軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十四話「一年ぶりの帰郷」

ここ数日、レイ・アークライトの魔法陣の解析のため、毎日鍛冶師ギルドに通っている。結論から言えば、解析は大きく進んだ。

特に鎧である“ 雪の衣(ニクスウェスティス) ”は九割がた解析を終えている。

鎧に描かれていた魔法陣のうち、金属性と木属性については硬化と自己修復だということは最初から分かっている。我々の使っている魔法陣とほぼ同じであったためだ。

その後、火属性が温度調整、水属性が耐熱性向上、土属性が重量軽減、闇属性が精神防護、光属性が精神高揚までは解析を終えている。ただし、風属性だけはどのような効果があるのか未だに判明していない。

一方、“ 白い角(アルブムコルヌ) ”という名の槍の魔法陣については分からないことが多い。

金属性、木属性、土属性は鎧と同じで、光と火が現象を放出できる、すなわち攻撃用の魔法陣らしきことは分かっているが、風属性、闇属性、水属性は放出系でもなく、ヒントすら得られていない。

彼の左手に描かれていた魔法陣については完全ではないが、どのような効果があるのかは掴めている。

最初に見た時に直感した通り、精霊に魔力を与える機能があることが確認できた。ただし、まだ検証は行っていない。このことについてシャロンが実験することを提案している。

「ベアトリスさんか、メルちゃんに手伝ってもらえばここでも実験できると思うのですが?」

そう言われても俺はアルスで実験するつもりはなかった。

「確かにできるし、出力を調整すれば問題はないと思うが、村に帰るまで実験するつもりはない」

「どうしてでしょうか?」

「一番の理由は鍛冶師たちに相談するようなものじゃないことかな。それにこの街にはカティさんがいる」

「カティさんですか?」

「そうだ。できればあの人には知られたくない。まあ、カティさんならこの情報を知っても変なことに使わないだろうが、何となく広めてはいけない気がしているんだ」

「どうしてですか?」と聞かれるが、答えに窮する。

「理由は特にないんだが……慎重になった方がいいと思う」

「そうですね。村の方が安全ですし、半月くらい先延ばしになるだけですから」と了承してくれた。

今回の魔法陣の解析は鍛冶師たちの技術力向上に大いに貢献できそうだ。

特に防具については、ゲールノート・グレイヴァーやゲオルグ・シュトックなど名人たちが解析の終わった魔法陣を試している。

最も劇的な効果があったのは土属性の重量軽減だった。今までにも重量軽減の魔法陣はあったが、それほど大きな効果はなかった。しかし、アークライトの魔法陣は今までの倍以上の効果があることが判明している。

その魔法陣をベアトリスのチェインメイルに組み込んだところ、二割程度の軽減効果があった。

鋼に比べ軽量な金属であるミスリルを使っており、彼女の体格でも十キログラムくらいしかないのだが、それが八キログラムくらいに軽減できている。鋼のものに比べれば半分程度の重さだ。

「こいつはいいね。今までも別に重いと思ったことはないが、これなら着けていることを忘れそうだよ」

着けていることを忘れるというのは大袈裟だが、元々柔軟性の高いゲールノートのチェインメイルが更に軽くなったことで機動性が上がったと喜んでいる。

これで金属製の硬化、木属性の自己修復に加え、水属性の耐熱強化を付与したことから、四属性の防具となった。

俺の鎧を作ってくれたゲオルグも同じように強化してくれた。

硬化と自己修復に加え、重量軽減が加わった。俺の鎧は黒竜の革を使っており、元々軽かったが、更に軽量化したことで今までより動きに切れが出るようになった。

リディたちの鎧も強化され、安全度は増している。

武器についてだが、こちらの方は特に強化していない。これは以前、打ち直してもらっているためだが、それ以前にこれ以上機能を追加するには魔法陣を描く面積が足りないことと、出力に見合った魔晶石を嵌め込む余地がないためだ。

こちらについてはウルリッヒたち武器を主とする鍛冶師たちがコンパクトに魔法陣を描く工夫を考えている。

王妃が提案した秋のドワーフ・フェスティバルだが、その翌日には鍛冶師ギルドの全支部に通達が出された。

人数を絞るよう頼んでいるが、酒に特化した祭ということでどれほど効果があるのか全く予想できない。

七月一日の夏至祭ではドワーフたちと大いに盛り上がった。

理由の一つには秋のドワーフ・フェスティバルがいつも以上に大々的に行われることがある。

そのため、ドワーフたちは終始機嫌がよく、宴会の席で何度も声が掛かっている。

「自慢の酒を持っていくからな。楽しみにしておけ」

「新しいつまみを考えておいてくれ。むろん、新しい酒があってもよいぞ」

一応、村に帰った後、収容できる人数を総本部に伝えるつもりだが、大規模な祭になることは確定で、二千人以上のドワーフがラスモア村を訪れることになりそうだ。

また、十月に入ると、総本部からドワーフ・フェスティバル実行委員会のスタッフとして、総本部から十名ほど職員が送り込まれることも決まっている。

これについては了承していないのだが、ドワーフたちの意欲を見る限り、何を言っても無駄な気がしている。

七月二日。

故郷ラスモア村に帰るため、今日アルスを出発する。

いつも通り、大門でドワーフたちの見送りを受けた。

今回は親方クラスだけでなく、比較的若い鍛冶師たちもおり、「秋に会いましょう!」と満面の笑みで声を掛けてくる。

その顔を見たら、縮小するとは言いづらい。

ウルリッヒに「世話になった」とあいさつをし、馬に乗る。

ここ数日、馬たちは運動のために街の外に出しているが、出発すると分かっているのか、いつもより機嫌がいい。

「ルナたちのことは儂らも気にしておく。では、ドワーフ・フェスティバルのことを頼んだぞ」

ドワーフたちに手を振りながらアルスの街を出発した。

街を出た後、街道をのんびりと北上していく。

初夏の日差しが眩しいが、標高が高いカウム王国内ということもあり、暑さが厳しいというほどでもない。

以前のアルス街道は治安がいいとは言えなかったが、カトリーナ王妃の改革により格段に安全になっていた。街道では黒鋼騎士団の巡邏隊と何度もすれ違っており、それも緊張感を和らげる要因の一つだ。

街道が安全になったこともあり、ラスモア村への旅は順調だった。

一度天候が大きく崩れた他にはトラブルらしいトラブルもなく、七月十四日の昼過ぎに懐かしいラスモア村に帰ってきた。

村に入ると、一年前と同じく、美しい丘が目に入ってくる。

作物の違いによるコントラストに加え、畦に色とりどりの花が植えられており、テーマパークか観光農園のような華やかさがあった。

村の中に入っていくと、俺たちの姿を見つけた村人たちが「お帰りなさい!」と手を振って出迎えてくれる。

見知った顔が多く、故郷に帰ってきたという実感が沸々と湧いてくる。

「帰ってきたって気がするわね」とリディが微笑み、「ここがあたしの 故郷(ふるさと) だよ」とベアトリスも頷いている。

メルとシャロンは「あそこの家が建て替わっているわ」とか、「お店が大きくなっているね」などと楽しそうに話していた。

北ヶ丘を抜けると館ヶ丘が見えてくる。

夏の木々の濃い緑の中に純白のロックハート城が輝き、丘の麓にある赤レンガのスコッチ貯蔵庫が落ち着いた感じで見事なコントラストを見せてくれる。貯蔵庫は昨年より更に一棟増えていた。

開け放たれている城門を潜ると、警備に立っている自警団員がピシッと音がしそうなほどの敬礼で出迎えてくれた。

しかし、すぐにいつも通りのフランクさで、「新しい馬ですか? また凄い馬ですね」と笑っている。

「そうだろ。俺にはもったいないくらいだよ」と笑いながら言い、そのまま馬で丘を登っていく。

監視塔から報告があったのか、父たちが城の前に並んで待ってくれていた。

父たちの後ろには家臣たちが並んでいる。その中には懐かしいダンの姿もあった。今日は森に入っていなかったようだ。

祖父も自警団の訓練を中断して出迎えてくれ、後には泥だらけの従士や自警団員が笑顔で立っている。

馬を降り、従士に手綱を渡すと、すぐに父の前に立つ。

「ただいま戻りました。やれることはやったつもりです」

それだけしか言わなかったが、父はそれで理解したのか、「よく戻ってきた」と言って俺の肩を軽く叩く。

母は俺を抱き締め、「お帰りなさい」と言って僅かに声を震わせていた。定期的に手紙は出していたが、今までと違って何千キロも離れた地に行っていたためだろう。

「積もる話もあるだろうが、まずは汗を流してこい。それから話を聞く」

父の言葉で城の横にある俺たちの家に向かう。

いつ帰ってきてもいいように手入れがされており、扉を開けてもほこりやカビ臭さは全く感じない。

自分の部屋に行き、窓を開け放つと、四つの丘と草原が作る懐かしい風景が広がっていた。

(帰ってきた……やっぱりここが俺の故郷だよ……)

装備を外すのを忘れ、懐かしい風景をぼんやりと眺めていた。

「早くしなさい! 先に行くわよ」というリディの声で我に返り、慌てて装備を外していく。

外に出ると、リディたちは既に準備を終えて待っていた。

「遅い。大浴場が使えるのは自警団の訓練が終わるまでの時間だけなんだ。さっさといくよ」

風呂好きのベアトリスがそう言って歩き始める。

自警団の訓練が終わるまでにはまだ二時間以上あるから、それほど急ぐ必要はないのだが、遅れたことは事実なので指摘はしない。

大浴場では男湯を独り占めかと思ったが、先客がいた。誰だろうと思って入っていくと、そこにはダンがのんびりと湯に浸かっている。

父か母の計らいのようだ。

「お帰りなさい、ザック様」

「ただいま」と笑顔で答えるが、以前より落ち着いた感じに僅かに戸惑う。

「エレナとは仲良くやっているか?」と場を繋ぐ。

「ええ、仲良くやっていますよ。僕も今年中には父親になりそうです」

そういってはにかむように微笑む。

「おめでとう。そうか、ダンも父親になるんだな……」

「そうですよ。ザック様の方が先に結婚したはずなんですけど、何か変ですね……ハハハ」

そう言って唐突に笑い出す。

「まあ、俺の場合、腰を落ち着けていなかったからな。で、いつ頃生まれる予定なんだ?」

「カミラさんの話だと、十月の半ばくらいだそうです。ちょうど戦勝記念祭の頃ですね……」

治癒師のカミラはベテランの産婆でもあり、彼女の見立てなら間違いはないだろう。

ダンと他愛のない話をした後、一緒に風呂を出る。

館ヶ丘の林では蝉が元気に鳴いている。日差しが強く、生暖かい風が吹き抜けるが、丘の周囲に造った堀に近づくと僅かだが涼しい風が頬を撫ぜていく。

堀の近くには既に屋台が出ており、ビールが用意されていた。屋台は訓練後の自警団員が飲むために用意されるのだが、今日は俺たちのためにいつもより少し早く来てくれたようだ。このビールだが、各丘に俺が作った氷室で冷やされており、真夏のこの時期でもキリキリに冷えたビールが味わえる。

「あんたの分だよ」と言ってベアトリスがジョッキを手渡してきた。ラガータイプのビールが並々と注がれている。

ダンにもジョッキが渡されると、リディがジョッキを掲げて、

「久しぶりの故郷に。そしてザックセクステットの再会を祝して乾杯!」

俺たちも同じようにジョッキを掲げて、「「乾杯!」」と唱和する。

「プハァ! ここで飲むビールが一番だよ。ハハハ!」と一気に飲み干したベアトリスが豪快に笑いながら、屋台に向かう。

俺も一気にビールを飲み干す。もう少し飲みたいが、今から父たちに報告があるため、自重しようと思った。しかし、メルが「お代わりを入れてきますね」といってジョッキを奪って屋台に向かう。

「まだ、父上たちにきちんと報告していないんだが……」

「いいんじゃないの。ビールの二杯や三杯で話せなくなるほど酔わないんだから」

「私もそう思います。今日はもう少し飲みたい気分です」

リディとシャロンも二杯目に突入するようだ。

「相変わらずですね」とダンが笑うが、彼も「今日はもう少し飲もうと思います」と言って屋台に向かう。

堀の横にあるベンチに座っていると、メルが「お待たせしました」と言ってジョッキを差し出した。それを受け取り、ゆっくりと口を付ける。

横にはメルが座り、リディたちも別のベンチで寛いでいる。

「こんな風に六人だけでビールを飲むのって初めてじゃないか」

俺の独り言にメルが「そうですね」と答え、ジョッキに口を付ける。

「お酒が飲める年になったくらいにルナさんの訓練に入りましたから。その後もいろいろありましたしね……」

彼女も思うところがあるらしく、空を見上げながら話していた。

そして、俺の方を向く。

「この先はここでのんびりするんですよね」

「ああ、そのつもりだ。のんびりできるかはドワーフ次第だと思うが」

俺とメルの話にリディたちも加わってくる。

「そうね。次のドワーフ・フェスティバルは本当に大変そう。でも、楽しいならそれでいいんじゃない?」

「あんたのやれることはもう終わったんだ。神様もこれ以上何かしろとは言わないだろうしね」

ベアトリスの言葉を聞いたダンが「全部終わったのですか」と真剣な眼差しで聞いてきた。

「神々からはこれ以上手を出すなと言われたよ。だから、俺にできることはない」

俺の言葉にダンは安堵の表情を浮かべ、

「では、これからはお酒造りに専念ですか?」

「まあ、それもあるが、やりたいことはいろいろある。時間はたっぷりあるし、のんびりやるさ」

そんな話をしながらビールを飲み干し、城に戻っていった。