軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十五話「祭の準備」

十月十五日。

村に戻ってから三ヶ月、世界中を旅して回った時と比べると、平穏な日々が続いている。

村に戻った後、家族や主要な家臣たちにジルソールや草原でのことを報告した。定期的に手紙を出していたため、父たちもある程度は予想していたようだが、そのスケールの大きさに困惑していた。

すべてを話し終えた後、父が代表して確認してきた。

「つまりだ。ルナはもう一人の召喚者と共に世界を救うために 虚無神(ヴァニタス) と戦うということだな。そして草原の民たちがそのカギになると……」

「その通りです」

「お前に関してはこれ以上手を出すなとはっきり言われたと。手を出せば、ルナたちが不利になると」

それにも大きく頷く。

「これで神々から託されたことはすべて終わったと思っていいのだな」

「恐らくは。ただ、ルナがどう考えるか分かりません。一応、セオたちに頼んでいますから大丈夫だと思いますが、私を頼ってくる可能性は否定できません。ですから、完全に終わったかはまだ何とも言えませんね」

神から言われたのは俺にこれ以上手を出すなということだけで、彼女が助けを求めてきた場合は想定されていない。

「確かにそうだな。で、これからどうするのだ?」

「当分、村にいるつもりです。何といっても“大規模”なドワーフ・フェスティバルを開催しないといけませんから」

そこで父がこめかみに手をやる。

「その大規模というのはどの程度を考えておけばよいのだ?」

「ウルリッヒからはドワーフだけで少なくとも二千五百人は受け入れてほしいと言われています」

父は口を開けたまま、茫然としている。

そして、五秒ほど経ったところで正気に戻ったのか、「二千五百……」と呟く。

「 最低(・・) 二千五百です。恐らく三千は来るのではないかと……」

「世界がどうなるかは分からんが、彼らの助力なしではルナたちの行動は大きく制限されたはずだ。そのことは理解しているし、感謝もしている。だが、三千ものドワーフを受け入れられるのか……」

父もドワーフたちに感謝を伝えたいと思っているが、あまりの人数に頭が回らないようだ。

「館ヶ丘と周囲の草原で何とかするしかないでしょう。宿泊は村人に協力してもらって、それでも無理なら野営してもらうしかありません」

「酒はどうするのだ? 三千ものドワーフが飲む量を確保できるのか?」

「それは鍛冶師ギルドに任せます。ウルリッヒも各支部に酒を持ち込むよう指示を出していましたから、その点だけは大丈夫だと思います」

父に言った通り、酒に関してはあまり心配していない。

アルスのスレイサイド蒸留所やウェルバーンのマッケラン蒸留所はラスモア村の三つの蒸留所より生産量は多く、この二つの蒸留所だけでも百二十リットルほどのクォーター樽で三十個以上は持ち込めるはずだ。

他にも帝都プリムス、公都エザリントン、商業都市アウレラなどからも多くの樽が持ち込まれる。

問題はビールやワインだ。

十月の下旬という比較的涼しい時期ではあるが、輸送が問題だ。

ここは大都市から離れているため、最も遠いプリムスは千キロ以上もある。そのため、輸送に二ヶ月以上掛かり、真夏に“生鮮食品”である酒を輸送しなければならないのだ。

今回はアルスからビールを調達するつもりでいるが、三千人ものドワーフが相手では二百リットルの樽が五百あっても足りない。それだけの量をどうやって確保するかが問題なのだ。

特に真夏は寒冷な地域以外では醸造ができない。最も近い大都市であるペリクリトルも比較的温暖であるため、調達先にできないのだ。

この企画を提案したカウム王国の王妃カトリーナにビールの調達を依頼しているので、数だけは揃うはずだが、品質に不安が残る。

俺がそんなことを考えていると、父も似たようなことを思っていたのか、

「確かにお前がいなければならない案件だな」

と俺が当分村にいることについては納得する。

村に戻った後、鍛冶師のベルトラムたちのところにも挨拶にいっている。

彼の妻ミーナと六歳になる息子のデュオニス、ギルドの研修所で蒸留器の製造を教えるフォルカーとノーラ、ローデリヒとマルガの二組の夫婦も温かく出迎えてくれた。

挨拶を交わした後、ベルトラムがにやりと笑いながら、

「叔父貴から連絡が来たぞ。どえらい祭をやるそうじゃねぇか」

ベルトラムの叔父は匠合長のウルリッヒ・ドレクスラーだ。ベルトラムも研修所の指導員としてギルドの役職に就いているため、通達が来ているらしい。

「九月には各支部から選りすぐりの職員たちがここに来るそうだ。その世話を頼まれている」

研修所には宿泊施設があるため、ここで寝泊まりするようだが、各支部という言葉に引っかかる。

「各支部から? 総本部から十人と聞いていたが」

「総本部の応援だけじゃ無理だと判断したんだろうな。それだけ気合が入っているということじゃないか」

「何人くらい来ると聞いている?」

ベルトラムは少し首を傾げて考えた後、

「数は聞いていないな。ただ十部屋は空けろと言ってきている。それから考えると四、五十人は来るんじゃないか」

ウルリッヒが大規模なイベントということで気を使ってくれたようだ。それだけの数の職員が来てくれるなら何とかなりそうだと安堵する。

「まあ、 四(・) 千人もドワーフが来るなら仕方がないだろうな」

その言葉に「ま、待て!」と思わず叫んでしまった。

「ウルリッヒは四千と言ってきたのか! 最低二千五百と言っていたんだが……」

「確かに通達には四千とあったぞ。叔父貴のことだから、そのくらいはねじ込めると思っているんだろうな」

それからすぐにアルスに手紙を送り、三千以上は認めないと強く伝えた。それに対し、ウルリッヒからは了承したという手紙が返ってきた。

よくよく考えると、王妃の策に踊らされた気がする。

四千という数で驚かせておいて、落としどころとして三千を狙ったのだろう。

そんなことがあり、史上最大のドワーフ・フェスティバルはドワーフ三千という規模で確定した。

それから準備を始めた。

まず送られてくる酒の保管場所の確保を行った。

現状でも各丘の北斜面に地下保管庫があり、五百個近い樽が保管できるようになっている。しかし、この時期は村で消費する分が大量に保管されているため、追加の樽を保管するスペースはほとんどない。

各丘の地下保管庫を拡張するか、新たに地下保管庫を作るかしかないが、丘の地下を拡張すると、丘にある畑の雨水の浸透性などが変わり作物への影響が懸念される。

そのため、館ヶ丘の南側の草原の下に地下保管庫を作ることを考えた。

今のところ、館ヶ丘の周辺の草原を開発する予定はない。これは増えつつあるカエルム馬の放牧の場として必要なためだ。もちろん、イベントスペースとして必要なことも大きな要因でもある。

しかし、問題があった。

館ヶ丘用の下水道が草原のど真ん中に通っており、大規模な地下保管庫を作れないことを思い出したのだ。

そのため、草原の西側を流れるフィン川の西の森の下に地下倉庫を作る計画に変更する。

フィン川の東側から地下道を掘り、森の下に地下室を作れば、作物や井戸への影響は防ぐことができるし、下水道との干渉もない。

また、草原へのアクセスもいいため、イベント用の保管庫にはちょうどいい。

七月中旬から地下道を掘り始め、百メートル四方、高さ四メートルほどの地下空間を作り上げた。念のため、二十メートル間隔で支柱を作ってあり、 石作成(ストーンクリエート) の魔法で壁や床、天井を石化させているため、地下駐車場に見えないこともない。

九月の中旬に完成したが、いくつか問題があった。

まずは森への影響を抑えるため、深さを十メートルほどにした。フィン川の東側の入り口から百メートルほどの長さがあるが、十パーセントほどの傾斜となったことから重量物を運搬するには傾斜がきつい。

そこである魔道具を作ることで対応した。

レイ・アークライトの魔法陣の解析で得られた、高効率の重量軽減の魔法陣を用いた台車を作り上げたのだ。

台車は頑丈なアルス鋼をフレームに使い、馬車でも使った魔物の革のタイヤを採用した。

また、魔法陣の起動用の魔晶石は贅沢にも二級相当のものを使い、長時間の稼働が可能なようにしてある。

これを五台作ったのだが、魔法陣を刻んだベルトラムが困惑した表情をしていたのが印象的だった。

「技術と金の無駄遣いな気がするんだが……引手を増やせば運べんこともないだろう」

確かに一台五千クローナ、五百万円くらいするので、台車としては贅沢な部類だろう。しかし、これは絶対に必要なことだと思っている。

「ドワーフが三千人も来るんだぞ。一時間にどれだけの樽を出さないといけないと思っているんだ」

「どれくらいなんだ? 俺には想像がつかん」

これだけの規模のドワーフの祭典は初めてだから想定できる方がおかしい。

俺の場合、そんなことは言っていられないので、シャロンと検討していた。

「恐らくだが、一時間に百じゃきかない。その倍でもおかしくはないんだ。通路は広めに作ったが、人数が多ければ取り回しが難しい。人数を絞って効率よく運ばなければ絶対に間に合わない」

俺の言葉に「そ、そうか。それなら仕方がないな」と言った後は黙々と槌を振るってくれた。

この台車だが、急傾斜の地下道であっても五百リットル入る大型の樽ですら五人いれば運べるほどの性能を誇る。

地下道は幅四メートルほどあり充分にすれ違えるし、倉庫の出口で平地用の台車に乗せ換える際の揚重機も工夫してあるから、五台あればピストン輸送で対応できると踏んでいる。

他の問題だが、地下に作ったことにより、自然排水ができなくなったことだ。そのため、手押しポンプを設置しているが、氷で冷却するため頻繁な排水が必要で非常に煩わしい。

まだ設置はしていないが、レイ・アークライトの魔法陣を活用した温度調整の魔道具の設置を考えている。これは今後、城や家にも付けるつもりだ。

他には換気の問題があったが、これは鍛冶場で使う換気扇と同じものを取り付けることで解決している。

十月に入ると、毎日樽を満載した馬車が村に到着するようになった。三十近い数の樽が送り込まれてくるが、そこら中から掻き集めたのか種類も品質もまちまちで管理が大変だった。

これについてはギルドから派遣されてきた職員たちに任せている。

この期間にやったのは祭の準備だけではない。

アルスで見たレイ・アークライトの魔法陣について検証を行っている。

まずやったのは魔法が使えない人に魔法陣を描いて魔法が使えるようになるかの検証だ。

これについては五十人以上に試してもらった。しかし、誰一人成功していない。精霊が見えるリディにも確認してもらっているが、精霊たちはほとんど反応しなかったそうだ。

「気づいていないわけではないみたいなんだけど、戸惑っているという感じかしら。何をしていいのか分からないのかもしれないわね」

次に術者に精霊の力を送り込む実験も行った。

そして、驚くべき結果を得ている。

まず、俺が魔力使用量を確認しながら、土属性魔法で穴を掘った。ちなみにこの穴は新たに作る貯蔵庫用だ。

その時、掘る速度を計測しておき、魔法陣を通して俺に精霊の力を譲渡した場合の効果を確認した。

人数が多い方が確認しやすいが、慎重を期すため、十人という少人数で行っている。

その結果、およそ穴を作る速度は一人でやった時の六割増しになったのだ。その後、更に人数を増やして実験を行った。

三十人で行った場合は四倍ほどになり、単純計算だが、一人当たり五パーセントほどの効率アップという結果になった。

これだと百人なら百三十倍にできることになる。もちろん、ある一定以上の精霊の力を注ぎこまれると、術者の身体の方がもたないから上限はあるのだろうし、術者から離れれば効率は落ちるから単純な計算通りにはいかないだろう。

しかし、この力を使えば以前全く歯が立たなかった 魔将(アークデーモン) のアシュタルにすら効く可能性がある。

父に許可をもらい、信頼できる自警団員三十人と共に、アクィラの山の中で実験を行った。その結果、俺が持つ最強の光属性魔法、 光神の雷霆(ライトニング・オブ・ルキドゥス) で直径二メートルほどの岩を貫通させることができた。

それまでは十センチも貫入できなかったが、三十人のサポートを受けることで威力だけでなく継続時間が延び、頑丈な岩を貫通することができたのだ。

しかし代償がなかったわけではない。

強力な魔法の場合、行使した術者に大きな負担がかかることが判明した。

魔力(MP) が通常の数倍の速度で消耗するだけでなく、肉体的にも 体力(HP) が減っている。

そのため、魔法を終えた後、思わずよろめき、ベアトリスに支えてもらったほどだ。

「魔力が減るのは何となく分かるのですが、体力まで減るのはなぜなのでしょうか?」

シャロンが疑問を口にする。

「恐らくだが、制御に使う魔力が追い付かないんだと思う」

「制御に使う魔力ですか? 追い付かないとどうして体力が減るのでしょうか」

「魔力で制御しきれない分、身体の中で魔力が暴れている感じだ。例えるなら、流れてくる水の流れを板で変えようと思った時、水が大量なら板を押さえる力は大きくなる。その水の力が強くて板で制御できなければ、身体にぶつかってダメージを受ける感じが近いかもしれない」

多くの魔力を、術者を通して精霊に与えるのだが、出力のさせ方や方向など、術者の制御が必要だ。その制御に多くの魔力を必要とすることが分かった。

「これは俺以外には使わない方がいいだろう。魔力と体力の残量が見えないと、命に危険があるからな」

「駄目よ」とリディが反対する。

「あなたが使えない状況を考えておくべきよ。助けようと思った時に使えないなんて嫌だから」

その意見にシャロンも賛同する。

「リディアさんの意見に賛成です。いざという時に使えるようにどの程度まで私たちでも問題ないか、確認しておくべきです」

ベアトリスとメルも二人に賛成した。

結局、リディたちも実験を行った。二人は得意の風属性魔法の“ 大嵐(テンペスト) ”に絞って検証を行った。

その結果、最大二十人の魔力譲渡を限界と決めたようだ。それでも威力は二・五倍ほどになる。

一連の実験は成功したが、これを使う機会はそれこそ 虚無神(ヴァニタス) 本人が相手でもなければないだろう。

秋も徐々に深まり、戦勝記念祭があるからか、比較的平和な秋祭りが終わった。

十月に入って半月、ダンの妻エレナが産気づいた。

初産ということで心配し、俺とリディは治癒師としてダンの住むジェークス家の屋敷にいた。

夕方に産婆である治癒師のカミラとリディが部屋に入るが、俺とダン、ガイの男性陣は部屋の外で待つしかない。

じりじりとした時間が過ぎていく。

特に初めて出産に立ち会うダンは不安を隠しきれないのか、いつものような落ち着きがない。

夜が更けていき、日付が変わる前、元気な赤ん坊の泣き声が屋敷に響く。

ダンはその泣き声に立ち上がるが、まだ許しが出ないため、部屋の前をうろうろしている。

この経験は俺にもあるので何も言わずに見守っていた。

五分ほど経つと、リディが出てきた。その顔には笑みが浮かんでおり、俺たちの間の緊張感が消える。

「元気な男の子よ。エレナも大丈夫。ほら、行ってあげなさい」

リディの言葉に「ありがとうございました」と大きく頭を下げると、速足で部屋に入っていった。

隣に座るガイに「おめでとう」というと、

「これで私も孫を持つ爺ということですか……あ、ありがとうございます……」

斥候として常に冷静なガイが気の抜けた感じで話しているのが意外だった。そのことを指摘すると、頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。

「 ダン(あいつ) の時は森に入っていましたし、シャロンの時はペリクリトルに行っていたので……ユニスの時はいたんですが、あの時は出産ラッシュでしたから、バタバタしていた印象しかないんですよ」

「確かにユニスの前にセオたちが生まれていたし、直前にライルが生まれたな。俺もバタバタとしていた印象しかないよ」

そういった後、彼の肩をポンと叩き、

「父上には俺から報告しておく。初孫を見てこいよ」

そう言うと、ガイは「そうします」と言って部屋に入っていった。

ダンの息子はレオンと名付けられた。