作品タイトル不明
33話:地下*3
魔導のものであろう謎の機械を破壊する、となれば、当然、そこには危険が伴う。
破壊するだけなら、可能だろう。スファルが殴れば大抵のものは壊れる。だが……『壊した後』のことを考えれば、安易にそんなことはできない。
まず、大量に溜まった魔力に衝撃を加えるということは、あまり賢明ではない。何せ、ありとあらゆるところに、魔力は介在しているのだ。スファルがものを殴る蹴るといった行為に及ぶにしても、彼は無意識にだろうが、その拳や足を魔力で強化して使っている。
そして、その魔力が機械の魔力にぶつかった時……妙な暴走の仕方をしないとは、言えない。暴走の結果、ここら一帯が全て吹き飛ぶ、といったことも、十分にあり得る。
だがそれでもやらなければならないのだ。さもなくば、グレイ達3人のみならず……より多くのものが失われる結果となるだろう。
「こんな風に魔力を使うことになるなんて!」
「俺もこんなのは初めて見る」
……そうして、エメディアは杖を構えて早速魔力を動かし始めた。
エメディアの仕事は至って簡単だ。魔力を大量に流し込んで、この機械に流れる魔力を全て、エメディアのものに置換するのである。
……そうすれば、この機械をエメディア自身が動かすことも、できるかもしれない。少なくとも、この機械の魔力の制御をエメディアが行えるのであれば、この機械自体の破壊も、それに伴う危険を限りなく小さく抑えることも、叶うかもしれないのだ。試みる価値はあるだろう。
「おい、エメディア。そっちはどうだ?」
「そうね……雪に埋もれた道を探しながら歩いてる感覚よ……」
「つまり分かんねえってコトか……」
スファルは『想像がつかねえ』と言っているが、それはグレイも同じことである。
グレイも魔力は多い方だが、それにしても、エメディアほどではない。エメディアが探り当てながら魔力を流し込んでいる回路の1つ1つは、グレイにとっては存在を認識することすら危ういものであった。
これは間違いなく、エメディアにしか……ダンジョン2つをクリアして、その魔力を手に入れてきたエメディアにしかできないことである。
……だが。
「……駄目だわ」
エメディアが、絶望した顔で機械を見つめた。
「これ……ここでは、制御できない」
「は?」
「これを制御するための機構が、また、別の場所にあるのよ……」
……どうやら、事態は困難を極める様子である。
どうしましょう、と呟くエメディアの横で……グレイはすぐさま、結論を出した。
「なら移動しよう」
「……えっ?」
エメディアが顔を上げたのを見て、グレイは少々笑ってみせる。
「その、制御用の装置があるところを、あんたが探してくれ。やれるだろ?」
「いいぜ、道中の護衛は俺がやってやる!このスファル・トゥルバが、オーガの誇りにかけて、な!」
エメディアは戸惑ったが、スファルが勇ましくもそう申し出てしまえば、最早、躊躇う余地は無い。
「……駄目だったら、ごめんね!」
「その時は笑って死ぬさ」
「俺は戦ってから死ぬ!戦わずして死ぬのはオーガの恥だからな!だが、戦って死ぬならそれは、オーガの誇りだ!」
そうして、エメディアが杖をついて集中し始めた。同時に、微弱な魔力が広がっていくのを感じる。エメディアは今、その魔力の反響を感じ取って、『制御装置』の位置を知ろうとしているのだろうが……。
「……あっちだわ。あのドアの先よ」
……エメディアが指差す先、そこには、ドアがある。
どう見ても、開きそうにないドアが。
「まあ、部屋に出口があることは朗報だな。開かないドアをどうすればいいのかっていう別の問題はあるが……」
……さて。
この部屋にはドアが1つある。つまり、この部屋は行き止まりなのだが……この部屋唯一のその肝心なドアは、生憎、開かない。
鍵のようなものが必要なのだろうとは思われるが、鍵穴は無く、代わりに、ドアの横に小さな石板が埋め込まれているだけだ。グレイは、『ああ、固有の魔力にしか反応しない魔導の装置だな』と理解したが、それはつまり、『俺達にはこれを開く手段が無い』ということである。
「部屋を出ることすらできない、ってなると……いよいよ、困ったわね」
エメディアは、『なんとか、このドアを開くように魔力を流すことはできないかしら』と考えているようだったが……。
「……なら、仕方がないな」
グレイは、より単純で明快な解法を思いついている。
「スファル。いけそうか」
「は?吹っ飛ばせってか?」
「その通りだ」
メカニジア式のドアだったとして、メカニジア式の開け方をしてやる必要は無い。
裏通り式……或いはオーガ式の開け方をしてやれば、それでいいのだ。
「……やってやれねえことはねえだろう。だが、静かに、ってのは、土台無理な話だぜ?物音がすりゃ、当然、気づかれる。囲まれるのは目に見えてるよな?」
スファルはドアを見て、『ふーむ』と顎に指をやる。『やってやれねえことはねえ』とは頼もしい限りだな、とグレイは笑った。
「そうだな。だから、その後の処理は俺がやる。それは、盾役の仕事だ」
「それは……」
エメディアが一瞬、何か言いたげな顔をした。だがグレイはそれを制して、あくまでもスファルに話す。
「見つかった時点で、俺が敵を引き付けて留める。制御装置には、エメディアとスファルで行ってくれ」
「……そうかよ」
スファルもやはり、何か言いたげではあった。少し考えて……しかし、この気の良いオーガは、思い切りもいい。
「……ま、しょうがねえか。それしかねえっていうなら……突き進むしかねえなあ!」
そう言うや否や……スファルはその拳を振りかぶり、勢いよく、ドアへと叩きつけた。
1発では、ドアは破れなかった。ただ、メゴッ、と鈍い音を立てて、大きく歪んだだけだ。
だが、2発、3発、とスファルが殴り続けていけば、ドアはやがて、その歪みに耐えられなくなり……そして。
バゴン、と鈍い音を立てて、ドアが吹き飛ぶ。スファルはこの結果に、にやり、と笑い……同時に、グレイがドアの先をすばやく確認する。
……途端、けたたましく鐘が鳴った。音は即座に城内を駆け巡り、この異変を報せて回る。
「こっちよ!」
それを見たエメディアは、即座に部屋の片隅……部屋から先へ進むためのドアへと向かっていった。
ここからは、時間との戦いになる。
ドアはまた、スファルが殴り飛ばした。また、『こんなんでも、投げりゃあそれなりに使える』と、吹き飛ばしたドアを拾ってひょいと担ぎ上げ、そのまま運んでエメディアの後を追う。
……だが。
「おお……来やがったな」
来たドアとも向かうドアとも異なる3つ目のドアから、ぞろぞろ、とメカニジア兵がやってくる。グレイは、『まあ、そうだろうな』と思いつつ、兜のバイザーを下ろし、大楯と斧槍を構えた。
「ああ、この先なのに……!」
エメディアは、走るべきか留まるべきか、一瞬、躊躇った。
……だが。
「……できるだけ早く戻るわ!30秒……いえ、1分、かかるかも、しれないけれど……でも、絶対に戻るから!」
思い切った彼女は、グレイを置いて、目的のドアへと走っていく。そのエメディアに向けて、メカニジア兵が筒の先を向けるが……そこから鉛の玉が飛ぶことは無い。
メカニジア兵の中へと突進していったグレイが、大楯でそれらを薙ぎ倒したからである。
……そうして、スファルが振り回したドアが、目的のドアを破る。エメディアとスファルがその先へと駆けこんだのを見送って……グレイは、尚も増えるメカニジア兵達の前に立ちはだかった。
「5分でも10分でも、どうぞお構いなく」
もうエメディアには聞こえないであろう言葉を呟いて、そして、グレイは動き出した。
盾役としての仕事を全うするために。