軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十二話「責任の取り方」

ラズウェル辺境伯からの蒸留酒を贈るという話を鍛冶師ギルドのデーゲンハルト支部長に断られた。

その後、デーゲンハルトと門を壊した時の話などをし、俺たちは鍛冶師ギルドを後にした。

帰る途中、同行していたベアトリスが声をかけてきた。

「どうするつもりだい?」

ドワーフたちへの褒美の件で、辺境伯からの依頼がうまくいかなかったことを心配してくれているようだ。

「ああ、とりあえず何か考えないとな。今日の話で大体分かったよ。ドワーフたちが何を考えているのか」

俺はドワーフの鍛冶師という存在が何を考えているのか、理解しつつあった。

彼らはまさに職人。それも自分たちの仕事に命を掛けてもいいと思うほどの。そして、彼らは国家や権力といったしがらみから、完全に自由だ。

だとすれば、彼らが何を望むか、想像すればいい。

(肩肘張らずに酒を酌み交わす。それが最も良い方法だろう。だとすれば無礼講の宴会が一番いい。後はどこで、そして、どんな趣向で彼らを満足させるかだ……)

ウェルバーン城に戻り、父たちに鍛冶師ギルドへの褒賞の件で交渉に失敗したことを報告する。

父はドワーフたちが蒸留酒を断るとは思っていなかったようで、驚きを隠せないでいた。更にロックハート家のために城門を破壊したと聞き、父はどうしてもその恩を返したいと考えているようだ。

「我らロックハート家のために骨を折ってくれたのだ。何としてもその恩に報いねば……ザック、良い知恵はないのか?」

俺は小さく頷き、「一応、考えてあります」と言った後、

「総督閣下にお願いしないといけないことがあります。もちろん、父上、そして兄上にも一肌脱いで頂かないと」

俺の言葉に父だけでなく、自分の名が出てきたことに兄ロドリックは驚き、聞き返してきた。

「私もか? いや、もちろん私も恩を返したいが、ドワーフの鍛冶師たちに私が何かできるとは思えないんだが?」

父も同じようなことを考えているようで、首を傾げている。

俺の考えたことはとても単純だ。

ロックハート家が主催する 食事会(パーティ) にドワーフたちを招待するだけだ。もちろん、パーティというと堅苦しいので無礼講の宴会とするつもりなのだが、重要なのはロックハート家が全員参加することと、兄の婚約者ロザリンド嬢が出席することだ。

俺は父たちに概略を説明した後、オールダム男爵の執務室に向かった。

そして、俺の考える宴会を行うことができるか相談した。

「……なるほど。お館様にも相談してみましょう。場所については良い場所がございます……その前にザカライアス卿にお願いがございます」

俺が首を傾げると、男爵は宴会の話の時とは雰囲気をがらりと変え、真剣な表情になる。

「実はグレンフェル大隊長が責任を取るといって聞かぬのです。自ら命を絶つと……」

騎士団長らの協議の結果、第一騎士団第四大隊の“親衛隊化”が決定され、その話が第四大隊のジャスタス・グレンフェル隊長に伝わった。

しかし、辺境伯の懸念した通り、グレンフェルは今回の失態は自らの死をもって償うべきだと主張し、親衛隊の隊長に就任することを受け入れないという。

彼の直属の上司である第一騎士団のマンフレッド・ブレイスフォード団長は彼に同情的であり、自害を認めてはどうかと辺境伯に具申してきたそうだ。

辺境伯は対応に苦慮し、男爵に相談した。

俺は男爵と共に辺境伯の部屋に向かった。執務室には辺境伯とブレイスフォード騎士団長が待っていた。

辺境伯はやや困惑した表情だった。

「やはりグレンフェルは納得せぬ。死にたいという者を無理やり生かすわけにもいかぬだろう……何とかできぬか」

騎士として潔く命を絶ちたいというグレンフェルに対し、辺境伯も強く言えないようだ。

辺境伯は発案者である俺にグレンフェルを説得して貰えないかと依頼してきた。

正直なところ、こうなることは予想していたので対応策は考えてある。もちろん、そこまでやる義理はないのだが、今回は別の思惑もあり、辺境伯の依頼を受けることにした。

「グレンフェル隊長を説得することは可能かと思います」

俺の言葉に辺境伯は「そうか!」と喜色を表す。

「ただし、条件がございます」

「条件?」

「すべて私に任せて頂き、この件に関する一切の責は私に帰するということが条件です。兄ロドリックはもちろん、ロックハート家とは関わりのないこととして頂きたいのです」

辺境伯は怪訝そうな顔で「卿は何をするつもりだ?」と聞いてくるが、「詳細はお教えできません」と言って回答を拒否した。

辺境伯はしばらく考えた後、「よかろう。卿に一任する」と言って認めてくれた。

俺はブレイスフォード団長と共にグレンフェルのもとに向かった。両腕を拘束され、憔悴しきった三十代半ばの偉丈夫が椅子に座っていた。

騎士団長が「ザカライアス卿だ」と俺を紹介すると、グレンフェルは一瞬表情を曇らせてから、頭を下げる。

「 我ら(・・) より総督閣下をお守り頂いたこと、感謝に堪えませぬ。今後とも閣下のために……」

戦場では野太い声で命令を下していたであろうグレンフェルだが、今は消え入るような声で俺に話し掛けてくる。

俺は何となく彼の考えが想像できていた。

(俺を恨むというのは筋違いだと分かっているが、多くの部下を俺に殺されている。総督を守ってくれたことには感謝しているのだろうが、それを素直に言葉にし辛いんだろうな……結構憔悴しているようだが、自らの油断で招いたことだ。死をもって償いたいという気持ちは分からないでもない。だが、今回はそれじゃ駄目なんだ……)

俺は可能な限り感情を表さないようにし、グレンフェルに向かって話し始めた。

「マサイアス・ロックハートの次男、ザカライアスです。既に聞き及びでしょうが、今回の第四大隊の処遇について、総督閣下に献策したのは私です……」

グレンフェルは目を伏せたまま何も答えない。

「……総督閣下よりお聞きしましたが、グレンフェル様は死をもって償いたいと願っておられると」

彼は懇願するような目で俺を見つめながら、大きく頷く。

「勘違いをされておられるようですので、ご説明させて頂きます。まず、今回の策は閣下の恩情から出たものではありません」

「恩情ではない? ああ、それは聞いておる。総督閣下の窮地をお救いする策と聞いた」

俺は 頭(かぶり) を振り、彼の目を射抜く感じで見つめる。

「それもあります。ですが、貴方にとって、これは 罰(・) なのです」

彼は大きく目を見開き、「罰だと」と言って、驚きの表情を見せ、

「総督閣下直属と言えば出世ではないか。閣下のお情けで新たな役職を……」

俺は彼の言葉を「違います!」と強い口調で遮る。そして、口調をがらりと変え、断固とした調子で彼を糾弾する。

「どうもグレンフェル様はご自分を重要人物だと勘違いされているようだ。貴方は 自ら(・・) の油断で主君である辺境伯閣下のお命を危うくした! それだけではない! 何の咎もない騎士、兵士たちの命を無為に散らせたのです! これだけのことをしておきながら、貴方 一人の命(・・・・) で償えるとお思いか!」

俺の言葉にグレンフェルは愕然となる。事実としてそう見えることは彼自身理解しているからだが、俺としては本心からそう思っているわけではない。

「貴方がすべきは、閣下と亡くなった騎士たちに対して死をもって償うことではなく、生きて償うべきなのです……」

そこで言葉を一旦切った。

「何も貴方のために言っているのではないのです。貴方が死を選べば、閣下のお立場が悪くなる。ゲートスケル准男爵と同じように自害を命じたと世間に思われれば、それだけでこの策は意味を成さなくなるのです」

グレンフェルは下を向いたまま、肩を震わせている。それでも俺は自分の考えをしゃべり続けた。

「……それだけではないのです。ここで対応を誤れば、帝都はこれを機に北部総督府軍に出兵を命じるでしょう。そうなれば、更に多くの騎士、兵士たちが命を落とすでしょう。それを未然に防ぐためには貴方に生きていてもらわねばならないのです」

俺の言い方に騎士団長が露骨に嫌な顔をする。

「その言い方はなかろう。グレンフェルも罠に嵌められた被害者なのだ。卿の言いようは礼を失している」

俺は騎士団長を睨みつけ、低い声音で問い返す。

「では、グレンフェル様が自害した後のことは既に考慮済みだと」

騎士団長もグレンフェルも俺の問いに答えを窮してしまう。俺は更に畳み掛けるように言葉を続けていく。

「はっきり言わせて頂く! グレンフェル大隊長が自害することは責任の放棄! 自己満足に過ぎないと!」

その瞬間、騎士団長から殺気が立ち上る。俺はそれをあえて無視し、更に糾弾していく。

「生きて償うのは長く苦しい。恐らく後ろ指をさされることでしょう。それが嫌だというなら、勝手に自害なされたらよろしい! だが、その後始末は誰がするのか! それをよくお考えになることだ!」

騎士団長から本気の殺気が放たれる。彼は身長こそ俺と同じくらいだが、鍛え上げられた分厚い体の偉丈夫で、その体全体から溢れる威圧感は物理的な圧力すら感じさせる。

(単純な剣術の腕なら、俺と大差ないんだろうが、三十年近い戦場での経験って奴が半端ないな。じい様の訓練を受けていなければ、視線を合わすことすらできなかっただろうな……)

俺は背筋に冷たい汗が流れるのを感じながらも、団長を睨み返した。

その緊迫した空気を変えたのはグレンフェルだった。

「……ザカライアス卿のお考え、よく分かりました。我が命、我が名誉は閣下に捧げております。この先、恥辱に塗れるとも、閣下の御為であれば……」

彼は吹っ切れたのか、苦悩に満ちた表情から晴れ晴れとしたといえるほど明るい表情になっていた。

「……言い辛いことを口にさせてしまいましたな。申し訳ない」

未だに騎士団長は怒気を鎮めていないが、グレンフェルの表情を見て毒気を抜かれたようだ。

俺は目礼だけして、その場を立ち去った。

今回、あえて相手を追い込むような言い方をした。こうでも言わなければ、騎士として死を選ぶことをやめないと思ったからだ。だが、本心が含まれていないかと言うとそうでもない。

自らの死によって責任を取るというのは一見潔いように見えるが、俺に言わせれば責任の放棄に過ぎない。死によって責任を取るというなら、皇帝の前でその旨を言上し、すべて自分が責任を取るということを認めさせてからでなければ意味がない。恐らく、そう指摘したとしても死だけを望むグレンフェルには届かないと思ったのだ。

更に騎士団長の同情を向けさせることも目的の一つだった。騎士団長が俺に対して怒りを覚えれば、その分、グレンフェルに対する怒りは収まる。俺はこの先、ウェルバーンを去るが、グレンフェルは騎士団から白い目で見られ続けるだろう。

主君に剣を向け、多くの部下を失ったのに、寛大な総督のおかげで命を永らえたばかりでなく、騎士団長に匹敵する重要な地位を得たと。

その時、北部総督府軍の実質的なトップ、第一騎士団長が彼の後ろ盾になれば、少しは立場が良くなるはずだ。

そして、もう一つ目的があった。

辺境伯が俺を取り込もうとしていると感じていた。彼は嫡孫フランシスの後見に俺を据えようと考え、何度も俺の意見を取り上げる姿勢を見せていたからだ。更に今回の謀反では、俺が辺境伯の命を救ったと多くの者たちが思っている。

俺にその気がなくとも、このままではずるずると取り込まれるかもしれない。そう考えた俺は、騎士団との関係を悪化させることを選んだ。

性質(たち) の悪い騎士たちなら、心証を悪くすれば命の危険があるが、北部総督府軍の騎士たちには、総督の命令を無視して暴挙に出るような者はいない。そう見切ったからこそ、ブレイスフォード団長の前でグレンフェルを糾弾したのだ。

結果として、騎士団長は俺のことを嫌ったはずだ。元々、俺は多くの部下を殺しているから、グレンフェルと同じように俺に対して複雑な思いを持っていたはずだ。それを少しだけ負の方向に押してやれば、俺を好意的に捉える理由はない。

騎士団との軋轢があると分かれば、辺境伯も俺を取り込もうとしないだろう。騎士たちの支持と俺の能力を天秤にかければ、必ず騎士たちに傾くからだ。

今回、辺境伯にロックハート家に関わりなく、俺個人の責任としたのは騎士団長の怒りが俺に向いたとしても実家や兄に迷惑を掛けないためだった。

その夜、辺境伯から苦笑交じりに苦情を言われた。

「マンフレッド――ブレイスフォード第一騎士団長――が、儂に抗議してきたぞ。あの忠義者が自ら怒鳴りこんできたのだ」

「それは御迷惑をお掛けいたしました」と芝居掛かった仕草で大きく頭を下げる。

「やはり卿は侮れぬな。これで卿をフランシスの後見に据えることができぬようになったわ……最初から狙っておったのであろう?」

俺は曖昧に笑みを浮かべるだけで何も答えなかった。

辺境伯は「まあよい」と笑う。

「グレンフェルは卿の考えが分かったようだ。それだけでも礼を言わねばな」

辺境伯から、“親衛隊”の名が正式に決まったと伝えられる。

「“ウェルバーン衛士隊”だ。これならば街の名がついた部隊に見えるからな。“親衛隊”では簒奪を狙っておると言われかねん」

帝都の皇帝を意識し、近衛兵と同義と取られかねない親衛隊という名称を嫌ったようだ。

俺は雑事を忘れ、ロックハート家主催の 大(・) 宴会の準備に没頭することにした。