作品タイトル不明
第四十一話 キングサイズのベッド
ようやく、王都の郊外は暗闇に閉ざされ、御者の手元を照らすランプだけが灯っている。
私以外誰もいない馬車の中でも、どうにも落ち着かなかった。物事が終わってからあれやこれやと不安が噴出したところでどうしようもないと分かっているのに、今回ばかりは物事の大きさのせいか、まだ何かできたのではないか、と粗探ししてしまう。
結局仮眠さえできないまま、カルストン伯爵邸の車寄せに到着してしまい、馬車はゆるりと止まる。
昨日の朝からずっと起きっぱなしで、働き疲れた。舞踏会や夜会と違って、一挙手一投足にいくつもの意味を持たせ、省くことも許されない場に一日中いるのはもう懲り懲りだ。
私は自分のしたことが正しいとは思わないし、正しくなくてかまわない。どうしたいか、何を成し遂げられるかさえ明白であれば、そこに突き進むまでだ。
だから、敵の首や命を奪うような戦場であればもっと単純明快だっただろうに——という考えが頭から離れないのは、私がどこまでいっても『イヴェルタリー』だという証明のようで、同時に、私は武人ではないのだという現実と隣り合わせとなる。
疲れた。
馬車から降り、出迎えた執事の一人へ荷物を託し、私はどうにも眠気がたまらず寝室へと自然と歩いていた。
「ふあ」
廊下は火が灯されても薄暗く、より一層眠気を誘う。
今なら歩きながら眠れそうだ、などとふざけた思いがよぎるほど、視界も狭まりつつある。
声が聞こえた。
「眠いのか」
私は反射的に答えた。
「当たり前よ」
声の主が私を追い抜いた。アルバートだ。後ろには何人かの足音も聞こえ、使用人たちを引き連れている。
私は、目の下にクマを作っているアルバートもまた寝ていないのだと思い至る。大陸からの帰還、王宮での重要会議、長い話し合いと策動。いい加減、休むべきだ。
眠気が限界に達してきた私と並んで歩きながら、アルバートはこんなことを口にする。
「ところで、俺たちのベッドルームは同じなのか」
「夫婦の寝室は同じに、でも寝室だけなら我が家にはいくらでもあるわ」
「はあ……おい、今日はとにかく休め。俺も——おい、まだ寝るな! 仕方ない、運ぶぞ」
「どうぞ」
もはや意識は朦朧としている。アルバートにもたれかかると、そのまますうと意識が飛び、気が付けば見慣れた寝室にいた。
ずっとキングサイズの天蓋付きベッドで広々と使えていたが、そろそろ物足りないと思っていたころだったのだ——ぼんやりした頭で、そんなことを考えた。
私を抱き抱えていたアルバートが、ベッドへと私の体を横たわらせる。そのくらいのことはできるようで、私の目の前にはふわりと匂いが漂う。
私を射止めた男の、汗を流す暇もなく疲れ切ったその匂いに、私は背中から引き抜こうとするその腕の袖を掴んだ。
「アルバート」
「何だ」
ああ、だめだ。もう目を開けていられない。
それでも、掴んだ袖をギュッと引っ張って、離さない。
「寝るのよ。寝るの」
「〜〜ッ、分かったから、ジャケット脱いでくるから、一旦離せ!」
そう乱暴に言いつつも、離れる腕はゆるやかだった。
衣擦れの音が聞こえる。扉が閉まり、ベッドが軋み、布団がかけられる。
隣にやってきた温かいものへと手を伸ばし、私は顔を埋めた。
「おやすみ、なさい」
「ん」
不機嫌そうな声がかけられたが、その先は憶えていない。
いつ以来だったか。
私はぬいぐるみを抱いて眠っていた少女のころ、イヴェルタリーにいたころの夢を見た。