軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15話:鉱山の底へ*3

「おい、グレイ!届きそうか!?」

「無茶言うな。斧槍の長さが10倍だったとしても届かない高さだぞ」

「なら投げ上げるか!?」

「勘弁してくれ。この高さを投げ上げられたら死にかねない」

……奇妙なことに。

今、グレイはスファルの肩に担がれて、『上に戻れそうか?』とやっているところである。

実に奇妙なことになった。グレイは、『どうしてこうなったんだ』と途方に暮れる気分であるが……一方のスファルは、無理矢理に元気を出したいところであるらしい。

「あー……その、無理するな。俺に触るの、嫌だろ。ほら見ろ、お前、鳥肌が立ってるぞ」

「うるせえ!俺はクソッタレの『恩恵』の指図なんざ受けねえ!」

……これである。

グレイは、『こういう奴も、世の中には居るんだな……』と、しみじみ、思った。もっと別の形で知りたかった例である。

どうやらスファルは、グレイへの嫌悪感より、『恩恵』への嫌悪感が勝るらしい。それ故に、今、こうなってしまっており……。

「お前が『嫌われる』っつうんなら……俺はお前を好きになってやる!」

「おお……そいつはどうも……」

グレイは、何とも言えない恐怖心のようなものを覚えつつ、曖昧に笑った。

……奇妙なことになった。本当に!

が、ここでスファルの協力を得られるというのなら、それはそれでありがたいことである。

「あー……その、協力してくれるっていうんなら、エメディアを待ってくれないか」

何せ、グレイの方も訳ありだ。こればかりはどうにも、譲れない。

「エメディア?……もしかして、お前の連れか?あの、とんでもなく可愛い、上玉の女か……?」

「ああ、そうだ」

グレイは、『成程、エメディアはとんでもなく可愛い、ときたか』と頷きつつ、案外素直なこのオーガにどう説明したものか、と考え……結局、必要なところだけ話すことにした。

「彼女が、ダンジョンの核を欲してる。そのために俺達はここへ来たんだ」

「へえ、そうか……」

国同士のあれこれだの、エメディアが王女様であることだの、そんなことは話さない。ましてや、『エメディアは好かれる恩恵持ちでな』などとは話さない。ただ目的だけ共有できていれば、一時の協力には十分だろう。

「……実のところ、ダンジョンの核はな、俺も欲しいんだよ。だから俺はここに来たんだぞ」

だが、スファルは難しい顔でそんなことを言う。

やっぱりか、と思いながら、グレイはスファルの言葉を聞く。

「ダハブに言わせりゃ、この大地は今、ダンジョンに力を奪われてるところなんだってよ。このままいくと、大地の恵みは枯れ果てちまう。だから、ダンジョンをぶっ潰す必要があるんだ!俺の手で!」

スファルは怒りにも似た強い意思を見せつつ、右の拳を左の掌で、ばちん、と受け止めた。

「……そうすりゃ、親父も俺のことを認めざるを得なくなるだろ」

が、威勢のいい仕草の後に続くのは、弱弱しくどこか寂し気な言葉である。

「まあ……そうかもしれない」

「その証拠として、ダンジョンの核を持ち帰りてえんだよ。分かるだろ?」

「成程な。困ったな……」

……グレイは、『こいつに入れ込むとまずいか』と思いつつ、だが既に、『こいつも上手くやれるといいんだが』とも思ってしまっている。やはり、人付き合いというものは難しい。本当に。今までこの手の経験が碌に無いグレイにとっては、余計に。

「何も困らねえ。俺はダンジョンの核を持ち帰る。で、親父に見せた後、お前らにやればいいだろ」

一方、スファルはあっけらかん、としたものであった。

……グレイとしても、目から鱗が落ちるような思いである。

「……いや、待て。となると、ダンジョンから脱出するまでが面倒だろう」

「……そういうモンか?は?どういうこった?」

「あんた、そのあたり分かってなかったのか……」

が、スファルがダンジョンというもの自体をよく分かっていない様子であるので、グレイはまず、そこの説明から始めることになる。

ああ……本当に、奇妙なことになった!

「ウサミミ。これ、どうしましょ」

一方、エメディアは真剣な顔で、ウサミミに話しかけていた。

無論、ウサミミからの返事はない。もよん、と柔らかな体を揺らし、ぷるん、と耳を揺らして見せるスライムは、エメディアを元気づけようとしている様子ではあるが……この状況では、役に立ちそうにない。

「……今の内になんとかするべき、よね……」

そう。

今、エメディアは……ゴーレムが復活しつつあるところを、目撃していた。

ゴーレムの執念は凄まじかった。オーガ渾身の一撃を受け、体の一部を損壊させ、そしてその大部分が穴の底へと落ちていき……だが、取り残された体の一部が、まだ、動いたのである。

そして、近くの瓦礫を使って、ありあわせで自らの体を再構築していた。……つまり、ゴーレムは復活しようとしているのである。

だが、まだエメディアは気づかれていない。……ならば、今の内だ。

エメディアは杖を手に、集中し始めた。あのゴーレムに過多の魔力を注ぎこみ、破壊してやるべく。

だが。

「……あっ」

魔力を動かしたためか、エメディアは、見つかった。

ゴーレムがこちらを向き、仮拵えの頭部の中、ぎょろり、と眼のように浮かぶ光がエメディアを照らす。

そんなエメディアを庇うように、ぴょこたん、とウサミミが飛び出してゴーレムの前に立ちはだかる。だが、ウサミミも所詮は小さなスライムだ。ゴーレムが指ではじけば、それだけで、ぽいん、と弾き飛ばされてウサミミは再び、エメディアの頭の上に戻ってきてしまった。

……じりじり、と、エメディアはゴーレムから距離を取ろうとする。だが無駄なことだ。エメディアの背は、すぐに壁に触れた。

そしてその瞬間、ゴーレムの腕がエメディアに伸び……エメディアの胴を、掴み上げる。

「うぐ……っ」

腹を、胸を絞め上げられる苦しさにエメディアが呻くと、ゴーレムの手が少々、緩んだ。

……どうやら、エメディアを握り潰すつもりではなかったようである。

と、いうことは……。

「……ああ、もしかして、『また』?」

エメディアが途方に暮れたように呟く中、ゴーレムはエメディアを優しく握ったまま、ずしん、ずしん、と歩いてダンジョンの奥へと進んでいく。

……どうやら、エメディアはまたも、攫われるようであった!

「あーもう!どうしていっつもこうなの!?お姫様は攫われなきゃいけないってわけ!?」

エメディアが叫ぶも、ゴーレムは気にせず、ずしんずしんと歩いていく。

「何よ、このっ!このっ!……んもう!」

エメディアがその拳をぽこぽことぶつけてみても、エメディアを握るゴーレムの手は全く緩むことなく、傷つくことなど全くなく……やはり、ゴーレムの歩みは止まらない。

「……ねえ、ウサミミ」

そうしてダンジョンの底へ底へと攫われながら、エメディアは、ウサミミに問う。

「お姫様は、攫われた後に自力で脱出しちゃ、ダメかしら」

……その手には杖が固く握りしめられており……同時に、その表情には、只々、怒りが滲んでいた!

「……ということで、ダンジョンっていうのは、ダンジョンの核を消すと消える。生きてるものはダンジョンが消えると同時に地上に排出されるから、すぐに帰れる、って訳だ」

「ほーう。そういうことか」

一方、グレイはなんとかかんとか、スファルにダンジョンの仕組みを説明し終えた。

ダンジョンに潜る生活を送っていたグレイにとっては当たり前の、常識と言ってもいいような知識であっても、スファルにとってはそうでもなかったらしい。スファルはグレイが話すことを聞いては興味深げに唸ったり質問したりしつつ、ダンジョンの説明を聞き終えた。素直な奴である。

「ってことは、やっぱりここでダンジョンの核を破壊していっちまった方がいいのか?だが、エメディアはそうしたくねえんだよな?」

「ああ、いや、エメディアは、エメディア自身がダンジョンの核を破壊できるならそれでいいんだ。俺達も、ダンジョンの核を破壊して帰還するつもりだった」

「ほー……成程な。よし」

グレイの説明を聞いたスファルは、何やら思い至ったらしく、やおら立ち上がり、瓦礫へと向かっていき……何やら、瓦礫をひっくり返し始めた。

「何か探しものか?」

「あ?ゴーレムの破片がこんだけあるんだ。ダンジョンの核とやらもこのどっかに埋もれてるんじゃねえか?」

……どうやら、スファルはここにダンジョンの核があると思っているらしい。

「いや、無いだろうな。それらしい魔力がここからは感じられない」

だがグレイには分かる。……『ダンジョンの核』と思しきものは、少なくともこの瓦礫の中には無いだろう、と。

「はあ?んなこと分かんのかよ」

「まあ、それくらいなら、なんとか」

……一方のスファルは面白く無さそうにグレイを睨んでいるが、これは恐らく、スファルには本当に分からないのだ。

その人が持つ魔力が多ければ、ある程度、魔力がどこにどのようにあるかを知ることができる。グレイもその類だ。しかし、その人が持つ魔力が少ないと、ただ『魔力がある』ということしか分からない。どこにあるのか、どの程度の強さなのか、といったことが、曖昧にしか分からないらしい。

スファルは魔法を使えないと言っていたが、ということは、魔力も少ないのだろう。従って、グレイやエメディアの恩恵の影響も受けやすいし、こうした時に魔力を探知する精度が低いはずだ。

「けっ。そうかよ。ああくそ……」

だが、スファルはそう言ってそのあたりに座り込むと……ふと、ぴくり、と眉を動かした。

「……今、何か聞こえたな」

「……そうか?」

グレイの耳には、何も聞こえなかった。だが、スファルには聞こえたらしい。

オーガは身体能力に優れている。それは、視聴覚の機能も同様だ。つまり……グレイには聞こえない音も、スファルには聞こえているのだろう。

「あっちか。よぉし……」

スファルは少々嬉しそうに、『あっち』へ向かう。……とはいえ、そこは相変わらず、壁である。魔石の結晶が幾多も生えている、壁であるのだが……。

「……ほーう」

その壁に手を触れて何やら集中していたかと思うと、スファルは、にやり、と笑った。

「おい、グレイ。この先から女の声がするぞ!」

嘘かもしれない、と思いつつも、グレイはスファルの言葉を信じて、スファルが触れている壁の向こうへと意識を集中させる。

そうして、『きっとそこにある』と思いながら探せば……確かに、壁の向こうに、あるのだ。エメディアと思しき、魔力の塊が!

「……あんた、よく分かるな」

「だろう?ほーら、魔法なんざ必要ねえんだよ。俺のこの、優れた耳があればな!」

得意げな顔をするスファルが少々腹立たしくはあるが、これは朗報である。グレイは壁の様子を調べ、それから、部屋の様子を調べて……なんとか、壁の向こうへ行く方法を探す。

だが、壁には穴はおろか、割れ目すら無い有様だ。どの方角に向けても、そうだ。……エメディアが居ると思しき方のみならず、ありとあらゆる方に向けて、脱出できそうにない!

だが。

「じゃ、ここを掘ったらいけるな?よぉし……」

にやり、と笑ってスファルが壁へ向かっていく。

「おいおい、馬鹿言うな。こんなところを、まさか素手で掘るつもりか?」

流石にグレイが止めるが……スファルはいよいよ得意げに笑うばかりである。

「おい、グレイ。お前こそ、馬鹿言うんじゃねえよ。……俺が誰だと思ってる?誇り高きオーガのスファル・トゥルバだぜ?戦うのだって、採掘だって、俺が誰より上手い!」

……ここまで自信満々であるならば、任せるしかあるまい。グレイは『なら好きにしてくれ』とばかり、両手を掲げて見せた。スファルは『分かったならいい』とばかり頷いて……。

「ってことで、退いてな。ちょーっと、やってやるからよ」

魔石の結晶で埋め尽くされた壁に向けて……その拳を、振りかぶった。

そうして。

「あんた、本当に大したもんだな」

「へっへっへ、そうだろうそうだろう!俺はスファル・トゥルバだぞ!?俺は『大したもの』なんだよ!」

スファルは人間にはありえない力で、がんがんと岩石を掘削していた。素手で、である。

……これを見てグレイは、『こいつ、身体強化の魔法だけは使えてるんじゃないか……?』と疑ったが、まあ、それを口にすることはしない。今、口にしても面倒なことになりそうなので。

「グレイ!エメディアは近いのか!?」

「まあ、近そうだ。この先、真っ直ぐだな」

「そうか!ならまだまだ行くぜ!ははっ!」

スファルは、それはそれは楽しそうに岩石を掘削していく。……拳でこうまで岩石を砕けるのなら、まあ、楽しいのかもしれない。

だが、こうしてガンガンと音を立てて岩石を破砕していくとなると、スファルの耳は使えない。よって、代わりにグレイが魔力を探知することによって、エメディアの方向を知ろうとしているのだが……。

「……ん、何だ、これは……」

ふと、グレイが探知していた魔力が、膨れ上がる。

「危ない!スファル!戻れ!」

「ん?なんだぁ?」

「いいからこっちだ!戻ってきて、伏せろ!」

グレイの表情と声に何かただ事ではない様子を察したスファルは、俊敏に戻ってきた。

そして、スファルが地面に伏せ、グレイがスファルを守るように大楯を構えた、その直後。

凄まじい爆音が響き、スファルが先程まで殴っていた壁が、一気に吹き飛んだ。

濛々と土煙が視界を遮り、魔石が放つ光がその土煙に反射し……空間全体がぼうっと光の靄の中に沈んだかのような、そんな中。

「……おいおい、こいつはどういう状況だ!?」

靄が晴れてきた時、グレイは目の前の『それ』を見て、声を上げた。

「えっ!?グレイ!?来てくれたの!?」

「ああそうだ!合流できたのは不幸中の幸いだったな!」

そこにはエメディアも居た。先程の爆発はエメディアの魔法によるものだったのだろうと思ったが、どうやらそれは正解だったらしい。

だが……流石に、『それ』は、想定外だった。

「落ち着いて聞いてね。今、魔石を使ってゴーレムが復活したところよ」

「成程な。最悪だ」

……そこには、一度、エメディアの魔法によって体を砕かれたのであろうゴーレムが、周囲の魔石を大量に取り込んで再生する姿があった。