軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26話:堂々とあれ*3

グレイは一瞬、迷う。

何せ今、グレイは鎧を纏っておらず、大楯も持っていない。今、この状態で、あの奇妙な兵士の前に出ていったとして、何もできない。そもそも、相手が何人なのかも、グレイには把握しきれていない。1人は居るのが見えているが、その陰に2人3人と居ないとは、言えない。

だが……同時に、あの兵士がここに居る以上、何も無いとは思い難い。今すぐにでも、何か、事が起こるのかもしれない。

そう判断したグレイは……何気ない動作で、ごくごく自然に……散歩を続けた。

その、メカニジアのものと思われる兵士に向かって。

グレイが草を踏みながらのんびりと歩いていけば、メカニジアの兵士は流石に、グレイの姿に気づいたらしい。

……ここで、予想される相手の反応は3通り。1つは、グレイに見つかるまい、と逃げる。1つは、グレイよろしく、何気ないふりでやり過ごそうとする。そして1つは……『目障りなグレイを殺す』。

グレイは緊張しながら、メカニジアの兵士に近付いていく。今この瞬間にも、コルザの町で見たような……あの、矢のように飛ぶ礫のような何かを、食らうかもしれない。

だが、相手を警戒させて、一旦退かせることができれば、それでいい。或いは、情報を持ち帰れれば。或いは……グレイが無事でなかったとしても、ここで大きな騒ぎになって、エメディアやスファルが、起きてくれれば、それで。

グレイが一歩、また一歩、とメカニジアの兵士へ近づいていくにつれ、心臓が嫌な高鳴り方をする。だがそれでも、グレイはまた一歩、一歩、と歩を進め……。

……メカニジアの兵士の眼前まで、やってきた。だが、メカニジアの兵士は、動かない。

「……ん?」

これはおかしいな、と思ったグレイは、メカニジアの兵士をよくよく観察してみる。

「作り物、なのか……?」

……メカニジアの兵士、と思ったものは、動かない。甲冑だけが取り残されているかのような状態で、ただ、そこにある。

この奇妙なものを見て、グレイは首を傾げつつ……ふと、思い出す。

スファルの屋敷で、スファルが殴り飛ばしたメカニジア兵。

それが吹き飛ばされた時、鎧の残骸と、ネジや歯車といったものをぶちまけて……それだけだった、ということを。

グレイはしげしげとメカニジア兵を観察した。先ほど、月の光を反射したのだろうと思われる甲冑を観察してみれば、それは甲冑に見せかけた『体』であることが分かる。

その手に持っている武器は、剣でも槍でも弓でもなく……奇妙な筒のようなものだ。

グレイはそれを見て、『もしかして、あの謎の攻撃はコレか?』と、その筒のようなものを覗き込み……。

「っ!」

途端、メカニジア兵が、動いた。

咄嗟にグレイはメカニジア兵を押し倒し、草の中に組み伏せた。そしてそのまま、武器と思しき筒を取り上げて遠くに放り、同時にメカニジア兵の腕を捻る。

……人間が確実に痛みを覚える程度の強さで捻ってやると、メカニジア兵の腕の内部から『パキン』と軽い破壊音が聞こえた。おや、と思って見てみると、メカニジア兵の腕が、小さく動いて、それからぱたり、と地面に落ちる。……動かせなくなったらしい。随分と脆いことだ。

そうしてメカニジア兵をある程度無力化して、改めて観察する。

……こうしてみると分かるが、やはり、これは人間ではない。

鎧を模した入れ物の中にそれらを動かす機構を仕込んだ、ということだろうか。手足は魔導によるもので動いており、胴体や頭部には更に、それらを制御するのであろう魔導の様子が見て取れる。

こうして見ていくと……メカニジア兵は、実に繊細な魔導の代物であることが分かる。

分解してもっとよく見ればより多くのことが分かるのであろうが、今、この暗さの下では分からない。

グレイは、メカニジア兵の腕を捻った時に分解したのであろう歯車とネジいくつかを拾うと、残りはその場に置き去りにして、宿へ戻った。

……こんな夜中に躊躇われるが、エメディアとスファルには報告しておいた方がいいだろう。

ということで、グレイは部屋に戻って、スファルを起こし、起きないスファルは諦めて、エメディアの部屋の戸を叩いた。

エメディアは幸いにして、それで目を覚ましてくれたので、エメディアを連れて部屋へ戻り、一緒にスファルを起こしにかかる。

……スファルは寝起きが悪いが、それでも、エメディアが起こそうとすれば、グレイがやるよりは多少、起きやすい。やはり、好ましい相手に起こされたら起きたくなるものなのだろう。

また、それでも起きないスファルには……勇ましく、ウサミミが向かっていった。

ウサミミは、寝ているスファルの顔面にむっちりと乗ったのである。

……そしてそのまま5秒もすれば、口と鼻を塞がれたスファルは呼吸ができないことに気付き、起きた。スファルは何が起きたのか分からない様子でぜえぜえと荒く呼吸をしながら周囲を見回しており、一方のウサミミは、エメディアに褒められて誇らしげにぷるんと揺れていた。

「……ってことで、メカニジア兵はどうも、人間じゃないらしいな」

そうしてグレイは、意識もはっきりしたらしいスファルも含め、全員に先程のことを説明した。

拾ってきた歯車とネジを、ばらり、と机の上に置くと、スファルは『おっ、見たことあるぜ、これ』などと言いつつ、歯車の一つを拾い上げてしげしげ眺めた。……屋敷でメカニジア兵を吹き飛ばした時のことを思い出したらしい。

「まあ、そういう訳で、今夜からして既に警戒が必要だな」

「そうね……それは分かったんだけど」

が、一方のエメディアは、何やら不満げである。グレイが首を傾げていると……。

「グレイ。深夜のお散歩を咎める気は無いけれど……1人で危険に首を突っ込みに行ったことについては、咎めさせてもらうわよ」

エメディアは、そんなことを言い出したのである。

「グレイ。あなた、引き返して私達を起こす、ってことも、できたんじゃない?或いは、ただそっと逃げてくるだけだって、できた。……今、あなた、鎧も大楯も身につけてないみたいだけれど、それはお散歩中も、そうだったんでしょう?なら、敵かもしれないものに近付いていくべきじゃなかったと思うわ」

「それは……」

グレイも、言葉に詰まる。グレイも、その危険については思い当たっていたのだから。

だが、それでもいい、と判断した。それだけのことである。それだけのこと、なのだが……。

「あー……悪かったよ。気が急いたんだ」

……グレイは、自分の考えにそっと蓋をしてみせた。

「もう。本当に、気を付けてね……?」

「ああ。もうやらない」

答えつつ、『必要なら、またやるだろうが……』とは、思う。

だが、エメディアはどうも、グレイを損なうことを嫌がっているらしいので……そして、エメディアの願いなら、叶えてやりたいと思ってしまうので……グレイはひとまず、今後、分かりやすく『無茶』をすることは控えよう、と思った。

……慣れない感覚では、あるが。

それから3人は、今後の出方を相談した。

……今からメカニジアに向けて出立してしまうのも手だろう、と思われた。相手の監視かもしれないものがあった以上は、夜闇に紛れて出てしまう、という策は悪くないように思える。

だが、明日からのメカニジアでのあれこれを考えると、今は体を休めておきたかった。しかし、いつ相手が襲い掛かってくるか分からないような状況でゆっくり休むのはそれ相応の危険と隣り合わせであり……。

「……私、こっちで寝るわ。いい?」

「ああ……うん、まあ、仕方ないか……」

……ならばせめて、固まって休んでおいて、危険があったらすぐさま動く、というのが最適であろうと、グレイは判断した。

「お、エメディア。俺のベッドで寝るか?あんたなら俺のベッドに入れてやってもいい!」

「それは結構よ。毛布を持ってきて床で寝るわ」

「やめてくれ。ベッドはあんたが使うんだ」

「ああ?おいグレイ。お前、俺のベッドに入ろうってか?流石にお前を入れてやる趣味はねえぞ?」

「……俺だってあんたのベッドに入る趣味は無いから安心してくれ」

……そうして、ベッドを誰が使うかで幾分揉めたが、最終的には、グレイが床で寝ることで合意が形成された。ただし、そんなグレイには、『今日、寒くねえし要らねえ』とスファルから毛布が進呈されたし、『ウサミミ貸してあげるわ』と、エメディアからは素敵な枕が進呈された。

が、きっと『エメディアと一緒に寝られる!』と思っていたのであろうに不幸にもグレイなどに下げ渡されてしまったウサミミが、あまりにもしょんぼりしていたので、グレイは何やら不憫に思えてきてしまい……グレイはそっと、ウサミミをエメディアのベッドに戻してやった。

ウサミミは、始めこそ驚いたように固まっていたが……グレイが苦笑しながら『おやすみ』とやると、ぺこん、と耳を畳んでお辞儀をした。律儀なスライムである。

そうして、3人同じ部屋で眠って、朝が来た。

グレイも不思議と寝付けてしまい、思いの外、すっきりと目覚めることができた。……ウサミミを助けてやったぞ、という思いが、寝つきを良くしてくれたのかもしれない。そう考えると、ウサミミが可愛く思えてくるので不思議なものである。

「ううん、おはよう……あら?ウサミミ、こっち来ちゃったの?」

そして、そんなウサミミは愛しのエメディアの頬にすりすりと身を寄せて、幸せそうにしている。間違いなく、このウサミミが今、世界で一番幸福なスライムであろう。

「えええ……じゃあ、グレイ、枕が無かったんじゃない?」

「枕くらい、鞄で代用できるさ」

グレイはエメディアに苦笑しつつ、ウサミミに『よかったな』と言ってやった。ウサミミは、ぷるん、と耳を震わせて応えてくれた。まあ、『よかった!』といったところであろう。

それからスファルをなんとか起こして、3人揃って朝食を摂りに出た。

グレイは、『昨日の兵士が来たら面倒だが……』と警戒していたが、幸い、王城の兵士も、メカニジア兵も、姿を見せることは無かった。

とはいえ、警戒するに越したことは無いだろう。3人は手早く朝食を済ませると、早速、宿場を出ることになる。

そうして3人は歩き続け……いよいよ、国境を越えることになる。

ここを越えたらもう、メカニジアだ。グレイは幾分緊張しながら、検問の列に並ぶ。

「ちょっと緊張するわね」

「だな。……よくよく考えたら、あんた、ここで捕まる可能性があるんじゃないのか?」

「その時は逃げるしかないわね」

「やれやれ……」

検問、となると、エメディアがエメディアであることをここで明かさねばならないだろう。

アイオン・シルヴァスターの言葉を信じるなら、少なくとも彼は『エメディアの到着を待っている』ということになるのだろうが、メカニジアの全員がそうとは思えない。

……と、グレイは考え、周囲に視線を向けては脱出経路を確認し、恩恵の影響を強く受けそうな人々が多そうな位置を確認し、いざという時にエメディアだけでも逃がせるように、と身構えていた。

だが。

「おお!エメディア姫!」

そんなグレイ達に、頭上から声が降ってくる。

それは、門の見張り塔から聞こえてきていた。そして……。

「お待ちしておりました!ようこそ、メカニジアへ!」

……そこには、白銀の鎧に身を固めた、アイオン・シルヴァスターが居たのである。

どうやら、彼の『エメディアの到着を待つ』という言葉は、嘘偽りなく本当であったらしい。

いっそ大した奴だ、とグレイはちょっと感心した。