作品タイトル不明
第二十一話 結婚の完全な履行
戦争と平和は行ったり来たり、明確な区別はほとんどない。
アルソナ王国も戦争初期に勢いで東の大陸の領土を獲得したはいいものの、そこからは進んでいない。
そもそもアルソナ王国はウーリゼン帝国そのものを倒したいわけではなく、ルーヴァ連邦同盟の要請で参加しただけだから、すでに得た元ウーリゼン帝国勢力圏の自由都市や飛び地の領土だけでも十分利益が上がっているし、何よりアルソナ王国本土は一切被害を受けずにいられている。
つまり、大陸に渡ったアルソナ王国貴族たちのやる気が落ち着いてしまい、現状維持を皆が望み、誰も積極的に動かなくなった。
そこで、『イヴェルタリー伯爵領自由都市カラート駐在外交官』であるアルバートは、三年振りに故郷へ帰ってくるそうだ。
二十一歳になった私は、三年も会っていない夫から、今朝届いたばかりの手紙を読む。
『トリッシュへ。前略、カルストン伯爵家の諸事を滞りなく処理してくれていると聞いている。それについては感謝しているが、前の手紙で王都郊外北に建築していた新しい屋敷が完成したと書いていたのに、その後詳細な話が一切伝わってきていないのはこちらの気のせいだろうか。本当に完成したのか? それとも黙って何か企んでいるのか? 何にせよそろそろ帰国する。一時帰国で、少しの休暇を取ってからまた戻ることになる。慌ただしいが、この機会を逃せばさらに忙殺されかねないので、決してイヴェルタリー伯爵家には伝えないように……』
この手紙によれば、相も変わらずアルバートは私の次兄ウルフリックに連れ回されて仕事を押し付けられているようだ。
三年前の侵攻より、東の大陸にそれなりの新規イヴェルタリー伯爵領を確保した次兄は、一年ほど前に周囲の歩調に合わせるかのようにピタリと進軍を止め、獲得した領地の発展と維持に務めていた。
そこで、もっとも大きく経済発展を遂げている自由都市カラートを占領し、そこに妹の婿であるアルバートの外交官としての拠点を移させて、大陸間の諸々の事務や外交的な役割を担わせている。
突拍子もない次兄の考えはさておき、半強制的に連れていかれたアルバートは他の外交官や大使らと行動をともにできなくなり、嫌でも自由都市カラートをアルソナ王国の大陸窓口に仕立て上げるほかなく——と、ここまでは私もそれまでやりとりした手紙で知っていた。
『……それともう一つ、セダル公爵家が二年前に王家より下賜された北海諸島だが、北国との貿易と漁港の一大拠点になりうる規模で、セダル公爵夫人である俺の母が直々に出向いて開拓と港湾事業を進めていたらしい。らしいというのは、俺もつい先日知ったばかりだからだ。セダル公爵家から何か聞いていないか? いや、聞いていたらお前のことだ。俺にそれとなく調べるよう勧めていたに違いない。であれば、いくつかセダル公爵家へ疑問が湧いてくる。今回の一時帰国は、それの調査も兼ねている。話したいことは多いが、最後に一つだけ』
そうやって長々と続いた文章の先に、ようやく私が微笑んでしまうような言葉が書き綴られていた。
『建てると約束した屋敷が完成したのだから、俺とお前の結婚は完全に成立したと考えるからな。家のこと、子どものこと、話し合うべきことはいくらでもある——カルストン伯爵アルバート・G・E・W・セダルより』