軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32話:地下*2

暗い通路を、スライムの波が進んでいく。

光も碌に無い通路を進まれてしまうと、最早、方向の感覚もよく分からない。ただ、『運ばれているらしい』ということが分かるだけだが……それすらも、スライムの、ぽよん、むにょん、という跳ねるような動きのせいで、把握しにくい。

「これ……どこに運ばれているのかしら……」

「……俺に言えるのは、多分メカニジア側は、スライムが城内に巣食ってるってことを把握してないだろうな、ってことくらいだ」

……そんな中ではあったが、グレイは通路を観察し、推測できることを推測しつつあった。

手がかりは、通路の形状だ。

滑らかではあるが、緩く凸凹があり、少なくとも、工具で掘削した様子ではない、この壁面。まっすぐに通っているというよりは、どうも、意図せずして曲がってしまっているらしい様子。

これらを考えると……この通路は、ここのスライム達が床下を少しずつ溶かして生み出してしまった通路ではないだろうか、と推測できる。

となれば、先程の広い空間は、何かの部屋にスライムが住み着いてしまったが故のものだったのか、はたまた、スライム達が勝手にあちこち食い荒らして生み出してしまった空間だったのか。

いずれにせよ、この形状を見るに、『メカニジアの技術の粋を集めて造った通路ではないだろう』ということは分かる。となれば……この通路は、メカニジア城内にありながら、メカニジアの者達に知られていないのではないだろうか。

「まあ、メカニジアの罠じゃ、なさそうよね……」

「メカニジアがスライムを集めてコレをやってるとしたら、随分と手が込んでいることになるな」

「メカニジアの罠じゃねえなら、こりゃ一体、何なんだ!?おい!」

……とはいえ、この状況が何なのかは、やはり今一つ分からない。

ウサミミが意図するところではあるのだろうし、ここのスライム達はウサミミに協力している様子であるので、まあ、彼らスライム達の望む何かが行われようとはしているのだろうが……。

「……ウサミミ、張り切ってるわね」

エメディアは、自分の肩の上のウサミミを見つめて、つん、とそれをつついた。ウサミミはエメディアにつつかれると嬉しいらしく、ふるん、と体を震わせたり、にょ、と伸び上がったり、全身で喜びを表現している。

……そう。ウサミミは何やら、大いに張り切っている様子であるのだ。ウサミミはエメディアの肩の上でスライム達を鼓舞しているようであるし、その指示に従って、スライム達は動いているようなので……とても不思議な光景であった。

そうして、しばらく地下通路を流されるように運ばれていたところ、突如、視界が開けた。

狭い通路を抜けたスライム達は、グレイ達を乗せたまま、広い空間へと雪崩れ込む。天井付近から落ちたグレイ達は、それぞれに着地することになった。

……当たり前のように、エメディアを支えるためにスライムが多く集まったため、エメディアはそれで、もよん、と軟着陸した。一方、グレイは鎧の耐衝撃機能で耐えることになったし、スファルも自力でなんとかしていたが。

「ってて……なんだよ、ここ」

高所からの落下にもかかわらず、スファルは『体が痺れる』程度で済んでいるらしい。オーガの頑丈さには感心を通り越して呆れるしかない。

「……メカニジア城の地下深く、だろうがな」

そして、グレイも鎧の様子を確かめて……改めて、部屋の中を見回す。

部屋は、天井が高く、そして広い。天井には鉄のパイプが張り巡らされ、他にも魔導の回路と思しきものが幾多、見える。

そして、部屋のその広さを感じられない程に……所狭しと硝子の円柱があった。

硝子の円柱の両端には魔導の器具であろうものが接続されており、そして硝子の円柱の中には……。

「……人?」

人間が、寝ていた。

「な、なんだよこれ……」

異様な光景に、スファルが嫌悪を露わに戸惑った。グレイも似たような気分ではあるが、スファルよりは幾分、冷静だろうか。

というのも……どこかで、こんな光景を予想できていたからだ。

そして、一番冷静だったのは、エメディアだった。

「……魔力を、抽出してるんだわ」

エメディアは、グレイよりもはっきりと、この光景を予想できていたのだ。エメディアは魔力を感じ取り……それが地下奥深くから、複数の人の気配を伴って蠢いていることを、正確に知っていた。

「この城を……この国を動かすための魔力を、こうやって、工面してるのよ」

……グレイは圧倒されながらも、思う。

こんなものがあるならば、メカニジアの狙いはローザテイルの魔石ではなく、人口を増やすための国土そのもの……更に悪ければ、『今』ローザテイルに居る多くの人々であろう、と。

「はあ……?そんなに魔力集めて、何しようってんだ……?こんなもん作ってまで、なんで……」

一方、スファルはこの異様な光景を見ても、理解が追い付かないらしい。只々、自分の理解の及ばない、それでいて人道的であるとは言い難い仕組みを見て、『何のために』と、零している。

「……多分、それじゃないか?」

だが、スファルよりも残酷なことを幾らでも思いつくグレイには、部屋の奥にある『それ』が見えていた。

『それ』は、何かの祭壇のように見える。だが、これが何かの魔導の装置なのであろうことは、グレイにも分かった。詳しいところはまるで分らないが、ただ……それが、『人を殺すための何か』であろうことは、理解できたのだ。

「仕組みも何も分からないが……エメディア。あんたなら、分かるか?」

グレイに促されて、エメディアが『それ』を検分する。

……そして。

「……同じだわ。私と、同じ……魔法じゃない、ただの、『魔力』を動かす装置よ。でも、規模が、段違いだわ……」

エメディアは、青ざめてそう言った。

「遠く離れた城1つくらい、破壊できるかもしれない」

重い空気が、3人を包んでいた。

メカニジアの地下にこんなものがあるとなれば、いよいよ、事態は深刻である。これを起動されたが最後、ローザテイルがいきなり滅ぶ可能性すらあるのだ。

そして……そうなれば、魔石の鉱脈も、ローザテイルの民も、奪い放題となるだろう。……そうした用途以外で使えないであろう代物が、ここにある。

「これ……ぶっ壊してくか?」

だが、今、ここでこれを見つけられたことは不幸中の幸いであった。スファルの、あまり物を考えていないが故に単純かつ明快な解決策を聞いて、グレイもエメディアも、少々、気が楽になってきた。

「そうね。これは破壊させてもらいましょう。……これが原因で国際問題になったとして、もう、今更よ。今更!」

エメディアも『よし!』とばかり、意を決したように杖を構え……と、そこに、ぴょこ、ぴょこ、と、ウサミミがやってきた。

『あら?』とエメディアが首を傾げていると、ウサミミはエメディアの服の裾をちょいちょいとひっぱって、ぴょこ、もち、と移動し……。

「ああ……スライム達がここに導いてくれた理由が、1つ分かったわね……」

……連れていかれた先には、硝子の円柱と円柱を繋ぐパイプがひしめき合っており……そこに挟まったやたらと大きなスライムが、じたばたしていたのである。

そうして、グレイとスファルが『せーの!』と押して、なんとか、やたらと大きなスライムはパイプの間から抜け出すことに成功した。

このやたらと大きなスライムは、大きいからか、少々弾力が強く……柔軟性に欠けていたようである。それ故に、この隙間に挟まって出られなくなってしまったのだろう。

「ところでこれ、パイプ溶かせばよかったんじゃねえのか?」

「いや、多分、このパイプは溶かすと中から何か出てくる。ものによっては、それが原因で死にかねない」

「そう……だったのね。うーん、なら、まあ、私達が助けてあげられたのは、よかった、わね……?」

……スライム達は、ぴょこぴょこ、と跳ねては喜びを表現しているらしかった。エメディアに礼を言うかのようにぴょこぴょこやっていたり、やたらと大きなスライムの無事を喜ぶようにぴょこぴょこやっていたり……騒がしい。非常に。

「ウサミミは……ええと、誇らしげね」

そしてそんなスライム達の前で、ウサミミは誇らしげに、耳を揺らしていた。……ウサミミが、ここのスライム達の助けを求める声を聞いて、ここまでエメディア達を連れてきたのだから、ウサミミはこのスライム達の恩人、ということなのかもしれない。

「……ウサミミが絡むと、どうも、緊張感が無いのよねえ……。目の前にある、とんでもない兵器のことなんて忘れてしまいそう……」

何はともあれ、スライム達の言葉は分からない。グレイ達はただ、このスライム達に巻き込まれる形で、ここにあった兵器と、多くの人々から魔力を抽出する機構を見つけてしまったが……スライム達はそんなことは全く気にしていない様子であった。

……グレイは、いっそ自分もスライム並みに能天気に生きられたら、と、思わないでもない。

さて。

そうして、スライム達の目的は無事に達成され……スライム達は揃って、ウサミミの真似をするように耳に似た突起を伸ばし……ぺこん、と、それを倒した。お辞儀の仕方は、ウサミミが教えたらしい。律儀なスライムである。

お辞儀をした後は、スライム達が退出していく。ぞろぞろ、と去っていくスライムを見送って……グレイ達は3人とも、しばらく黙っていたが。

「じゃあ……改めて、この兵器を破壊しましょう」

ようやく、この部屋の大きな問題を解決する時がやってきた。

エメディアは、『よーし』と杖を構えて……それから、グレイとスファルを振り向いた。

「グレイとスファルは、ここを出て。それでなんとか、脱出してほしいの」

……エメディアの言わんとすることは、分かる。

ここでこの兵器を破壊してしまったら、いよいよ、後戻りはできない。メカニジアの者達が黙っていないだろうから、こっそりと逃げ出すことはできなくなるだろう。そもそも……これを破壊した後、魔力が何も暴走しないとも、思えない。

「いや。ここに居させてくれ。……どうせ、ここまで来たらもう後は同じさ」

だが、グレイはとっくに覚悟を決めている。……元々、大して値打ちの無い命だ。ならば、ここで逃げ出すよりは、何か1つでもエメディアの役に立ってから死にたい。

「俺も残るぞ!あの、アイオンとかいう奴は気に食わねえが、あの女王もいけ好かねえ。そいつらの思い通りに事が運ぶのを見過ごすのは、オーガとしての沽券に係わるからな!」

そしてスファルもまた、ここに残るらしい。……スファルはグレイを見て、にやり、と笑った。なのでグレイもまた、スファルを見て、少しばかり笑ってみせる。

「さあて……エメディア!後はお前が覚悟を決める番だな!」

スファルがエメディアの肩を叩けば、エメディアは緊張に満ちた顔で俯き……そして。

「……ええ!やってやるわよ!」

顔を上げた時には、もう、決意に満ちた目をしていた。

「2人とも、その命……私に預けて頂戴!」