軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第315話 ~国境越え①~ 佐藤司目線

ノアさんたちの空挺船が出立した数時間後、空挺船の移動を警戒したのか、レイティス国側の侵攻が止まったとの木花サクヤからの連絡を受け、俺たちも急遽出発することになった。

一応いつでも出られるように準備はしていたが、なにぶん急だったせいで少々慌ただしく国境付近まで送ってくれる木花家の馬車に荷物を積んだ。

上野さんと津田君と七瀬君とジールさんに続いて馬車に乗り込む前に、見送りに来た晶を振り返る。

「じゃあ、な」

「ああ」

パッと見れば不機嫌なようにしか見えないその表情が、不安や心配を意味しているのだと知ったのはこの世界に来てからだっただろうか。

「そんなに心配しなくても、こっちにはジールさんもいるんだし、そう面倒なことにはならないさ」

「……別に、お前らの心配はしてない」

「はいはい。……お前こそ、気をつけろよ」

わざわざ見送りに来てくれたくせに素直じゃない晶を笑って流し、拳を差し出す。

「ああ。お前は目的と優先すべきことを間違えるなよ」

少し前までならおそらく見なかったふりをされていただろう拳に、晶の拳がこつりと当たる。

「もちろん。クラスメイトを優先したいけど、ヒラエスとの約束を忘れたわけじゃない。勾玉のこともできる限り探ってみる」

俺たちがレイティス国へ無事に入ることができたなら、することは三つ。

一つは原初の魔物、竜の長であるヒラエスとの約束を果たすこと。つまりはクラスメイトを操っていた王女の水晶の破壊。そして二つ目に解放されたクラスメイトの保護と大和の国への護衛。三つ目の大和の国の国宝・勾玉を探す件は、それらが終わり余裕があって可能ならばとのことだ。

期間は最大で二週間。それ以上になると戦争が激化している可能性が高いのでレイティス国にいられない。時間との勝負だ。

しっかり目的も優先順位も決まっている。

本当ならば王女の水晶を実際に破壊したことのある朝比奈くんか晶が行くべきなんだろうが、レイティス国にいる間に大和の国が攻め滅ぼされてはたまらない。二人は俺たちの中の最高戦力として、こちらで戦争に介入できないか動いてもらう。

正直、危険度で言えば同じくらいだ。なにしろこちらには魔族がいる可能性が高いのだから。

「わかってるならいい」

そっと拳が離れる。

俺は身を翻して馬車に乗り込んだ。すぐに扉が閉められ、馬車が動き始める。

「なんか織田くん、素直になった?」

「いいや、多少わかりやすくなっただけだろうな」

先に乗り込んでいた津田くんの揶揄うような声に応えた。

かなり引っ込み思案だった君も、人のことは言えないんじゃないか、というのはきっと言わないほうがいいんだろう。

俺は上野さんの前に腰掛ける。六人乗りの馬車だが、装備を着込んだ五人で乗り込んでいるのでぎゅうぎゅう詰めだし、決して乗り心地がいいとは思えない。それでも贅沢は言ってられなかった。時間は限られているのだから、少しでもそれが短縮できるのなら何でも使う。

「そうそう。晶は元から素直で可愛げのあるやつだったぜ?」

「いや、絶対気のせいやろそれ。織田君のどこに可愛げなんかあるんよ」

七瀬くんの言葉に上野さんがやれやれと首を振る。

「そういえば七瀬くんは元の世界にいた時から晶を気にかけている様子だったが、何かそうなった理由があるのか?」

どうせ国境付近に着くまで一日か二日くらいは暇なのだから、いい機会だから聞いておきたい。

今は少し改善したようだが、元の世界にいたときの晶は無愛想で目つきが悪くて、お世辞にも付き合いが良いというわけではなかった。教室の中でも朝比奈君や七瀬君以外と話している姿を見たことがない。というかそもそも七瀬君の名前すらあのときは覚えていなかったはずだ。

朝比奈君はまあ、二人は雰囲気が似ているので、何かしら気が合ったんだろうなと思うが、七瀬君はそういうタイプではない。どちらかというとクラスの隅にいるような晶を、クラスの中心にいるような七瀬君が一方的に気にかけていたのはなぜなのか、前から気になっていたのだ。

「ん〜。普通に面白えやつだなって思ったからだけど、……そういや何でそう思ったんだっけな〜」

「まあ、七瀬くんは全クラスに友達がいるタイプだから、きっかけを思い出せないのも無理はないね」

首を傾げて考え込む七瀬くんと、それに苦笑する津田くん。

ジールさんはワイワイと騒ぐ俺たちを微笑まし気に見守っていた。

何度か休憩はあったものの、やはりぎゅうぎゅう詰めの馬車旅はかなり辛く、最終的に我慢ができなくなった七瀬君が風魔法を使って全員の尻を少し浮かせてくれたことで、多少の負担は軽減された。

魔法は想像力と言うが、七瀬君の想像力は人一倍抜きん出ていると思う。

大和の国をほぼ縦断することになる馬車旅の二日目、ふと、七瀬君が思い出したように尋ねてきた。

山道になってきたので、そろそろレイティス国との国境も近くなってきている頃だろうか。

「そういや、この馬車って国境近くまで行ってくれるんだろ? 有難いけど大丈夫なのか?」

「確かに、この馬車ってただでさえ目立つと思うねんけど」

ここ大和の国は、北と東を海に囲まれ、西のヴェンデス国と南のレイティス国との国境に山脈がある、天然の要塞のような国だ。

特にレイティス国との国境山脈はかなり険しい。場所によっては崖にせり出した横幅二メートルほどの道を通らなければならず、もちろん雪も降るので時期によっては通れない道なんかもあるらしい。一応人力車や駕籠のようなサービスもあるが、一般人は基本的に国境を越えようとは思わない。

俺たちが前にレイティス国側から大和の国に入った道は、両国の貿易用に最近整備され、少々遠回りだが馬車が通れる一番安全なルートだった。だが、戦時中の今は当然ながらその道は通れないし、どちらの国も国境を越えようとする者がいないか、厳しく目を光らせている状態だ。

その目を潜り抜けて国境を越えなければならないのだから、今回俺たちが通る、木花サクヤが言っていた隠れ道というのは当然一際険しい道になるだろう。周囲に人影もないだろうし、木花家の紋が施された馬車は目立つに違いない。

「そうですね。だからあくまで 付(・) 近(・) なんですよ」

ジールさんが窓の外に視線を投げたまま穏やかに言った。

視線の先にあるのは、この国に着いた頃に煙が上がっていた砦だろうか。それとも、その奥のレイティス国だろうか。

「それにこの戦争、大和の国側は木花家当主が総司令ですから、家紋が入った馬車が前線の近くにいるのはむしろ違和感はないでしょう。月見家や神成家の紋の方がよほど目立ちますよ。それに、山脈付近にある村では基本的に荷馬車を使っているそうなので、馬の蹄の音が響いてもある程度は誤魔化せるでしょう。時短にもなりますし」

「なるほど」

色々と考えられた末に馬車での迎えなのだなと、七瀬君は納得して頷いた。

そんな話を聞きながら、俺もジールさんに倣って窓の外を見る。

「さて、無事に越えられるといいんだけど……」

雨か雪でも降っているのか、国境の方の空は灰色に曇っていた。