に手がかからないな……いやとんでもなく手はかかるんだがちょっと意味が」

自分のために苦笑するディランを見ていると、くすぐったい気持ちになる。褒められたのだか怒られたのだかよくわからないエイヴリルは、とりあえず頭を下げてお願いした。

「至らない点がありましたら、いつでもおっしゃってくださいね。実は今度のパーティーでディラン様とダンスをするのが不安なのです。先生に教わって特訓はしましたが、はじめてなので。手がかかったら申し訳ありません」

「あれは屋敷の人間だけで行う、ごく内輪のパーティーだ。そんなに緊張することはない」

「ふふふ。ディラン様と初めて踊れるのがこの領地の本邸でのパーティーでとてもうれしいです」

「そうか」

実はエイヴリルはついさっき聞かされたことなのだが、ディランはあと一週間もすれば王都に戻ることになるらしい。

ヴィクトリア号事件の後始末と、別棟の廃止に伴うあれこれに目処がついての決断ということだが、それに伴い、王都への出発前夜にエイヴリルのお披露目も兼ねた夜会が開かれることになったのだという。

それを聞いて、エイヴリルは内心ドキドキしているところだったのだ。

「前公爵は欠席、自室で謹慎するらしい。例の犯罪組織の顧客名簿に名前があったものの、一度も取引はないことが証明されて不問になったが、今回の件は自分の身から出た錆だと理解しているようだ。……遠回しな言葉だったが、あいつから初めて謝罪された」

「⁉︎ あの前公爵様がですか? 意外です……!」

「俺だって、あいつがまさかこれまでの振る舞いをほんの少しでも反省する日が来るなんて思わなかったな。まぁ、許す気はないし今後の関係もずっと変わることはないが」

どことなく寂しそうでやりきれなさを感じさせるディランの横顔を見ていると、これまでの二十三年の苦労がありありとわかる。

(これまでにディラン様が経験された思いは、そんな一度や二度の謝罪や反省で許せるようなものではないのでしょう。私にだって、同じような経験はあります)

エイヴリルはディランの手を握る。

「どんなに謝罪を受けたとしても、一生許せない相手だっています。それでいいと思います。でも、私はずっとディラン様の味方ですわ」

「……ありがとう」

何かを噛み締めるようにゆっくりと返ってきた言葉は、あたたかな木漏れ日に照らされる森の中に溶けていく。

(ここは、ディラン様がいろいろな思いをしながら幼少期を過ごされた場所……)

いつも完璧なディランの弱い部分に少しだけ触れられた気がする。そんなことを考えながら、エイヴリルはこの屋敷の光景をとても愛おしく思ったのだった。