軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七十九話「集団魔法」

俺は魔法の戦場での運用について理論をまとめ、それを実証することにした。

まず、手近にいるリディとシャロンに手伝ってもらい、色々なパターンで魔法を組み合わせてみた。俺は全属性、リディが光、風、木、水、シャロンが火と風が使えるので、風属性なら三人の組み合わせが可能だ。

そこで色々な実験を行ってみた。

その結果、驚くべきことが判った。全く同じ魔法を同時に発動すると、僅かだが威力が上がったのだ。

実験はごくシンプルで、 空気の槌(エアハンマー) を三人で同時に放つと言うものだが、その結果、単純に三人の魔法の合計ではなく、それ以上の威力になったのだ。感覚的には一割弱程度だが、確実に威力は上がっていた。

そこで感覚的なものではなく、数値として検証してみようと考えた。だが、そこで問題にぶつかった。魔法の威力を測る計測機器がなかったのだ。

岩や木にぶつけて移動距離や“しなり”で測ろうとも考えたのだが、それでは客観的な数字として表わすことが難しく、いろいろ試行錯誤してみたが、結局のところ断念するしかなかった。そこで、ラスペード教授に俺の魔法の運用についてレポートを提出し、実証方法について相談してみた。

教授は俺のレポートをものすごい勢いで読み終えると、やや興奮気味に話し始めた。

「これは非常に面白い! 実によい着眼点だよ!」

そして、俺が測定方法について良い知恵はないかと尋ねると、僅かに考え、

「……うむ、測る術はないが、人数を増やせば、君のほしい結果が出るのではないかね」

教授はそれだけ言うと、そのまま訓練場に向かって歩き始める。

そして、訓練場にいる五年生たちを捕まえ、「ちょっと実験を手伝ってくれたまえ。火属性が使えるものはこちらに来てくれないかね」と言って集め始めた。

成績に直結する教授の声掛けということもあり、火属性を使える三十人ほどの生徒がすぐに集まる。

彼らを指導していた講師が慌てて教授に近寄り、真剣な表情で事情を尋ねると、教授はさらりとした口調で、「魔法の同時発動による強化の確認を行うだけだが、問題でもあるかね?」とやや不思議そうな顔で答える。

教授の言葉に講師たちは安堵の息を吐く。そして、「問題ございません」と一歩下がって教授に場所を譲った。

どうやら、講師たちは教授が危険な実験を行おうとしているのではないかと疑ったようだ。

(普段の行いだろうな。教授なら何をするか判らないって思われているのだろう)

教授は集まった生徒たちに「 炎の玉(ファイアボール) の魔法は使えるかね」と尋ねると、全員が「はい!」と言って答えた。教授は満足そうな笑みを浮かべ、実験の説明を始めた。

「私の指示する場所に、合図に合わせて魔法を発動してもらう。ミスター・ロックハート。丈夫な的を作ってくれたまえ」

俺は教授に頷き、 土の壁(アースウォール) の魔法で高さ二m、幅二mで五十cmほどの厚みの土の壁を作っていく。そして、念のため、 石生成(クリエイトストーン) の魔法で強化しておいた。これは以前、教授が作ったものと同じ壁で、強度も可能な限り再現したものだ。

(これなら、教授の 獄炎の槍(ヘルファイアランス) でも来ない限り、何とかなるだろう)

俺が五分ほどで壁を作ると、驚愕の表情で見つめる同級生たちがいた。彼らは、俺が実技講師以上の速度で壁を完成させたことに驚いているようだ。

一方、教授は満足そうに頷き、「さすがはミスター・ロックハートだ」と感心していた。

だが、教授の観点は同級生たちと違った。彼は俺の作った壁をコンコンと叩きながら、「これなら、私の 獄炎の槍(ヘルファイアランス) との比較が容易だよ。こういう細かい配慮が研究には必要なのだよ」と、魔法の速度ではなく、昔、教授が作った土の壁を再現したことに対して感心していたのだ。

教授は「では、君たちの中で発動が最も遅い者は誰かね」と尋ね、一人の小柄な女子生徒が泣きそうになりながら、手を上げる。

そして、「ええっと、君の名は? それにどのくらいの時間が掛かるのかね」と尋ねると、消え入るような声で、「イブリン・ハーリングです……頑張れば三十秒くらいです……」と答えた。

「では、ミス・ハーリングに合わせるように。では、ミス・ハーリング。詠唱を始めたまえ」

彼女は緊張しながらも、ファイアボールの呪文を唱えていく。そして、他の生徒たちもタイミングを合わせるように次々と呪文を唱えていった。

(緊張しているんだろうな。 あの(・・) ラスペード先生に注目されているから。今にも泣き出しそうって感じだよ……)

俺はハーリングという女子生徒に一瞬同情したが、火の精霊の力が急速に集まっていくことに気付き、すぐに彼女のことを忘れた。

(凄い力だ……レベル的には精々平均十二、三というところだろう。だが、ラスペード先生の魔法より精霊の力が集まっていく感じだ……)

三十秒後、ハーリングの準備も整ったようで、教授が静かに腕を振り降ろす。すると、三十人の口から、気合の入った声で、“ファイアボール”という発動の言葉が発せられた。

次の瞬間、三十個の炎の玉が彼らの杖の先付近に現れる。そして、時速百kmほどの速度で一斉に的に向かって飛んでいった。

俺にはそれがひどく遅く感じられた。

だが、一秒も掛からずに二十m先の的に集中していく。

炎の玉が的に集束したと思った瞬間、赤かっただけの炎が眩いほどの輝きを放ち、そして、爆発した。

俺はその威力に声を失った。

教授も同じように言葉を失っているようで、目を見開いたまま、沈黙している。

俺と教授はその結果に驚きを隠せなかったが、魔法を放った生徒や講師たちの関心は別のところにあった。彼らの関心は魔法の結果よりも教授の反応の方にあったのだ。

俺はそんな同級生たちのことを無視して、的に向かって走っていた。

的を詳細にチェックすると、破損こそしていないものの、表面は黒く焼け焦げ、かなりの高い温度に 曝(さら) されたことが判った。

(エネルギーの集束による効果にしては強すぎる……ここにいる生徒の能力では精々松明の火ほどのエネルギーしかないはずだ。それを三十個集めたとしても、キャンプファイアのような大き目の焚き火くらいのはずだ……火の精霊の力が集まる量が多かった。もしかしたら、集団で行うほど効率が上がるのかもしれないな……)

教授はまだ冷め切らない的の表面を確認しながら、興奮気味に俺に話しかけてきた。

「これは凄いことだよ! 革命的な発見だ!」

俺はその言葉にやや引き気味になり、冷静さを取り戻した。

「誰も試したことがなかったのでしょうか? ここでも属性ごとに実技訓練を行っていますし、宮廷魔術師も同じように訓練していれば気付くと思うのですが」

教授は首を横に振り、「普通は同時に発動などしないのだよ。戦場でも同時に発動するが、目標を合わせるようなことはせんのだよ」と答える。

俺はその事実に引っ掛かるものを感じた。

今回の実験ではそれほど強化されたようには見えなかった。元の威力からすれば、かなり強化されているが、それでもラスペード教授の高位魔法より威力は小さい。だが、半人前の魔術師三十人が放つ低位の魔法が一流クラスの魔術師の魔法に匹敵する。つまり、今まで戦力と看做されなかった魔術師の卵たちですら、戦力化できる可能性があるという事実に気付いたのだ。

そして、俺が引っ掛かったのは、一つの属性に拘る組織があるということだ。

そう、光神教のことだ。

光神教は光属性の魔術師を集めている。もし、この事実を知れば、ルークス聖王国とカエルム帝国のパワーバランスが劇的に変わる可能性がある。それだけならまだいいが、狂信者たちが跋扈するルークスが世界征服に乗り出さないとも限らない。

俺は小声で「この事実は危険です」と教授に告げる。

俺の真剣な顔を不審に思ったのか、「どういうことかね」と教授は尋ねてきた。だが、先に俺たちを見つめ続ける他の生徒たちを解散すべきだと感じ、「もう実験は終わりですね。では、研究室に戻って検証しましょう」と部屋に戻ることを促した。

俺の言葉に教授も「実験への協力に感謝する。思っていた結果に近かったよ。では、解散しても構わない」と宣言し、研究室に戻っていった。

俺たちの後ろでは、生徒たちはホッと息を吐き、講師たちは何の実験なのかと小声で話していた。

研究室に戻ったところで、俺は今回の実験の成果の危険性を説明していった。

最初は興奮気味に聞いていた教授だが、光神教という単語で眉を顰める。

「ミスター・ロックハートの懸念は理解したが、この研究は行うべきではないかね」

「しかし、それでは光神教が……」

「うむ。その懸念は判る。だが、新たな理論が目の前にあるのだよ。それを探求してこそ、研究者というものだ。それに彼の者たちはすでに気付いておるかもしれん」

俺はその言葉に思わず、「どういうことでしょうか!」と驚きの声を上げてしまった。

「彼らは“奇跡”と称して大規模な光属性魔法を使った形跡があるのだよ。ならば、この事実に気付いている可能性は高い」

確かにそうかもしれないが、確証はない。それより、ラスペード教授の探究心に火がついてしまった事の方が問題は大きい。

(拙いな。先生が研究をすれば、必ず誰かが嗅ぎ付ける。 あの(・・) ラスペード教授が新たな研究を始めたと言えば、魔術師は皆興味を持つだろう。だが、他の教授にこの話を持っていけば、おそらく俺の懸念など理解することはないはずだ。研究の成果を発表すれば、宮廷魔術師として、かなり高い地位を約束される。そうなれば、必ず光神教が嗅ぎ付ける……仕方が無い。俺が研究して、先生の知的好奇心を満足させるしかないだろう。先生は政治には興味がないんだ。真実さえ明らかになれば、外に向かって発信することはないはずだ……)

ラスペード教授は、自分で研究するか、それとも誰かに任せようかと悩んでいるのか、ぶつぶつと呟いている。

俺は「仮説を考えました。私がこの研究を行います」と宣言すると、教授はすぐに「それがいい」とポンと手を打つ。

結局、俺が研究を行うことになったのだが、これが結構大変だった。教授のように生徒を集めるわけにも行かず、実証することがかなり難しかったのだ。

そこで、まず理論を構築することにした。

最初に考えたのは、単純に“火力”の集中だ。

レンズと同じでエネルギーを集中させて密度を上げれば、それだけで魔法を強化できる。当初考えた魔法の戦術はこの効果を考えたものだ。

だが、検討を進めていくと、それだけではないことに気付いた。低レベルの生徒たちの出せる魔法は言ってみればマッチの火のようなものだ。マッチの火を三十個集めても、ガスバーナーのような高温は出せない。明らかに投入されたエネルギーが異なったのだ。

俺はある実験を行った。

俺の場合、自分の 魔力(MP) を正確に把握できる。それを利用して、検証を行ってみたのだ。

まず、あの時の生徒たちのファイアボールと同程度の魔法を発動させ、そのMP消費量を確認しておく。そして、その三十倍のMPを投入した魔法、 炎の槍(フレイムランス) と比較してみたのだ。

生徒たちの平均的なMP使用量は判らないため、正確な比較は無理だが、炎の温度、速度などは限りなく、彼らの魔法に近付けている。だから、正確性はやや欠けるものの、それほど大きな差はないはずだ。

そして、その結果だが、明らかに俺のフレイムランスの方が威力が小さかった。同程度の威力にしようとすると、更に倍以上の魔力を投入する必要があったのだ。

普通なら高レベルの俺のほうが魔法の効率はいいはずだが、明らかに三十人の生徒たちのほうが威力が高い。

そこで俺は、二つの仮説を思い付いた。

魔法を発動するということは、精霊の力を集め、それを術者の望んだ形に変えるということだ。精霊の力は術者の魔力を与えることにより、得ることができる。“一”という魔力を与え、“十”という精霊の力を集めるとする。その時、“一”の魔力で、“十”ではなく、“二十”の精霊の力が集まれば、威力は二倍になったことになる。

では、今回の現象とどう関係するのか。

精霊の力は与える魔力量と術者のイメージにより、集束効率が変わる。これはイメージ力が強い高レベルの術者と、イメージ力の弱い低レベルの術者では同じ魔力を使ったとしても、明らかに威力が違うからだ。

普通の魔術師には確認する術はないが、俺の場合、ステータスを確認できる。だから、 魔力量(MP) の消費量を見ながら魔法を発動することにより、威力の違いを確認することができる。その結果、同じ魔力量でもイメージの強さによって、威力が明らかに違うということを事実として知っている。

今回なぜイメージ力の低い生徒たちの魔法が強力になったのか。それは一つには精霊の力を集める効率が上がったことが考えられる。つまり、イメージ力の低い術者でも、何人かで同じ魔法を発動すれば、それぞれの術者のイメージを補完しあい、精霊がより理解しやすくなるのではないか。

実際、俺が感じた精霊の力の集まり方は、高レベル魔術師が集める濃度に近かった。

これが俺の一つ目の仮説だ。

もう一つの仮説だが、それは同じ魔法を同時に発動すると、共振というか、増幅効果があるのではないかというものだ。

例えば、複数人が同じ魔法を発動させると、一人当たり一・〇五倍になるとすると、三人では十五パーセントほどしか上がらないが、三十人なら四倍以上になる。実験で見た篝火程度のファイアボールが単純に三十個集まっただけでは、大きな焚き火くらいの威力しかないが、その大きな焚き火が四倍になり、更に一箇所に集束しているから、かなりの威力になるはずだ。

集束したエネルギーより明らかに増加していることと、三人では目に見えるほどの効果がなかったことから、上記の二つの効果のいずれか、または双方が効いている可能性がある。

俺はこのことを論文としてまとめ、ラスペード教授に提出した。

俺の論文に目を通した教授は、五分ほど考えた後、口を開いた。

「理論としては、十分に辻褄は合っているが、実証がなされておらんね。確かに魔力を測る術はないが、少なくとも複数の属性で検証する必要があるのではないかね」

俺はその言葉に素直に頷くが、

「おっしゃることはもっともな事かと思いますが、光神教のことがあります。少なくとも理論に誤りはないと思います。それに学院生ではなく、宮廷魔術師クラスの高レベル魔術師による実験の方がより顕著な結果が得られると思います」

教授は未だに未練があるようだが、それでも光神教に情報が流れるほうが危険と考え、「仕方があるまい。検証の時が来ることを期待しよう」と言って、俺の論文を片付けた。

(俺としては、そんな機会が来ないことを祈りたいね。これを使うということは大規模な戦争が起きるということなんだ。もちろん、俺が軍隊を指揮することはないだろう。まあ、ラスモア村の自警団くらいなら率いるかもしれないが、少なくとも魔術師部隊を率いることはない。だとすれば、これを使う機会があるのは先生だけだ。先生が戦争に巻き込まれる。考えたくないが、俺の敵、つまり神の敵がこの辺りまで侵攻してくることだ。少なくとも俺はそれを見たくはない……)