軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21話:厄介払い*4

「スファル!」

そうして、エメディアとグレイは走って、走って……その先を歩いていたスファルに、呼びかける。

だがスファルは、呼ばれたことに気付いてはいるだろうに、振り向くこともなく、ただ、歩き続けていた。……話しかけられたくない、と言うかのように。

スファルのこの様子には、町の者達も困惑していた。『ついさっきダンジョンクリアの功績を引っ提げて父に会いに行ったはずのスファルが、険しい表情で屋敷を出てきて、何も喋らない』となると、いよいよ何かがあったことだけは伝わることだろう。

ぴりぴりとした空気を纏ったスファルに話しかける者は居ない。今のスファルに触れれば、それだけで怪我をしかねないような、そんな危うさがあったからだ。

……だが。

「あんた、歩くのが速いな」

そんなスファルに、グレイが追い付いて……馴れ馴れしく、スファルの肩に腕を回してやった。

スファルは、ぎょっとしていた。それを見て、グレイは緊張しつつも、にやり、と笑ってみせてやる。

……元々嫌われている奴は、こういう時に強い。失うものなど何もないから、強気な姿勢で挑める。自分が傷つくことさえ、恐れなければ。

「そうね。追いつくだけでもちょっと疲れちゃった」

更に、エメディアも追い付いてきて、スファルに笑いかけた。……いよいよ、スファルは困惑し始めた。2人の意図するところがまるで分からない、というように。

……そして。

「……で、次の目的地だけれど。もう、メカニジアに突入するけれど、いい?」

「は?」

エメディアは、『スファルが同行する前提』で話を進め……またもスファルを困惑させるのだった。

「お、おい、何を……」

おろおろ、としながら、スファルが足を止める。流石に、エメディアを無下にすることは、今の彼にもできなかったらしい。エメディアの声を聴いて気持ちが和らいだのか、スファルが纏っていた緊張感は、すっかり緩んでいる。

「何をも何も、あなた、行くアテがあるの?無いでしょ?なら、私達と一緒に行かない?どうせ旅するなら、見知った相手と一緒の方がいいじゃない?」

そしてそこへ叩きこまれる、エメディアの言葉。これを理解するまでに、スファルは少々の時間を有したが……やがて、自分の状況を理解するようになる。

「ど、同情か?なら……」

「そうね。同情よ。つまり、『同じ気分になれる相手』ってこと!」

スファルが『同情なら止せ』とでも言いたかったであろうところを、エメディアは真っ向から捻じ伏せにかかった。

「私、さっきの連中、気に食わないわ!あなたのお父様と弟さんも含めて、ね!……それで、あなたもそうなんでしょ?なら、それだけでも手を組むにあたって、安心じゃない?」

スファルは、ぽかん、としている。グレイも、『そう来るか……』と、呆れと感心と憧れの混ざったような気分になってきた。

「まあ、あなた、いけ好かないところはあるけれど、でも、悪い人じゃ、なさそうだし。折角なら、これも何かの縁ってことで。ええと、同じ相手に命を狙われた者同士、ってところで、どう?利害は一致するんじゃない?」

そうしてエメディアがスファルの目の前に立って笑いかければ、スファルはいよいよ、まごまごと俯く。

「なあ、スファル。あんた、俺のことは気に食わないだろうが、こんな機会は滅多にないだろ?乗るべきだ。……彼女の旅に付き合える奴なんて、そうは居ない」

「それは……そうだが……」

更に、グレイもエメディアをダシにして横からつついてやれば、スファルはまた迷うような顔をしていたが……。

「……折角なら、旅に出て、あんたの功績を増やすなり、もっといい場所を見つけるなり、すりゃいいさ。案外、人はどこででも生きていけるもんだ。人に慕われる奴なら、尚更そうだ」

グレイがそう言えば、スファルは何やら、思うところがあったらしかった。

……そして。

「……食堂に寄りてえ」

スファルは、そう言った。その表情を見るに、何やら覚悟を決めたようである。

「長く、この町を空けることになる。……なら、挨拶はしておくべきだからな」

「それって……つまり、一緒に来てくれる、ってことね!?なら早速、出発しましょう!」

エメディアが歓喜の声を上げて歩き始める。グレイはそれについていきつつ、スファルに『まあ、よろしく』と笑いかけてみた。スファルは、未だ少々硬い表情ではあったが、『ああ』と応えて、不器用に笑った。

……スファルとしてもそうなのだろうが、グレイとしても、こうして仲間が増えるのは、初めての経験である。

自分が居るようなパーティにわざわざ加入してくれる奴は極めて少ない。ましてや、『よろしくやってくれる』相手は更に少ないのだ。

……グレイは、旅が随分と楽しみになってきた。

そうして、グレイとエメディア、そしてスファルの3人は旅立った。

スファルは、町の多くの者達に大いに惜しまれ、引き留められていたが……それでも、町の者達もまた、『この町に居たら、スファルは酷い目に遭うんだろう』ということはなんとなく、分かっていたらしい。彼ら親子の不仲については、皆の良く知るところであったようだ。だから最後には、全員が快く送り出してくれた。

「あんた、慕われてたんだな」

「ああ……そうだったな」

町の者達の声援を背中に受けながら、スファルは自信を取り戻したような顔をしていた。……自分自身の価値を思い出したのだろう。

「よぉし……あいつらの期待に応えなきゃ、ならねえ」

スファルは、にやり、と笑って、拳と掌を打ち合わせ、ぱん、といい音をさせ……元気に、宣言した。

「メカニジアをぶっ潰すぜ!」

「ちょっと待ってね。ぶっ潰しに行くわけじゃないのよ。まあ、結果としてそうならないとも限らないんだけれど……」

「は?」

「和平交渉もとい、脅しをかけに行くだけだ。その後、ぶっ潰すことになりかねないらしいが」

……スファルは、エメディアとグレイの説明を聞いて、『んだよ、つまんねえなぁ』と、何とも野蛮なぼやきを漏らした。

だが、エメディアとグレイの表情は、明るい。

……魔石の産地、コルザの有力者であり、戦士としての実力もあるオーガが1人、仲間に加わったのだ。

メカニジアへ圧力をかけるには、これ以上ない逸材であろう!

……そうして、3人はメカニジアへの道を明るく進んでいった。

主には、エメディアが現状の説明をしたり、スファルが質問したりしながらの道中となった。

そんな中、スファルは、グレイに対してやはり嫌悪感がある様子であったが……。

「クソッタレな『恩恵』を受けながらも戦ってる。不屈の戦士はオーガの鑑だ!俺はお前を気に入った!」

「そうかい。それは嬉しいね」

「それから、大楯持ちだ。尊敬に値する。オーガは、仲間のために身を挺する奴には敬意を払うんだ……」

「へえ。そういうもんか」

「それで……えーと、人間にしては、よく鍛えたいい体をしてる。オーガと比べたら貧相だがな、人間としては、悪くない。身長もある。オーガと比べりゃ小さいが、まあ、人間にしては、よく育った方だな……」

「そいつはどうも」

「あと……えーと……そうだ、中々の男前だ。絶世の美男……とは、言えねえが……沼の草地みたいな目……燃え殻みたいな髪……も、悪くない色だ。うん……その、まあ、悪くない。悪くないだろう」

「……ああ、お褒めに与って嬉しいよ」

……スファルが、何とも厳しい誉め言葉を重ねていくのを、グレイは何とも言えない気持ちで見守っている。

スファルが無理をしているのは、明らかだ。スファルの表情を見ればそれがはっきりと分かる。

「……ぐあああああ!駄目だ!どうにも……どうにも、いけ好かねえ!」

そうして結局、スファルは頭を掻きむしることになった。

「ああよかった。あんたの頭がおかしくなったのかと思ったよ」

「ンだと!?人が折角!テメエみてえなクソッタレな野郎と仲良くしてやろうとしてんのに!」

スファルは必死にやってくれているのだろうが、それはどうにも、グレイにとっては居心地が悪い。……褒められると、なんとも居心地が悪いのだ。容姿まであれこれ褒められると、いっそぞっとする程だ。

スファルが『もう褒めるのなんざ、止めだ!』と叫んでいるのを聞いて、グレイとしてはもう、苦笑するしかない。

「大丈夫よ、スファル。グレイの好きなところなんて、すぐに見つかるわ!」

が、エメディアは非常に前向きであった。グレイにとっては、少々嫌なことに。

「そういうもんかぁ……?」

「ええ。私はもう、グレイのこと、大好きよ!」

……グレイは、ぎょっとした。『大好きよ』など……揶揄いや皮肉以外で言われたことが無かったので。

「それから……そうねえ」

が、グレイの困惑を他所に、エメディアは少し考えて……スファルに笑いかけた。

「具体的に、グレイのどこが『気に入らない』のか、考えてみるといいかも」

「は?んなもん……」

スファルはすぐに何か言おうとして……妙な顔をして視線を斜め上の方に彷徨わせ……そして、何やら気づいたらしい。

「……ほーう、成程。成程な。そうか、分かってきたぞ……?」

勝手に納得し始めたスファルは、ふんふん、と頷いて……グレイを見下ろした。

「……よくよく考えると、別に、お前、悪い奴じゃ、ねえな……?」

「……まあ、そう言ってもらえると嬉しいが」

グレイは、『何の話だ?』と思いつつ、スファルと、何やら嬉しそうなエメディアとを見ていたが……。

「そうか。これがクソッタレな『恩恵』のせい、って訳だな。成程……」

「そうなのよ。グレイのことを『嫌いになる』っていうのは……何の根拠も無いの。ただ、なんとなく嫌な気がするだけ。私達の好みや信条が変わる訳でもないから、『ただ嫌いな気がするだけ』って気づければ、この恩恵には抗えるわ」

「……そうなのか」

グレイは、何やら非常に不思議な気分でエメディアの話を聞いていた。

自分の『恩恵』がそういうものだとは、グレイは知らなかったのだ。

……嫌われ、疎まれて生きてきたグレイには、そもそも『あなたは私のことをどう思っていますか』などと詳しく聞く機会が無かったのだ。

精々、『魔力が多い奴の方が、俺を嫌わないでいてくれるようだ』という程度のことを察する程度にしか情報を得られなかったし、それについても、『魔法への抵抗が得意だからからかもしれないし、単に魔法使いの方が盾役をありがたがってくれるってだけかもしれない』という程度にしか思っていなかった。

「えっ?あなた、それ、知らなかったの?自分のことなのに?」

「自分のことじゃないから分からないんだ。俺の恩恵で他の奴がどう思うかなんて、分かる訳がないだろ?」

「それもそうね。うーん……じゃあ、グレイ、今まであなた、どうしてたの?」

「どうもしてなかったさ」

グレイは、『まさか、こんなことになるとはな』と思いながら、空を仰ぐ。

強い風に千切られた雲がたなびく空は何とも清々しいが……どこか落ち着かない。グレイは、曇天や雨天の方が、なんとなく落ち着く性質である。

「それじゃあ、これからは『どうにかする』ことになるわね、グレイ?」

「そうかもな」

「俺は『恩恵』なんざの指図は受けねえからな!覚えとけよ!」

「ああ、そうするよ」

……つくづく、妙なことになったものだ、とグレイは思う。つい5日前には想像もしなかったことだが……こんなこともあるんだな、と、グレイは只々、新鮮な気分でエメディアとスファルの話を聞いていた。

……グレイは少しばかり、浮足立っていたかもしれない。何せ、こんなことは、人生で初めてだったから。

だが、数時間後。グレイの浮足立った気分は、すっかり地上へ戻ってきた。

何せ……。

「今晩は、野宿よ!」

「嘘だろ?」

……グレイ達は、宿場に辿り着けなかったからである!