軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

47.離れの解体

コイルの街からマートルの街までは鉄道で半日ほど。

無事にランチェスター公爵家の本邸に戻ることができたエイヴリルを待っていたのは、別棟で暮らす愛人たちの歓迎だった。

「エイヴリル様、大変な目に遭われたのですね! お怪我はありませんか? まぁ、お顔の変なところに傷が!」

「お話は伺っております、なんとおいたわしい……。さぁ、こちらにお座りになってください。お茶の準備をさせましょう」

「エイヴリル様はなんだかぼーっとしてお顔に緊張感がないように思えます……。よほど怖い目に遭われたのでしょう」

「あっ、あの、それは元からですね」

ひとしきり歓迎と労いの言葉を受けた後に緊張感のなさを否定され、うっかりつっこむとクリスが噴き出したのが横目で見えた。

一週間も本邸を留守にした上に、前公爵が人身売買をする犯罪集団の顧客リストに名前があったせいで、ディランは後始末のため本格的に忙しいらしい。エイヴリルのことはクリスに任せ、戻った瞬間から文字通り目まぐるしく駆け回っているようだ。

ディラン不在のまま別棟のサロンの席についたエイヴリルに、クリスが教えてくれる。

「今回の事件のせいで、前公爵様が別棟の解体に口出しをする余地はなくなりそうです。実は、こちらにいらっしゃる皆さんの行き先もすでに決まっていて、ご本人たちの承諾を得ています」

「いつの間に⁉︎」

驚いたエイヴリルを見て、リーダー格のルーシーが穏やかに微笑んだ。

「もともと準備を進めていたことではありますから、ブランドン様のやらかしをきっかけに解体が加速するのは仕方がないことですわ。私がここにいたのは七年ほどで、ブランドン様には少なからず情が湧いています。男性としては最低かもしれませんが、意外と楽しい七年間でしたわ」

「ルーシー様……」

「私は王都で家庭教師をすることになりましたの。もしかして、エイヴリル様とはまたお会いする機会があるかもしれませんわね」

ルーシーが口火を切ると、皆が次々に行き先を教えてくれる。

「実は、私も王都で働くことになりました。ディラン様に働いてみたいと言ったら、素敵な商会を紹介してくださって。扱う商品も女性の服飾品がメインで、お役に立てそうなんです」

「私はとある侯爵家のタウンハウスで、女主人付きの侍女として雇っていただけることになりましたの。ディラン様のおかげですわ」

「私も王都の貴族のお家で行儀見習いをした後、実家に帰ることになりましたの。それまでによさそうな殿方を見つけて、結婚できたらいいのですけれど」

(み、皆さまが王都に……⁉︎)

それぞれの行き先が満足いくものになって本当によかったと思う一方で、以前にも感じていた不安が現実味をもって湧き上がってくる。

「王都にいらっしゃるということは、やはりランチェスター公爵家のタウンハウスにお住まいいただくことになるのでは……⁉︎ 私は皆様を束ねることができるのでしょうか。そして、ディラン様は皆様と平等に仲良くすることに?」

「どうしてそうなるんだ」

ディランの呆れた声が聞こえ、エイヴリルは自分がまた思ったことをそのまま口にしてしまったのに気がついた。そして、どうしてディランがここにいるのだ。

「ディラン様! 母屋でお仕事をされていたのではないのですか?」

「来客がエイヴリルに会いたいというので連れてきた」

「お客様が?」

首を傾げて覗き込むと、ディランの後ろからクラリッサが現れた。

船の中で見た、赤い顔に虚ろな瞳ではない。令嬢らしいドレスを身につけ、背筋を伸ばして立っている。そうして頭を下げてくる。

「エイヴリル様。改めてお詫びとお礼を申し上げにまいりました。まさかあなた様が次期ランチェスター公爵夫人だなんて思いもせず……本来はお仕えするべきお方でしたのに、助けていただくばかりで申し訳ございませんでした」

「いいえそんな。クラリッサさん、ご体調はいかがですか? 無理をされてはいませんか?」

「すっかり良くなりました。一旦実家に帰り、これからのことを話してまいりました」

ヴィクトリア号がコイルの港について隠し部屋の女性たちが救出された後、いち早く身元引受先と連絡が取れたのがクラリッサだった。

あの日、クラリッサには実家のリミントン家から迎えがきて、すぐに帰って行った。

そのとき「あらためて後日、ランチェスター公爵家に使用人としてまいります」という話を聞いていたのだが、今日のクラリッサは手ぶらである。住み込みの使用人が持ってくるような大きなカバンは何一つ持っていない。

エイヴリルの疑問を察したようにディランが告げてくる。

「クラリッサ・リミントンは試用期間で退職することになった。結婚をすることになったというのだから、仕方ないだろう」

「ご結婚、ですか……⁉︎」