軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

怒りも恨みも許される理由も全て受け入れて

天正十五年(1587年)六月十日

越前国 柴田家屋敷

「遂に、遂にこの日が来たのう。寧々」

「藤吉郎様。落ち着いてください。まだ柴田様もお市様も居ないのですから」

勝家が秀吉と寧々に、屋敷に来る様に文を届けてから、およそ2週間後、秀吉と寧々は柴田家屋敷に来ていた。2人共、市からどれ程の罵声を浴びようとも、

恨み言を言われようとも、ただ頭を下げ続けて、満福丸の件を詫びようと心に決めていた

そんな2人が居る大広間に、勝家と市が来て、上座に座る。秀吉と寧々は、頭を下げたまま勝家と市を迎える

そして、勝家の言葉から、面会が始まる

「藤吉郎!寧々!先ずは頭を上げてくれ!儂とお主達は、主従関係ではないのだから!な?」

「親父殿。ありがとうございます」

「柴田様。ありがとうございます」

秀吉と寧々は、勝家に礼を言いながら頭を上げる。頭を上げて勝家を見るが、視界の端には当然、市も居る。2人は恐怖心で身体が震えそうになるが、

気持ちを振り絞り、

「ま、先ずは、親父殿。既に知っていると思いますが、毛利との戦において、与力として参戦してくださいました六三郎殿の協力もあって、

無事、毛利に勝利する事が出来ました。そのお礼として、此度、参りました」

最初の目的である、勝家へお礼の言葉を口にする。それに勝家も、

「うむ。六三郎はしっかりと働いて、武功を挙げつつ、戦に勝利したのであれば、儂も家督を譲って良かったと安心出来る」

そう言いながら、何とか、場の空気を少しでも柔らかくしようと頑張っていたが、

「権六様」

市の一声で、勝家の頑張りは無になる。そして、市は続けて、

「戦の話ならば、兄上と勘九郎殿からの文で知っております。此度、筑前と寧々が柴田家に来たのは、戦の話をする為ではないでしょうに。本当の目的を話したらどうですか?」

冷たく、「さっさと本来の目的を話せ」と言い切る

そんな市に勝家は

「市。その様な言い方はよさぬか!」

諌めるが、市は返事をせずに横を向いて、無視をする

そんな市の態度に勝家は、事情を知っているからこそ強く言えずに居た。そんな重い空気が漂い始めた大広間で、動いたのは

「お市様!満福丸殿の事、誠に申し訳ありません!」

「寧々!」

寧々だった。寧々の覚悟の行動に、市は反応して、

「おや?当事者の筑前が謝罪するのではなく、嫁の寧々が謝罪するとは。情けないと思わないのですか?」

秀吉に対して、キツイ言葉をぶつける。その言葉に耐えられずに秀吉は

「お市様!満福丸殿の事、誠に、誠に申し訳ありませぬ!全ては拙者が人の道を外れた為!全ての責は、拙者が受けてこそにございます!」

平伏しながら、責めるなら自分を責めてくれと市に言うが、寧々も

「いえ!私も藤吉郎様と同じ責めを受けます!私があの頃の藤吉郎様のお子を産めなかったから、藤吉郎様は!」

自分も責めてくれと、市に言う。すると、市は

「筑前と寧々。今、子の事を言っておりましたね?ならば聞きますが、二人の間の子は、今年で何歳になりましたか?」

子供の年齢を聞く。その質問に秀吉は

「今年で七歳になります」

正直に答える。答えを聞いた市は

「七歳ですか。可愛い盛りですねえ。きっと、あと十年以内に元服するのでしょうか?満福丸が出来なかった元服を。そして、初陣も経験するのでしょうねえ

満福丸が出来なかった事を、これから色々経験して、育っていくのでしょうねえ」

声色がどんどん冷たくなっていく。その声色に、秀吉も寧々も

「「誠に!誠に!!申し訳ありません!」」

背筋が冷たくなりながら、改めて平伏して謝罪した。2人の身体が震えているのを確認した勝家は

「市。少しも許してやれぬのか?」

止めようとしたが、市から

「権六様。私が満福丸の事で怒りが今でも続いているのであれば、そもそも私は二人に会う事すら拒絶しております。

もっとも、今でも全てを許したわけではありません。ですが、権六様も知ってのとおり、あの子が居るおかげで、

微々たるくらいには筑前の事を許してやりたいと思っております。筑前と寧々。私が筑前の事を微々たるくらいには許してやろうと思った子供を見なさい

筑前は直ぐに分かるでしょうが、口に出してはなりません。よろしいですね?」

秀吉へ微々たるくらいには許してやろうと思った理由を見せてやると伝えて、秀吉も

「は、はい」

訳が分からないながらに、返事をすると、市は

「利兵衛。虎夜叉丸を連れて来なさい」

「ははっ!」

利兵衛に虎夜叉丸を連れて来る様、命令する。そして、利兵衛が虎夜叉丸を連れて来ると秀吉は

「!!!」

市に言われた様に、口に出さなかったが、全てを察した様で、それを見た市は

「虎夜叉丸。もうよろしいです。勘十郎と雪乃の元へ戻りなさい」

虎夜叉丸に戻る様に伝えて、虎夜叉丸は戻って行った。虎夜叉丸の足音が聞こえなくなると、市は

「筑前。あなたが満福丸にやった事を全て許す事は無いでしょう。ですが、虎夜叉丸を見て分かったでしょうが、

虎夜叉丸の事は、いつの日か兄上が伝えるでしょう。なので、他言無用です。よろしいですね?」

「ははっ!」

「筑前。私はあなたが親になった事で、満福丸にやった事を悔やみながら、生きていく様に思っておりましたが、気が変わりました

筑前、あなたは孫が生まれるまで、織田家の為に働きなさい。そして、六三郎や六三郎の子は勿論、弟の京六郎が窮地に陥った時は、率先して助けなさい。よろしいですね?」

「ははっ!」

秀吉の返事を聞いた市は、最期に

「筑前。あなたの働き次第では、京六郎の正室に、あなたの娘を推挙しますから、子供を甘やかす事、なりませんよ?」

働き次第では、子供の婚姻を褒美にする事も伝える。こうして、全てを許されたわけではないが、秀吉の胸の内は、少しだけ軽くなった