軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第206話 ~空挺~

疲れた体で俺の体以上の大きさの魔石を引きずって京介とジールさんの元へ向かうと、あちらもちょうど戦闘が終わったところだったらしい。

いったいどう戦ったのか全身に血糊を浴びた京介と、どこか沈んだ様子のジールさんの姿を確認してホッと息をついた。

京介たちは『世界眼』のような鑑定スキルを持っていなかったため、襲ってきた魔物がオーガンだと気づかないうちに魔石を壊して倒してしまったらしい。

わざわざ刃が通る柔らかい部分を探すためにオーガンを一度なで斬りしたという京介に驚いた。

全身の血糊はそのときのものだろう。

ジールさんの剣はオーガンの首のせいで折れてしまったので、京介のいつも使っている方の刀を渡して京介は『二刀流』も使わずに一人で二体倒したようだ。

ジールさんは剣が折れたことのショックがまだ抜けておらず、折れた剣を抱えて呆然としている。

俺も“夜刀神”を折ってはいないが結局は入ったひびが大きくて今の短刀二振りになっているのだから、その気持ちも若干わかる気がした。

欠片だけ残ったとはいえ迷宮でとれる普通の魔石よりも大きかったため、京介が倒した二体分の魔石も袋に詰める。

さて拠点に帰ろうかとしたとき、俺の背後にそびえ立っている魔石を見て京介が顔を引きつらせた。

俺が倒したオーガン・キングの魔石は高さはもちろん、横幅も俺の体よりも大きい。

俺一人でここまで運ぶのも持ち上げることができなくて、首に巻いていた黒布を巻きつけて引きずりながら来たのだ。

今は黒布の頑丈さに感謝している。

「でかいな」

「ああ」

俺はため息をついて頷いた。

これを拠点まで運ぶのはさぞ骨が折れるだろう。

三人いるとはいえ、今のジールさんに声をかけて手伝ってもらうのは憚られる。

二人で持ち上げることはできるにはできるだろうが、道のりの途中で他の魔物と戦闘になればすぐに反応できないだろうし、魔石が割れてしまう可能性もある。

どうしたものかと二人で考えていると、近くの草むらからがさりと音がした。

京介が浴びている血糊に反応して他の魔物が現れてしまったかもしれない。

反射で武器を構えた俺と京介だったが、出てきたものを見て力を抜いた。

「なんだ、ウサ子か」

ウサ子は拠点の周りを守護している、ノアが作ったロボットだ。

遠距離、近距離戦闘はもちろんのこと壊されれば自己再生するし、攻撃一つ一つに毒が付与されているのが微妙にノアの性格の悪さが窺える。

ネーミングセンス最悪のノアに名付けられた名前は残念だが、守護者としての性能はとても有能だ。

現に、俺たちが来てから拠点の周りで魔物に遭遇したことはない。

安全な場所というのは思いの外休息が取れるらしく、勇者たちも顔色がとてもよくなっていた。

しげしげとウサ子を見ている中、感じた違いに俺は首をかしげた。

俺たちの前に佇んでいるロボットは初めてノアに出会ったウサ子十一号と装甲が違う。

ウサ子十一号はもう少し細身で、関節部分を中心とした場所が守られていたし、自己再生機能があるため傷ひとつもないボディだった。

が、目の前にいるウサ子は腕の部分が明らかに強化されている上に所々小さな傷がついている。

よく見ると修復したような跡もあった。

大切に使われているらしい。

「ウサ子三号と書いてあるぞ」

ウサ子の背中を覗き込んだ京介がそこに書いてある文字を指さして言う。

背後にまわりこんで確認すると、確かに背中にある装甲に明らかに手書きの文字ででかでかと“ウサ子三号”と書いてあった。

大事にしているのかしていないのかどっちなんだ。

「そういえば初めて会ったときにウサ子十一号との戦闘で疲労困憊になって動けなかった俺たちを拠点まで運んでいたのもこんな感じのロボットだった気がする」

ぽつりと京介が呟く。

だとすると、荷物持ち要員としてノアが派遣してくれたのだろうか。

その考えが正しかったのだと証明するように、ウサ子三号は俺たちがどうやって運ぼうか悩んでいた巨大な魔石を軽々と抱え、さらに背中に収納されていたもう二本の腕を出して、袋詰めされた方の魔石も持ってくれた。

これで俺たちは道中の魔物の襲撃だけを考えていれば良くなったわけだ。

道中は俺を先頭に、京介が殿を務めて意気消沈したままのジールさんとウサ子三号を囲むようにして拠点への道を進んだ。

剣を抱えたまま、ジールさんはずっと無言だった。

拠点に到着すると、ノアをはじめ俺たち以外は全員帰ってきていた。

「帰ったか。……って、え、ジールさん?」

「剣が折れたらしい。クロウの元に連れて行ってやってくれ」

勇者の出迎えに頷き、ジールさんを預ける。

抱えている剣にどんな思い入れがあったのかは分からないが、剣のことは俺にはどうにもできない。

鍛冶師に相談した方が良いだろう。

建物の中に入ると、女子たちと一緒に夕食を作っていたらしいアメリアが無事でよかったと駆け寄ってくる。

さらに俺の肩に夜が飛び乗り、満足気な顔をしていた。

指で顎の下をくすぐってやると、まるで猫のようにぐるぐると喉を鳴らす。

レイティス城を出て一人きりだった俺についてきてくれたこの二人には本当に感謝しかないな。

夕食の前に終わらせてしまおうというノアの言葉で、ジールさんとクロウ以外全員が外に出る。

何やら設計図らしき紙を抱えたノアを先頭に建物の裏に向かう。

建物の裏の開けた、勇者たちがぼこぼこにされていた場所は、集めた材料を保管するために使用禁止になっていた。

それまでは訓練なんかに使えていたらしい。

保管している材料の中にある、今まで見たこともないほどの巨大な魔石に俺と京介以外の全員がポカンと口を開けた。

ノアが見せてくれた魔石よりも今回俺がとってきた魔石の方が大きかったらしい。

おそらく世界最大の魔石を好きに加工できると知って、ノアはうきうきと瞳を輝かせていた。

その様子だけを見ると外見年齢相応なんだが、聞くところによると、ノアが持っていた魔石はあのオーガンと素手で戦って手に入れたものだったらしい。

さすがにオーガン・キングではなく普通のオーガンだったようだが、あれほど鋭い爪を相手に素手で挑めるのは勝てると確信していたからだろうか、それとも単純に頭がおかしいのだろうかと少し悩んでしまった。

だが、それを聞いて少し納得した。

どうりで武器破壊を狙っていたことを忠告してくれなかったわけだ。

武器を持って挑まなかったノアも、武器破壊が狙いだったとは知らなかったのだから。

明らかに首元の守りが薄かったことを思い出して納得したように頷いてた。

ノアが材料を一つ一つ確認していく。

最後にオーガンの内臓を見て一つ頷くと、俺たちを振り返った。

「大陸を渡るものを作るのに必要な材料はオーガンの内臓を最後に全て揃った。これより組み立てに入る」

どうやら俺たちにエクストラスキルを見せてくれるらしい。

すこし離れるように言われたため、何をするのか分かっていない勇者たちの腕を引いて移動させた。

「エクストラスキル『創造』――起動。製作開始」

俺たちが離れたのを見届けた後、材料を並べた前で両腕を大きく広げてノアはエクストラスキルを起動させる。

材料のすべてが光り、浮かび上がった。

光はだんだんと強くなっていき、ついには目を焼くほどになった。

俺たちは目を強く閉じて、顔をそむける。

「……完成」

どれくらい時間が経っただろうか。

ノアのホッとしたような声を聞き、目を開く。

そこには、先ほどまで個々の材料でしかなかった大きな船があった。

船は船でも、宙に浮いている船だ。

フォレスト大陸からブルート大陸を渡るのに使ったラン号ほどではないが、それでも俺たち全員を乗せてもなお余りある大きさであるそれに、言葉を失う。

よく見ると、外側はあの無駄に防御力が高い亀の魔物の甲羅でできていた。

そういえば材料の調達を頼まれて一人で数十匹乱獲した覚えがある。

「すっげぇ」

まさかここまでのものができるとは思わなかった。

心の底からの感嘆にノアが満足げに頷いた。

「私もここまで大きなものを作るのは初めてだ」

勇者の説明を聞いてから実験に実験を重ねてようやく設計図が完成したのだという。

どうりで、俺たちが材料を調達しに行っている間ほぼ部屋に籠りっぱなしだと思った。

「設計段階ではヴォルケーノ大陸の端に降り立つ計算だったが、思っていたよりも魔石が大きかったため何事もなければもしかすると大陸の真ん中まで行くかもしれんな。まあ、旅にハプニングは付き物だが」

フラグを立てるようなことをノアが言う。

船の形にしたのはもし墜落して海の上に落ちても浮けるようにするためらしい。

もし海に落ちたら水上用の機能が動きだすとか。

それの出番がないことを祈るばかりだ。

「しかし、ここまでの大きさの物を創造してよく魔力が足りたな」

エクストラスキルは魔力の消費が激しいものばかりだと思っていた。

外装を見て満足げに頷いているノアの隣に立って呟く。

「まさか、足りなかったに決まってるだろうが」

ノアはこともなげにそう言って肩をすくめた。

ではどうしたのかを聞くと、ノアは少し離れた場所に立っているウサ子三号を指す。

今日は大変お世話になったウサ子三号は何かを抱えたような恰好のまま固まっていた。

「私が持っていたオーガンの内臓を使った。かろうじて足りたようでなによりだ」

ふらりとその肢体が揺らぐ。

俺は咄嗟に左腕をだしてその体を支えた。

おそらく魔力切れだろう。

勇者たちが船の中に入っていったところだった。

俺たちが到着するまで勇者たちをぼこぼこにしたからか、ノアは勇者たちに弱っているところを見せたくなかったらしい。

「悪いな」

「いや、構わない。……もし魔力が足りなかったらどうするつもりだったんだ。死ぬつもりか?」

かつて自分が魔力切れで危ないところだったから、魔力切れの怖さは知っているつもりだ。

平静を装ってはいたが、ノアも危ないところだったのだ。

「いや、私はあの子の死に目を見届けるまでは死ぬつもりはない。が、お前には恩がある。娘の仇をとってもらったという、な」

今にも意識を失いそうにしながらもノアは語るのをやめない。

ならば最後まで聞くべきだろうと、口を開こうとしたアメリアと夜を手で制した。

「本当は私がとるべきだった。あの子が限られた時間を消費する、価値すらない男は私がさっさと殺すべきだった。私は間違ってばかりだなぁ」

寝ぼけた様子のノアに、俺はため息をつく。

なるほど、本当に不器用な親子だ。

「あんた、クロウからは間違えて不老不死の薬を飲んだと聞いていたが、わざとだろう」

クロウがお腹の中にいるとき、獣人族である息子が自分よりも長生きすることが堪えられなくなったのか。

俺は親になったことがないから分からないが、息子の行く末が見届けられないというのはそれほど苦しいものなのだろうか。

「そう、だな。あのときの私はどうかしていた。お腹の子にどんな影響があるのかわからないまま薬を飲むなんて。おかげであの子にいらん苦労を掛けた。わるいと、おもっている」

ノアの意識が持ったのはそこまでだった。

体重が乗って支えきれなくなった左腕からノアの体が地面に向かって落ちそうになる。

が、それを支える腕があった。

「……それは俺の前で言えよ、お袋」

クロウが完全に力の抜けたノアを横抱きにした。

前髪で陰ができた表情をうかがうことはできないが、どうやらノアの言葉は届いたらしい。

建物からクロウが出てくるのを見てわざとふっかけてみたのだが、親子関係の改善に至ったのなら何よりだ。

「アキラって意外とお節介」

アメリアのからかうような言葉に素知らぬふりをして、俺は船の方に向かう。

『知らなかったのか?主殿は前からずっとそうだったぞ』

「知ってるわ。だって私の方がヨルよりも先にアキラと出会ったのだもの」

俺のことで言い争うアメリアと夜を連れてノアが作った船の中に入る。

親子のことは周りを巻き込まずに解決してほしいものだ。

--伸ばした手が、届かないことだ。

月明かりの中、弱々しいクロウの姿が思い起こされる。

「今度は届いてよかったな」