軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23話:野宿、焚火*2

「おい、スファル。交代だ」

「んあ?……ああ……んお」

「寝るな。起きろ」

それから数時間後。グレイは、自分の交代の時間を幾分過ぎてから、スファルを起こしに向かった。

……スファルは、寝起きが良い性質ではないようだ。起こしても再び夢の中へと戻っていきそうなオーガを何とか起こして、焚火の傍まで連れていく。

更に、眠気覚ましに、と、茶を淹れてやって飲ませると、ようやく少々、目が覚めてきたらしい。

とはいえ、ともすればうつらうつらし始めそうなこのオーガに見張りを任せていくのは少々怖い。幸か不幸か、エメディアとの会話があったせいで、グレイには眠気が訪れていない。未だに。

「スファル。寝るな。あんたが見張りなんだぞ」

「んおお……わーってんだよ……んなこたあ……ふわあ」

……仕方がないので、グレイはもうしばらく、スファルに付き合って焚火の傍にいることにした。

そうしてしばらく、グレイはスファルと一緒に焚火を囲んで、茶を啜りつつ見張りをしてた。見張るものは洞窟の外であり、同時にスファルであったが。

スファルも流石に、少しするとまともに喋れるようになってきて、更にもう少しすると、もう幾分しっかりしてきた。

「……お前、義理堅い奴だな……」

「は?……なんだ、まだあんた、寝ぼけてるのか」

幾分しっかりしてきたスファルが茶のカップ片手にそんなことを言い出したので、グレイは『ああ、これはまだ交代できそうにないぞ』とげんなりした。

「寝ぼけてんじゃねえよ……。ただ、俺を置いて寝ちまってもいいだろうに、って思うだけだ……」

「……こんな眠そうな奴に見張りを任せられるほど、豪胆じゃないんでね」

「そうかあ……真面目だなあ……。嫌われてる、ってのに……」

……スファルはもしかすると、『グレイの恩恵に負けない!』というのをやっているのかもしれない。グレイは『またアレが始まるのか……?』とげんなりしてきたが……。

「俺は、真面目じゃあ、ねえからなあ……。生まれた時から、そうだ……」

スファルが幾分はっきりしてきた顔でそんなことを呟き始めたので、聞いてやらねばなるまい。

「……俺は親父の子じゃねえんだろうなあ。分かっちゃ、いるんだ……」

……しっかり起きている時には自信に満ち溢れ、自信を失いかけても虚勢で堂々としているようなこのオーガも、寝起きの時には弱気であるらしい。

「俺の親父には、弟が居て……そいつが、粗暴で、馬鹿で、どうしようもなかったんだとよ。親父にも一族にも、何度も、迷惑かけてやがったらしい」

スファルがぼんやりと話し始めるのを、グレイはただ、聞くしかない。……まだ眠気はやってこないし、ここで寝に帰るのも不義理だろうし。

「で、親父は最初の妻……俺の生みの親とはもうほとんど顔を合わせてねえ。新しく娶った妻、ダハブの生みの親の方が、正妻扱いでな……」

スファルの言葉を聞いて、『ああ、そういや、父と弟は出てきたが、母の話は初めて聞いたな』とグレイは思い出す。

……どうやら、『母』が2人居るが故に、話に出てこなかったようだ。

「……不貞が原因だったらしい。相手は親父の弟だったって噂だ。あくまでも、噂だけどな。親父の弟は一族から追放されたから、俺はそいつの顔も知らねえが……俺はそいつに似てるらしい」

……スファルは自分の髪をいじいじ、と指先で弄って、それを見つめている。……彼の赤い髪は、確かに、あの老オーガとも、弟とも、似ていなかった。……あの2人は金髪だったように思う。その中でスファルだけが赤い髪をしているものだから、よく目立った。

「親父からしてみりゃ、自分に迷惑かけ通しだった野郎と、自分を裏切った妻との間の子だ。そりゃあ……嫌いにもなるよなあ。自分の子じゃ、ねえんだし……」

そうしてスファルがため息を吐くのに、グレイは何と声をかけてよいものやら決めあぐねて、『そうか』とか何とか、零すことしかできない。

一方、スファルはそんなグレイの顔も見るでもなく、ただ焚火をつっついて、どこかぼんやりと言葉を零すばかりだ。

「だから……その、お前のクソッタレな『恩恵』の話を聞いた時、俺のことみてえに思ったんだよ。ちょっとだけな」

「……そうかい」

……グレイには、親が居ない。

否、気づいたら居なかった、ということであって、どこかに存在はしている、或いはしていたのだろうが……少なくとも、自分の血縁と共に過ごした記憶は、グレイの中には無い。

それ故に苦労したことは山のようにあったが……もし、グレイの身近に親が居て、共に過ごしていたとしたら……どうだっただろうか。

身近で、本来ならば自分を愛するはずの存在が自分を嫌っている、と日々感じながら過ごすことになっていたとしたら。

「も、勿論、俺はお前とは違う。誇り高きオーガの一族の、スファル・トゥルバだ。民には慕われてるし、よく働くし……いや、お前もよく働くか……」

……グレイが思考に沈みかけた頃、スファルもようやく、眠気が薄れてきたらしい。話し方がはっきりしてきたことだし、グレイが『スファルがあまりに寝ぼけているので、自分の睡眠時間を削ってスファルに付き合ってやっている』ということを思い出したようだし……。

「ああ……うん、悪かったな。お前を余計に働かせちまった」

「いや、気にするなよ。あんまり眠くなかったんだ」

そろそろスファルも見張りをこなせるくらいにはなっただろう、と判断してグレイが立ち上がると、スファルはそんなグレイをしげしげ、と眺めて……。

「……つくづく、お前がそのクソッタレな『恩恵』ナシだったら、と思うぜ」

……『やっぱりいけすかねえのはいけすかねえ』と言いたげな顔で、そんなことを言った。

「そりゃどうも」

そんなスファルの言葉が妙に嬉しいものだから、グレイはにやりと笑って、自分の寝床へ向かう。

……よく眠れそうな気がする。

「おーら!朝だぜ!」

そうして、スファルの元気いっぱいな声に起こされたグレイは、さっさと目覚めて身支度を簡単に整えた。

そうしている間に、エメディアがもそもそ、と起き上がって、むにゅ、と伸びをする。……エメディアの隣では、ウサミミがやはり、うに、と耳を伸ばして伸びを真似ていた。健気である。

「はあ……野宿って、案外、よく眠れちゃうものなのね。体がちょっと痛いけれど……こういうのって、慣れれば平気になるものなのかしら」

肩をぐるぐると回してみたり、立ち上がって上体を反らしてみたりしつつ、エメディアは『体のここら辺が痛い……』とやっていた。……いくら枯れ草を敷き詰めたからといって、野宿の寝床でそう疲れが取れるものでもないのだ。

「慣れたって、きちんとしたベッドで眠った方が疲れは取れるもんだ」

「そういうもの?やっぱり?野宿って憧れだったけれど、そんなにいいものでもないのかもね……」

エメディアが『野宿』というものに抱いていたらしい憧れに少々苦笑しつつ、グレイは、『これで今後は、喜び勇んで野宿するようなことにはならないでくれるといいんだが』と思う。

「……でも、見張りの時に眺めた星空がとっても綺麗だったわ。焚火をつつきながら夜を過ごすのって、とっても素敵」

「そうか。ならよかったよ」

だが、このお姫様は野宿をあれこれ楽しんでいたらしい。体が痛くとも、『素敵だった』と言えてしまうのは、エメディアならではだろう。この、好奇心と探求心に満ち溢れた精神には恐れ入る。

「ほら!お前らさっさと出てこいよ!飯、俺1人で食っちまうぞ!」

そうこうしている内に、洞窟の外からはスファルの声が聞こえてくる。

……グレイとエメディアは顔を見合わせて、『あいつが食事の支度を……?』と首を傾げたが……。

「すごいわ。本当に、すごいわ」

「だろ?俺は狩りもできるオーガだからな!」

……なんと。スファルはグレイの携帯鍋を勝手に使って、鳥のスープを拵えていた。

鳥は、山鳥がそこらを飛んでいたのを、投石で落としたらしい。大したものである。……オーガとは皆、こうまで身体能力に優れているのであろうか。決して、そんなことは無いのだろうと思われるが……。

「……スファル。山鳥の類を煮る時には、内臓は別にした方がいい」

「あ?食っちまえば全部一緒だろ」

「あと、塩とか入れた方がいいと思うわ」

……そして、オーガとは皆、こうまで料理下手なのだろうか。決してそんなことは無いと思いたいが……。

スファルが作った鳥のスープは、まあ、酷い味であった。鳥のスープというよりは、『臓物と血に塗れた肉と骨を雑多に水で煮込んだもの』であったので。

……だが、腿肉を焚火でそのまま炙ったものについては美味しく食べられたので、それで小腹を満たせた。

そして酷い味のスープは、味を然程気にしないらしいスファルと、味を気にせず物を食べる訓練を積んでいるグレイが食べきった。エメディアは申し訳なさそうにしていたが、流石にこれをエメディアに食べさせるわけにはいかないのだ。

だが、最初にエメディアの分として取り分けられてしまった分については、手を出すのが憚られたのだが……ウサミミが食べた。

……実に健気なスライムである。

そうして、朝食を終えた後は、早速移動し始める。

「このままメカニジアに向かうよりは、迂回してでも警戒の薄い宿場を目指した方がいいだろうな。まだ、時間も早いから間に合うだろ」

「ああ……じゃあ、こっちの方から行きましょうか」

「おっ。いいんじゃねえか?へへ、そこの町は俺の知り合いがいる。融通は利かせてもらえるだろうよ」

幸いにして、早々に進路も決まった。3人は意気揚々と、次の宿場を目指して歩いていく。

時に険しい山道を進みながらではあったが、エメディアが咲く花を見つけて喜び、空を飛ぶ鳥を興味深く見つめ、木漏れ日の下、吹き渡る涼やかな風に髪を揺らして微笑み……とやっていたので、グレイとスファルも、飽きることが無かった。

エメディアは、美しいものや興味深いものを見つけ、それらを楽しむことが得意であるらしい。同じ景色を見ているはずのグレイは、エメディアに教えられて初めて花や小鳥を見つけ、それらを美しいと思った。

……エメディアの目には、世界がきらきらと、美しく見えているのだろう。そんな彼女の感性を、そしてその感性でいられた境遇を、少々妬ましく思わないでもなかったが……妬むより先に、エメディアの喜びを共有できることを嬉しいと思った。

これも、エメディアの『恩恵』によるものなのだろうか。

そうして、思いの外楽しく旅路を征き……3人は、日が沈む前に、宿場に到着したのであった。

「食料があるわ!」

「ベッドもあるらしい。最高だな」

「は?そりゃ宿場なんだからあるだろ……」

……スファルは首を傾げていたが、グレイとエメディアは今のところ、コルザの町でしか、まともに両方揃った宿に泊まっていないのである。2人にとっては、喜びもひとしおであった。

……とはいえ。

「あっ……城の兵士だわ」

「……食事は部屋で摂るしかなさそうだな」

……やはり、これはどうしようもない。

エメディアを探す者達は、多いようである。