作品タイトル不明
思い立ったが吉日
「ざっとこんなものだな」
第二形態からの参戦とは言え、結構あっさり倒せたな。
薄々感じてたが、『腐王鴉の眼核』って序盤で出して良い性能してないよな。
――――いや、むしろ【死肉の王眼】が壊れスキルだからこそ、序盤に出したとも言える。
これ無しで状態異常ビルドやって行ける気がしない。
「……あ〜どうしたんだ? そんな口かっ開いて」
「い、いや別に?」
「凄い強いなんて思ってないんだからね!」
「出てるぜ、口に」
そりゃ突然現れた野郎がエリアボスをハメ倒し始めたら驚きもするか。
俺でも驚く。
「所で、お前ら別会社のプレイヤーってやつだよな。ここから港町の場所近いのか?」
「えっと……」
俺がそう聞くと、何かコソコソ話し始めた。
しかも目の前で。
(どうする? 話しちゃう?)
(でもこいつ武闘祭で暴れた奴だぞ)
(うーん……でも、そんな危険なプレイヤーに見えないんだよね。今も助けてくれたし)
(分からんぞ、油断した所をズドン! かもしれないじゃないか)
――――丸聞こえなんだよなぁ。
コソコソ話になってないって。
この距離だと聞こえるっての。
「まずそっちから話してよ」
「こっから東に『アマテラス社』の港町がある。ここ『のこ丘』から見て、1エリア跨いだ先から来た」
「なる程……」
(本当に教えてくれた!)
(これ僕達も言わないと駄目じゃないか?)
だーから聞こえてるって。
こう……物陰に隠れるとか、他にやりようあるだろ。
「僕達は南から……えっと……」
「3エリアくらい?」
「そう、3エリア跨いだ先から来たんだ」
「3エリアか……結構離れてるな」
新大陸には関所ダンジョンが無い。
ともなれば、南の港町から直進して北上する事は理論上可能だろう。
「………………もう言っちゃう?」
「うん、その方が良い気がしてた」
俺には敵対の意思は無い。
別にここでPKして遺物奪うと言ったって、どうせ使い道無くて『市場』に売り飛ばすくらいしか出来ないだろうし。
それより情報収集が優先だな。
他の会社がどういう感じになってるか、新大陸はどんな地形しているか、とかな。
「実は、俺達は南から 逃(・) げ(・) て(・) きたんだ」
「今『セイレーン社』は、お互いギスギス状態なの」
2人曰く、『セイレーン社』には3つの勢力が居る。
リリース開始から激突を繰り広げた3勢力は、新大陸が解放されてから対立が激化したのだそう。
「あんなギスギス空間に居たら身が持たないよ」
気持ちは分かる。
これは俗に言う 勢(・) 力(・) 争(・) い(・) ってやつだ。
無駄に神経を擦り減らす足の引っ張り合いの何処が楽しいんだか全く理解出来ないな。
「それで、一刻も早く脱出してきた訳だけど……新大陸って街全く無いんだね」
「そうそう、ここまで歩いて来たのに全然街無い!」
設定上でも、新大陸には「調査で来た」という体で進んでいるからな。
そりゃ調査で来た大陸に文明やら街やらあったら普通にビックリするだろ。
「うーん……なぁ、俺から1つ提案があるんだが」
「提案?」
「俺、ここにプレイヤー街建てようか? んで、お前らがその住人になれば……隠居出来るだろ」
俺は後々マイホームを建てたいと思ってたし、どっかの街にお邪魔する事も考えていた。
だが、他人のルールにいちいち縛られるのも御免だ。
これを機に『市長』になってプレイヤー街を運営するのも一興かもしれないな。
「プレイヤー街……その手があったか!」
「本当にいいの?!」
「丁度俺も作りたいと思ってた所なんだ。お前らが良かったら住人になってくれよ」
何も嘘は言っていない。
ここプレイヤー街作ってマイホームも建てる気で居るし、住人に対して何か強制させる事は無い。
「それは僕達にとっても渡りに舟だ」
「私達住人になる! でも……プレイヤー街ってどうやって作るの?」
「確か『集会所』の受付に話しかけるんだったよな。2人共、ここで少し待っててくれ。速攻で作って戻ってくる」
「うん、待ってるね〜!」
思い立ったが吉日。
俺は来た道を駆け抜けて『ソル街』に戻っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『ソル街』
「――――という事で、だ。プレイヤー街を作る事にした」
「了解しました。ですが――――」
「ですが?」
「プレイヤー街の建設には、10万HG程必要です」
(『金庫』を操作して10万HG引き落とす音)
「これで足りるか?」
「はい。問題ありません」
こういう時の貯金なんだよな。
今までコツコツ貯めてきた甲斐があったというものだ。
お陰で『金庫』の中身がすっからかんになってしまったが、これでプレイヤー街を作れるんだ悔いは無い。
「建設エリアを教えて下さい」
「『のこ丘』の――――ここでお願いする」
「承知しました。少々お待ちください」
一時はどのプレイヤー街にしようかと思っていたが、快適な場所なんて自分で作れば問題無い。
この際、余り人の立ち入らない密かな街としてやっていこう。
勢力争いに巻き込まれたらたまったものじゃないからね。
「建設準備が整いました。最後に街の名前をお決め下さい」
「街の名前か……」
もしここで『タ○ノコの里』や『キノコの山派本拠地』なんて言ったら怒られるんだろうな。
仕方ないから、ここは順当に――――
「『緩々隠里』で」
――――これだな。
この街はバンダナやスカーフのように、ひっそりと暮らしたいプレイヤーを歓迎する事にしよう。
余り目立つような事をせず、知る人ぞ知る秘境。
我ながら格好良いな。
「街の名前の登録が完了しました。赤月様に『市長』の権限を付与します。一定期間の活動が認められなければ剝奪の可能性がございますので、ご注意下さい」
[『市長』になりました]
長時間ログインしてないプレイヤーが『市長』のままなのは、それはそれで問題だからな。
これは仕方ない処置だろう。
[『街管理』が追加されました]
「もし街の管理を行いたい場合は、『街管理』から行って下さい」
確認してみれば、UI上に『街管理』のマークが追加されていた。
これを押すと、マイホームや店、施設などの建設やプレイヤーを『住人』として招待する機能まで色々と揃っているようだった。
俺は検索してバンダナとスカーフを『住人』に招待した。
[プレイヤー バンダナが『住人』招待を承認しました]
[プレイヤー スカーフが『住人』招待を承認しました]
招待を送った瞬間、承認したログが見える。
これで俺達の隠居生活が始まる訳だ。
そう思えば、少し楽しくなってきたな。