軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25話:堂々とあれ*2

朝食を腹に収めたグレイ達は、宿場を出発した。

「このまま進めば、夕方にはここの宿場に到着するでしょ?それで、その後はもう、メカニジアね」

街道から逸れた草原を歩きながら、エメディアは地図を広げて楽し気に話す。

「まあ、メカニジアにまで入っちゃえば、うちの兵士は居ないでしょうし。居たとしても、撒けるでしょうし」

……そしてやはり、朝食の席で言っていたことは本気であるらしい。

つまり……もし、エメディアを狙う兵士が居たとしても、気にせず外出する、と。そういうつもりであるらしいのだ!

「おいおい……無茶は止してくれ」

「必要なことは、無茶とは言わないのよ!」

グレイが頭を抱えたい気分になっている横で、エメディアは極めて元気いっぱいである。

「だって、仲間じゃない!お互いの恩恵が上手く噛み合うんだったら、私達、きちんとお互いを利用し合うべきだわ!」

「そうは言っても、あんたに身の危険があるようなところへ連れていけないだろ」

「最悪の場合、兵士を殴って伸しちゃうわけにはいかない?」

「なんてお姫様だ!」

エメディアの、なんと意思の固いことか。グレイは嘆きつつ、しかし、頭の片隅では冷静に、『実際、宿場に派遣されてる兵士なんて、精々3人か4人だな。殴って撒くことも、できなくはないか……』などと考えてしまう。

「あー……じゃあ、飯の調達には俺が出る。それでいいだろ?な?」

それはそれとして、スファルはスファルでエメディアを案じているらしく、そんな提案をしてきた。だがグレイとしては、それはそれで、賛同しかねる。

「あんたはあんたで目立つんだよ」

「そうでなくても、寝起きでぽやぽやのあなたに朝ごはんの調達は難しいんじゃないかしら……」

「そうかあ?……そうかもな……」

スファル自身、自分の寝起きの悪さは自覚しているらしい。図体の大きなオーガが肩を丸めて、しゅん、としている様子はなんとなく可笑しい。笑ったら怒られるだろうから、笑わないが。

「……まあ、次の宿場に兵士が居ないことを期待しよう」

「そうね。それが一番だわ」

……ということで、結局は、問題が起きてから問題について考えることになった。

とはいえ、エメディアは『兵士が居たら、懐柔すべきかしら。それとも、スファルにぶん殴ってもらう……?』と考えていたし、グレイは、『そもそも、俺が1人で外に出て何か問題があるか……?』と考えていたが。そしてスファルは、『どうやったら寝起きって良くなるんだろうなあ……』と考えていたが。

時々休憩を挟みながらも歩き通して、夕方には宿場に到着した。メカニジアに入る前、最後のローザテイル内の宿場である。

「居る」

「居るなあ……」

「居るわねえ……あーもう!」

そして、宿場の入り口に兵士が3人、陣取っている。検問のようなことをやっている様子だ。どう見ても、あそこを通るのはまずい。

「今夜も野宿かあ?」

「いいえ……今夜も、ベッドで寝ましょう」

だが、エメディアはそう言って、緊張気味ながらも堂々と胸を張った。

「私に考えがあるわ」

そうして、夕暮れた宿場町の入り口を、エメディアを先頭に、3人が通る。

「止まれ」

当然、兵士達には止められたが……エメディアはにっこり笑って、兵士達の指示に従った。

「……えっ!?あ、あなたは……エメディア姫……!?」

「ええ、そうよ。検問、ご苦労様」

そして当然、兵士達はエメディアに気付く。これほどまでに輝かんばかりの人などそうはいないから、直接エメディアの姿を見たことが数度しか無いような兵士であったとしても、見間違えることは無いだろう。

「どうしたの?こんなところで検問って、何かあったの?」

……エメディアは、ぽかん、とした兵士達相手に、心配そうに……そして、何も知らないかのように振る舞った。

兵士達は、そんなエメディアを見て、困惑し……そして、一番の年長者であろうと思われる兵士が、おずおずと、進み出てきた。

「実は……エメディア様がここを通られることがあれば止めるように、と、仰せつかっておりまして」

「え?お父様が?」

エメディアはあからさまに『今知りました』というかのような驚き方をしてみせて……それから、おろおろする兵士達の前で、考える素振りを見せて……。

「……うーん、もしかしてそれ、お兄様からの指示かしら?」

「は?ええ、まあ……」

「だとしたらそれ、もう撤回されているはずよ。確認してみて」

……そんな嘘を、吐き始めたのである。

「撤回……?え……?」

「ごめんなさい。私が無事に王都を出るまでは、お兄様にも内密にしてあったの。じゃなきゃ、王都に居る密偵に探られちゃうから」

兵士達は、きょとん、としていたが、そんな兵士達に、エメディアは只々、申し訳なさそうに話す。それは、少なくとも、『私達は敵同士ではない』と兵士達に伝える役割は、十分に果たしていた。

「ええと、私達、今晩はここに泊まるわ。急ぐ旅路だから、明日の朝には出発しちゃうけど……何か問題があったら、遠慮なく訪ねてきてね。あ、でも、私のことは内緒よ?町の人が気にするといけないから」

「は、はあ、分かりました……」

「ありがとう。それじゃあ、確認よろしくね」

……そうして、兵士達は『これだけ堂々とされているのだから、本当にそうなのだろう』と納得してしまった様子で、エメディアを通すことにしてしまったらしい。グレイは、『こんなことって、あるか?』と只々困惑していたが……。

「あ、あの、エメディア姫」

だが、グレイとスファルもまた、通ろうとしたところで、兵士がエメディアを呼び止めた。

「ええ。なあに?」

「その……こちらの方々は?」

……そう。

エメディアは、いい。好かれて、信じられて、『そんなものか』と通してもらえる。

だが……スファルまでならまだしも、『嫌われる』グレイまでもが一緒の通ろうとすると、当然、兵士には違和感を抱かれる。

こういう時、グレイの恩恵は非常に厄介だ。『なんとなく』で通してもらえるということが、まず無い。『なんとなく』疑われ、『なんとなく』警戒を呼び起こしてしまう。それが、グレイの恩恵なのだ。

「こちらのオーガの方は、コルザの有力者よ。コルザは魔石の関係でメカニジアとやり取りがある町でしょう?だからついてきてもらうの。護衛としても働いてくれてるわ。彼が居なくて、コルザは困ってるだろうけれど……私は大助かりね!」

だがエメディアは焦らなかった。

まるで、こうなることも予想していたかのように、笑ってスファルを紹介する。そして……。

「それで、大楯の彼は、私の護衛よ。ダンジョンを幾つもクリアしている歴戦の戦士なの。……ちょっと怖く見えるかもしれないけれど、魔物相手にも怯まない、頼れる仲間よ。もう何度も、私の命を救ってくれてる」

グレイも、そんな風に紹介される。グレイは一応、兵士相手に、ぺこ、と会釈しておいた。言葉は発さない。襤褸が出そうなので。

「そ、そうでしたか……」

「ええ。そうなの」

兵士達は、スファルはともかく、グレイの異様な雰囲気には少々、気になるところがあるらしい。だが、エメディアがにこにこと当たり前のようにしているので、それ以上、何も言えない様子である。

「あ、そうだわ。折角だし、皆で一緒に食事でも……いえ、あなた達は職務中だものね……」

「そ、そうですね。我々、職務中ですので、お気持ちだけ……」

「そうね、またの機会にしましょう。じゃあ、お仕事がんばってね!」

……そうして、エメディアがにこにこと去っていくのを、兵士達は困惑したまま、止められずに見送った。スファルは陽気に手を振って兵士達の前を通り過ぎ、グレイもまた、軽く会釈だけして、足早にエメディアを追いかけた。

……そうして、エメディアは兵士達の視線を背中に受けつつも、堂々と宿へ入り、堂々と宿の部屋を取ったのであった。

「……ということで、まあ、あの人達は末端も末端、お兄様の指示を受けた人の指示を受けた人の指示を受けた人達、くらいのものだから……押し切れたわね!」

「見事なもんだ……」

さて。

そうして宿の部屋で荷物を下ろしたところで……グレイは只々、エメディアを褒め称えていた。

「エメディア!お前、大した度胸じゃねえか!自分を殺そうとしてるかもしれねえ奴ら相手に、ああ立ち回れる奴はそう多くない!」

「お褒めに与り光栄だわ。……まあ、彼らが知ってる相手でよかったわね」

「知り合いだったのか?」

「一応、顔は見たことある人達だったの。だから、立場とか、どんな風に普段動いてるかとか、ある程度把握できてて……だから、アレで押し切れるって判断できたわ」

話を聞けば聞くほど、『大したものだ』という感想が滲み出てくる。グレイは、『俺には絶対にできない所業だ……』と、つくづく感心しながら、エメディアを見つめた。

「そういう訳で……まあ、多分、彼らは王都に連絡を取ろうとして、でも当然、私達の出発には間に合わないわ。そのまま見送ってくれることでしょう」

「おおお……」

どうやらエメディアは、相手が間に合わないと分かっていて、『調べてみろ』と言っていたらしい。つまり……調べて、きちんと答えが返ってきたならば、その時は危ない、ということなのだろうが。

「だから、ご飯も堂々と食べましょ!」

そういうことならまあ、エメディアの安全はある程度、守れるだろうか。少なくとも、先程の兵士達はエメディアに好意的であるようだったし……。

「……だが、いいのか。あんたの足取りを残すことには、なった」

しかし、気になるのはエメディアのことである。グレイとしてはどうしても、そこが気になる。自分を慮るあまり、エメディアの危険が増える、というのならば、グレイとしては、それには賛同できない。

「ええ。そんなの気にしてられないもの。でも私、仲間が水をぶっかけられるのは、気にするわ」

「それは……」

……グレイは、何と言ってよいものやら、迷う。

こんなことは今までの人生で一度も無かった。それだけに、どう反応を返せばいいものかもよく分からない。ただ、自分が困惑しているということが分かるだけだ。

「さ。ご飯にしましょう。とはいえ、メカニジアの近くだから、あんまりいいものは期待できないけれどね……」

「メカニジアって飯、まずいのか?」

「そうね……まあ、文化の豊かさよりも、国力の方に全てを割り振っちゃったような国だから……」

……そうして、3人は食堂へ向かうことにした。

グレイはスファルとエメディアに付いていきながら、どうにも、自分の中の困惑を片付けられずに居た。

食堂での食事は、危惧していたほど酷くはなかった。

『メカニジアに近い』とはいえ、まだここはローザテイル国内だ。食事は概ね、今までと同様のものが出てきた。少なくとも、コルザの町に到着する前の、食糧不足の宿場での食事よりはマシなものが食べられたのでよしとする。

そうして満腹になったところで3人は宿に戻り、早々に眠ることになった。明日の朝、出発は早い。明日はいよいよ、メカニジアに突入するのだから、余裕を持った旅程で進みたいところである。

……ということで、グレイとスファルはまたしても同室であるので、2人揃って、さっさと眠る。

眠らないと、いけない。

だがどうにも、グレイの寝つきは悪かった。概ねどこででも即座に寝て、即座に起きられるグレイが、である。

……仕方がないので、グレイは隣のベッドですやすやと案外大人しく寝ているスファルを起こさないようにしつつ、そっと、部屋を抜け出した。

こういう夜は、散歩でもするに限る。

外に出てみれば、星の美しい夜であった。月も満月に近く、それなりに明るい。

グレイは夜目が利く方だ。そうでもなければ、王都の裏通りでは生きていけないので。

……ということで、星と月の光だけでも、それなりに満足に散歩ができる。宿の裏手の草原を歩き、宿場町を囲む柵にもたれて、空を見上げ……。

その時だった。

ふと、グレイの視界の端に、ちらちらと光が走る。

気になって、視線だけ、そちらに動かす。……すると。

……遠く離れた草原の中。そこには、コルザの町の、スファルの屋敷でスファルが投げ飛ばしていたのと同じような……奇妙な兵士の姿が、見えたのである。