作品タイトル不明
第五十六話「魔法剣」
トリア暦三〇一七年九月二十四日。
鍛冶師ギルドの 匠合(ギルド) 長、ウルリッヒ・ドレクスラーの工房で新たに作る剣の打合せに来ている。その話の中で属性魔法を付与した魔法剣の試し切りをすることになった。
手渡されたのは、明日納品する予定のミスリル製の 長剣(ロングソード) で、火属性が付与されている。
何度か素振りをすると手に馴染んでいき、さすがは鍛冶師ギルドを代表する名工の作だと感心し、知らぬうちに「凄いな……」と呟いていた。
この素晴らしい剣に傷を付けそうで、どうしても躊躇いを感じる。
「本当にいいんだな」
そう念押しして、試し斬りの的として設置された頑丈そうな金属鎧に向かった。
標的となる金属鎧は鋼製のプレートメイルの胸部であり、凹みや傷は目立つものの、まだ十分に実用に耐えられるだろう。普通の街なら中古品、それも上質な部類として売買されてもおかしくない品だ。
拳で軽く叩くとゴンゴンと重い音が返ってくる。重装鎧というくくりなのか、装甲の厚みはかなりのもので、安心感を与えるような重みを感じさせる。
鎧の前に立ち、ゆっくりと息を吐く。
この 長剣(ロングソード) は完全な片手剣であるため、普段使う 片手半剣(バスタードソード) とは 握り(グリップ) 部分の長さだけでなく、全体のバランスが大きく異なる。構えてみるとやはり少し違和感があった。
その違和感を押さえつつ、やや半身になるように右手を引き、打ち込むための構えを取る。
構えを取ってから、一度力を抜くため、「ふぅぅ」と長く息を吐き出した。
すべての息を吐き出した瞬間、剣を振り上げ、袈裟懸けにするように斜めに斬り下ろす。
“ガン”という金属同士が衝突する音を予想したが、斬り裂いた時の音は“ザシュ”という音だった。手応えも薄紙を裂くようにとまではいかないが、ダンボールを切れ味のいいカッターナイフで切った感じに近い。
標的となった鎧を見てみると、狙い通り左肩からみぞおち辺りまで裂けていた。その断面は銀色に輝き、断ち切ったというより、切り裂いたという感じだろうか。
そして、その重厚な鎧を切り裂いた剣の方だが、刃毀れどころか、擦過痕すらなく、鏡のような美しさを保ったままだった。
「凄いな……これほどの切れ味とは……硬化の魔法が付与されているだけのことはある……」
そう言いながら、ウルリッヒに剣を渡す。彼は傷の有無などを確認するためか、目を細めて刀身を見つめ、「見立て通りの腕じゃな」と頷いていた。
「今度は魔法を纏わせて斬ってみてくれんか」
彼は俺に剣を渡しながら、そう言った。
魔法剣の起動だが、特に難しい手順はない。
魔法剣と呼ばれる剣には柄部分に“精霊の力”を集める魔晶石がはめ込まれ、その魔晶石に自らの魔力を注ぎ込むと、魔晶石とその周りに刻まれた魔法陣が自動的に起動し、精霊の力を集めて魔法を発動させる仕組みになっている。魔術師以外はコツを掴むまでに多少練習が必要だそうだが、力を送り込むイメージさえできれば、一時間ほどでコツが掴めるそうだ。
この魔法陣だが、非常に複雑な紋様になっており、見せてもらったが、俺では理解できなかった。鍛冶師たちはこの魔法陣の紋様を口伝で伝承していくそうで、魔道具・魔法陣研究の大家、ラスペード教授ですら一見しただけでは、魔法陣の意味するところを解読できなかったそうだ。
ウルリッヒに言われたとおり、無詠唱魔法と同じ感覚で火の精霊の力を集めていく。ほのかに握りが温かくなり、精霊の力が剣に集まっていくのを感じる。
ある程度集まったと感じたところで炎を、それもできるだけ高温になるような炎をイメージする。
イメージが剣に伝わると、刀身が眩い光を放ち、一気に青白い炎に包まれていった。一秒もせずに刀身は炎に包まれ、まさに火炎剣というに相応しい。
(こいつは凄いな……)
初めて使う魔法剣に興奮するが、すぐに試し斬りのことを思い出し、ゆっくりと左足を前に出す。
ハッ!という気合とともに、先ほどとは逆の方向に鎧を斬りつける。
何とも言えない柔らかい感触が手に伝わってくる。先ほどとは大違いで、固体を切っている感じはほとんどなく、ぬるっという手応えだった。一番近いのは温めたナイフでバターを切る感じだろうか。
剣を振り下ろした数瞬後、ガシャンという金属が硬い床に落ちる音が響く。鎧の一部が溶断され、ゆっくりと落ちていったのだ。
目の前の出来事だったが、一瞬、何が起きたのか判らなかった。頑丈な鎧がこんなに簡単に溶断出来たことが現実とは思えなかったのだ。工場などで溶接を目にする機会が多かったから、こんなに簡単に溶断出来るはずはないと、目で見た情報を脳が拒否したのかもしれない。
そんなことを考えていたが、剣に炎を纏ったままだと気付き、魔力の供給を停止する。
俺は絶句したまま、手にした剣を見つめていた。
(これほどまでとは思わなかった……これなら防具なんてあってないようなものだ……)
刀身にそっと手を触れてみた。あれほどまでに激しい炎を纏っていたはずなのに、僅かに温かいと感じる程度の熱しか持っていない。
ウルリッヒを見ると、なぜか僅かに口が開き、呆然という感じで俺を見つめている。彼の弟子たちも、そしてギルド職員のジャック・ハーパーも同じように目を見開いて驚きの表情を浮かべている。
俺は不安になって「何か拙いことでもあるのか?」と尋ねる。
数瞬の間が空く。ウルリッヒはやや掠れた声で、
「お前ほどの使い手を見たことがない……何をしたんじゃ? そいつの能力じゃ、ここまでの熱量は出んはずじゃ……」
最初何を言っているのか理解できなかったが、彼の言葉を反芻するうちに、俺がこの長剣では考えられないほどの性能を引き出したことが判った。
ウルリッヒは「普通じゃ考えられん」とつぶやいた後、
「お前さんの魔法の才能が関係しておるのかもしれんが……普通に振った時は儂の予想通りの腕じゃった。さすがに獅子心ゴーヴァンに鍛えられただけのことはあると感心したんじゃが、それでもお前以上の剣術士は掃いて捨てるほどおる……じゃが……」
ウルリッヒほどの鍛冶師がこれほど驚いている事実の方に、俺は驚いていた。
(普通なら、これほどの切れ味は生み出せないということか? 確かに高温の炎をイメージしたが……もしかしたら、普通の剣術士は赤い炎をイメージしているのかもしれないな……)
俺はその推論を鍛冶師たちに説明した。
ウルリッヒは「なるほどの……」と呟き、
「確かに皆、木が燃える時の炎の色じゃったな。まさに火炎剣という色じゃった……お前の炎は焼けた炭とも違う。じゃが、高温になっておったことは間違いない……」
そこで俺を労わるような感じで、
「かなり魔力を使ったのではないか? 魔術師ならその辺りの感じは判ると思うが、無理をしておらんか?」
ウルリッヒは俺が魔術師であるため、通常より魔力をつぎ込んで熱量を上げたと思っているようだ。
(魔力はそれほど使っていないはずだ。今日はさっき使った 光の細剣(シャイニングセイバー) 分だけだから、それを差し引けば……使ったMPは百ほどか。精霊の力の変換効率がいいということか?)
今回使った魔力は俺の 魔力(MP) 総量の三パーセントほどだった。時間にして二十秒ほどだから、単純な掛け算では十分ほどしかもたない。
だが、発動時にMPを消費した感じがあった。起動と維持ではMP消費量が違う可能性がある。
「もう一度発動してもいいか? 確認したいことがあるんだ」
未だに呆然としているウルリッヒだったが、「かまわんが」と頷く。
了承を得た後、MPの残量を確認し、魔法剣を発動してみた。
(やはりな……発動するときに結構持っていかれる……維持するだけなら、ほとんど問題にならない……)
ステータスを確認しながら起動すると、起動時に八十ほど消費し、炎を維持するだけなら、一秒間に一程度しか消費しない。
(発動・停止を繰り返さなければ十分に実用に耐える。魔法剣にしてもらうべきだな……それにしても、魔力の消費量が多いという話はなんだったんだ?……そうか、俺の 魔力(MP) 総量が多いからだ。魔術師以外の剣術士のMPが少ないからな……)
ステータスの確認が出来るからこそ判った事実だが、俺のMP総量は三千六百ほどある。だから、維持だけなら一時間程度はもつ計算だ。
一般的に魔術師のMPは多い。うろ覚えだが、キャラクター作成の夢を見た時、魔術師レベルがMP総量の計算に入っていたと思う。多分、その効果なのだろう。
ステータスの平均が五十だとすれば、MP総量は五百程度になったはずだから、発動に八十使えば、七分程度でMPがなくなる。ラスペード教授の“五分から十分で魔力切れ”という研究結果と合致する。
(さて、属性をどうするかだ……“火”と“光”が一般的だが……ここは奇をてらわずに“火”か“光”で行くべきだな……)
魔法剣は火と光の属性を付与したものが、一般的なものとされている。一応、全属性が付与できるのだが、攻撃力を直接向上させるのは、火と光に加え、冷気を纏わせる“水”、真空の刃を纏わせる“風”がある。
闇属性も精神に効く効果を期待できそうな気はするが、闇属性自体の研究が進んでいないため、それの魔法剣は存在していないと言われている。ちなみに噂に過ぎないのだが、魔族は闇属性の魔法剣を作ることができると言われている。
この他に土と金、木の三属性があるが、それぞれ違った効果を持っている。
土属性は重量の調節効果を付与できるため、重量を増やすことで攻撃力を増したり、逆に減らすことでスピードを上げたりと言った使い方ができる。
金属性は硬度を上げる効果があり、魔法剣にすれば大抵セットで付いてくるもので、硬化の付与された剣は刃毀れや錆びなどが起きにくく、メンテナンスフリーに近いものになる。この硬化の魔法は剣を持つだけで自動的に発動する――いわゆる 受動的(パッシブ) ――ようにするのが普通だそうだ。
最も判りにくいのが木属性だ。木属性は治癒魔法にも使われる魔法であり、このことから自動修復機能を持たせることができる。但し、自動修復機能時に大量に魔力を消費することと、真逆の属性である金属性と同時に付加することが難しいため、ほとんど使われていない。
ちなみに複数の属性の付与についてだが、同じ属性の重ね掛けや反属性――光と闇、火と水など――のものを同時に付与するのは非常に難しいらしい。ウルリッヒのような超一流の鍛冶師でもできないそうで、現在、防具職人のゲールノートだけが真逆の属性同士を付与することができるそうだ。
未だに呆けているウルリッヒに、「ぜひ魔法剣にしてほしい。属性は火か光で」と伝える。
「それは構わんが……すまんが、他の剣でも試してみてくれんか。未だに信じられんのじゃ……」
何が信じられないのか聞いてみると、今回使った魔法剣は魔晶石が最上級とは言いがたいため、それに耐えられる程度の魔法陣しか組み込んでいないとのことだった。つまり、炎は纏えるものの、金属を溶断するほどの性能を持っていないというのだ。
弟子の一人が煌びやかな装飾の大型の両手剣をウルリッヒに渡す。
「こいつは 傭兵の国(フォルティス) の傭兵に頼まれた品じゃ。光属性が組み込まれておる。さっきのものに比べれば、格段に上質な魔晶石を使っておる……」
説明しながら手渡してきた剣は、長さ一・五mほどで十字型の 鍔(ガード) を持つクレイモアのようなツーハンデッドタイプの剣だった。
「……こいつもミスリルじゃが……これ以上グダグダと説明はいらんか。新しい的を持ってこい!」
先ほどの的であった鎧は取り外され、新たに同じような鎧が設置されていく。
設置が終わると、弟子たちがウルリッヒの後ろに下がっていく。
ウルリッヒは新しい的を指差し、
「すまんが、そいつでこれを斬ってくれんか」
俺は小さく頷き、了承する。
重量感のある両手剣を何度か素振りをして馴染ませ、鎧の前に立つ。
ステータスを確認しながら、 魔力(MP) を注入していく。先ほどと全く同じ要領だが、今度は光をイメージしながら、精霊の力を集めていく。すると、徐々に刀身が輝き始め、最後には見つめ続けられないほどのオレンジ色の光を放っていた。ちなみにブォンという効果音はなかった。
(発動に使うMPは百くらいか。少し多い感じだな……維持は……これはさっきとそんなに変わらないな……)
ステータスを確認することに五秒ほど時間を費やした後、鎧に相対する。
そして、間髪いれず、裂帛の気合とともに剣を振り下ろした。
剣を振り抜いた瞬間、俺は目測を誤ったと思った。
それほど手応えがなかったのだ。
先ほどのようなぬるっとした手応えも無く、まるで素振りのように何の抵抗もなく振り抜けたため、振り抜いた後に勢いがつき過ぎ、たたらを踏むような感じで何とか踏み止まる。
傾いだ体で視線を的となった鎧に送ると、斜めに入った切り口を境に上部分がゆっくりとずり落ちていくのが見えた。
その信じられない光景は、ガシャンという金属音により現実化した。分断された鎧の上部が落下したのだ。
驚きのあまり声も出なかった。
(この手の両手剣は斬り裂くより、ぶった切るって感じの武器なんだが……手ごたえを全く感じなかった。まるで某盗賊の子孫の刀じゃないか……イメージ力の強さってレベルじゃない……)
俺は十秒ほど立ち尽くしていたようだ。
我に返ったウルリッヒに「止めてもよかろう」と言われるまで、魔法剣を発動し続けていたのだ。
「お前さんは全属性持ちの天才じゃったな……確かに天才じゃ……」
そう言って剣を受け取る。
「儂は剣の達人を見たことはあった。じゃが、魔法の天才、本当の天才と言う奴を儂は見たことがなかった……魔法剣をここまで使いこなせるのは、魔法の才能があるからじゃろうな……」
彼の話では、普通の剣術士が魔法剣を使う場合、炎などによる追加ダメージは多少期待する程度で、劇的な攻撃力の増加は期待していないそうだ。もちろん、元々剣としての性能が十分に高いことと、達人と呼ばれるクラスが使うことが前提であるため、使い手の方も攻撃力の増加より、魔法による効果――アンデッド対策や当該属性が弱点である場合の追加ダメージなど――を期待していることが多い。
つまり、これまでは攻撃力が多少上がれば十分で、それで作り手も使い手も納得していたとのことだ。
この話を聞き、ある仮説を思いついた。
魔法剣は一種の魔道具であり、魔法の才能がないものでも使えるようになっている。誰でも使えるのは魔晶石と魔法陣の組合せによって、精霊の力を現象に変換できるからだ。元々魔法陣は精霊の力を効率よく取り出すために作られた“回路”のようなものだから、対象の属性の才能がある者が使ったら、魔法陣との相乗効果により、 魔力(MP) を通常の使用法以上に効率よく精霊の力を取り込むことが出来るのではないか。
ラスペード教授のような専門家に確認しないと確証は得られないが、この仮説は恐らく間違ってはいないはずだ。
(ということは、リディとシャロンも魔法剣を持てばかなり強力な前衛になれるということか……いや、攻撃力だけならそうだが、前衛は攻防一体の能力が必要だ。無理に前に出す必要はないな……)
その後、作成する剣の細かい仕様について打ち合わせることになり、地下一階に向かった。
部屋に入ると、打合せ用のテーブルがあり、そこには作りかけの剣が置かれていた。
その剣はやや黒っぽい鈍い銀色の金属で、俺のバスタードソードとほぼ同じ大きさだった。まだ刃も付けられておらず、形を合わせただけの素体といったところのようだ。
「こいつが素になる」
俺は既に着手していたことに驚き、思わず、「もう作り始めていたのか?」と疑問を口にしていた。
ウルリッヒはニヤリと笑って俺の疑問に答える。
「お前さんから話を聞いて、すぐに作っておいたものじゃ。急ぎになると思ってな」
一昨日に話を聞き、すぐに俺の剣を作ることを決め、昨日の朝のうちに作っていたようだ。
「王宮からの使者が来なけりゃ、もう少し形になったんじゃが。まあ、これでもバランスくらいは見れるじゃろう。重すぎることは無いと思うんじゃが、重いようなら言ってくれんか」
そう言って、その素体を俺に手渡す。
剣自体は今の鋼の剣より細いように見えるのだが、受け取った時に感じた重量は予想以上だった。
(比重が違うからなんだが、思った以上に重いな。まあ、おいおい慣らしていけばいいだろう……)
「重さは問題ないな。バランスだが、俺のスタイルはスピード重視だから、取り回しを考えて……」
剣のバランスについて、小一時間話し合った。
「うむ……大体のところは判ったわい。後は毎日、顔を出せ。きっかり十日で仕上げてやる」
作業場には何本もの剣が置かれており、他の納期に影響しないか気になるところだが、ウルリッヒの雰囲気がそれを問うことを許さない。
俺は「忙しいところすまないが、よろしく頼む」と頭を下げ、彼の工房を後にした。
工房を出たところで、同行しているギルド職員ジャック・ハーパーが溜息を吐く。俺が理由を尋ねると、
「匠合長がアダマンタイトで剣を打つのは久しぶりなんです。それもあの気合の入れようだと……」
そこで言葉を切り、大きく息を吐き出した後、
「ウルリッヒ・ドレクスラーの最高傑作と呼ばれる名剣が生まれる気がします! ザカライアス様の魔法の才能を十全に生かす、最高の魔法剣を作られるような気がするんです!……」
さすがに鍛冶師ギルドの職員だけあって、名工が打つ新しい剣に興味が尽きないようだ。目を輝かせ、やや興奮気味に話し続けていた。
そんなことをしゃべりながら、狭い路地を抜けていくと、次の予定地、ゲオルグ・シュトックの工房が見えてきた。彼の工房もウルリッヒの工房とほぼ同じ規模の小さな工房だった。
ただ少しだけ違う点は、ウルリッヒの工房では感じなかった皮革の匂いがあることだ。鍛冶師といっても防具職人と言うことで、革を多く使うのだろう。
ゲオルグの工房に入ると、ウルリッヒよりやや恰幅のいいドワーフ――皆恰幅はいいのだが――が出迎えてくれた。
装着している防具を外し、彼に渡すと、小さく首を傾げた。
「うむ……悪くはないんじゃが……お前は剣術士でもあるんじゃろう。こう言ってはなんじゃが、こいつの素材は大したものじゃない。せめて、竜種のものを使うべきじゃ」
「いや、そうなんだが……」
俺は口篭ってしまった。
今使っている防具は学院時代にドクトゥスで作ったものだが、さすがにドクトゥスでは竜種の素材は滅多に流通しない。たまに入荷するらしいが、当然価格は高騰するため、俺程度が手を出せる金額ではなかったのだ。
ちなみに今使っている物の素材だが、昆虫系のものを主に使っている。 胸甲(キュイラス) と 肩当て(スパールダー) が 巨大ムカデ(ジャイアントセンチピート) 、その他が 兵隊蟻(ソルジャーアント) の甲殻を使っているため十分な防御力を有しているが、竜の皮と比ぶべくもない。
「うむ。補強しようかと思っておったんじゃが、作った方が早い。とりあえず、採寸をさせてもらおう」
そう言って、ゲオルグと彼の弟子たちに取り囲まれる。
オーダーメードのスーツなど作ったことはないが、それに近い感じでそこら中のサイズを測っていく。途中で腕を上げたり、体をひねったりとされるがまま、採寸されていった。
三十分ほどで採寸が終わる。
慣れない採寸にへとへとになるが、すぐに聞き取りが始まった。
「……静音性と柔軟性が重要じゃと……飛んだり、跳ねたり? うん? どう動くんじゃ?……」
実際に動いて見せろといい、裏庭に連れて行かれる。そこで、バク転などの動きを見せていく。
「なるほどの……こいつは面白い仕事かもしれん……明日の朝、もう一度ここに来るんじゃ。素案を作っておくからの」
それだけ言うと、目を爛々と輝かせ、取り出した紙に絵を描き始めた。
ゲオルグに話しかけても相手をしてくれないので、弟子の一人に聞いてみると、
「普通はあんな動きする剣術士はおらんからな。ここじゃ、頑丈さを求めるもんが多いんだ……」
軽戦士タイプの防具は、アルスではあまり作られることはないそうだ。
二人の鍛冶師の相手をして、精神的に強い疲労を感じながら、鍛冶師ギルド本部に向かった。