軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九話「ラズウェル辺境伯」

トリア暦三〇一七年七月十日午後三時頃。

兄ロドリックの先導のもと、俺たちは無事ラズウェル辺境伯の居城に到着した。

本館となる主城の入口には、 斧槍(ハルバード) を手にした二人の衛兵が立ち、車寄せで馬車を止めると、誰何してきた。

この手のやりとりに慣れているのか、すぐに兄がその誰何に答えていた。

「マサイアス・ロックハート卿が北部総督閣下にご挨拶に参られた。取り次ぎを願いたい!」

兵士たちも父が訪問することは知っており、形式的な誰何だったようで、すぐに伝令が中に走っていく。

数分後、城の中から執事か家宰と 思(おぼ) しき人物が現れた。その人物は燕尾服のような黒い服を身に纏った男性で、短めの白髪はオールバックのようにきちんと撫で付けられている。白髪ながらも老人という感じはなく、年齢的には五十代に差し掛かったくらいのようだ。

「お待ちしておりましたぞ。ロックハート卿」

その男は右手を差し出しながら、父に歓迎の言葉を掛ける。父も旧知の仲なのか、「オールダム様も息災のようで何よりです」と笑顔で挨拶を返していた。

その男性はフェルディナンド・オールダムといい、ラズウェル家を取り仕切る家宰であるとともにオールダム男爵家の当主でもあった。

家宰と言っても政治機構が整備されていないこの世界では、文官として政治に大きな影響力を持っている。小国に匹敵する軍事力と経済力を持つラズウェル辺境伯家では、当主ヒューバート・ラズウェルに次いで重要な人物といえるだろう。

その小国の宰相にも匹敵する重要人物なのだが、オールダムの物腰は非常に柔らかで、優秀な執事にしか見えなかった。

父が俺のことを紹介すると、オールダムは目を細め、柔らかい笑みを浮かべ、

「やはりお若いですな。お館様のお話を聞く限りでは、もっと冷徹な雰囲気の方かと思いましたが……いや、これは失礼」

オールダムの言う「お館様」とは辺境伯のことであり、俺の名が辺境伯から出ていることに思わず、「閣下が私の話を?」と聞き返してしまった。

俺の不躾な言葉にも「はい。一年ほど前より、よく話題に上がります」と丁寧な言葉で返してくる。

俺はその言葉遣いに違和感を覚えていた。

俺は騎士の家の次男であり、オールダムは男爵家の当主である。普通なら俺が片膝をつき、閣下の尊称を持って話しかけるべき相手だ。それが父マサイアスに対するより、丁寧な言葉遣いをしてくる。

(どんな思惑があるのかは分からないが、相手は男爵だ。突っ込むわけにもいかないしな……)

兄は盗賊の頭目マドックの処置について、「この者の身柄を確保しておいてくれ。総督閣下の正式な命令がなければ、誰が来ようとも引き渡してはならない」と部下の騎士に命じていた。

俺たちは馬を使用人たちに預けると、そのままオールダムに続き、城の中に入っていく。

ガイたちロックハート家の従士と兄の部下たちは別の控え室に向かうため、そこで別れることになる。

ここで小さな問題が生じた。

リディとベアトリスの立場だが、公式にはロックハート家の護衛だ。だが、父が俺の婚約者としてオールダムに紹介していたため、僅かな行き違いが生じる。

リディ、ベアトリス、メル、シャロン、ダンも従士用の控え室に向かおうとしたのだが、オールダムがそれを止め、「リディアーヌ嬢とベアトリス嬢はザカライアス卿のご婚約者ゆえ、こちらへ」と、俺たちロックハート家とともに辺境伯との謁見に向かうよう促してきたのだ。

リディとベアトリスは遠慮すると伝えるが、オールダムは柔和ながらも有無を言わせぬ口調で「ロックハート卿の縁者をお連れせよとのお館様の命ですので」と譲らない。

結局、父が二人に同行するように言い、リディは「謁見なんて聞いていないわよ」とぶつぶつと小声で呟き、ベアトリスは「あたしが帝国の総督に謁見……」と半ば放心していた。

(あとで盛大に文句を言われそうだな。それにしてもどういう意図なんだろうな?)

そんなことを考えながら、廊下を歩いていく。

さすがに帝国の重臣が住む城だけのことはあり、廊下は大理石のような白亜の石材で作られ、朱色の絨毯が敷かれている。壁沿いには様々な彫刻や絵画が飾られ、まさに「王宮」という感じだ。

オールダムに続き、五分ほど城の中を歩き、豪華な扉の前に到着した。そこにも槍を持った全身鎧の兵士が立ち、俺たちに「申し訳ございませんが、武器の類は持ち込めませぬ」と言って、武器を外すよう言ってきた。

武器を渡すと、オールダムが「それでは奥方とお子様方はこちらへ」と言って、母とセオたちを控えの間らしき部屋に案内する。オールダムが戻ってくると、彼は兵士に扉を開けるよう命じた。

扉の奥は辺境伯の執務室らしく、重厚な作りの机や書棚があった。そして、オールダムに続いて中に入っていくと、辺境伯らしい壮年の男性と二名の護衛らしき武官、そして、薄いピンク色のドレスを身に纏った十代半ばの少女が俺たちを待っていた。

父が片膝をつき、俺たちもそれに倣い、頭を垂れる。

「よい。此度は親族のみの顔合わせだ」

辺境伯が張りのある声でそう言うと、父は静かに頭を上げる。父が何か言おうとしたところで、辺境伯が先に謝罪の言葉を掛けてきた。

「ロークリフ郊外での襲撃……済まぬ。あれは儂とロザリーが原因であろう……」

父は「閣下とお嬢様の……」と疑問の声を上げようとした。辺境伯はそれを頷くことで制し、再び話を続けていく。

「そなたらを害しようとする者はコンスタンスしかおらぬ。儂が不用意なことを口にしたせいで……」

コンスタンス・タイスバーン子爵はラズウェル辺境伯の実弟だ。

彼の横にいたロザリーことロザリンド・ラズウェルが涙声で謝罪する。

「いえ、 私(わたくし) が……私があのようなことを言わなければ、ロックハート卿のお命は狙われることはなかったのです。本当に……本当に申し訳ございません……」

最後は消え入るような声で謝罪の言葉を発し、更に大きく頭を下げる。よく見ると目が赤く充血しており、かなり前から泣いていたようだ。

辺境伯は愛娘の肩を抱き、

「儂から説明しよう。事は一年ほど前、そう、ザカライアス卿の名が世に出始めた時のことだ……」

突然自分の名が出てきたことに、俺は驚愕する。

(なぜここで俺の名が出てくる? 一年前と言えば……各国が俺に仕官の条件を提示してきた頃か……)

「……儂はザカライアス卿を我が孫、フランシスの後見、そして我が盟友として迎えようと考えていたのだ。そのことを周りの者にも話していた……我がラズウェル家に仕えてくれるのなら、領地の半分を与えても良いとな……」

ラズウェル辺境伯領の半分と言えば、帝国の伯爵家以上の領地になる。他の大国、カウム王国やラクス王国なら公爵家の領地に匹敵するほどだ。

俺は動揺を隠すことができなかった。

(聞いていないぞ、そんな話! 確かに辺境伯から声は掛かった。騎士として取立て、ゆくゆくは爵位を授けられるよう皇帝に働きかけるという話だったはずだ……)

俺の心の声が聞こえたかのように辺境伯がその疑問に答えてくれた。

「我が領地とはいえ、皇帝陛下の裁可なく領地を与えることなどできぬ。まして、実績のない十四、五の少年にいきなり分け与えることなどな。だが、ザカライアス卿にはそれだけの価値がある。いや、それ以上の価値があると儂は思っている。もちろん、今でも……」

俺は過大評価だと声を上げそうになったが、発言を求められたわけでもないため、無理やり沈黙を守る。その間にも辺境伯の独白が続いていく。

「……このことがコンスタンスに漏れ伝わった……だが、その時は卿に断られた後でな、コンスタンスにそのような事実はないと言ってやったのだ。奴も儂が冗談を言ったのだと安堵したようだった……」

そこでロザリンドが話し始める。

「 私(わたくし) は勘違いしていたのです。ロドリックが領地に戻った後に、ザカライアス卿がフランシスの後見となっていただけるものと……そのことを叔父上にうっかり話してしまったのです……」

話はこういうことのようだ。

辺境伯は俺のことを高く評価している。そして、そのことがコンスタンス・タイスバーン子爵に伝わった。

そこまでなら問題はなかったのだが、ロザリンドは俺が兄ロドリックと代わってウェルバーンに入り、辺境伯の臣下になると勘違いした。

そしてそのことをタイスバーンに話してしまった。それに対し、タイスバーンが過剰に反応し、俺たちを排除しようとしたのではないかという説明だった。

俺がラズウェル家に仕えると彼女が考えた理由は、いくつかの勘違いが重なったことが原因だった。

まず、辺境伯は愛娘がラズウェル家の後継者争いに巻き込まれないようにするため、ロザリンドにラスモア村に行くよう命じた。

彼女は父である辺境伯と甥のフランシスのことを心配し、結婚後もウェルバーンに残ると主張した。その際、辺境伯は必要な手を打っているから問題ないと彼女を説得したそうだ。

そこでロザリンドに一つ目の勘違いが生じた。

必要な手というのは、俺ことザカライアス・ロックハートが辺境伯の臣下になり、タイスバーン子爵からフランシスを守ってくれることだと勘違いしたのだ。

辺境伯は彼女に俺がフランシスの後見となれば問題はなくなるとよく言っていたようで、それが叶ったと思ったようだ。

僅か十四、五の少年である俺に、それほどの期待を寄せるというのはおかしな話に思えるが、辺境伯の高い評価と兄ロドリックから聞かされた俺の話、更に魔術師ギルドを通じ、各国に通達を送ったという事実などから、彼女は俺が政治家として優秀だと勘違いしていた。

辺境伯も俺のことについて、“金でも権力でも動かぬ鍛冶師ギルドを動かせる唯一の人物”、“切れ者として名高い魔術師ギルドの評議会議長ピアーズ・ワーグマンを個人的に動かし得る数少ない人物”と称していたそうだ。

表面的に見れば確かにその通りで、それを政治家として実績のある辺境伯が語れば、娘であり、父親を尊敬しているロザリンドが信じてもおかしくはない。

二つ目の勘違いだが、今回の彼女たちの結婚式を機に俺がここに定住すると思った点だ。理由は俺がリディたち、つまり婚約者 たち(・・) を引き連れて来たことだった。そのため、このままウェルバーンに定住すると勘違いしたようだ。

これにはまたしても辺境伯が関与していた。

辺境伯は俺の情報をかなり詳細に入手していたようで、リディやベアトリスだけでなく、メル、シャロン、ダンの情報も掴んでいたようだ。

つまり、例の「 全方位のハーレム王子(オールレンジプリンス) 」なる二つ名も知っていた。

そして、父マサイアスからの手紙に俺の婚約者 たち(・・) も同行すると記されていた。

辺境伯はロザリンドに「義理の妹が更に四人も増えるようだぞ」と笑いながら言ったそうだ。

さすがにダンのことを指し、「義理の弟が一人増える」とは言わなかったようだが、リディ、ベアトリス、メル、シャロンの四人が俺の婚約者であると信じて疑わず、ロザリンドも婚約者 全員(・・) を引き連れてくるのは定住するためと思ったそうだ。

そして、ロザリンドが俺たちの同行を知ったのは六月の半ば頃。そして、半月ほど前、つまり六月の終わり頃、城の中でタイスバーン子爵と偶然すれ違った。

その際、タイスバーンからこう言って嘲笑されたそうだ。

「辺鄙なところにいくそうだな。兄上とフランシスのことは私に任せておけ。まあ、貴婦人としては問題のあるお前だが、田舎ならば何の問題もなかろう。ははは!」

彼女はその嘲笑に思わず「父上のことは何も問題ありませんわ」と口にしてしまったそうだ。

タイスバーンの後ろに控えていたゲートスケル准男爵がその会話に加わった。

「閣下が何か手を打たれたのですかな? それは興味深い」

その言葉にタイスバーンが「打てる手などないわ。ロザリーが口から出まかせを言っておるのだろうよ」と更に嘲笑した。

そこで頭に血が上ってしまい、「天下の英才が父上の補佐をするのです! 若き天才がフランシスの後見になれば、ラズウェル家は安泰ですわ!」と言ってしまった。

その時、タイスバーンは平静を装っていたそうだが、その直後、辺境伯に誰がウェルバーンに来るか確認し、俺がいることに気付いたというのだ。

そして、もう一つの勘違いの原因は、辺境伯が言った“手を打つ”という言葉だった。

話は少し変わるが、辺境伯はタイスバーン子爵領の急速な発展が何らかの不正によりなされたものではないかと疑っていた。そして、子爵領に密偵を放ち、調査させていたというのだ。

辺境伯が言った“手を打つ”というのは、タイスバーン子爵領での不正を暴き、子爵らの動きを 掣肘(せいちゅう) するというものだった。

子爵領の発展自体は歓迎するべきことだが、その発展の原資が問題だった。

タイスバーンは浪費癖のある典型的な貴族で、子爵という地位以上に金を使っていた。そのため、子爵領は常にウェルバーンやアウレラの商人たちから借金をしており、税も他の土地に比べてかなり高かった。

タイスバーンが優秀な腹心、デズモンド・ゲートスケル准男爵を用いて、改革を行ったとしても、 抜本的(ドラスティック) な改革を行うにはそれなりの原資が必要だ。

そして、改革には失敗が伴うことが多い。この失敗により借金の回収が不能になることを商人たちは心配するはずだ。つまり、その商人たちを納得させるだけの改革プランが必要になる。だが、それらしい改革プランは全く見えてこなかった。

農業以外、目ぼしい産業のないタイスバーン子爵領で、これといった目玉政策もなく、急速に経済が伸びたことに辺境伯は疑いを持った。

だが、半月ほど前、最悪のタイミングでその密偵と連絡が取れなくなった。

辺境伯は「ここからは儂の推測だが」と断った上で、

「確かにゲートスケルは優秀な男だが、無い袖は振れぬ。つまりコンスタンスめは何らかの不正な手段で資金を得ておるはずだ。儂の放った密偵を捕らえた直後に、ザカライアス卿が儂の臣下となるためにやってくる。あの切れ者のワーグマン議長が手放しの評価をするほどの英才が、自分を探りに来ると考えれば、短絡的なコンスタンスなら、マサイアス殿を含め、全員を亡き者にしようとしてもおかしくは無い……」

つまり、タイスバーンは自らの不正の発覚と、その後の失脚を未然に防ぐため、ロックハート家を抹殺しようとしたのではないかというのが辺境伯の考えだった。

俺には素直に首肯できないことがあった。

あの時の襲撃では母たちを拉致しようとしている。これについては、実行犯であるマドックの証言が取れているから紛れもない事実だ。

もし、俺がタイスバーン子爵で、俺個人の抹殺が目的なら、あのような中途半端な襲撃は行わない。俺個人の殺害と母たちの誘拐の二兎を追わず、全員の抹殺を目的として自らの安全を確保するだろう。

俺がそんなことを考えていると、辺境伯が「ザカライアス卿は違う考えのようだな。卿の意見を聞かせてくれぬか」と言って意見を求めてきた。

俺は父に目配せして了承を得ると、辺境伯を正面に見据えて話し始めた。

「不審な点がいくつかございます。最も気になる点ですが……」

俺は襲撃の際に母たちを拉致しようとしたこと、自分より父の方が狙われていたこと、魔術師である俺たちの情報をあまり掴んでいなかったことなどを話していく。

「……つまり、今回の襲撃騒動では私より父や母を狙ったと思われるのです」

辺境伯は目を瞑って頷くと、「卿の考えは」と尋ねてきた。

「襲撃者が誰かは分かりませんが、狙いは父の暗殺と母の拉致、そして、その後に母の身柄を使い、兄に対して何らかの謀略を仕掛けてくると言ったところではないかと」

辺境伯は沈黙したまま、しばらく口を開かない。

「……ならば、コンスタンスが犯人ではないと、卿はそう思うのだな」

「いえ、情報が少なすぎ判断できないということです。しかしながら、タイスバーン子爵閣下を含め、北部総督府に影響を与えられる地位の方が関与していると考えられます」

辺境伯は小さく頷き、「まだ、考えておることがあるようだな」と更に発言を促す。

俺は一礼し、再び自分の考えを話し始めた。

「もし、タイスバーン閣下が今回の黒幕だとすると、知恵者として名高いゲートスケル卿の考えが分かりません。ゲートスケル卿が総督閣下に疑われるような下策を採るとは思えないのです」

辺境伯は「うむ」と言って頷く。

「ゲートスケルは確かに有能ではある……奴ならば儂に疑われる危険を冒すような真似はせぬ……いや、既に疑われておるから、この機に何か手を打とうと考えたのかも知れぬが……」

辺境伯自身、ゲートスケルの評価が定まっていないのか、どう考えて良いのか分からないようだ。

「第三の存在がおる可能性もあると言うことか。なるほど……確かに現段階でコンスタンスを犯人と決め付けるのは早計だな。ではザカライアス卿。卿ならどのような手を打つ?」

辺境伯には思うところがあるのか、自ら納得すると、俺に打開策を尋ねてきた。先ほどに比べ、その表情は柔らかくなり楽しげにも見える。

(俺は辺境伯の部下でも何でもないんだが……それにしても本当に俺のことを買ってくれているのだな。騎士の家の次男坊に対して、“卿”という敬称を外さない。口調にも軽んじているところはないが、このまま、取り込まれるのも厄介だな……)

そんなことを考えていたが、即座に自分の意見を伝える。

「重要なことは“敵”を特定すること、“敵”に主導権を握らせないことです。特定に関しては盗賊の頭目マドックを押さえておけば、自ずと姿を見せるでしょう。主導権を握らせないことに関しましては、北部総督府に関する知識がございませんので策というほどのものはございません」

俺は北部総督府の能力や人間関係が分からないことから、具体的な提案は行わなかった。

「歳に合わず、卿は慎重だな。まあよい。では、“敵”とやらを炙り出すとするか。フェルディナンド、卿にマドックとやらの身柄を預ける。もちろん、ボイエットのこともな」

辺境伯は兄からの情報を受け、直ちにロークリフの代官、ボイエットの召還を命じていた。使者は今朝早くに出発していることから、今日中にはロークリフに到着し、ボイエットの身柄を拘束する予定となっている。

その頃には嗚咽を漏らしていたロザリンドも少しだけ落ち着きを取り戻していた。俺と辺境伯の会話から自分の不用意な発言だけが発端ではないと理解したようだ。

その後、母や弟セオフィラス、妹セラフィーヌ、ソフィアも呼ばれ、自己紹介などを行った後、辺境伯とロックハート家の間で和やかな会話が始まった。

辺境伯は気さくな人物らしく、緊張気味のセオたちに「ゴーヴァン殿の修行はどうかな」などと優しく声をかけていく。

セオが背筋を伸ばし、「おじい様の訓練は厳しいですが、立派な騎士になるために頑張っています!」と言うと、その微笑ましさに場の雰囲気は更に柔らかくなっていった。

辺境伯はリディやベアトリスにも声をかけ、俺との馴れ初めなどの話題を振る。人見知りの激しいリディはともかく、ベアトリスの緊張は解けているようだ。

三十分ほど談笑し、そろそろ退室の頃合だと思い始めたところで、執務室の扉の外が騒がしくなる。

衛兵の「お止めください。閣下は来客と会談中でございます」という声と、「私に逆らうのか!」という怒声が重厚な扉の向こうから漏れ聞こえてくる。

辺境伯とオールダム男爵は“またか”という顔をしていた。