軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第205話 ~オーガンの内臓6~

ひとしきり笑った後、俺はペロリと唇を舐めた。

力を存分に出すことができるとはいえ、もしうっかり『影魔法』が俺の制御下から外れてしまった場合、かつて勇者の攻撃で北半分が消し飛んだ魔族領の二の舞になるのは目に見えている。

この場所にはジールさんも京介もいるのだ。

平静を失うわけにはいかない。

「『影魔法』――起動」

まあ、それはそれとして羽目を外すくらいは大目に見てほしいものだ。

久しぶりに出てきた『影魔法』はまるで俺のテンションに同調するように影が激しく蠢く。

これだけ大きな魔物を『影魔法』で丸呑みにするのは影の大きさが足りない上に魔力の消費が激しい。

生きているうちは動いているため、抵抗もされるだろう。

「『影踏み』」

“夜刀神”を握り、斬りかかる。

生きているうちに取り込むのが難しいのなら、動かないように仕留めればいい。

欲しいのは心臓部にある巨大な魔石だけなので、そのほかの部分は『影魔法』が食べるだろう。

首を狙った俺の“夜刀神”は大きな爪に阻まれたが、オーガンの動きがピタリと止まる。

オーガンの背後、本来は足元から体のシルエットのまま伸びているはずの影はそこになく、俺の影から伸びる『影魔法』と繋がって後ろからオーガンの腹を貫いていた。

貫通してこちら側まで伸びていた影が俺の頬をチロチロと撫でる。

「こら、遊ぶんじゃない」

命のやり取りをしている最中であるのにも関わらず、無邪気な子供のような仕草をする『影魔法』のせいで緊張感がとんでしまった。

心做しかしょぼんと垂れた『影魔法』はずるりとオーガンの腹から抜け落ちる。

オーガンの口元からゴポリと赤黒い血が吐き出された。

ちゃんと血が人間と同じような色で驚く。

と、向こう側の景色が見えていた腹の穴がぐちぐちと動き、傷口が塞がった。

それを見て、俺はああと頷く。

「そういえば回復魔法が使えるんだったな」

『回復魔法』というスキル名だったが、これはもはや超再生と言っても過言ではない。

なるほど、“キング”とつく魔物なわけである。

魔石を壊してとどめを刺すことができない以上、首を落として一瞬で息の根を止めなければ永遠に再生し続けそうだ。

この再生力ならもしかすると四肢の欠損も治すかもしれない。

考え込みながら、受け止めていた爪を弾き、腕に巻きつこうとしていた触手を斬り裂く。

“夜刀神”を2振りの短刀にしてもらってから、このリーチの短さだけが難点だ。

攻撃をするためには敵の懐に入らなければ届かない。

まぁ、それをカバーしてなお余りあるのが『影魔法』なのだが。

正直、魔力量さえあれば『影魔法』ほど使いやすい魔法はないと思う。

大抵の魔物は『影魔法』には柔らかすぎるし、魔物を喰えば魔力のコストも少しは抑えることが出来る。

斬る突く喰らうのオールマイティで、まだ試したことはないが盾としても使えるだろう。

その上に知能があるため今のように遊ばれることもあるが、基本俺に忠実だ。

魔力の消費の問題点を解決出来る人はほとんど居ないのだが、魔力の貯蔵が海の如くあるアメリアが『影魔法』を使用するとどうなるのか単純に興味がある。

まぁないとは思うが、うっかり加減を誤るとこの世界が喰われかねないのでやめておこうと思った。

迫ってくる触手を両手に握った“夜刀神”で捌きながら、隙を窺う。

触手をすべて斬って首をとるのは簡単だが、目の前のオーガンに何か違和感を覚える。

その何かが何か分からないまま、明らかに隙が生まれた首元を“夜刀神”で斬ろうとして、俺は斬らずにその場から飛び退いた。

「……なるほど、武器破壊が狙いか」

太い木の枝に着地して呟く。

言葉が理解できるのか、オーガン・キングの複数の目が見開かれた。

カンティネン迷宮で戦った“キング”と名がつく魔物はそのすべてが手ごわい相手だった。

知力が上がるからか、配下の魔物に命令をして陣形を整えて襲ってきたり、迷宮の中の曲がり角で待ち伏せしていたり、こちらが休憩しているときに暗殺するように襲ってきたりと、とにかく気が抜けない相手だったのだ。

それなのに、迷宮にいた魔物よりもステータス値もスキルレベルも高いオーガン・キングの首が簡単に狙えるわけがない。

相手が狙ってくるであろう首の近くにあるのが普通に切り裂ける触手だけというのも変なのだ。

むしろ、何か意図があって首の守りを薄くしているとしか思えない。

一番に考えられるのは相手の武器を破壊することだ。

素手で強いものもいるにはいるが、オーガンの鋭い爪に生身で向かいたいとは思わないだろう。

おそらく見た目よりもはるかに硬い首に向かって、とどめを刺すために全力で振り下ろした剣は真っ二つに折れることになる。

武器を失った者は少なからずうろたえるだろう。

その隙に形成を逆転させるのだ。

倒せると確信しているとき、それが思い通りにいかなければ、俺だってすこしは動揺する。

なるほど、確かに“キング”だ。

どうしてここまで対人間を想定されているのかはわからないが、魔物相手にも有効なのだろうな。

「嘗められたものだ。――『影纏い』」

魔力消費を節約するために俺の影に潜ったままでいた『影魔法』を“夜刀神”に纏わせる。

キリカとの決闘で使ったこれが今のところ俺の攻撃の中で一番鋭い。

首が硬いのはわかった。

あのまま“夜刀神”だけで振るっていたらさすがに折れていたかもしれない。

だが、『影魔法』がある“夜刀神”は切れ味も強度もけた違いだ。

オーガン・キングの首も楽に斬れる。

足場にしていた木の枝を蹴ってオーガン・キング目掛けて飛び降りた。

一気に首を狙う俺を見てオーガン・キングは慌てて触手と爪を伸ばしてくる。

そのすべてを『影魔法』が喰らった。

『影魔法』に触れた触手と爪が消える。

まっすぐ首への道筋が開かれた。

そこへ“夜刀神”を振り下ろす。

スパンっと小気味よい音とともにオーガン・キングの首が胴体から離れた。

オーガン・キングの背後に降り立った俺は『影魔法』を解除して断末魔を上げるオーガン・キングを振りかえる。

ピクリとも動かなくなったことを確認してから、ほっと体の力を抜いた。

思っていたよりも『影魔法』の魔力消費が大きかった。

もう少し粘られていたら厳しかったかもしれない。

魔物との戦闘と魔力を消費したことで体も疲れ切っているが、今から胴体の方にある魔石をとって、さらにそれを運ばなければならない。

そういえば、京介の方はどうなったのだろうか。