軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14話:鉱山の底へ*2

かつん、と、石片が落ちてきて、兜にぶつかる。

2つ目の石片が落ちてきて篭手にぶつかったところで、グレイは目を覚ました。

……最近、落ちてばっかりだな、と、グレイはぼんやり思いつつ体を起こし……状況を確認する。

「……こいつは大したもんだな」

そこは、正に絶景であった。

空間は、先程ゴーレムと戦っていた時の部屋と同じくらいの大きさだろうか。かなりの大きさの空間であるが……その壁と天井の全てが、魔石の結晶に覆われて輝いているのである。

それら魔石の1つ1つは、紛れもなく最上級のもの。虹のように色を変えながら、透き通り、光り輝き、天井の穴から漏れ入る僅かな光を幾重にも増幅して、部屋全体がぼんやりと明るい。

……そして、その部屋の中に、先程戦っていたゴーレムの残骸や抜け落ちた床の石材が散らばっており……。

「おい。あんた、大丈夫か」

それら、瓦礫の下敷きになるようにして、赤い髪のオーガが倒れているのが見つかった。

声をかけてみても、オーガに反応は無い。

耐衝撃の鎧を纏っているグレイならともかく、このオーガは生身だ。オーガがいくら頑丈な種族であるとはいえ、この高さを、ゴーレムの残骸だのダンジョンの残骸だのと一緒に落ちてきて、挙句、瓦礫の下敷きになっているとなると……流石に無事とは思えない。

……だが。

「……死んでは、いないのか。参ったな」

面倒なことに、オーガはまだ、息があった。どうやら、瓦礫が上手いこと重なり合って、オーガを圧し潰さずに噛み合っているらしい。

……ならば仕方がない。死んでいれば遺品だけ回収して帰るところだが……生きているなら、放っておくわけにはいかない。

結局、グレイは1人、黙々と瓦礫の撤去を始めた。

オーガの体を圧し潰す瓦礫の1つ1つを、筋力強化の魔法や魔導鎧の補助を使いながら、なんとかかんとか、退かしていく。

……そうして、幾つの瓦礫を撤去した頃だろうか。

「ん……?んだ、ここ……」

なんと。この高さを瓦礫と共に落ちたというのに……オーガは無事、目を覚ましたのであった。

「……くそっ、んだこれ!埋まってんのか!?」

「ああ、暴れるな!瓦礫が崩れる!」

が、目覚めたオーガが早速、瓦礫の下から抜け出そうと暴れ出したため、グレイは早速、それを止めに入ることになった。非常に厄介なことである。見捨てていければ、楽だったのだが!

「は!?おい、どういうことだ!?そもそも、テメエ、なんだって……」

「あー……気持ちは分かるが、もう少し待ってろ。あんたがここで暴れると、この上のでかい瓦礫がいくつか、あんたを圧し潰しにかかるんだ。……多分、5分もあれば主要なところは退かし終える。もうしばらくの辛抱だ」

オーガは混乱と怒りに満ち満ちていたが、グレイは只々それを宥めてやった。そうして、『ああ、厄介だ!』とげんなりとしつつも、オーガの上の瓦礫を1つずつ退かしていってやる。

……意外にも、グレイがそうしている間、オーガは大人しくしていてくれた。ただ、瓦礫の下からグレイの様子を覗き見ているばかりだ。

「……おい、そっちの瓦礫、テメエがやったのか」

「他に誰かが居るように見えるのか?」

グレイは『他に誰かがやってくれるなら俺はやってない』と思いつつ、また1つ、大きな瓦礫を退かして脇に放った。

放られた瓦礫が凄まじい音を立てる。それはそうだ。身の丈ほどもあるものを投げているのだから。

……それを見ていたオーガは唖然としていたが、グレイは特に何も言わず、また1つ、また1つ、と瓦礫を退かしては放る。

これができるのも、魔導鎧や筋力強化の魔法があるからだ。だが、そのどちらも、オーガには物珍しいのかもしれない。

「これで最後だ。後は自力でなんとかできるだろ?」

そうしてグレイがいよいよ最後の大きな瓦礫を退かしてやれば、オーガは黙って全身に力を入れ、小ぶりな瓦礫を跳ね飛ばしながら起き上がった。中々に豪快である。

「……礼は言わねえぞ」

オーガは、グレイに助けられたのが癪と見えて、なんとも嫌そうな顔をしている。グレイとしては、嫌な顔をされるのはいつものことであるので、今更特に何も思わないが。

「ああ。別に要らない。ただ、ゴーレム相手にあんたが無茶したせいで俺も巻き込まれてここに落ちてる。その謝罪は聞きたいね」

が、グレイにとって『いつものこと』である以上、グレイは全く怖気づかずに厚かましくなれるし、嫌味の1つや2つは言う。

……オーガにとっては、これはあまりにも予想外の反応であったと見えて、表情が引き攣っている。が、それを真っ向から見つめてやって、グレイは肩を竦めた。

「まあ……どうせ、ここから出られるとも思えない。あんたの助けが来るか、はたまた、俺の連れが合流するかまでは待ちの一手だ。……ってことで、あんたが妙に勝負を急いでいた理由でも聞かせてもらおうじゃないか。謝罪が嫌だっていうなら、それで手を打とう」

そうして、グレイとオーガは適当な瓦礫の上に座って話すことになった。

……何とも奇妙なことになったものである。だが、これ以上、他にやることもない。

何せ、この高さだ。……到底、上に戻れそうに無い。壁面を覆う魔石の結晶は数多いが、どうせ、あの穴から上に戻ろうとするならば、壁どころか天井を這っていくような形になる。鎧を捨てて身軽になっても、かなり厳しいだろう。

そしてもう1つ、このダンジョンをさっさとクリアして脱出する方法はあるが……それも、できない。

何故ならば、『ダンジョンの核』はエメディアが食べるからだ。

そのために、このダンジョンへ来たのだ。ここでオーガに先を越されでもしたら、エメディアがここへ来た意味が無くなる。グレイとしては、それはなんとしても、避けたいところだ。

……ということで、グレイの仕事は専ら、エメディアが来るまでの時間稼ぎ。そういうことになる。

「理由、だと……?」

「ああ。是非聞きたいね」

オーガは、大いに困惑していた。『侮辱された』と激高する元気はないようだし、その上で『なんでこんな奴に興味を持たれてるんだ?』という困惑と気味の悪さが、彼の困惑に拍車をかけている。

……そう。グレイは、とにかく、嫌われる。そして……嫌われている以上、グレイが歩み寄りを見せると、相手はとにかく、困惑するか、嫌悪を強めるか……そのいずれかなのである。

『気持ち悪い相手に好かれる』という気持ちの悪さは、中々無いものであろう。グレイは今や開き直って、『ほら、俺のことを気持ち悪がれ』と、嫌がらせ目的で相手に歩み寄っていけるようになった。こんな恩恵持ちは、このくらい厚かましくないと生きていけない。

「それとも、俺の方の話から聞くか?どうせあんたも暇だろ?」

「誰がお前の話なんか……」

「そう言うなよ。俺も暇なんだ。……えーと、どこから話すかな。じゃあまず、俺の『恩恵』の話だが……」

「『恩恵』の話なんざするな!」

……が、グレイが話し始めるとすぐ、オーガは声を荒らげた。あまりにも声が大きいものだから、びりびり、と壁と天井が震え、ぱらぱら、と石片が落ちてくる始末だ。グレイは『この大声が何かの役に立つといいんだが』などと思いながら、肩を竦める。

「なんだ、あんた『恩恵』がよっぽど嫌いなのか?」

無論、オーガが嫌いなのは『グレイ・シンダー』であろう。そう分かり切った上で、グレイはそう、声をかけて……。

「ああそうだ!『恩恵』なんざ、クソ食らえだ!」

……案外、分からないものである。

どうやらこのオーガ、『グレイ・シンダー』もそうだが、『恩恵』というもの自体が嫌いであるらしい。

……このオーガも中々の訳ありのようである。

「どいつもこいつも、何が『恩恵』だ!クソ!」

オーガは苛立ち紛れか、そこらの瓦礫を殴りつけ、粉砕した。グレイはそれに思わず、口笛を吹いてしまう。……大したものだ。本当に。アレが自分に向くのでなければ。また、自分やエメディアを巻き込むのでなければ。

「あー……ところで、俺達はまだ、お互いの名前も知らなかったな。……俺はグレイ・シンダー。あんたは?」

グレイがそう声をかけると、オーガはなんとも不機嫌そうな顔で、それでも胸を張って答えてくる。

「スファル・トゥルバ。誇り高きトゥルバの一族の長男だ」

そうして、スファルと名乗ったオーガはそう言って……言ってから、苛立ち紛れに、また声を荒らげた。

「俺が、トゥルバの次の長だ。……親父が認めてくれさえすりゃあ、な!」

……スファルの言葉に、グレイは昨夜のことを思い出す。

決闘直後に現れたあの老オーガは、スファルの父親だったのだろう。そしてどうやら、彼はスファルを認める気が無いようであった。

アレは、スファルがグレイに負けたから、ということだったのだと思ったが……。

「長男なんだろ?何か理由があるのか?」

グレイは、『どうせ普段の素行が悪いからだろうな』などと思いつつ聞いてみると……。

「魔法が使えないからだ」

……スファルは、そう言って、なんとも暗い目を天井に向けていた。

まるで、そこに憎悪の対象があるかのように。

そうして、スファルは話し始めた。……元々、誰かに話したいことだったのかもしれない。だが、オーガの仲間や、取り巻きの人間達に下手に弱みを見せるわけにもいかなかったのだろう。

その点、グレイはゴミ箱のように扱ってもよい存在であるので、話しやすいのかもしれない。少なくとも、今のスファルにとっては。

「俺は魔法が使えねえ。生まれつき、そうだった」

スファルはそう言って、手を握って、開く。

「小さな火を熾すことすら、できねえ」

……そういえば、昨夜の食堂で、スファルは煙管の火を燐寸で灯していた。アレは、そういうことだったようである。

「当然、俺には『恩恵』もねえ。……だが、ダハブは……弟は、そうじゃなかった」

スファルはなんとも悔しそうにそう言うと、次第に小さくなっていく声で、ぼそぼそと喋る。

「弟のダハブは、魔法が使えるんだ。『恩恵』も大したモンでな……なんでも、大地の声が分かるんだとよ」

「へえ、そいつはすごいな」

「……この地にトゥルバの一族が移り住んだのも、ダハブの意見だ。あいつは鉱脈がどこにどう走ってるか分かるからな」

成程。どうやら、コルザの町にオーガが居たのは、そういう理由であったらしい。

鉱山の仕事というものは、時に果てしないものだ。どこにあるか分からない鉱脈を掘り当てるまで掘り進め、いつ尽きるか分からない鉱脈を祈りながら掘り進め……博打であり、修行のようなものでもある。

だが、『大地の声』とやらが分かるのならば、その心配もいらない。……となると、オーガがこの町の権力者の座に収まるのも納得である。

「俺は腕っぷしなら誰にも負けねえ。オーガの誰にも、だ。魔法を使えるオーガにだって、負けねえ!このあたりの魔物だって、俺が全部、退治してる!全部、だ!鉱山の中でも、俺が誰よりもよく掘り進める!掘ったモンを運ぶのも、俺が、誰よりも!」

そんな中で、スファルの能力があれば、確かに、労働者達には大いに好かれるだろう。

自分達の危機を救ってくれ、自分達の仕事を助けてくれる存在、というものは、まあ、労働者にとってはありがたい。

だが……。

「だが……親父は、ダハブを次の長にしてえんだ」

「……そうか」

「親父は魔法が得意なオーガでな。だから……」

……グレイは、オーガの言葉には然程詳しくない。だが、ジョードに少しばかりドワーフ語を習ったついでに、オーガの言葉をいくつかだけ、習った。本当に、少しだけ。鉱物や金属に関わるものだけ。

『スファル』は、真鍮を意味する言葉だ。そして、『ダハブ』は、黄金を。

……どう考えても、長男に『紛い物の金』の名を付けておいて、次男に『本物の黄金』の名を付けるというのは、おかしい。

となると……詳しく聞く気は無いが、まあ、何か、あるのだろう。魔力は概ね、遺伝するものだ。『魔法の得意なオーガ』に『魔法を使えない長男』が生まれたということは……まあ、そういうことなのだろう。となると、スファルの父がスファルを疎む理由は、なんとなく察せられる。

……そうして、スファルは黙り込んでしまった。

さて、ここまで、時間稼ぎのためと思って色々と聞いてしまったが……グレイはそれを、少しばかり、後悔していた。

色々と聞いてしまうと……情が湧く。

これだから、人付き合いというものは、難儀である。

「……生まれついて、ということなら、俺も似たようなものでね」

結局、グレイは時間稼ぎ半分、それ以外の理由半分で、自分も話し出すことになる。

「俺は生まれつき、『嫌われる』恩恵を持ってる」

「は?」

そうしてグレイの言葉に、スファルは素っ頓狂な声を上げた。

「……冗談だろ?おい。『恩恵』だぞ?」

「ああ、その通りだ。『恩恵』だ。非常に『ありがたい』やつでね……」

スファルの困惑はいよいよ増していく。……彼は『恩恵』というものは、人によい効果を齎すものばかりだと思っていたに違いない。

「まあ、嫌われるってのは悪いことばかりじゃない。とにかく、敵の注意は俺に向くからな。盾持ち役にはピッタリの恩恵だ。問題があるとすれば、そんな『嫌われる奴と組んでくれる奴』ってのが少ないことくらいだな」

グレイが話せば話すほど、スファルはおろおろし始める。それがいっそ面白くなってきて、グレイは笑った。

「……こんな恩恵持ちだから、親の顔も知らない。物心つく前に王都の裏通りに居たもんでね。あんたの話は、半分くらいはよく分からないんだ。悪いね」

「あ……いや、その……」

スファルとしては、いよいよ、どう言葉を掛ければいいか分からなくなってきたらしい。

図体の大きなオーガがおろおろしている様子というのは、やはり、少々おかしい。それが、昨夜喧嘩を吹っかけてきた相手だというのなら、尚更だ。

「その……じゃあ、お前がいけすかねえ奴なのは……」

「……まあ、半分くらいは恩恵のせいなんじゃないか?どうやら、魔力が少ない相手ほど、よく効くらしいからな」

そうしてグレイの返事を聞いて、いよいよ……スファルは、黙り込んでしまった。

そして。

「いいか……?俺は、恩恵が、嫌いだ!」

唐突に、スファルはそう、大声を上げた。

「魔法なんざ、この世に無きゃあいい。俺は……ああくそ!」

「俺は、魔法の指図なんざ、受けねえ!お前がクソッタレな『恩恵』とやらのせいでいけすかねえ野郎に見えるっていうんなら……俺はその指図は受けねえ!」

グレイは、『おや?雲行きがおかしくなってきた』と内心で思いつつ、神妙な顔で曖昧に頷いた。

「……ここを出るぞ。手ェ貸してやる。ありがたく思えよ!」

「あ、ああ……そいつは、どうも」

……グレイは、『明日はきっと雨だな』などと思いながら、差し出された手を握った。

本当に、人付き合いというものは、難儀で、奇妙なものである。