軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34話:地下*4

エメディアは、スファルが破ったドアの先へと走り込む。エメディアが通った直後、スファルもこちら側へやってきて……そして、破ったばかりのドアの跡に、ずっと持ってきていたドアの残骸を『バゴン!』と嵌め込んだ。

「これでちっとは時間稼ぎできるだろ」

「ちょ、ちょっと!これじゃ、グレイが」

「バカ。あいつが集中できるように、だ!」

……スファルの言うことは、分かる。だが、塞がれたドアの向こうで戦っているのであろうグレイの姿が見えなくなって、いよいよ、エメディアの胸には不安がざわめく。

だが……こうしてはいられない。不安がっている暇は無い。エメディアは走り出した。グレイもスファルも付き合わせて、走り出したのだ。だからこの脚を、止めてはならない。

「よし、やるわよ……!」

エメディアは、塞がれたドアに背を向けて、制御装置へと駆けていく。

……祭壇の上にある、執務机ほどの大きさの機械。これが、制御装置であろう。

エメディアはこれを御し、あの兵器を止めなければならない。……何があったとしても。

制御装置には、制御装置を守るものであろうメカニジア兵が2体、居た。そのメカニジア兵が筒を向けてきた時、エメディアの胸には恐怖が過ぎる。

……自分の『恩恵』が効かない、機械の兵士。それは、エメディアにとって最悪の敵とも言える。

だが。

「おら!黙って道を開けろ!」

そんなメカニジア兵が、真正面からスファルにぶん殴られて吹き飛んだ。残ったもう1体は、エメディアとスファルのどちらを処理するか判断しあぐねたのであろうその一瞬で、スファルに殴られてやはり吹き飛んだ。

吹き飛んだメカニジア兵は壁に叩きつけられ、ガチャン、と派手な音を立てて壊れた。エメディアは、『やっぱりスファルってすごいのね……』と、呆れ半分に感心するしかない。

「よし、やれ!エメディア!」

「ええ!」

だが、ここでスファルがメカニジア兵をやってくれたおかげで、エメディアは制御装置に集中できる。

スファルが周囲を警戒する中、エメディアは杖を構え、集中した。

……ここから先は、メカニジア地下の莫大な魔力と、エメディア自身との戦いになる。

グレイは、生きて帰るつもりはもう無かった。

目の前にわらわらと現れるメカニジア兵。その数は、100は優に超え、200、下手をすると300かもう少しにまでなるだろう。

そんな相手を前にして、グレイは早々に悟った。『ああ、こりゃ、俺が生きて戻るのは無理だな』と。

だが、それでも大楯を構え、斧槍を握り、グレイは背中越しに、エメディアとスファルが入っていった部屋の方をちらり、と見て……無数のメカニジア兵に、立ち向かうことにしたのである。

それが、盾役の仕事であり……グレイの生きる道であったので。

メカニジア兵が一斉に筒を構えたのを見て、『ああ、最初からこれが来るか』と、グレイは内心でお手上げ状態であった。

流石に、あの鉛の玉を、200以上も同時に食らったら、大楯でも防ぎきれない。そして大楯で防ぎきれなかった分が全て鎧で防げるか、というと、それもまた自信が無いが……。

……ということで、グレイは斧槍を振り回し、斧槍の届く範囲に居たメカニジア兵を2体ほど、叩き切る。

ついでに、叩き切られたメカニジア兵がたたらを踏んで、後続のメカニジア兵をまた2体ほど、巻き込む。

……そこで、グレイは『ああ、来るな』と察した。

次の瞬間、一斉に鉛の玉が飛んでくる。

それを直前に察知したグレイは、その場で身を低くし、可能な限り、大楯で自分の身を守った。

背中を壁に、そして正面は大楯に隠れてなんとかやり過ごす。これが、一番マシなやり方だ。後は、鎧の性能に賭けるしかない。

……果たして、グレイの目論見は概ね、達成された。

鉛の玉の多くは大楯に阻まれ、そして、大楯に弾かれた鉛の玉が跳ね返って飛んでいく。……これほどまでに速く飛ぶ鉛の玉であるので、最前線に居たメカニジア兵数体は、この跳ね返った鉛の玉によって、損傷した。

これを見てグレイは、成程、と思う。……この鉛の玉を発射する機構、紛れもなく厄介ではあるが……一対多数の戦いにおいては、少々行き過ぎた代物であるらしい、と。

とはいえ、グレイの側には最早、敵の同士討ちを狙って立ち回るような余裕も、もう無い。

先程の鉛の玉のせいで、グレイの装備もまた、損傷していた。魔導の鎧は部分的にとはいえ破損しており、次、また同じ攻撃が来た時にはもう耐え切れないであろうことが明確であった。

……だが、グレイには、生きて帰るつもりはもう無いのだ。ならば、この次にグレイが起こすべき行動は……敵の破壊。

エメディアとスファルへと迫るメカニジア兵を1体でも多く、道連れにすることである。

「さあ、鉄屑共。さっさとかかってこい」

グレイは笑ってやりながら、大楯を構え直し、斧槍を振りかざし、攻撃の姿勢を取った。

エメディアはひたすらに集中していた。スファルが何かやっているらしい様子も見えず、周囲の音も聞こえず……ただ、自分の魔力と、目の前の制御装置だけに意識を向ける。

……目の前の装置は、魔力によって動くものに他ならない。つまり、魔力を特定の位置に流し込んでやれば、特定の動作を生み出すことができる、という訳である。

それこそ、先程の兵器が動き出さないように鍵をかけてやることくらいはできそうだが……。

「え?」

エメディアは、唐突な魔力の動きに驚いて声を上げた。

……魔力が、確かに動いている。

制御装置の中ではない。それよりもっと別の場所から……制御装置に向けて、魔力が流し込まれている。

そしてその魔力は、更に制御装置を通して、例の兵器を動かそうとする。

即ち……起動せよ、と。

ぞっとしながら、エメディアは制御装置へと魔力を流す。『起動せよ』の反対方向へと流せば、『停止せよ』とエメディアの命令を受けた制御装置が、兵器をそのように動かし始める。

「何、よ、これ……」

突如として現れた敵に、エメディアは必死に抗い……同時に、姿の見えない、ただの魔力でしかないそれの正体を探る。

敵の魔力がどこから来ているのか。この制御装置へ到達しているわけでもない何者かが、どのようにかして、魔力を流しているわけだが……。

……そうしてエメディアは、一気に自分の魔力を放った。魔力の跳ね返りを見て、どこにどう魔力が流れているかを、調べる。同時に、敵を怯ませることも期待しつつ、エメディアは目を凝らし、魔力を観察し……。

「……女王、エテルニータの魔力……?」

エメディアは、その魔力に見覚えがあった。それは、あの玉座の間で対峙した、女王エテルニータの魔力だ。

だが……同時に、それを奇妙にも思う。

「いえ、違う……城の……ここ全体の、魔、力……」

女王エテルニータの魔力は、城全体に行き届いている。今や、この城全体が、女王エテルニータの魔力によって動いているのだ、としか思えない。

だが、女王エテルニータ自身……ただの人間1人にそのような魔力があるとは思えない。何せ、この城は多くの人間を硝子の円柱に寝かせて、そこから魔力を抽出して魔力を得ているくらいなのだ。この城を動かすものは、あの円柱からの魔力、つまり、この城自体がものにした魔力であるはずで……。

……エメディアはふと、思い至ってしまった。

この城の魔力が、もし、本当に全て、女王エテルニータの魔力であったとしたら?

或いは……女王エテルニータの魔力というものが、この城の魔力と全く同質のものなのだとしたら?

……『城と女王エテルニータが、全く、同質のものであるという可能性は?』

そう考えれば、全て辻褄が合う。

エメディアが謁見したものは、『女王エテルニータ』のほんの一部……人間で言うところの指一本、或いは髪の一本程度でしか、なかったのだ。

疑似餌を使って獲物をおびき寄せる魔物が居るが、正に、アレのようなもの。アレは、『人間に似せて作った疑似餌』であったのだ。

……そう。

女王エテルニータというものは……この城そのもののことを指すのだ。

ぞっとするような事実に思い至ってしまって、エメディアは、怯む。

その隙をついて、いよいよ、女王エテルニータが……この城自体が、兵器を起動させようと動いた。

「……へえ、面白いじゃない!」

だからこそ、エメディアは態々声に出して、そう言ってやった。

女王エテルニータは、これを聞いているのかもしれない。聞いていなくても構わない。エメディア自身が、聞いている。

「私と魔力で取っ組み合いしようっていうのね?いいわよ。乗ってあげる!」

自分を鼓舞する。

あまりにも強大な敵を前にして怯みそうになる心は、捻じ伏せた。

エメディアは再び、制御装置の主導権を巡る『取っ組み合い』に身を投じる。

「勝負よ!女王エテルニータ……いいえ、『メカニジア』!」

グレイは『不幸中の幸いだな』とため息を吐きたい気分であった。

……メカニジア兵達は、最初の一発の後、すぐさま鉛の玉を撃ってくることもなく、ただ、グレイに襲い掛かってきた。

どうやら、あの鉛の玉は短時間で何発も撃てるものではないようだ。矢を弓に番えるよりも、あの筒に鉛の玉を装填する方が時間がかかる、ということだろうか。グレイは、『これでちょっとは時間が稼げる』と笑いながら、向かってくるメカニジア兵を1体、また1体、と破損させていく。

大楯で薙ぎ払い、斧槍で叩き割り……そうして戦いながら思うのは、こうした機械の兵士相手だとグレイの『恩恵』が上手く働かない、ということだ。

機械には好きも嫌いも無いのだろう。それだけに、『恩恵』が効かない。

グレイの恩恵が効かないということは、グレイだけに注目し続けてくれるわけではなく、グレイに挑発されたからといって乗ってくれない、ということだ。当然、冷静さを欠いてくれる、ということもない。

……自分の恩恵ありきで戦ってきたグレイであるが故に、これには少々、戸惑った。グレイはドアの向こうのエメディアとスファルを守らなければならないが、メカニジア兵達には、グレイを殺そうとするのではなく、ドアの方へ向かおうとするものもあるのだ。

となると、グレイはドアの方へ向かうメカニジア兵を優先的に倒していかなければならない。その分、効率よく自分を守りながら戦うようなことは、できなくなる。

自分への攻撃を防ぐことを諦めてでも、ドアをこじ開けようとするメカニジア兵を斧槍で払い、大楯で圧し潰し……その分、グレイにメカニジア兵の攻撃がよく当たる。

皮肉なものだ。グレイだけを狙っていてくれれば、こうはならないというのに。

……或いは、グレイ側に守るべきものが無ければこうはならない、とも言えるだろうが。

そう。

グレイは今……不思議なことに、自分の身を挺してでも守らねばならないものを背負って戦っている。

ちゃ、と、嫌な音がした。

……顔を上げてみれば、グレイから離れた位置で一列に並んだメカニジア兵達が……筒の先端をグレイに向けていた。

どうやら、鉛の玉の装填が終わったらしい。

これにはグレイも、笑うしかない。

先程の攻撃を受けて、『次はもう駄目だな』と分かっている。

……いよいよ、ここまでのようだ。

だが。

グレイが覚悟を決めて大楯を構え直した、その時だった。

「どうやら、ダンスの相手が足りないと見える!」

……妙に、舞台役者めいた台詞が聞こえてくる。

そして。

けたたましい破壊音と共に、後列のメカニジア兵がまとめて吹き飛んだ。

メカニジア兵を吹き飛ばしたのは……鎖付きの棘付き鉄球。

そしてそれを振り回すのは……。

「このダンス!このアイオン・シルヴァスターがお相手しよう!」

……なんとも珍妙な、白銀の鎧の騎士であった。