作品タイトル不明
3つの人格
パキッ!
背後で、小さな音が鳴る。
俺は瞬時に振り向いて災極双転銃の引き金を――――
バキュンッ!!
「ちっ……」
引く前に蒼白なる弾にて肩を撃ち抜かれてしまった。
[吸収の状態になりました]
それに加えて、吸収の状態異常。
徐々に魔力が消耗し、トライソウル=ドールの糧となっていく。
「無駄です」
四方から冷徹な声と銃声が響き渡る。
一体何処に居るのか、まるで認識出来ない。
「視覚情報は既に遮断済みです。見破る事は不可能」
「 不(・) 可(・) 能(・) ? そりゃ諦めた者にのみ口にする戯言だろうが」
バキュンッ!!
ふと後方から蒼白なる弾が飛来する。
俺は首を傾けて躱した後、その方向へ 光(・) を当てた。
「これは……!」
そう、これは『導きの電灯』だ。
これは隠れている物や存在を発見出来る。
例え姿を消そうとも、かつて『呪いの人形』を発見した時のように――――
「丸見えだぜ?」
バババババババババン!
俺は即座に雷弾を連射する。
トライソウル=ドールは大きく怯み、周囲の霧が晴れた。
「……っ!」
そして、その隙を逃す事は無い。
いつの間にか、トライソウル=ドールの周囲には鉄と肉の拳が、槍先が、灼熱や、雷弾で囲まれていた。
「ぐはっっっ!!!」
再度、トライソウル=ドールの身体が破裂する。
だがそれでも、倒れる事は無い。
「まだログが出ないか……しぶと過ぎるぜ」
先程と同じように、身体が修復され始めていた。
砕けたはずの関節が、まるで見えない糸で縫い合わされるように繋がっていく。
「全く、2人共使えないじゃない!」
更に異なる声が響き渡る。
それは可憐な少女のようであり、その声色から多少の狂気を孕んでいるようにも聞こえる。
「かくなる上は……!」
ゴゴゴゴゴ………。
突如、周囲の墓石が震え始める。
次の瞬間、その墓石から大量の『呪いの人形』がナイフを持って出現した。
[第三形態へ移行]
「皆……消えちゃえ!」
トライソウル=ドールは空中へと舞い上がった。
骨と石で構成された二丁拳銃を地面へと向け、蒼白なる炎が銃口へと吸い寄せられていく。
「あれ、妨害しないと駄目なタイプだね」
「ちっ……人形が邪魔で攻撃出来ねぇ!」
徐々に蒼白なる炎の勢いが増す。
「このままじゃ不味いな……!」
「この中で一番、一撃の火力が高い奴は?」
「私が行くわ」
ふと、エンジェルが名乗りを上げる。
一見して治癒量特化のエンジェルに行かせるのは間違っているようにも見えるが――――
「エンジェル以外は道を開ける事に専念しろ!」
だがエンジェルの熱き眼差しと、何かを成し遂げてくれるという 信(・) 頼(・) によって、この場では彼女に攻撃の役割を一任した。
「【灼熱機関】」
まおうは前方に灼熱の業火を放つ。
それにより、多くの『呪いの人形』が灰燼に帰す。
それでも、エンジェルを仕留めようと人形の波が押し寄せて来ている。
「【過負荷暴走】」
飛雷神はその人形1つ1つの身体に風穴を開けた。
正確に槍先を人形へと押し当て、人形の波にトンネルのような穴を作る。
その左側からナイフを持った『呪いの人形』が飛び出した。
無数の刃がエンジェルを襲う。
「【臨界化】」
玩具戦士はその刃を弾き返した。
例え吸収の状態となっていようとも、刃が刺さるその一瞬だけ【臨界化】を起動していたのだ。
「【極性災雷】」
俺は最後の仕上げとして、『呪いの人形』の波全体に雷弾を連射する。
『呪いの人形』はお互いが磁力によって接着しており、即座に復帰してエンジェルの邪魔をする事が叶わなくなる。
「【愛死天流】」
次の瞬間、エンジェルの身体から桃色のオーラが勢い良く放出された。
それは愛を知らぬ者へ、愛を叩き込む一瞬にのみ出現する乙女パワーに他ならない。
エンジェル、地面を蹴り空を駆ける。
「【純愛正拳】ッ!」
【純愛正拳】。
それは 治(・) 癒(・) 量(・) を参照とするスキル。
自身の治癒量に比例して攻撃の威力が上昇する事により、治癒量特化のヒーラーであれば並のアタッカーすら上回る超火力を誇る。
「こ、来ないで!」
それ故に、握られた拳は――――
トライソウル=ドールの身体を塵1つ残さず、完全に消し飛ばした。
[ダンジョンボスを撃破しました]
[三魂縫合体 トライソウル=ドールを倒しました]
[『魂縫双銃』を入手しました]
[『縫魂礼装』を入手しました]
[5000HGを入手しました]
[ランク30になりました]
[ダンジョンの入り口まで転送します]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『ケタケタ汽水域』
ダンジョン『埋葬庭園』を抜けた先は奇妙な場所だった。
雰囲気はハロウィンのようなホラーチックのエリアであり、木々の 下(・) には水が浸水している。
マングローブのような植生をしているのだろうか?
いや、ただのマングローブではない。
木々は四方八方に根を張り巡らせ、水上に無数の足場を形成しており、だがその根は妙にねじくれ、まるで何かを掴もうとしているかのように湾曲していた。
地面の代わりに広がる深緑色の水面は、まるで腐敗した沼のように濁り、ゆっくりと泡を吐いている。
視線を上げると、枝葉の奥には闇に紛れるようにして微かに光るものがあった。
果実のようにも見えるが、普通の物ではないと確信する。
かぼちゃのランタンのように内側から橙色の光を放つものや、紫色に脈打ち、不規則に明滅するものまである。
不意にケタケタと笑うような音が聞こえる。
逃げ場となる物は水の上に張り巡らされた根の足場のみ。
だがその根もまた、わずかに蠢いている。
このエリア全体が生きているように思えた。
「いや景色入って来ないが。何だったんださっきのあれ!」
この景色も非常に興味深いが、そんな事よりもだ!
つい先程、エンジェルがトライソウル=ドールを一撃で全て粉砕した光景が脳裏から離れない。
「私の愛の一撃は、誰であろうと止める事は出来ないわ!」
「いやそういう意味じゃなく――――」
「このエリア僕様好みだぞ!」
「面白そうなエリアじゃん!」
え、何。
これ俺がおかしいのか?
筋骨隆々の天使魔法少女が乙女オーラを出したと思ったらボスを木っ端微塵にしたんだぞ?
何なら塵すら残らなかったんだぞ?!
「うんうん、ひとまずはお疲れ様だね」
「この話これで終わり? 深堀り無し?」
「赤月、この程度でツッコミしてたらキリが無いぞ」
えぇ……これが通常運転マジか。
一見オカマなだけで気遣い出来る優しいプレイヤーなんかなと思ってたけど、普通にイカれてただけだったわ。
「……いいや、俺も深く考えるの辞めよ。せっかくだし、皆フレンド申請送るぞ」
「そう言えば、フレンドになってなかったね。すっかり忘れていたよ」
「あら私にもフレンド? ありがと♡」
玩具戦士とはこれ以外だと敵対しかしてないからな。
フレンド申請を送るタイミング無かったんだよ。
エンジェルは……うん、エンジェルにも送るか。
[プレイヤー 玩具戦士がフレンド申請を承認しました]
[プレイヤー エンジェルがフレンド申請を承認しました]
「あ、僕様にも欲しいぞ!」
「まおうは要らんだろ」
「何を言うか飛雷神、臣下との交流は大切なんだぞ!」
まおうも今回役に立ってたからな。
火炎放射の火力は見事な物だった。
[プレイヤー まおうがフレンド申請を承認しました]
「皆はこっから先どうするんだ?」
「このまま街の解放まで突っ走るよ。赤月もどうだい?」
「そうしたっても良いが、一旦ログアウトかな」
そろそろ昼飯の時間だからな。
腹が減っては何となら、ゲームの為に食事を抜かす事は出来ない質なのさ。
「ならここでお別れね」
「そうだね、お疲れ様。赤月」
「また会おうぞ赤月!」
「お疲れ様っす兄貴!」
俺は4人に見送られながらログアウトした。