軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十六話「後片付け」

トリア暦三〇一七年七月十七日

昨日の大宴会は午後八時頃にお開きとなり、ドワーフたちは皆、満足して家路についた。二次会については関与していないため、大人しく帰ったかについては聞いてない。

今回の宴会でラズウェル辺境伯家は、鍛冶師ギルドとかなり良好な関係を築けたようで、傍目に見てもデーゲンハルト支部長とヒューバート・ラズウェル辺境伯の会話は非常に楽しげだった。

二人の会話の中で最も盛り上がったのは蒸留所建設の話題であり、辺境伯は蒸留所建設の支援をデーゲンハルトに申し入れていた。具体的には建設用地の斡旋や輸送路の整備などのインフラ関係の支援と、原料である醸造酒や蒸留釜用の燃料の手配についても便宜を図るという話になったようだ。

辺境伯は蒸留酒をウェルバーン周辺の特産品としたいと熱く語り、デーゲンハルトもそれに激しく同意していた。その勢いを借り、辺境伯とデーゲンハルトはロックハート家に蒸留酒の特産品化の承認と蒸留酒技術移転に関する支援を要請してきた。

父も兄も、もちろん俺もウェルバーンで蒸留酒を作ることに異存はなく、技術支援についても職人の受け入れなどで便宜を図ることを約束した。これは既に鍛冶師ギルドで聞かされていた内容と同じだ。

便宜は図るが、譲れない部分はある。

三年間という職人の修行期間と蒸留責任者のスコットが認めるまで独り立ちさせないことは譲っていない。

デーゲンハルトは「当然だ」と頷き、ギルド職員ジョナサン・ウォーターをその場に呼んだ。

「こいつがジョニーだ。酒造りの職人じゃねぇが、ウェルバーンの蒸留所の責任者にすることになった……」

ジョナサン・ウォーターは二十代半ばの若い職員だ。若いが思慮深く、今回の宴会でも機転が利き、随分助けられている。そして、最も重要なことはドワーフたちのために何をすべきかという基準で仕事をしていることだ。つまり、自分に与えられた仕事について深く理解しているのだ。

当たり前のことだと思うだろうが、実際、仕事をする上で重要なのは本来の目的が何か、そのために何が必要かを考えることだ。目の前の仕事を着実に片付けていくことも大事なことだが、長期的な視点で仕事をする場合、目的を見失うといい仕事はできない。その点、このジョニーはドワーフたちが何を求めているか、その本質を理解しているから安心だ。

彼なら中途半端な妥協は決して許さないだろう。例え上司であるデーゲンハルトから催促があったとしても、味を守るために職人を育てることを優先するはずだ。もちろん、デーゲンハルトがそんな催促をすることは考えられないのだが。

今回、彼は蒸留設備の管理や原材料の仕入れなどについて、ラスモア村に学びに行くことになっている。俺たちが村に帰るとき、同行する予定だ。

手回しがいいことに、既に彼と共に村に同行する 醸造(・・) 職人が決まっているそうだ。デーゲンハルト自らが面接し選んだ職人たちで、やる気のある若者たちだと彼が認めている。職人たちの管理もジョニーの重要な仕事になっていた。

色々なことがあったが、宴会が無事に終わったこと、兄の結婚式が予定通り行われることなどから、ロックハート家の関係者は皆、笑顔だ。

ただし、昨日飲みすぎた父と兄は俺の解毒の魔法でも未だに二日酔いで辛そうな顔をしている。ちなみにダンは朝食も取らず、まだ寝ている。正確には一度起きてきたのだが、あまりの顔色の悪さにもう一度解毒の魔法を掛けてやり、無理やり寝かせたのだ。その二日酔いの原因だが、どういうわけかダンはドワーフたちに気に入られたらしい。無理強いはされていないようだが、僅か十六歳では自分の飲むペースなど判るはずもなく、相当飲んでしまったようだ。宴会中に気付き、何度か解毒の魔法を掛けてやったが、やはりというか、見事に二日酔いになっていたのだ。

俺はと言うと長年の経験がものを言い、飲むペースを自分でコントロールしたため、少し頭が痛い程度で済んでいる。もちろん、魔法がなければ二日酔いどころか、三日酔いするほど飲んでいたが。

ダン以外の従士や自警団員たちは皆元気で、会場の片付けに行く予定だ。俺も勝手に作ったグリルや水槽を元に戻さないといけないから片付けに行く予定だった。だが、辺境伯の腹心、オールダム男爵からあのままにしておいて欲しいと言われ、行く用事がなくなってしまった。何でも辺境伯があの場所での野外パーティを大層気に入ったそうで、そのまま使いたいのだそうだ。氷は魔術師たちに作らせるとして、保温庫は使い道がないと思ったのだが、焼いた石を入れるなどして利用できると考えていると教えてくれた。

それでも自分が企画した宴会の後始末は見届けないといけないだろうと、会場に向かったのだが、既に早朝からギルド職員たちが片付けを始めており、十時過ぎにはきれいに片付け終わる。

ちなみに辺境伯の持ってきた蒸留酒のうち、アップルブランデーだけが半分ほど残っていた。不思議に思い、昨夜の帰り際にデーゲンハルトに理由を尋ねると、

「ロドリックの結婚式の時にラスモア村の蒸留酒がないと格好がつかんだろう。俺たちなら別だが、人間たちなら半樽もあれば十分だろう?」

どうやら兄のために遠慮してくれたようだ。

一方のドワーフたちが持ち込んだエールやビールだが、思った以上に消費されていた。

持ち込んだ樽の数は三十一。そのほとんどがホグスヘッドと呼ばれる樽のサイズであり、おおよそ二百五十リットル入る。つまり、七千七百五十リットルもの酒が用意されていたのだ。

二樽も用意してきた 強者(つわもの) が五人もいたので二十六種類だったが、全種類が開けられ、十樽が完全に空になっていた。開けられた樽も半分以上残っているものは少なく、概算だが少なくとも三千リットル以上消費していた。

ドワーフの鍛冶師たちがおよそ二百人。奥さん連中と人間の鍛冶師が合わせて二百人くらいだから、一人当たり七から八リットルになる。これだけも凄い量だが、これに蒸留酒が三百五十リットルが加わる。

(一人当たりビール中ジョッキ十五杯に、ウィスキーボトル一本っていうところか……人間なら急性アルコール中毒で死人が出るレベルだぞ……うちの連中が二日酔い程度で済んでいるのが不思議な気がする……)

俺はその量に目眩を覚えた。

後片付けが思いのほか早く終わり、手持ち無沙汰になってしまった。

折角なので街を散策しようとウェルバーン市街に戻ろうとしたが、オールダム男爵の使いの者が現れ、至急城に戻ってきて欲しいと伝えられる。

何事かと思い、急いで城に戻ると、すぐに辺境伯の執務室に連れていかれた。

執務室には辺境伯のほかに内政を取り仕切るオールダム男爵と第一騎士団の団長ブレイスフォード男爵、更に数人の武官たちが協議を行っていた。更に父マサイアスも協議に加わっていた。

オールダム男爵からデズモンド・ゲートスケル准男爵の部下であるハリソン・ガネルの姿を見失ったという話を聞かされる。

「ガネルを拘束するために派遣した騎士からの報告では、タイスバーン子爵領に入ったところまでは確認できたのですが、それ以降の足取りが掴めぬと……」

ガネルを拘束するため、ウェルバーン城での戦闘の翌日に第二騎士団より一個中隊が派遣されたそうだ。だが、子爵領に入ったところで足取りが消え、今どこにいるか全く掴めていない。

「……ガネルが西部戦線で後方撹乱などの作戦についていたことも判っております。ゲートスケルの話では手勢はいないとのことですが、暗殺などを得意としておるという噂もあり、対応を検討しておるのです」

詳しく聞くと、ハリソン・ガネルは 所謂(いわゆる) ゲリラ戦の指揮官だったようで、敵の輜重隊を襲撃したり、防備の手薄な拠点に少数で襲撃を掛けたりしていた。ルークスの兵士は神出鬼没と容赦のない攻撃、彼の銀色の髪の色――今では白髪だが元は薄い金色だった――から、“銀幽鬼”と言って恐れていたそうだ。

「足取りが掴めているのは三日前まで。タイスバーン領からウェルバーンまでは馬を使えば二日と掛からぬ距離……つまり、既にここウェルバーンに潜入していてもおかしくはないということなのです……」

ラズウェル辺境伯とオールダム男爵はガネルがテロ行為に走るのではないかと懸念していた。ブレイスフォード騎士団長はそれを受け、ウェルバーン市の警備を強化しているという。

オールダム男爵がガネルの狙いを話していく。

「ガネルの狙いはゲートスケル准男爵の救出でしょうな。ですが、騎士団本部の地下牢では救出は叶いますまい……」

俺は男爵たちの話を聞きながらガネルの狙いについて考えていた。

(ガネルはゲートスケルに忠誠を誓っている。救出を目指すと考えるのが常識的なところだろう。だが、ガネルはゲートスケルの人となりを知っている。ゲートスケルはプライドが高い。彼は辺境伯を凌ぐ切れ者と言われていた。それがルークスの狂信者とアウレラの拝金主義者の手先として操られていたと公表されている。だとすれば、ゲートスケルが脱走し、再起を目指すとは考えにくいんじゃないか?……)

辺境伯が俺に意見を求めてきた。

「何やら考えておるようだが、ザカライアス卿の考えを聞かせてくれんか」

俺は頷き、今考えていたことを話し始めた。

「ガネルの行動についてですが、彼はゲートスケル准男爵の救出は考えていないのではないでしょうか?」

辺境伯が不思議そうに「なぜかね」と尋ねる。

「ガネルは敵国に潜入し、危険な任務をこなしてきた男です。先を考えないで行動することは考えにくいと思います」

「うむ。確かにな。だが、それとゲートスケルを救出せぬというはどう関係してくるのかな?」

「恐らくこう考えるのではないでしょうか。准男爵を脱出させたとして、その後はどうなるか。准男爵は誰の手引きで脱走したのか。ほとんどの人はルークスの手の者が手引きした、そう考えるでしょう……」

俺の言葉に全員が頷く。

「……准男爵もそのことは当然考えるはずです。徹底的に悪人になりきれる男であれば、ここで脱出し、再起を図るか、閣下に一矢報いようと足掻くでしょう。ですが、准男爵は彼なりに祖国を愛していますし、敵国の手先になったと思われてまで、生きようとは思わないのではないかと。つまり、無理に救出しようとしても、准男爵がそれをよしとはしないのでは……ガネルは准男爵の人となりをよく知っています。ならば、無理に救出しようとすることは考えにくいのではないでしょうか」

俺が話し終わると、オールダム男爵が納得したように頷き、

「なるほど。ならば、奴の狙いは総督閣下とそのご家族のお命ですか。もしそうであるなら、ザカライアス卿、あなたも狙われる対象でしょうな」

「私が……あり得ますね、確かに。私がいなければと考えてもおかしくはない……しかし、昨日は僥倖でした。あの会場ならば不意打ちされることはないでしょうが、移動中に狙われる可能性もありましたから」

俺の言葉に全員が頷く。

もし、昨日のうちにガネルが行動に出ていたら、辺境伯たちが襲撃を受けていた可能性は高い。

その後、具体的な協議に入っていく。

まず、ブレイスフォード団長は辺境伯に対し、「必ずやロザリンド様のご結婚までに捕らえてみせます」と意気込みを見せる。

「具体的にはどうするのか?」

辺境伯の問いに団長は一瞬言い淀んでから、

「式典の警備強化を理由に不審者どもを一掃します。我ら北部総督府軍は必ずやガネルめを捕らえてみせます!」

そう言ったものの、それ以上に具体的な方策は出てこなかった。

(不審者の一掃と言っても実際には無理だろうな。ウェルバーンの人口は三万人。周辺の街や村を合わせれば十万人を超えているはずだ。式典を目当てに観光客が流入してくるだろうし……第一、騎士団の兵士たちは捜査には不向きだろう。相手は敵国に潜り込めるくらいのプロなんだ。騎士たちには悪いが、期待しない方がいいな……)

辺境伯も俺と同じことを考えているのか、騎士団長の意見に頷いた後、俺に意見を求めてきた。

「ザカライアス卿の意見を聞きたい。卿ならどうする?」

俺にも名案があるわけではないが、とりあえずガネルが取りうる行動について思いつくことを話していく。

「まず、ガネルが取りうる行動ですが、既にウェルバーン市内に潜入しているならば、結婚の式典までどこかに潜伏したまま出てこない可能性が高いでしょう」

俺は既に潜伏している可能性は高いと見ていた。そして、狙いについても優先順位を定めているだろうとも。

第一目標は当然ヒューバート・ラズウェル辺境伯だろう。次に彼の家族のいずれか。そして、ロックハート家。特に辺境伯の義理の息子となる兄ロドリックと、今回のゲートスケル失脚の原因である俺は狙われる可能性が高い。

「閣下のお命を狙うとすれば、式典最後のパレードのタイミングでしょう。そこならば、人ごみに紛れて接近することも可能ですから」

全員が頷く。

「騎士団長閣下のおっしゃったとおり、式典までに捕らえることが重要です。そのためには、潜伏場所からおびき出す必要があります。彼が飛びつきたくなるような“餌”をちらつかせるのです」

ブレイスフォード騎士団長は「餌? 具体的にはどのようなものを考えておるのだ?」と疑問を口にする。

「私です」

その言葉に全員が息を飲む。

「ガネルの標的のうち、城から出ても不自然でないのは私だけでしょう。閣下はもちろん、ご家族方が城を出るのは不自然ですし、兄も騎士団本部と宿舎以外に行くことは不自然です。私なら街を散策しても不自然ではありません」

騎士団長は俺の言葉に頷くが、

「だが、卿が城の外に出るとして、ガネルのことだ、罠だと気付くのではないか?」

俺は「はい」と頷き、

「ですから、まずは彼が出てきたくなるような状況を作り出します」

辺境伯が「具体的には?」と先を促す。

「まず、ゲートスケル准男爵が既に自害したという噂を流します。そして、ウェルバーン市内の警備を強化します。そうですね、具体的にはパレードコースを公表した上で、そのコース上で襲撃を行えそうな場所は何度も徹底的に確認していくという感じでしょうか……」

俺の言葉にブレイスフォード団長が腕を組みながら、「パレードコースの警備強化は判るが、ゲートスケルの自害の噂を流すのはなぜだ?」と疑問を口にする。

「准男爵が既に死亡していれば、ガネルは救出という手段を選ばないでしょう。そうなれば暗殺のみを考えるはずです」

「しかし、先ほど卿はゲートスケルの救出を奴は考えておらぬと申したではないか」

俺は「説明が不足しておりました」と頭を下げる。

「ガネルが准男爵を救出しないだろうというのは、あくまで私の考えであって実際ガネルがどう動くか判りません。ガネルが准男爵の死を知れば、救出を考えていたとしても、諦めざるを得ません。これによって彼の行動を予測しやすいように誘導するのです」

騎士団長も俺の意図を理解したのか、「なるほど」と大きく頷く。

「ガネルに暗殺しか選択肢を与えず、更にパレードでの暗殺も不可能だと思わせることができれば、更に選択肢は少なくなります」

そこで辺境伯が大きく頷く。

「ガネルに卿を暗殺するしかないと思わせようと考えたわけだな」

「はい。もちろん、ガネルに十分な情報源があれば、私の考えを逆手に取る可能性はあります。ですが、今持っている情報で判断する限り、彼が動かせる手勢は非常に少ないと考えます」

オールダム男爵はそれに頷くが、危険が高いと反対する。

「だが、あの男はこの手のことを非常に得意としております。ザカライアス卿のお考えは判りましたが、早計ではありますまいか」

それに対してブレイスフォード団長が、

「騎士団より 手練(てだれ) を護衛に付けましょう。ガネルが暗殺を得意とするとは言え、早々遅れはとらぬでしょう」

俺はそれに対し、 頭(かぶり) を振り、

「護衛は不要に願います。私がガネルのことを歯牙にも掛けぬと思わせたいのです」

騎士団長は俺が護衛を付けないと言ったことに唖然とした後、「無謀すぎる!」とテーブルを叩いて立ち上がると、やや感情的に反論する。

「卿は護衛もなしに囮となるつもりか! ガネルでなくとも驕っておるとしか思わんぞ!」

確かにガネルのようなゲリラ戦を得意とする人物に対し、主導権を渡すような戦いを挑むのは無謀だ。だが、俺の場合、即死さえしなければ何とかなる。

俺は無理に笑顔を作る。

「即死さえしなければ、何とかなります。それよりも逃げられないようにする方がよほど難しいと思います」

俺の言葉に父以外の全員が首を振って呆れ、騎士団長ですら気勢を削がれてしまったようだ。

そこで父が初めて言葉を口にした。

「街に出るといっても、あてもなく長時間ぶらつくのは不自然だろう。それにお前の思惑通り、いきなり襲撃してくるとは思えん」

俺は話題が手段に移ったことに安堵していた。もし、辺境伯に危険であると反対されたら、城から出ることができなくなる可能性があったからだ。

「はい。その点も考えてあります。ちょうど、メルたちとデートの約束をしているのですよ。それも二人っきりで一日中。婚姻の式典の前日である明後日まで二日間あります。その間、朝から晩まで隙を見せ続ければ、向こうも痺れを切らすはずです。何せ、美女を侍らせて楽しんでいるようにしか見えないのですから」

俺がおどけるようにそう言ってみせたが、父は真剣な表情を崩さず反論する。

「一流の冒険者たるリディアやベアトリス嬢なら判るが、まだ若いメルやシャロンを危険に晒すことは許さぬ」

「確かにシャロンは難しいでしょうね。ですが、ベアトリスと一緒ではガネルも襲って来れないでしょう。メルとリディが適任かと。初日は相手も様子を見るでしょうから、二日目が最も可能性が高いはず。その日はリディに相手をしてもらいます」

「しかし……本当に大丈夫なのか?」

俺も真剣な表情で父を見つめ返し、「少なくともメルとリディは守りきってみせます」と宣言し、

「彼女たちには黙ってやることですから、私の命に換えても守り切ってみせます」

父は「話さないのか?」と驚愕する。

「ええ、話せばデートになりませんから。彼女たちが楽しそうにしてくれないと罠になりません」

父は言葉を失い、それ以上追及してこなかった。代わりに辺境伯が俺の策に反対する。

「卿は儂の部下ではないのだ。更に言えば、既に卿には命を救われている。これ以上、卿が危険に身を晒す必要はない」

俺は 頭(かぶり) を振り、

「これは自分のためでもあるのです。いたずらに時間を掛ければ、どこで狙われるか判りません。今なら、ガネルも十分な準備を行うことが出来ないでしょう。今が絶好の機会なのです」

辺境伯は俺の策に乗ろうか悩んでいるようだ。だが、俺を危険に曝すことに躊躇いを見せる。

「だが……」

「もちろん、私も無用な危険を冒すつもりはありません。ですが、私が囮になるのが最も合理的なのです……」

彼は悩みながらも俺の策に乗ることにしたようだ。

「……儂は卿に返せぬほどの借りを作ることになるな……」

「でしたら、後でリディアーヌたちにばれた時に、閣下に対応をお願いしたいと思います。私にとってはガネル以上に恐ろしい相手ですから」

俺がおどけてそう言うと、辺境伯も笑みを浮かべて頷く。

横で見ていたブレイスフォード団長が真剣な表情で話しかけてきた。

「卿のことを誤解していたようだ。グレンフェル――反乱を起こさせられた第四大隊長――のことでは卿に不快な思いをさせた。済まぬ」

「気にしないでください。私がグレンフェル隊長に酷いことを言ったのは事実ですから。それにあの時は本心で言った部分もあります。ですから、謝罪など不要です」

ブレイスフォード団長はそれ以上何も言わなかった。

そして、翌日からガネル捕縛作戦が開始されることが決まった。