軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十七話「セオへの依頼」

五月十五日の夜。

人馬(ケンタウルス) 族の有力氏族、ソレル族の春営地で、族長であるリーヴァ・ソレルと戦争を止める方策について話し合った。

当初、ルークス聖王国とカエルム帝国の戦争に介入することに興味を示さなかったが、ペリクリトルの英雄、“白き軍師”ことレイ・アークライト氏の話が出た後、流れは変わった。

リーヴァは人馬族に伝わる 地の神(モンス) の神託を話した。それは世界の危機に現れる神の使いに協力し、世界を守るというものだった。

神の使いが現れるということを確信したのか、リーヴァたちは上機嫌だったが、俺は危惧を抱いている。

理由の一つ目はリーヴァたちの様子だ。

今までは泰然とした雰囲気だったが、白き軍師が待ち望んだ神の使いであると確信してから妙にテンションが高く、危うさを感じている。人馬族は世界最強の騎兵であり、彼らが浮つくことは非常に危険だ。

二つ目の理由はアークライト氏が神の使いであり、人馬族ら草原の民が臣従した場合のことだ。

草原の民は人馬族と遊牧民を合わせても三十万人ほどと、主要な国家に比べ比較的少数だ。しかし、その戦闘力は世界の勢力地図を変えるほど強力だ。

もし草原の民がアークライト氏に盲目的に従い、彼がその力の使い方を間違ったら 虚無神(ヴァニタス) がもたらす以上の混乱を引き起こす可能性がある。逆にそれをヴァニタスが狙っていないとも限らない。

三つ目はアークライト氏本人のことだ。

清廉な人物であり、白き軍師と呼ばれるほどの知恵者と言われているが、話を聞く限りでは危うさも感じている。

この世界に召喚する前のことは分からないが、“若さ”あるいは“青さ”を強く感じるのだ。

今までは“戦い”に集中していればよかったが、この先待ち受けているのは“政治”の話だ。

確かに真っ直ぐな若者は見ていて気持ちはいいが、これから相手にしなくてはならないのは帝国や聖王国の老練あるいは狡猾な大人だ。彼らを相手に上手く立ち回れるのか不安が残る。

俺自身、政治家向きかと言われればノーと答えるが、それでもカトリーナ王妃やワーグマン議長と渡り合ってきたため、ある程度は対応できるだろう。しかし、俺がこの地に残って彼を助けることは神によって禁じられている。

次善の策として考えられるのは弟のセオフィラスに俺の代理をしてもらうことだ。そのため、彼に残ってもらい、今からその話をしようと考えていた。

その弟だが、妹のセラフィーヌと同じように剣術の才能だけが注目されるが、思った以上に思慮深い。十二歳という幼い時代から仲間たちと共に親の庇護下を離れて修行している。そのリーダーとしての経験が彼を成長させたのだろう。

そのため、きちんと情報を与えた上で方向性を示してやれば、臨機応変に対応できるはずだ。

弟と彼の腹心でありメルの弟であるライル・マーロン、常に冷静な斥候でありシャロンの妹であるユニス・ジェークスと共に俺たちのために用意された天幕に向かう。

天幕に入ったところで、更にセラフィーヌとロビーナ・ヴァッセルの二人も呼び出そうとしたが、二人は鍛錬のために外に出ており捕まらなかった。時間がないため、三人に話を始める。

「頼みがあるが、その前にさっきのリーヴァさんの話を聞いてどう思ったか教えてくれ」

突然の質問にセオはライルたちと顔を見合わせる。

「どう思ったと言われても……凄い話だなとは思いました。神様から使命を与えられるなんて吟遊詩人の 詩(うた) みたいだと。人馬族の伝承は何となくそうなんだなと思いましたけど、アークライトという人がその伝承の人だというのはびっくりです」

「そうだろうな。話を持ってきた俺自身驚いているくらいだ」

「それで頼みというのは何なのですか?」

「仮定の話だが、もしアークライト氏がこの地を訪れたら、その時は手助けをしてやってほしいんだ」

「手助けですか? 何をしていいのか……」

セオは俺の言葉に戸惑いを隠せない。

「アークライト氏とリーヴァさんの間を取り持ってほしいんだ。アークライト氏は人馬族に会ったことがないだろうし、リーヴァさんもあの調子だと何をするか分からない。冷静に話ができるように間に入ってほしいんだ」

「間に入るって……難しそうですね」

「難しく考える必要はないぞ。セラが暴走するのを止めるよりは楽だと思う」

「確かにセラ様を止めるのは大変ですから」とライルがいうと、それに釣られてセオにも笑みが浮かぶ。

「あとはソレル族次第なんだが、もし、アークライト氏が 地の神(モンス) の神託にあった人物なら、人馬族は彼に従うはずだ。そうなればさっきも話した通り、戦争を止めようとするだろう……」

俺の説明に三人は頷いている。

「もし帝国軍と聖王国軍が戦うとしたら、戦場はどこだ?」

突然の俺の質問だが、セオは迷うことなく「ラークヒルです」と答える。

「その理由は?」

「帝国軍が動くには時間が掛かります。兄様の言うように三個軍団以上だと二、三ヶ月は掛かるはずですから、少しでも時間を稼げるラークヒルで迎え撃つ以外にないと思います」

更にユニスがセオの説明を補足する。

「ラークヒルから先は騎兵を使いにくい土地だったと聞いたことがあります。帝国軍の主力は騎兵ですから、ラークヒル近郊の草原で戦いたいと思うのではないでしょうか」

「そうだな」と答えるが、彼らが帝国の状況を理解していることに安堵する。

「付け加えるなら、今回の総司令官は恐らくレオポルド皇子殿下だ。だとすれば、ラークヒルで華々しく勝利してから、一気に聖王国内に進軍したいと考えるはずだ。ラークヒルなら輜重隊という弱点を晒さずに済むからな。敵の獣人奴隷部隊が出てきたとしても、敵本隊さえ潰しておけば輜重隊を守るのはそれほど難しくない」

三人が納得したことを確認し、話を進める。

「ラークヒルで戦うとしても、草原の民がそのまま向かったら大混乱になることは間違いない。もちろん、白き軍師と呼ばれるほどの知恵者が何の手も打たずに漫然と向かうとは考えにくいが、帝国軍に上手く情報を伝達できなければ、不幸な事故が起きる可能性は充分にある」

「帝国軍と草原の民が間違って戦ってしまうということですね。確かにありそうです」

セオの言葉に小さく頷き、

「もう一つ付け加えるなら、元老院の力関係を考えると、第四軍団が出陣する可能性が高いということだ。今の軍団長はアドルフ・レドナップ伯爵だからレオポルド殿下より話は通じる。だから草原の民が動いたら、ラークヒルに先行して伯爵にその情報を流すんだ。あの人は見た目以上に切れるから、最善の方法を考えてくれるだろう」

「それを僕にやれと……エザリントンであった気はしますけど、ほとんど覚えていないんですけど……」

「大丈夫だ。草原の民が動いたことと、アークライト氏が戦争を止めようとしているという情報を持ち込めばいい。伯爵はレオポルド殿下が大きな戦功を上げられると困る。これは宰相閣下の意向次第だが、エザリントン公がレオポルド殿下を支持することはありえない」

「兄様、難しいですよ。どうして宰相閣下がレオポルド殿下を支持しないんですか」

セオは理解が追い付かないのか悲鳴に近い声でそう言った。

「済まない」と言って小さく頭を下げると、皇位継承と元老院、そして宰相の関係について説明していく。

「皇太子殿下の評判は知っているな」というと、三人は大きく頷く。

「皇帝陛下が今倒れたとすると、皇太子殿下が跡を継ぐことになる。だが、あの方は貴族だけじゃなく平民にもあまり人気がない。その点レオポルド殿下は、貴族はともかく平民、特に兵士には人気がある。もし、聖王国との戦いで殿下が大きな手柄を上げたとすると、最悪の場合、皇位継承を巡って内戦が起きる恐れすらあるんだ」

「「「内戦ですか!」」」と三人が同時に声を上げる。

「宰相閣下がそんなことは許さないだろうが、可能性としては充分にあり得る話だ。だから、殿下が大きな手柄を上げないように腹心であるレドナップ伯に秘かに指示を出すと俺は考えている」

「つまり宰相閣下は殿下に戦ってほしくないから、アークライトという人が戦争を止めに来るなら邪魔はしないということですか」

「その通りだ」

やはり思った以上にセオは理解力がある。

「でも、総司令官はレオポルド殿下なんですよね。レドナップ伯が反対しても強引に戦端を開くんじゃないんですか?」

「そこが一番の問題なんだ。そこでセオには殿下の説得も頼みたいと思っている」

「殿下の! 絶対無理です! 兄様じゃないんですから!」

「俺がやれればいいんだが、俺はこの地を去らないといけないんだ」

「どうしてですか?」

「理由は、今は言えない……近い将来には言えるかもしれないが……」

「なら聞きませんけど、無理なものは無理ですよ。僕は村でも真面目に勉強していなかったんですから」

「いや、大丈夫だ。それにそんなに難しい話じゃないんだ。さっきも言ったが、殿下は貴族の支持が少ない。帝国軍内で人気があるといっても軍事クーデターを起こすわけにはいかないから、何としてでも貴族の支持を得たいと思っているはずだ。そこを上手く突けば、元々政治的なことは苦手な方だから簡単に説得できるよ」

「僕も政治なんて分からないんですけど……」

「明日にでもシャロンと一緒にレクチャーするよ。それにもう一つ大事なことがある」

「大事なことですか?」

「ルナが一緒にやってくるかもしれない。もし来たら、あの子も助けてやってほしいんだ」

「ルナが? でも、ルナが来るにしてもレオポルド殿下のこととはあまり関係ないですよね」

「そうとも言えない。もしかしたらややこしい立場になっているかもしれないから……いや、これは確証は何もない話だ。いずれにせよ、無意味な戦争を止めるためには殿下を説得しないといけないんだ」

セオは「仕方ないですね……」と言って、最後には渋々納得した。

翌日の五月十七日。

朝の訓練を行うが、セオたちのレベルの高さに驚きを禁じ得なかった。

セオとセラの剣術スキルはレベル五十三と一番高いが、ライルたちも充分にレベルは高い。それ以上に五人の連携が素晴らしかった。

俺とメルがコンビを組み、五人と模擬戦をやったが、レベル六十六の俺とレベル七十のメルを相手に互角以上に渡り合った。

特にセオとセラの双子の息はピッタリで、変幻自在の動きで最初のうちは俺たちの方が翻弄されてしまったほどだ。

二人は絶えず位置を変えながら、何の合図もなく同時に攻撃を仕掛けてくる。これには俺だけでなく、ベアトリスまで「強くなったもんだね」と驚きの声を上げていた。

最終的に魔闘術を使って撹乱したところで、メルが強引に斬り込んで連携を崩し、各個撃破で勝利を得ることができた。

五対二というハンデがあったとはいえ、五歳も下の弟たちに危うく負けるところで、その状況に危機感を覚える。

「強くなったな」と俺がいうと、セラが悔しそうに「ザック兄様は速すぎ! メル姉様は強すぎ!」と文句を言ってくる。

「勝てると思ったんだけどな」とセオも少し悔しそうだが、すぐに気持ちを切り替えたのか、

「ザック兄様に切り札を使わせただけ成長したってことにしておこう」と前向きだった。

「兄様の切り札は魔法でしょ。あの状況で魔法を使われたらあっという間に終わっていたわ」

セラは思った以上に冷静に戦いを分析していた。

その後、リーヴァや戦士長のギウス・サリナスとも模擬戦を行ったが、俺たちの方が成長したようで七年前に比べて少し楽に戦うことができた。

昼食後、シャロンと共にセオに政治関係の教育を行った。

あれだけ息の合った動きを見せたセラだが、セオを見捨ててソレル族の若者たちと遠乗りに出ていた。

セオは「居ても仕方ないけど、自分だけ逃げるなんて……」とブツブツと文句を言っている。

ライルとユニス、ロビーナの三人はセオに付き合うらしく、彼の後ろに控えている。

彼らに対するレクチャーは多岐にわたった。

シャロンと二人で帝国内の貴族の力関係について相関図を使って説明し、更に政治的な思惑や支持母体との力関係なども叩き込んでいく。

四人は頭を抱えながらも何とか理解しようと頑張った。

「ザック兄様やシャロン姉様って僕たちより若い時にエザリントン公と渡り合ったんですよね。絶対に僕には無理ですよ……」

「そんなことありませんよ、セオさん。私はあの時、大失敗して婚約を解消させられるところだったんですから」

シャロンがそう言ってフォローするが、あの時は父に報告しなかったことは失敗だが、工作自体は上手くいっている。そのことは言わなかったが、それでも四人は少し気が楽になったのか、

「シャロン姉様でも失敗したんだ」と安堵する。

「大事なことはロックハート家の立ち位置をきちんと理解した上で、うちの力を上手く使うことだ。そこさえ間違えなければ、大きな問題になることはないさ」

「それが難しいんですけど」とセオは零す。

その後、ルークス聖王国や商業ギルド、更には北部総督府などについても説明していった。

「そう言えば、辺境伯閣下からフランシス様の護衛にならないかって話があったぞ。何でも師匠がほしいなら一級傭兵を雇うと言っていたし、ポルタ山地で実戦経験も積ませてもらえるそうだ。父上の許可はいるが、どうだ?」

セオはあまり乗り気ではないようで、少し困った顔をしている。

「ウェルバーンか……昨日の話じゃないですけど、帝国と聖王国の間が平和になったら、みんなでドクトゥスに行こうと思っていたんです」

「ドクトゥス? サエウム山脈の魔物でも狙うのか?」

「それもありますけど、僕たちには魔術師も治癒師もいませんから、ドクトゥスで 勧誘(スカウト) しようかと。あの街ならザック兄様やシャロン姉様の名前を出せば、見つけやすいかなと思って……仲間が見つかればペリクリトルかリッカデールに行くつもりなんですけど」

学術都市で魔術師を見つけ、冒険者の街ペリクリトルやアクィラ山脈の最前線リッカデールを拠点にするつもりだったようだ。

確かに今のパーティの戦闘力はずば抜けているが、治癒師がいないという致命的な欠陥も抱えている。

また、遠距離攻撃に関しても斥候であるユニスが弓を持っているだけで、牽制はともかく攻撃力の点では心許無く、飛行型の魔物に対してはほぼ無力だ。

今までは対人戦を念頭に置いていたため、あまり問題にならなかったが、これから先、自分たちだけで活動するなら大きな問題だ。

「村に戻ってもいいんですけど、僕たちが家を継ぐことはないですし、どこかに仕官するにしてももう少し自分たちの力を試しておきたいんです」

弟たちが自分たちの将来を真剣に考えていることに安堵する。

「そういうことなら好きにしたらいい」

セオたちへの説明を終えた後、ソレル族との宴会を楽しんだ。

宴会自体はドワーフたちのものとは比較にならないほど質素なものだが、俺たちを歓迎してくれていることが感じられるものだった。

大草原で星空を見ながら飲む馬乳酒も美味いものだと感じながら、夜を過ごしていった。