軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな領地へ出発する前にやっておきたい事とは

天正十五年(1587年)五月九日

近江国 長浜城

信長と信忠から、新たな領地への移動出発を命じられた秀吉は、長浜城に戻ると

「小一郎!新たな領地の事で、殿と大殿に呼ばれたが、お二人共、次の戦の事を考えておったぞ!!」

テンションの高い状態で秀長に話しかけていた。話しかけられた秀長は

「兄上。次の戦が気になる事は分かりましたが、新たな本拠地を伝え忘れておりませぬか?」

冷静に伝え忘れが無いかと確認する。秀吉は

「それは大丈夫じゃ。ちゃんと備中国を新たな本拠地と伝えたぞ」

しっかり伝えた事を話す。話し終えた秀吉は、

「のう、小一郎。この長浜城が完成して十三年を超えたのじゃが、色々あったのう」

神妙な顔で秀長に話す。秀長は、

「そうですなあ。兄上が六三郎殿に対して、良くない感情を持った事から始まり、佐久間様の与力として本願寺との戦に出陣したと思ったら、戦を放棄して帰って来た事、

それで怒り心頭の兄上の為に、内府様が山陰方面軍の総大将の役目を命令したと思えば、六三郎殿を派遣して兄上の実子が九人も生まれて、その後、佐久間様の代わりに毛利征伐の総大将を務めて、勝利を掴み

その結果、山陰と山陽を合わせて九十万石もの大領を手にしたのですから、誠に色々ありましたなあ」

しみじみと話すと、秀吉は

「良い事も悪い事も、殆ど六三郎殿が関わっておる。改めて思う。長浜城が完成した当初、六三郎殿に憎しみを抱いていた事は、儂が未熟者であったからじゃ

その六三郎殿は、儂に子を抱かせてくれた、儂に毛利征伐という大きな武功を挙げさせてくれた、それだけではなく小一郎の子達も一時的に保護してくれた

一時、出奔した虎之助達に頼られたのに、嫌な顔をせずに保護してくれた、孫六の件も六三郎殿が三之丞とかえでを召し抱えてくれておったから、解決できた

誠に、六三郎殿にはどれ程、感謝を述べても足りぬな、小一郎」

「そうですなあ。義姉上も、六三郎殿には感謝しておりますし、伊右衛門も娘の与祢の事で世話になっております。他の者達も、兄上が山陰に出陣している頃に

内政の事で、六三郎殿に教えてもらったりしておりましたし、何より、長浜城の近くの湯宿の大繁盛は、

六三郎殿が、地下からの湯を見つけてくださらなければ、起きてない事ですからなあ。内府様は露天風呂を特にお気に入りですし」

「露天風呂は儂も体験してみたが、最高であった!水運の為としか思ってなかった淡海乃海を見ながら風呂に入り、そして酒を飲む

それが、何とも言えぬ心地良さであったのう。新たな本拠地の備中国でも、何とか同じ様に出来たら良いが」

「兄上。確かに、湯宿を備中国でも開く事が出来たのであれば、羽柴家の税収は増えますな、ですが兄上、

新たな領地へ出立する前に、その様な話をするという事は、何か気になる事、やっておきたい事があるのでは?」

秀長の言葉に秀吉は、

「やはり、小一郎は儂の事をよく分かっておるな。小一郎の言う通り、儂はやっておきたい事がある!

それはな、柴田家へ赴き、親父殿へは感謝を伝え、お市様へは謝罪を述べたいのじゃ」

やっておきたい事を秀長に伝える。しかし、秀長は

「兄上。それは、柴田様に対しては可能と思いますが、お市様に対しては無理かと」

「お市には無理だからやめておけ」と正直に言う。しかし、秀吉は

「それは分かっておる。一度、文を送り、拒絶されたりする等、芳しくない反応であったら諦める。だが、あの当時の儂は、過去のお市様の文で指摘された様に、人でなしと呼ばれて当然であった

そんな儂が、お市様の最初の嫁ぎ先である浅井家が治めていた北近江を去り、備中国へ行く前に、せめて謝罪をしたい!それが無理なら、せめて文だけでも」

自らの思いを秀長に伝える。聞いていた秀長は、

「分かりました。可能性は低いと思いますが、やるだけやってみましょう」

そう言って、秀吉の背中を押すと、秀吉も

「小一郎、済まぬ」

秀長に頭を下げて感謝を伝える。2人がそこから文を書こうとすると、

「お前様」

「寧々!何かあったか?」

2人の元に、秀吉の正室の寧々が立ち寄り、秀吉に対して

「柴田家に行くのであれば、私もお供します」

柴田家に自分も行くと伝えるが、秀吉は

「寧々。気持ちはありがたいが、これは儂が」

寧々に諦めてもらう様、説得にかかるが、寧々は

「お前様。私は正室ですよ!あの当時のお前様を止められなかった事、私にも責を負わせてください。お前様が、お市様から蛇蝎の如く嫌われて、

数多の罵声を浴びるのであれば、私も共に罵声を浴びて、嫌われます。だから、柴田家に共に行かせてください」

秀吉に「自分も一緒に嫌われてやる」と言う。それを聞いた秀吉は

「寧々、そこまで言ってくれるか。流石、儂が惚れた女房じゃ!それでは、親父殿とお市様からのお許しを得たら、共に越前国へ行き、罵声を浴びよう」

そう言いながら寧々の手を握り、泣いている。その後、落ち着いて、勝家と市への文を書き終えると、

「これを越前国の柴田家へ持って行ってくれ」

「ははっ!」

家臣に命令する。命令を受けた家臣は、早馬で移動した様で、僅か6日で越前国に到着すると

天正十五年(1587年)五月十五日

越前国 柴田家屋敷

「大殿!羽柴筑前守様からの文でございます!」

「ほう、藤吉郎からとは珍しい」

勝家はそう言いながら、文を受け取り、目を通すと

「市。市も見てくれ」

市に見せる。目を通した市は

「権六様。来てもらいましょう」

秀吉と寧々に来てもらう様、勝家に頼むと

「良いのか?」

「はい。筑前と寧々の二人に色々と言いたいので」

「分かった。だが、一線は超えないでくれ」

勝家の言葉に、市は小さく頷く。それを確認した勝家は、秀吉への文を書き、家臣に届けさせる

天正十五年(1587年)五月二十五日

近江国 長浜城

「殿!柴田越前守様からの文でございます!」

「見せてみよ!」

勝家からの文を受け取り、読み出した秀吉は、

「親父殿もお市様も、寧々と共に来てくれとの事じゃ。先ずは第一歩。というところじゃな」

安堵の表情を見せていた。