作品タイトル不明
半端
『緩々隠里』
「帰ってきて早々何か建ってるな」
ここ『緩々隠里』は建てたばかりであり、まだ碌な建造物が無い。
ロボットが受付の無人『集会所』と、2軒の見知らぬ建物のみが出来上がっている。
「これが俗に言うマイホームってやつだよ〜」
バンダナが満足そうに建物の影から歩いて来た。
建物の外観はどちらも童話の王道ファンタジー風であり、メルヘンチックとも言える。
木造2階建て、ベランダにはちょっとした花壇まである。
「どっちか建築士だったりするか?」
「私がそうだよ。スカーフの方は採集者で、建材を集めてくれたんだ」
バンダナが建築士で、スカーフは採集者か。
スカーフから、後で素材売って貰うとしよう。
だがその前に――――
「バンダナ……3万HGで俺のマイホーム建てて欲しいって言ったら……やるか?」
「やる。何なら家具まで付けちゃう」
「よし!」
この街にはノルマが無い。
その代わりに、こうして 取(・) 引(・) として仕事を持ち掛けるようする。
ただ命令する事はせず、あくまで相手の意思を問う。
強制ではなく、お互い得をするような仕事を出来るなら問題無いだろう。
「場所は……あそこなんてどうだ?」
俺が示した先には、丘の合間に広々とした湖畔があった。
水面は静かで、岸辺までなだらかに下りている。
湿った草地と平たい地面が続いており、建物を建てるには悪くない立地と言える。
見映えもする。
水場も近い。
マイホームの場所としては当たりの部類だろう。
「湖畔の側……うん、確かに映えるね。一応聞くけど、ここにした理由はある?」
「俺は調薬師だからな。水が欲しいんだよ」
いちいち歩いて水を補充するの面倒なんだよな。
出来るだけ水場は近い方がいい。
マイホームから出て速攻で補充出来るなんて最高だ。
「調薬師なんだ! ……もしかして、ポーションとか売ってくれたりする?」
「それは勿論。だが……今は手持ちが無いんだ。後々量産出来る様になったら、本格的売りに出したい」
「もし売れる様になったら知らせて。お得意様になるから」
その為にも多くの素材が必要だ。
消耗品は需要が高いが、その分供給も整っていなければ売れるものも売れない。
スカーフとの提携は必須だな。
「マイホームの話に戻るが――――外観は木造にして、見晴らしを良くして欲しい。内装は……また別で話し合おう」
「ふむふむ……」
個人的に特に拘りは無い。
余程変な建物じゃ無きゃそこまで気にしない質なんだ。
俺はUI操作をして――――
[プレイヤー バンダナに30000HGを送金しました]
「毎度あり〜!」
これでマイホームを作ってくれるだろう。
物価基準が良く分からないが、家具のオプションを付けたと言う事は……本来なら、もう少し安く作ってくれるのか?
……払っちまったものは仕方ないな。
「そうだ、フレンド申請しとくね〜」
[プレイヤー バンダナからフレンド申請を送られました]
[承認/拒否]
承認を押す。
他会社プレイヤーとのフレンドはこれが初めてだな。
思えば、会社が違うからって『市民』になれなかったり、フレンドになれない……なんて制限、特に無いんだな。
いやあったら、それはそれで困るんだが。
「赤月、うちの姉貴をこき使ってるのか?」
「いや言い方よ……ただマイホーム作ってくれって頼んだだけだぜ?」
ふとスカーフが帰ってきた。
採集者として、色々と素材収集した後なのだろう。
だが「こき使ってる」って表現は辞めて貰おうか。
正当な取引の結果だ。
「そうそう、ちゃんとお金貰ったんだからね!」
「……マジで? 本当に……くれたのか?!」
「当然だろ。じゃなきゃ取引じゃない」
本当にこき使ってると思われてたのかよ。
一体俺を何だと思ってやがる……。
「赤月さん、何かあれば直ぐ言って下さい」
「……何で急に丁寧になったんだ?」
「こんなマトモな人がこの世に居たなんて……!」
「いやいや、ちょっと待て。『セイレーン社』だっけか? お前らの所どうなってんだ?!」
俺がやった事と言えば、マイホーム作ってくれと依頼して、その依頼料を渡したくらいだぞ?
依頼料渡しただけで感動されても困るんだが!
「私達の所は横暴なプレイヤーしか居ないからね。何かしようにも出る杭は打たれるし、取引しようにも詐欺なんて普通だもん」
「プレイヤー同士の衝突は日常的だし、そこからPKに発展する事も珍しくない」
「えぇ……何そのディストピア」
横暴っていうか……それ無法って言わないか?
会社が違えば様子も全く違うんだな。
俺達の『アマテラス社』とは大違いだ。
「だから次第に同じ勢力で纏まり始めて、結果的に3勢力で抗争が激化してるんだよ」
「『荒波海賊団』と『黒潮組』と『彼岸会』の3つだね。その中で、私達は『荒波海賊団』って所に居たよ」
「ヤクザやマフィア、ギャングとやってる事変わらないんじゃないか? それ」
様子が違うなんてものじゃない。
根本の世界観が違う。
現実の昔の人も、別の国に訪れた時には、こんな気分になったんだろうな。
「その認識で大丈夫だよ。実際、シマ取りとかしてるし」
「してるんだ……」
「そっちはどんな感じなの?」
「凄いゆるゆるだぜ?」
「い〜な〜」
『アマテラス社』同士の繋がりは無茶苦茶緩いし、基本的に何をやっても良い。
突然出会ったプレイヤーと協力してダンジョンに挑んだり、『賭博場』でゲームしたり……。
これを表現するなら「良い意味で適当」と形容すべきだろうな。
「ちなみにリーダーは?」
「リーダー? んなもん無い」
「居ないんだ……てっきり、トーナメントに出てた赤月や蛇者、BANなんかがリーダーやってると思ってたけど」
「『アマテラス社』に絶対的なリーダーなんざ必要無い。お互い適当にやってんのに、突然「俺に従え」って上から目線で物言われるのは不愉快だからな」
トッププレイヤーと揶揄される事はあっても、リーダーと揶揄されるのは好ましくない。
緩く、適当で、その上でやるべき事はちゃんとやる。
勤勉過ぎず怠惰でもない 半(・) 端(・) が、『アマテラス社』プレイヤーの魅力なのかもしれないな。