作品タイトル不明
第210話 〜きっかけ〜
六匹分の炎魔法のブレスが着弾して、大きな衝撃と共に船が激しく揺れた。
「損傷は!!」
伏せていた顔を上げて、仁王立ちしたままのノアに叫ぶようにして問う。
他の面々も体を低くして衝撃に耐えたにもかかわらず、ノアだけは直立不動だった。どんな体幹をしているんだ。俺でさえ船首を掴んで耐えた衝撃だったというのに。
「軽微だ! この程度であれば何の問題もない!! だが次がどうなるかは保証できんぞ!!」
ざっとあたりを見回してノアが叫び返してくる。
人間に対してはリアの結界が、船に着弾したものは船の材料に入っていた亀の魔物の甲羅によって防がれたらしい。今回は運よく甲羅で覆っている部分に当たったが、次からはそうもいかないだろう。ワイバーンたちにも知能はあるし、俺たちの方が空戦では不利だ。船の底は装甲こそ厚いだろうが、手の施しようがない。
「くそ、どこかに集まってくれさえすれば……」
散り散りになるワイバーンたちを見て俺はぼやいた。先頭のボスとなって群れを率いるワイバーンがいないためか、生き残った六匹のワイバーンがそれぞれで動いているから余計に動きが読めなくて面倒だ。指揮系統が生きていれば狙いを見て待ち構えることも可能だが、空腹による暴走状態だろうか、仲間がいくら撃ち落とされようとその空腹が満たされない限りは俺たちを諦めることはないだろう。ドラゴンの姿の夜が牧羊犬のようにどうにか一か所へと追い立てようとしてくれているが、暴走状態でも知性が残っているのか、そう簡単には追い立てられてはくれない。
先ほどのようなまとまった状態で俺の『影魔法』の射程内に入ってくれさえすれば全部丸呑みにできるのだが、空の上というだけあって影の面積が森の中以上に狭いため、遠隔で影を集めてもそれほど『影魔法』を広げることができない。こんな所で『影魔法』の弱点が露呈したかと顔をしかめて舌を打った。
アメリアの矢と七瀬の風魔法を避けて飛ぶように、不規則に飛びながらも船に向けて炎を放ってくる六匹のワイバーンに、射程にさえ入ればと『影魔法』をいつでも発動できるように構える。
「敵を集めれば何とかできる!?」
俺の声が届かないはずの場所で上野と和木を守っている津田が叫んだ。おそらく彼の近くにいる勇者か京介が同じ結論に至ったのだろう。ジールさんを含めた彼らは、ここまで一緒に旅をしてきただけあって陣形も連携もしっかりととれていた。全員で俺単体と同じくらいの戦力、経験量にはなるだろう。
「織田君!!」
勇者たちの動向に意識を割きつつもワイバーンに集中していると、離れた場所にいる津田に突然名を呼ばれた。
同じクラスであっても、俺と津田はあまり関わりがない。クラスの隅にいた者同士、親近感に似た何かを感じるのは確かだが、俺の記憶では一度も話したことがなかったはずだ。
「なんだ!!」
同じくらいの声量で叫び返す。津田が守備をそっちのけでこちらに駆け寄ってきた。今はもう一人の騎士であるジールさんが非戦闘員たちの前で津田が持っているものよりも小ぶりな盾を構えている。だが、相手が空を飛んでいるため、背後にももう一人必要なはずだが。
「君なら僕の代わりに二人の盾、いや、僕以上にできるよね?」
まっすぐなその瞳に気圧されて俺は無意識のうちに頷いた。盾と同じくらいの射程であれば余裕をもって『影魔法』でしのげるだろう。
それよりも津田の目が気になった。俺の知っている津田はいつも京介を見ていて、それ以外は特に自己主張もせず、良い子ちゃんでなよっとしているという印象だったが、今の津田はどこか違う気がする。いつも行動を共にしている勇者たちならきっとこの違和感について分かったのだろうが、俺には分からなかった。
「じゃあ頼みます。僕が敵を引き付けるから、朝比奈君と佐藤君で全部倒してほしい。できるよね?」
いつもとは様子の違う津田に、突然話を向けられた勇者と京介もおずおずと頷いた。
「お前こそ、俺の代わりができるんだろうな?」
予備の短剣を投擲して、アメリアに攻撃をしようとしていたワイバーンを一匹落としながら問う。
大きな反撃こそあまりできないでいたが、アメリアと七瀬に近づくワイバーンに魔力を飛ばして攻撃したり、船の脆い部分に噛みつきそうな魔物を止めたりと色々とやることがあるのだ。
一つ深呼吸をした後、津田は大きく頷いた。
「もちろん。この状況をひっくり返してみせるよ」
確信を持った言葉に、俺はこいつに託すことに決めた。何より、俺だけでどうにかしようとしてもジリ貧なのは確実だから、まとめてワイバーン達を葬ることができるのなら願ったりだ。