軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十話「遺跡調査」

トリア暦三〇一六年十月十五日。

この時期は気候も良く、サエウム山脈に魔物を狩りに出掛けることが多くなる。

五と〇の付く日が学院の休みであるため、休みを含めた三泊四日で狩りに行くことが多い。

本来なら学院での授業があるから、日帰りの方がよいのだが、近くの森ではレベル的に物足りず、俺たちにあった魔物を狩るためには、どうしても山に入る必要があった。

そうなると、少なくとも山道を五十kmほど進む必要があり、日帰りや一泊二日では移動時間の割合が高過ぎてさすがに効率が悪い。そこで天候の安定している時を狙って、長期で狩りに行くようにしているのだ。

だが、今回は少し趣が違う。魔物狩りではなく、指名依頼としてサエウム山脈のある場所に向かっていた。

今回の依頼者は、リディの旧友、キトリー・エルバイン教授だ。彼女は情報屋のサイ・ファーマンから有史以前の遺跡に関する情報を入手したそうで、俺たち、ザックセクステットに指名依頼を出してきた。

遺跡の場所は、アルス街道を西に五十kmほど行ったところにあるホリウェルという小さな宿場町から、更に北に五kmほど入ったハロックウッドという村近くだそうだ。

サイの情報ではハロックウッド村近くに金属製のゴーレムが現れたという噂があったそうで、それを聞いたキトリーさんが、遺跡があるのではないかと考え、俺たちを護衛兼案内役として雇うことにしたのだ。

宿場町のホリウェルは人口千人ほどの小さな街で、石壁を備えた帝国時代の補給基地跡らしく、城塞ほどではないが十分に強固な造りの街だ。俺たちはそのホリウェルで一泊した後、サエウム山脈側に向かう脇道に入る予定としている。

余談だが、この脇道は以前、サエウム山脈を抜ける街道だったそうだ。だが、十数年前のカエルム帝国の侵攻作戦により、街道の先にあったラクス王国側の開拓村が全滅し、更にはカエルムもその占領地を放棄したため、今では行き来する者もなく、完全に廃れている。

ハロックウッド村は危険なサエウム山脈の中にある小さな村だ。だが、地図を見る限り、村の西には深い谷、北側は切り立った崖があり、南側から北東に抜ける街道も山から流れる川沿いにある桟道のようなもので、まさに天然の要害と言うべき場所だ。以前には帝国の前線基地として利用されたようで、南側には駐屯地として利用できる緩やかな草原が広がり、森との境界に高い柵で守られているそうだ。

そのハロックウッドの西側、谷の対岸側に銀色に輝くゴーレムが現れたのだ。

今回、俺たちに指名が来たのは、俺たちのパーティが他のパーティより身軽なものが多いからだ。普通のパーティなら重装備の前衛がいるが、うちのパーティは前衛であるベアトリス、そしてメルも共にスピードタイプであり、重い金属鎧や盾は使っていない。

キトリーさんは険しい山道や崖の踏破を考えて、俺たちを指名したそうだ。もちろん、高い戦闘力や昔馴染みということも指名の理由ではある。

今回の依頼は往復の移動を含め五日間の予定で、一日当たり一人百 C(クローナ) 、つまり日当十万円という破格の報酬だった。更には遺跡で発見された物によっては、ボーナスも出る。これも学院改革の効果で、キトリーさんのような優秀な研究者が使える経費が大幅に増えているそうだ。

調査時間を稼ぐため、ドクトゥスから五十kmを一気に駆け抜けてホリウェルに入り、二日目の早朝にハロックウッドに向かった。

アルス街道の西側は危険が多いが、商隊と行動をともにしない俺たちは特に何事もなかった。ホリウェルからハロックウッドまでは深い森の中の細い道だが、一度だけ 巨大クモ(ジャイアントスパイダー) に遭遇しただけで、戦闘らしい戦闘もせずに午前八時に村に入る。

「さて、目撃者から情報を聞きに行くわよ」

キトリーさんは学院にいる時のようなスカートとチュニックという姿ではなく、革の鎧を身に着け、ショートソードを腰に吊るしている。図書館か研究室で本に埋もれているというイメージが強いが、意外なことに昔はよく遺跡探しに森に入っていたそうで、レベル六十の高レベル魔術師でもあった。

村で目撃者を捜すと、すぐに情報が集まった。

一ヶ月前、日の光を受けてキラキラ光る銀色のゴーレムらしき物体が西の谷の対岸を歩いていたこと。それから数回、南から北に向かって歩く姿が見られたこと。特にこちらの村に興味を示すような動きはなかったことなどの情報が集まる。

更にこの村は百年以上前からあるそうだが、村の長老も銀色のゴーレムのことは知らなかった。

キトリーさんは村の西側に古代遺跡があり、そこの 守護者(ガーディアン) であるゴーレムが何らかの事情で遺跡の外を徘徊するようになったのではないかという仮説を立てていた。

村の西側の谷は深さ三十mくらいで幅は狭いところで五十mほど。近くに橋は架けられておらず、越えていくためには一度谷底まで降りてから上るか、アルス街道まで戻ってから川を渡り、森の中を北上するしかない。

今回は誰かがロープを持って谷を渡り、そのロープを渡して谷を渡るという作戦だ。

谷を降りて渡るのは、俺とダンの二人だ。どちらも身が軽く、更に気配察知もうまい。向こう岸での警戒と万が一の戦闘を考え、前衛と後衛の両方こなせる俺とダンが選ばれた。

村側の谷は、下を流れる川で魚を取るため、降りられるようになっている。もちろん、道などなく、岩を伝って降りやすいように何箇所か足場がある程度だ。

谷底まで降りると、きれいな渓流が流れていた。

川幅は狭いところで五mほど、川の中から岩が突き出ており、その上を跳んでいけば対岸にはすぐに渡ることができた。

そこから崖を上るのだが、苔が生えた岩は滑りやすく、何度も足を取られながら、ゆっくりと登っていった。

三十分ほどで上りきると、そこには人の手が全く入っていない深い森があった。

ダンにロープを渡す作業を任せ、俺は周囲の警戒を行う。気配察知は彼のほうが得意だが、俺がフリーで動けたほうが危険は少ないとの判断だ。

ロープを渡す作業を行い、ベアトリス、シャロン、キトリーさん、メル、リディの順で川を渡ってくる。メルはもちろん、シャロンも山歩きで鍛えられており、この程度の綱渡りは全く苦にしない。

ベアトリスがこちら側に来たところで、俺たちは 件(くだん) のゴーレムの足跡を探す。ここ数日は見かけていないとのことだったが、何も無い森であるため、すぐに足跡を見つけることができた。

足跡は長さ五十cmくらい、幅は三十cmくらいの長方形で、かなりの重量があるのか、地面が数cm沈んでいる。

「これならすぐに跡を追えるよ。あとはどの程度魔物が出てくるかだね」

ベアトリスはそう言うと、警戒するように目を細めて周囲を見渡していく。彼女の経験では、古代遺跡の近くには思っても見ない大物の魔物がいることがあり、いつも以上に警戒しないといけないそうだ。

普通ならこの手の依頼は受けたくなかったそうだが、知り合いからの依頼であることと、俺たちのパーティの攻撃力が異常に高いことから、依頼を受けることを渋々了承したのだ。

最後のリディまで渡りきると、すぐに出発する。今日の調査は遺跡の場所を見付けるまでの予定としており、夜には村に戻る計画だった。

先頭を歩くダンは周囲を警戒しながら、ゴーレムの足跡を 追跡(トレース) していく。俺たちは周囲を警戒するのだが、どうも様子がおかしい。

豊かな森に見えるのに、生き物の気配が非常に少ないのだ。虫などの小さな生き物はいる。だが、普段なら聞こえるはずの鳥の鳴き声がなく、直径二mほどの大木の間を風が抜けていく、ザワザワという音だけが妙に大きく聞こえていた。

だからと言って、殺気を感じているわけではない。それに死の森と言うほど生き物がいないわけではなく、アンデッドが出てくる感じもない。だが、不気味な感じが消えないのだ。

俺が「様子がおかしくないか?」と声に出すと、皆同じように感じていたのか、ベアトリスが頷き、リディも「そうね。森が静か過ぎるわ」と答える。

ダンも「魔物どころかウサギや野鳥の気配もありません。ゴーレム以外の足跡すらないんですが……」と呟いている。

俺がベアトリスに「どうする?」と確認すると、彼女は「教授の意見は」と言ってキトリーさんを見る。

キトリーさんは「そうね……危険な感じが無いなら、もう少し進んでもらいたいわ」と言って、俺たちを順に見ていった。俺を含め、誰も危険な気配は感じていないので、皆小さく頷き、再び出発する。

二時間ほど森の中を北に進むが、木々の間から見える山が近づいてくるだけで、状況はほとんど変わらなかった。

昼食を取るため、一旦休憩に入るが、なぜか重苦しい空気が支配していた。俺はそれほど感じないのだが、俺以外はなんとなく不吉な感じを受けているらしい。

(なんと言ったら良いんだろうな。少し違うが、雰囲気は夜の工場だな。普段は人の気配があるのに、全く感じられない。時々、機械の音が聞こえてくる。そんな感じに似ている気がするな……)

休憩を終え、再び歩き出すが、一向に雰囲気は変わらない。それどころか、俺以外が感じている不吉な感じは、より強くなっている。

一時間ほどすると、ベアトリスが停止を命じる。

「やばい感じが消えないんだ。一旦、戻るべきだろう」

俺を含め、全員が頷いた。そして、元来た道を戻ろうとした時、リディが小さく、「ゴーレムよ」と警告を発した。

彼女の視線の先に目をやると、銀色に輝く体高三mほどのゴーレムがいた。そのゴーレムは重々しい足音を響かせながら、俺たちの前方五十mほどのところを西に横切っていた。

(ゴーレムというよりロボットだな。それも大昔のアニメに出てくるような角ばった形の……それにしても、器用に歩くものだ。障害物を跨いだり、枝を潜ったり、二足歩行のロボットだと考えれば、驚くほどの性能だな。まあ、スケルトンのことを思えば、不思議でもなんでもないんだろうが……)

気付いていないのか、興味がないのかは判らないが、俺たちのことは無視して歩いていく。

ベアトリスが「どうする?」と呟くと、キトリーさんが「できれば行き先を突き止めてほしいわ」と頼んでいた。

俺もゴーレムの行き先に興味があり、

「行き先だけでも突き止めないか。危険だと思うなら、俺が偵察してくるが」

結局、全員で移動することになり、ゴーレムの後方五十mほどのところを身を屈めて追跡していく。

十分ほどすると、急に森が開け、崖が見えてきた。その崖は高さ十mほどの切り立ったもので、崖の前は僅かに木の生えていない平地があった。

ゴーレムはその平地で立ち止まった。そして、周囲を警戒することもなく、ゆっくりと崖に近づいていく。

俺たちが息を呑んでその様子を見ていると、ゴーレムの腕から僅かに魔力が放出される。

俺が「腕から魔力が出ている」と呟くと、リディも頷き、「何をするつもりなのかしら」と首を傾げる。

ゴーレムが魔力を放出し始めて一分ほどすると、ゴゴゴという感じの低い音が崖から聞こえてきた。俺たちは周囲を警戒するが、特に異常はない。

だが、すぐに何が起こっているのか全員が理解した。岩でできた唯の崖だと思っていたが、その一部がゆっくりとせり出し、高さ三m、幅二mほどの通路が現れたのだ。その奥はステンレスのような銀色で、奥からは淡い照明の光が漏れていた。

そして、ゴーレムはその中にゆっくりと入っていく。

俺たちはその様子を三十mほど離れた森の中から眺めていたが、キトリーさんが「あの中に入るのは無理かしら」と言ってきた。ゴーレムは中に入ったが、未だにその扉は開いたままだったからだ。

ベアトリスは小さく首を横に振り、

「どのくらい開いているのか判らないんだ。閉じ込められる可能性がある」

そう言って、許可しなかった。

俺は「俺もベアトリスに賛成だな」と頷き、キトリーさんに向かって「とりあえず場所は判ったんです。ゴーレムの行動をもう少し観察したほうがいいでしょう」と提案した。

キトリーさんは少し残念そうな顔をするが、最終的には俺の提案を受け入れた。

正直なところ、俺も中に興味があった。ラスペード教授やキトリーさんの話では金属製の通路は古代遺跡の特徴だそうだ。つまり、ここは有史以前の遺跡である可能性が高い。

そして、重要なことはこの遺跡は“生きている”ということだ。ゴーレムがどのような役割を果たしているのかは判らないが、少なくとも扉の開放機構と照明は生きている。ならば、中には完全な形の古代文明が残っている可能性があるのだ。

入っていったゴーレムは出てくることはなく、扉は三十分ほどでゆっくりと閉じた。その後、更に一時間ほど様子を見たが、特に動きはなかった。

俺たちは話し合い、とりあえず扉を調べることにした。

魔道具的な罠の可能性が高いため、俺とキトリーさんが調べることになり、他の五人は森の中で周囲と俺たちの死角を警戒することになっている。

俺が先行する形で慎重に扉のあった場所に近づいていく。崖から十mほどの位置で森が途切れ、俺はキトリーさんに「先に行きます」と宣言して崖に近づいていった。

崖は黄色みがかった白い岩でできており、特に異常は見当たらない。精霊の力を感じようと集中してみるが、特に流れは感じなかった。

扉だった岩にたどり着き、ひとしきり確認した後、キトリーさんを手招きで呼ぶ。

「罠は無さそうですね。それにしても、ここまで近づいても繋ぎ目がほとんど判りませんね」

俺の言葉にキトリーさんも頷き、「そうね。ここまでしっかりとした遺跡は初めて見たわ」とやや興奮気味にそう語った。

彼女は扉付近を慎重に確認していく。そして、一箇所を集中的に確認し始めた。そこは扉の横、ちょうどゴーレムが魔力を放っていた先に当たる。

「ここに魔道具が隠されているわ。ここに魔力を当てて認証させるのね。それにしても、どうやって隠しているのかしら、埋め込んだようには見えないわ……」

独り言を呟きながら、更に調査を進めていく。

俺はすることが無くなり、周囲を警戒していた。

その時、ふと見上げた先に何か光るものを見付けた。ちょうど崖の上に当たり、岩が小さなひさし状になっているところだった。

俺は調査に没頭しているキトリーさんに、「あの上に何かあります」と注意を促した。彼女は俺の指差した場所を見つめ、「魔道具ね……」と呟く。

俺が「見てきましょうか」と言うと、少し考えた後、小さく頷いた。

俺はハンドサインでリディたちに危険はないと伝え、崖の上に登っていく。ロッククライミングの要領でするすると岩を登ると、そこには直径二cmほどの黒い魔晶石が埋め込まれていた。

その魔晶石はつややかで、俺は既視感を覚えていた。

(この位置とレンズ状の作り。監視カメラのような気がするな……だとすれば、この中にいる“何か”が俺たちを見ているのかもしれない……)

証拠はないものの、俺はこの魔晶石が監視カメラであると確信した。だが、それをキトリーさんにどう説明していいものか迷った。

リディたちは俺の秘密を知っているが、キトリーさんは知らない。ややあやふやな表現で説明することにした。

「危険はなさそうです。ですが、何か視線のようなものを感じました。あれで俺たちを見張っている、そんな気がします……」

キトリーさんが「そう……」と頷き、「見張っている感じね……あっ!」と言って、言葉に詰まる。

彼女の視線の先、ゴーレムが魔力を当てていたところが淡い光を放っていたからだ。