軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16話:鉱山の底へ*4

「壊してるはずなのよ。なのに復活したの!」

「そうか……」

グレイはエメディアの話を聞きつつ、目の前で復活を遂げているゴーレムを見上げて、『厄介だ』と苦い顔をした。

……この手の、『再生する』魔物は時々、見ることがある。とにかく耐久力があるので厄介だ。大抵は、何度も何度も殺している内に再生するために使う魔力が尽きて復活できなくなるのだが……それまでの間、グレイが耐え続けることになるので、この手の敵にはいい思い出が無い。

更に、今回は更に酷い。何せ、このゴーレムは周囲の石を取り込んで再生するらしく、そして、ここは魔石の鉱山から生まれたダンジョンだ。

ゴーレムは次々に魔石を取り込んで自分の魔力を充填できてしまうため、魔力が尽きることが無い。魔力が尽きる時は、ここら一体の鉱山が枯れた時だろう。そして当然、そんな時までグレイの体力が持つはずがないのだ。

「おい、グレイ!何があっ……」

そうして、そこにスファルも追い付いてきた。のだが……彼は、エメディアを見つけて、『おお……』と歓声を漏らす。ゴーレムへの危機感より、エメディアへの好意の方が強いらしい。つくづく現金な奴だ。

「えっ……ちょ、ちょっと、グレイ。彼も一緒だったの?」

「ああ。紹介しよう。スファルだ。なんでも、『恩恵』というものが嫌いらしく、恩恵の指図を受けるのは嫌だから俺のことを好きになろうと努力中らしい」

「えっ!?ど、どういうこと!?」

グレイがスファルを紹介してみたところ、案の定、エメディアには困惑されてしまった。当然だろう。何せ、グレイ自身も未だに困惑している。

「あー……つまり、変わった人、ってことね……?」

「概ねその理解でいいだろうな」

エメディアは何とも言えない顔でスファルをちらりと見て、ちょこ、と会釈した。スファルは嬉しそうににやついている。グレイは頭を抱えたい気分になってきた。

「で?俺はあのデカブツをぶっ壊してくりゃあいいってことか?」

そうして、エメディアと再会していよいよ元気なスファルは、早速やる気であるらしい。グレイは、『まあ、こういうところはこいつの美点の1つなのかもしれない……』と深い理解を示す一方で、『それだと解決にはならないだろうな』とも思っている。

「ただ壊してもまた復活されるだろうな。まあ、あんたの体力が無尽蔵だっていうなら、一回破壊しておいてもらえると、こっちは楽だが……」

「復活?……ああ、そういう魔物かよ」

グレイが簡単に説明してやれば、それだけでも一応、スファルは『あのゴーレムがどういう敵か』を理解してくれたらしい。スファルはここら一体の魔物と戦っていた、というので、この手の魔物のことも多少は分かるのだろう。

「だが、徹底的にぶっ壊してやりゃ、再生もできなくなるだろ?な?」

「それが、ダメだったの。……相手の魔力中枢を叩いたから、復活のために魔法を動かすこともできなくなったはず……だったと、思ったんだけれどね……」

……が、エメディアの言葉を聞いて、スファルは『はあ?』と首を傾げ始めてしまった。魔法のことについては、てんで駄目らしい。

「魔力中枢、というのは、魔力を使う生き物全てが持つ器官よ。……まあ、実態がある訳じゃないから、『持つ』という言い方は変かもしれないけれど」

これは共通の見解を持っておかねば、と危機感を抱いたらしいエメディアが、早速、説明してくれる。

「そこに変調があれば、魔力を操ることができなくなる。徹底的に破壊されれば、生命維持のために必要な魔力の扱いすらできなくなるから、死ぬわ」

「まあ、脳をぐちゃぐちゃに破壊されるようなものか」

「げっ……」

スファルは『脳をぐちゃぐちゃ』でようやく想像ができたようだが……エメディアの魔法というのは、そういうものなのだ。

魔力を大量に注ぎ込めば、魔力を操る器官は破裂する。そうすると、生命維持に使う魔力すら操れなくなり、その生き物は死ぬ。そういうことだ。

つまり……。

「……だから、おかしいの。あのゴーレムは、魔力を扱って、ああいう体を動かしているわけでしょう?なのに、そこに魔力を注ぎこんでもまだ動く、って……」

エメディアは焦燥を表情と声に露わにしながらため息を吐いた。

「本当に、不死身なのかも……」

「……成程な」

魔力中枢をやられて死なない魔物は居ない。特に、ゴーレムのように、魔力で体を構築しているようなものは、尚更そうだ。

魔力自体が不足するのではなく、魔力を扱えなくなって死ぬはずのそれが、まだ動いている、というのなら……答えは限られる。

「ってことは、本体は別に居るんだな」

グレイは、真っ先にその可能性を疑ってかかる。

「別、に……?」

「ああ。時々居るだろ。ローパーの類とかは、根っこが繋がってて、遠く離れたところに本体があったりする」

グレイが説明するも、エメディアもスファルも、ピンと来ていない様子である。

……かくいうグレイも、『本体とは別のところに本体に見えるものがある』という状況にそう多く遭遇しているわけではない。あくまでも、そうした例を知っていないでもない、というだけだ。

だが、疑ってかかるならこれくらいしかもう無い。これでなかったなら、それこそ、本当に『不死身のゴーレム』である、というくらいしか考えられない。

「……じゃあ、本体があるとしたら、どこかしら」

「俺なら、隠しておく。もっと深い位置に」

「そうよね。私もそう思うわ。でも、本体がどういうものかもよく分からない訳でしょう?そんなものを見つけ出して、狙うなんてこと……」

エメディアは、難しい顔で考え始めた。

……彼女が悩むのも、無理はない。『どこにあるか分からない本体を探知して潰す』というのは……非常に、困難だ。特に、今の、この状況においては。

何せ、ただ強い魔力を探知しようにも、周囲一帯は魔石の塊だ。魔力だらけの中、『本体』がどのような魔力を持つのかもよく分からないまま叩く、というのは、まるで魚群の中から目当ての一匹を見つけ出して釣り上げるようなものだろう。

だが。

「ダンジョンの核も、恐らく本体と共に在る」

グレイがそう告げれば、エメディアは、はっとした。

「だから、あんたは『ゴーレムの本体』じゃなくて……『ダンジョンの核』を探せばいい」

……そう。

ほんの僅かな違いではあろうが……エメディアは、どんな形をしているか分からない『ゴーレムの本体』の魔力を狙うのではなく、一応、形や大きさを知っている『ダンジョンの核』の魔力を狙えばいい。

それにしたって、難しすぎることではあろうが……。

エメディアはまた難しい顔で少し唸った後……よし、と、頷いた。

「……グレイ。あいつの相手を頼んでもいい?」

「おいおい!俺も居るんだぜ!?」

「ああ……そうだったわね。じゃあ、2人に頼むわ」

エメディアは未だ、スファルに対してよい印象は持っていないようである。……グレイとしても、ただ『情が湧いた』ぐらいの相手ではあるのでエメディアを非難するつもりは全く無い。だが……先程まで見てきたスファルの働きぶりを考えれば、まあ、ここで協力できるのは幸運だと言える。

「私は、『本体』を探す。魔法で動くゴーレムなら、絶対に、魔力を探知できるはずだもの。探して……一気に、潰すわ」

「ああ分かった。頼む」

「よく分からねえが、あのゴーレムをぶっ壊せばいいってことか?よぉし、なら俺がやってやろうじゃねえか」

……そうして、覚悟を決めたらしいエメディアと、よく分かってはいないらしいものの協力はしてくれるらしいスファルと共に、グレイもまた動き出す。

あのゴーレムを破壊して、今度こそ、このダンジョンをクリアするのだ。

さて。

グレイは、戸惑っていた。

というのも……こんな戦い方は、初めてだったからだ。

相手はゴーレム。自我というものが薄く、グレイのことを『嫌って』くれるにせよ、それが薄い相手だ。

対して、こちらはグレイのみならず、スファルが居る。

……ゴーレムから見て脅威であるのは、グレイではなく、スファルなのだ。

「ほーらこっちだデカブツ!さっさと俺に脳天叩き割られてくたばりな!」

叫び、吠え、そして跳び回ってゴーレムを翻弄するスファルは、間違いなく、ゴーレムの注意を誰よりも引いていた。グレイなんて居なくても、彼は1人で十分にやれているのである。

グレイの仕事は、敵の注意を引くことだ。誰よりも嫌われ、誰よりも狙われる。そして、それら全てを防ぐ。それがグレイの仕事であった。

だが今、そのグレイの仕事が脅かされているのである。グレイは今、半ば途方に暮れていた。『こいつは、いよいよ俺なんか要らなくなったな』と。

……だから、グレイは大楯を構え……ゴーレムに突進した。

普段ならば、こんなデカブツ相手に突進なんてしない。大楯で弾き飛ばして転倒させられるような、ゴブリンのような相手ならいざ知らず、ゴーレムのようなデカブツ相手では、相手の注意を引くだけ引いても、その後、こちらに不利な姿勢で一撃貰うことが確実だからだ。

……だが今は、とにかく相手の注意を引きたかった。

自分の存在意義が揺らぎかねないこの状況において、グレイは少しでも、相手を『自分の土俵』に引っ張り込みたい。今はただ、スファルの独壇場だ。そこに一枚、噛みたい。それが、グレイの仕事だから。

……そうして、グレイの大楯が、ゴーレムの脚を揺らす。

揺らして、だが、それだけだ。当然だ。グレイはただ、盾役である。こうしたデカブツ相手を倒す決定打は、何も持ち合わせていない。

ただ、ちょっかいをかけて、嫌がられて、疎まれて……攻撃されて、受け止める。煽って、馬鹿にして……そして、味方がどうにかしてくれることを期待する。グレイの戦いは常に、仲間任せなのだ。

……だが。

「っくそ!礼は言わねえぞ!」

スファルがそんなことを叫んで、ゴーレムの拳が落ちたほんの一歩分隣の位置から飛び退いた。

……どうやら、スファルは今、一撃貰いそうになっていたらしい。あれだけ派手に動ける奴がそうなるのか、と、グレイは何やら不思議な気持ちになったが……考えてみれば、当然だろう。あれだけ大立ち回りしているのだから、体力の消耗もあるのだろうし……それ以上に、『読まれて』きているのだ。

そうしてグレイは、気づいた。

……敵の注意を常に自分だけに集中させ続けることだけが、『注意を引く』ことではないのだな、と。

……恐らく、ずっと自分の攻撃を受け止め続けている奴よりも……『ここぞ』という所でだけ横槍を入れてくる奴の方が、嫌われる。