作品タイトル不明
第234話 〜魔族領着陸?①〜
「狙い通りの方向に進んでいればもうすぐ魔族領が見えてくる頃だな……」
現在見張り当番中のアメリアを除いた全員で夕食を囲む中、船を操縦し唯一位置を把握しているノアがポツリと呟いた。
獣人族領を出てすでに数日は経っており、道中に魔物に襲われたり魔族が乗り込んできたりとで船の底の方に傷が入ってしまったため当初の予定よりは大幅に遅れてしまっているらしい。
元の世界でも飛行機にすら乗ったことのない俺は経過した時間にこんなものかと思っていたのだが、勇者が言うには飛行機はもっと早いのだとか。魔法もない世界なのにすごい技術力だな。感心する俺とは違ってノアとクロウは同じく造る者として対抗心を燃やしたらしく、勇者や七瀬たちと楽しげに話している姿をよく見た。俺は読んだことがないが、科学的な仕組みをおもしろ詳しく説明している本が図書室にあるのだとか。俺が図書室で借りて読むのは専ら物語ものなのでおそらくみる本棚のジャンルが違うのだろう。元の世界に帰ったら読んでみたいな。
「そういえば、この船ってどうやって着陸するんだ?」
着陸の仕方は聞いていなかったなと和木が改めてノアに問いかける。
海に浮かぶ船と同じように、この船は底が尖っていてどう考えても水平に着地することはできない。ノアが組み立てた時点ですでに宙に浮いていたので俺はそのままの状態で停止できるのだと思っていたが。
どうするつもりなのかとノアに問いかける目線に、ノアは何を言っているんだとでも言うように首を傾げた。
「着陸のことなど考えていなかったが?」
しれっと答えるその言葉にそれなりの人数がいるはずの空間が静まり返った。
乗っている状態ではあまりわからないがそれなりの速度で進んでいるこの船は、何かに衝突すれば当然衝撃が生じる。ぶつかった相手にも、乗っている俺たちにもだ。その上海には魔物がいる。着水の衝撃で船が壊れれば一気に不利な状況で襲われるか、船が無事であっても海にいる魔物に船を壊されるため着水はおすすめできない。し、そもそも船を壊さないように器用に着水できるようにするのなら着地できるようにしているはずである。
「……なんで船の形にしたんだ?」
「そっちの方がカッコイイし見栄えがいいからに決まっているだろうが」
船の底が尖ってさえいなければなんとか地面に着地できたのではないかと問い掛ければ、何が問題なのかわからないといったきょとんとした顔でノアが首を傾げる。その後頭部を今にも頭を抱えそうな表情のクロウがスパンッと叩いた。
「あんたバカなのか? いいや、疑問系ではないな。あんたはバカだ! 昔からその突っ走って後のことを考えない癖やめろって何度も言ったよな!?」
「親に向かってバカとはなんだ!」
「今の論点はそこじゃねえだろ!」
どちらが親かわからない親子喧嘩が始まろうとしていたので俺はその間に体を滑り込ませて二人を離れさせた。この相性が良いのか悪いのかわからない親子は喧嘩を本格的に始める前にお互いを手の届かないところまで離す方が良いとこの数日間で嫌と言うほど学んでいる。
「喧嘩の前にどうするのかを考えるところから始めてくれ。着陸着水ともに不可能となれば、どうする?」
俺の言葉にしんと静まり返る船内に思わずため息が漏れた。
誰からも案が出ないとは。いや、これは乗船前に確かめておくことだった。これでは強度の確認もせずに泥船に乗船したようなものだ。自分の命は自分で守る。俺は知らずのうちに平和ボケしてしまっていたらしい。
自分の中でちょっとした反省をし、俺は思い浮かんだ案を出す。これが無理なら一度船が壊れることを選択肢に入れるしかなくなるが、さてどうだろうか。
「わかった。じゃあ、船を飛ばしたままにしておくことは可能か? ホバリングって言うんだっけか、その場に浮いたままが一番好ましいが、それが無理なら俺たちが魔王城に行っている間は魔族領の近くを回遊しているだけでいい」
クロウに叱られて頬を膨らませそっぽを向くノアは腕を組みながら脳内で何かを計算しているのか虚空を見上げた。
そのまま俺たちは彼女からの回答を待つ。
「その場に浮いたままか。そう、だな。出る前にそこの王女が魔力を最大まで補充すれば二、三日は飛んでいられるだろうか……。停止したままというにも魔力がかかるからどのくらい消費されるかが分からん。魔物や魔族に見つかっては元も子もないから迷彩魔法をかけるとなると術者の私は迎撃ができんし、誰か他にも残ってもらえるなら可能かもしれん」
「わかった。とりあえず非戦闘員は留守番だな。魔力補充要員としても残ってもらっていいか、アマリリス」
「うん」
素直に頷くアマリリスに俺は良しと組んでいた腕を解いた。
もう魔族領が見えてくるのならそろそろ下船の準備をしなくてはならないだろう。アメリアと見張りを交代するついでにそのことも伝えてこなければ。
「織田君、私も?」
「そうそう、私も?」
食事を終えて部屋を出ようとした俺に細山と上野が問いかけてくる。
「さあな。その辺は今までお前らを見てきた勇者に任せる。戦闘はできる限り避けるつもりだが、それでもどうなるかわからない以上お前らが戦っているところをみた事がない俺が判断できることじゃないだろ」
獣人族領で合流したときのように“死の森”を抜けてきたこいつらの実力を疑っているわけではないが、それでもこれからは本当にどうなるのかわからない。魔物ではなく人間を相手にする以上、もしかすると死ぬ方がマシな目に遭う可能性だってあるのだ。
「と言うわけでそっちのメンバー決めはお前に任せるから。戦闘時の連携だのあるだろうしな」
「あ、ああ。任せてくれ」
言葉を投げかけると、勇者は噛んでいた燻製肉を急いで飲み込んで勢いよく胸を叩いた。そしてその衝撃でむせてゴホゴホと咳をする。その背を細山が心配そうに撫でてやっていた。
どこか不安な言動だがまあ生徒会会長もしていたし、任せても大丈夫だろうとは思う。たぶん。