軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十九話「ルナたちの情報」

五月二十二日。

草原地帯である中部域でやるべきことはすべて終わった。

人馬(ケンタウロス) 族のソレル族にカエルム帝国とルークス聖王国との戦争を止めるよう依頼した。族長リーヴァ・ソレルは当初興味を示さなかったが、その話の中でペリクリトル攻防戦の英雄、“白き軍師”ことレイ・アークライト氏が話題になったところで豹変した。

その理由だが、二千年以上前、人馬族に下りた 地の神(モンス) の神託が関係しているらしい。

アークライトがその神託に関わる人物であり、戦争を止めるというなら協力するという約束は取り付けたものの、命に関わる試練があることも分かった。

普段冷静なリーヴァが舞い上がっていることが気になり、弟であるセオフィラスに事態の収拾を図るように依頼している。

また、弟にはその後の帝国軍との交渉についても頼んでおり、一応打てる手はすべて打ったと思っている。

神々の話とは関係ないが、中部域の主要都市ネザートン近郊にある蒸留所にも訪問している。

蒸留責任者のバートラムが味について悩んでおり、簡単なアドバイスをして解決を図った。といっても、これから始まる話であり、解決するかは彼と職人たち次第だ。

昨日はその報告を兼ね、鍛冶師ギルドの支部を訪問している。その際、支部長のカール・クリューツにコーン・ウイスキーについて説明した。

「……今でも充分に美味いが、あれは化ける。だが、あの酒はスコッチやブランデーとは全く違う新しい酒なんだ。飲む方も先入観を持たずに楽しんでくれ」

「お前がそこまで言うとは……それほどまでなのか……」

「そうだ」と大きく頷きながら断言し、

「バートラムには言っておいたが、俺にとっても初めての酒だ。どうしたらいいというアドバイスは難しいが、味についてはある程度意見を出せる。いろいろ試してここだけの酒を造ってくれと頼んでおいたぞ」

俺の言葉にドワーフたちが歓喜する。

「ザックが助言すると言ってくれたぞ! これで成功は間違いなしじゃ! ジーク・スコッチ!」

そんなこともあり、昨日の宴会はいつもより盛り上がった。

そして今日、懐かしい故郷ラスモア村に向けて出発する。

村を出たのは去年の七月中旬だ。順調にいっても七月の初旬にしか到着しないから、一年近く村を空けたことになる。

急ぐ旅ではないが、草原の名馬、カエルム馬に乗ることになったことから無理のない範囲で進むつもりでいた。

ドワーフたちに見送られながらフォルティス街道に出る。

すぐに草原に入るが、初夏の風を受けてか、馬たちが張り切り、いつも以上のペースで進んでいく。

草原では一日に六十キロ以上を進み、フォルティス国内に入ってからも順調であったため、五月二十九日にフォルティス市に到着した。

フォルティスに入ったが、ここでは最初に傭兵ギルドに向かった。

弟たちが世話になった“ 剣聖(ソードマスター) ”ギデオン・ダイアーと彼の妻フランチェスカに会うためだ。

ギデオンは傭兵ギルドの剣術指南役であるため、ギルド総本部近くの訓練場ですぐに見つかった。

以前はそれほど厳しい訓練を行っていなかったが、今はロックハート家並みとは言わないものの激しい模擬戦が行われている。

俺たちが入っていくと、ギデオンが気づき、「休憩だ!」と叫ぶ。

そして、満面の笑みを浮かべて「久しぶりだな」と言って右手を差し出してきた。

「ご無沙汰しています。弟たちがお世話になったと聞いています……」

言葉を交わしている間に連絡を受けたのか、フランチェスカもやってきた。

一通り旧交を温めた後、「どうだ、模擬戦をやってみないか」と言ってきた。

俺としても七年間でどの程度近づけたか知りたかったので、「よろしくお願いします」と言って軽く頭を下げる。

結果は惨敗だった。しかし、納得はしている。

前回はメルと二人で魔法まで使ったが、あっけなく敗れている。しかし、今回は一人で立ち向かい、魔闘術こそ使ったものの、魔法を使わずにある程度食い下がれたからだ。

俺たちの中で一番レベルが高いのはベアトリスだ。以前はレベル六十台半ばだったが、今は二級傭兵の一歩手前のレベル八十。それでもギデオンに一矢報いることなく敗れている。

「強くなったな。特に心がな。あれから死線をくぐったのか?」

メルとの模擬戦を終えた後にギデオンは感慨深げにそう言ってきた。更になぜそう思ったのかも教えてくれた。

「あの時は強くなることに貪欲という感じだったが、今は生き残るために戦っているように見える。お前たちがそう思うほどの敵というのが気になるが……」

「確かに祖父ですら死を覚悟しましたから。生き残れたのは運がよかっただけですよ」

その後、ギデオンらと別れ、鍛冶師ギルドに向かう。目的は当然、ギルドが建設した蒸留所の状況確認だ。

気にしているわけではないが、アウレラに上陸してから大きな都市に行くたびに鍛冶師ギルドに寄って蒸留所の話をしている気がする。

支部長のルディガー・ナイチェルと話をすると、

「蒸留所の方は割と上手くいっている。まあ、ラスモア村ほどのものはできんが、イモの蒸留酒は普段飲むには充分に美味いんでな……」

フォルティスで使うイモはジルソール島とは違い、ジャガイモだ。連続蒸留器がないため単式蒸留器を使っているが、ウオッカに近い酒だ。

それだけではなく、少量ながらも麦芽を使ったウイスキーも蒸留しており、盆地の寒暖差を利用した長期熟成に挑戦している。

「それなら俺が口を出す必要はないな」というと、とんでもないという感じで、

「せっかく来てくれたんじゃ。蒸留所の状況を見てくれんか。頼む」

そう言いながら両手を合わせて懇願される。

翌日、フォルティス市の郊外にある蒸留所に行くが、思った以上に大規模だった。蒸留器が二十基近くあり、職人たちも百人を超えている。蒸留所が三ヶ所あるラスモア村よりも生産量は多そうだ。

ルディガーが言った通り、蒸留所は上手くいっているようで、俺が口出すことはほとんどなかった。

六月一日にフォルティスを出発した。

村に帰るならフォルティスからペリクリトルに向かうエルウィンドウッド街道を使う方が早いが、ルナたちの動向が気になるため、帝国東部域からカウム王国に入るルートにした。

フォルティスから帝国東部の主要都市エアルドレッドを経由してアルスに向かうと約七百キロ。険しい山道が続くが、俺たちの馬なら一ヶ月も掛からずに到着できるはずだ。

七年前に襲撃を受けたローグデール峠をトラブルもなく越えた。トラブルがないといっても何度か魔物の襲撃は受けている。それでも剣を抜くまでもなく、魔法で対処できる程度の魔物であり、命の危険を感じることは一度もなかった。

帝国領内に入り、三日ほどでエアルドレッドに到着する。

子爵家の次男として儀礼上必要なため、東部総督のエアルドレッド辺境伯を表敬訪問した。普通の子爵の次男程度なら会ってもらえることはないが、俺の場合は宰相や元老たちと面識があるため向こうも気を使ってくるので逆に面倒だ。

エアルドレッド辺境伯と三十分ほど話をした。もっとも大した情報はなく、向こうから宰相や元老たち、更には鍛冶師ギルドの匠合長ウルリッヒ・ドレクスラーによろしく伝えてくれと頼まれたくらいだ。

その後、鍛冶師ギルドのエアルドレッド支部に向かうが、そこでルナの情報が手に入った。

一ヶ月ほど前の五月十日にレイ・アークライトらと共に帝国南部に向かったと教えられる。

神々からの示唆の通り、無事に魔族の地、 永遠の闇(クウァエダムテネブレ) から脱出できたようだ。

(アークライトと無事に合流できたし、帝国南部に向かったということはジルソールに行くんだろう。一ヶ月前ということはそろそろ島に着いた頃か……)

鍛冶師ギルドが全面的に支援してくれているようで、俺が手助けすることはなさそうだ。

ここでもしっかり宴会に参加し、東方街道を北に向かった。

途中でルナたちの情報を集めるが、国境の町ファーフリーでアークライトの鎧が聖騎士に似ているため城門でトラブルになったくらいで、大した情報はなかった。

(意外に目立たないように行動しているみたいだな……)

六月二十四日。

カウム王国の王都アルスに到着した。

このまま鍛冶師ギルド総本部に向かうと宴会に突入するため、まずはロックハート家の定宿、“ 金床(アンヴィル) 亭”に向かう。

アンヴィル亭に入ると、すぐに主人が現れ、最上級の部屋に通される。相変わらずの待遇の良さに逆に気を使ってしまう。

「そう言えば、ふた月ほど前にルナ様がお泊りになられました。それも凄い方と一緒でございました」

一応知っているが、「それは誰なんですか」と聞いてみる。

「あのペリクリトルの英雄、“白き軍師”と“ 戦姫(いくさおとめ) ”がお仲間になっていたんですよ。最初にお名前を伺った時には驚いて声が出なかったくらいです……」

ペリクリトル攻防戦の話はここでも有名らしく、ルナがその英雄たちと一緒だったことに興奮しているようだ。

「……他にも凄腕の獣人の傭兵もいましたね。若い女性以外は皆さん無口で……」

無口な獣人と聞き、ルークスの獣人奴隷部隊を思い出した。

(確かペリクリトル攻防戦には聖騎士隊がいたはずだ。他にも聖職者たちがいたから、その護衛を借り受けたのかもしれないな。部隊を率いていた司教が“ 光の神(ルキドゥス) の現し身”だと公言していたらしいから、ありえない話じゃない……)

主人の話ではルナたちはここに十日ほど滞在し、装備の補強や手入れを行ったということだった。

更に主人は面白い情報を教えてくれた。

「……先ほど戦姫のアシュレイ様の話が出ましたが、今この宿には“ 赤腕(レッドアーム) ハミッシュ”こと、ハミッシュ・マーカット様がお泊りになられています。 マーカット傭兵団(レッドアームズ) を率いて帝国に向かわれるようですよ」

「レッドアームズが帝国にですか?」

妹のセラフィーヌを焚き付けるために言ったものの、本当にマーカット傭兵団が帝国に向かっているということに驚いている。

「ええ、何でもルナ様の護衛として、鍛冶師ギルドの総本部が雇ったそうです。匠合長やゲールノート様たちの武具が報酬だそうですが、剛毅なことですね」

ロックハート家の養女に過ぎないルナのために、世界最強の傭兵団と呼ばれているマーカット傭兵団を雇ったことはアルス市民にとっても驚きだったようだ。

恐らくだが、ウルリッヒはルナの秘密を聞いて、彼女のためにできうる限りの支援を行おうと考えたのだろう。

宿の主人が下がった後、装備を外しながらリディたちと話し合う。

「間違いなく知っていると思うわ」とリディがいうと、ベアトリスもそれに頷き、

「二ヶ月近くも前に帝国に向かっているんだ。今からレッドアームズを護衛にするなんて、事情を知らなきゃありえないね」

「でも、どうしてその話が広まっているんでしょうか? ルナさんの護衛だとしても少しおかしな気がするんですが」とメルが疑問を口にする。

「王妃様が絡んでいると思うわ」とシャロンが答え、更に王妃の思惑について俺たちに説明していく。

「レッドアームズは傭兵といってもラクス王国の精鋭だと認識されています。帝国から見たらラクス王国の護泉騎士団よりよっぽど恨まれているでしょう。だから、鍛冶師ギルドが雇った傭兵団ということにして、帝国軍や貴族が手を出せないようにしたのではないかと思うんです」

「それが一番ありそうだな。ウルリッヒたちが頼んだことは間違いないだろうが、カティさんがギルドに恩を売るために提案したってところだろう」

カトリーナ王妃は鍛冶師ギルドとの関係を何よりも重要視する。カウム王国にとってギルドは存続のカギを握る重要な組織であるためだ。

そのため、ドワーフたちが“友”と呼ぶロックハート家にも同じように配慮する。今回のこともその一環なのだろう。

「いずれにせよ、すぐに分かる。どうせ、今から宴会なんだからな」

俺の予言?通り、十分もしないうちにギルドから使いが来たと宿の従業員が伝えにきた。

「ザカライアス様と奥方様たちに総本部までお越しいただけないかということでした……」

まだ午後三時過ぎであり、宿の従業員も宴会には早すぎると思っているようだ。

「すぐに伺いますと使いの方に伝えてください」

「承りました」と言って下がろうとしたため、ハミッシュのことを聞いてみた。

「ちなみにハミッシュ・マーカット殿はこちらにいらっしゃるのでしょうか?」

従業員はなぜそんなことを聞くのかという顔をするが、すぐに答えてくれる。

「マーカット様ですが、総本部か、工房にいらっしゃると思います」

これで何となくこの時間に呼び出された理由が分かった。

総本部に向かうと、知り合いのドワーフたちとすれ違う。

「ようやく戻ってきたか! 今宵の宴会は楽しみじゃ!」

「夜まで待ちきれん! 準備を早めるように言いに来たんじゃ!」

どうやら宴会が待ちきれず、総本部に集まってきたようだ。

建物に入ると、職員たちが大慌てで宴会の準備に奔走していた。彼らには悪い気がするが、俺たちがどうこうできる問題でもないと心の中で頭を下げるに留めた。