作品タイトル不明
3つの魂
『埋葬庭園(中央霊廟)』
広大な空間の中心に、巨大な石造りの霊廟が佇んでいる。
どこからともなく薄暗い光が降り注いでおり、周囲を囲むように並ぶ墓石は、これまでのものとは明らかに違う 圧(・) を放っているように思えた。
足を踏み入れた瞬間、背後で物音がした。
振り向くと、通ってきたはずの道は消えている。
既に逃げ道は無く、霊廟の扉は半ば開いているのみ。
中は暗く、奥が見えない。
「――――入るぞ」
霊廟の扉に手をかけた、その瞬間だった。
ギ……ギギ……。
周囲の墓石が――――
微かに軋んだ。
「視線を感じるな」
まるで墓石1つ1つが意思を持っているかのようで、これから起こる戦いを 観(・) 戦(・) しようと、視線を俺達に向けてくる。
ざり……。
ざり……ざり……。
「――――観測対象の侵入を確認」
俺達は互いに頷き、暗闇の奥へと進んでいった。
その瞬間、両端の蝋燭に蒼白の火が灯る。
先に進めば進む程、紫色の火が俺達を歓迎する。
「……いいな。掘り返す価値がある」
「ねぇ……どこから出てくるのかな?」
1歩、また1歩と進む程に声が明朗に響く。
だがその声は1人だけではない。
少なくとも、3人は居るように聞こえた。
その霊廟の奥からは、冷たい声が、低い笑い声が、幼い囁きが脳裏から離れないようで、一種の喧騒として響く。
違う場所から聞こえているはずの声が、徐々に頭の中で1つに重なる。
喧騒が最高潮に達した時、俺達は広々とした円形の部屋へと辿り着いていた。
周囲の蒼白の炎が次々に灯り――――
ボコリ。
次の瞬間、地面が内側から押し上げられる。
石畳が割れ、隙間から白い 指(・) が突き出した。
生き物とは思えない程の滑らかすぎる質感。
関節は球体で、不自然な方向へと曲がっている。
その指は地面を掴み、亀裂を走らせる。
地面の奥底から引きずり出されたのは――――
顔。
ひび割れた陶器の仮面と固定された笑みの表情。
右目が青白く光り、左目が赤く灯る。
その奥で、もう一つの 気(・) 配(・) が揺れた。
「高い魔力反応を検知しました」
「へへ……いい魂してる」
「……あそぼ?」
三つの声が、ぴたりと重なった。
バコンッ!
勢い良く飛び出たのは人形の身体。
関節が擦れるたび、乾いた音が霊廟に反響した。
完全に地に足を付けず、僅かに浮かびながら向き直る。
その時、周囲の墓石全てから――――
「何だ?!」
突如、淡い光が吸い上げられる。
それらは糸のように絡み合い人形の両手へと収束し、形を成していく。
両手に持つは二丁拳銃。
骨と石で構成されたそれは、まるで最初からそこにあったかのように、そして自然と人形の手に収まった。
「武器の回収、完了です」
「逃がさねぇぞ」
「ずっと、ここにいてね?」
[ダンジョンボスが出現しました]
[三魂縫合体 トライソウル=ドール]
「玩具戦士、飛雷神は前へ。僕様と赤月は後方火力に専念する。エンジェルは全体のサポートを」
「「「「了解!」」」」
まおうの指示通り、俺達は陣形を整える。
玩具戦士と飛雷神がトライソウル=ドールに駆け寄り、戦闘の開幕を告げる轟音を掻き鳴らす。
「ふんっ!」
「【穿雷突貫】!」
「……ぐあっ?! 痛ぇじゃねぇか畜生!」
トライソウル=ドールは2人の攻撃で飛ばされるも、即座に体勢を立て直した。
バキュン!
そして二丁拳銃の銃口を向け、蒼白なる弾を放つ。
「【臨界化】」
『鋼鉄機構鎧』の身体中に黄緑色の模様が浮かび上がる。
玩具戦士はニヤリと笑みを浮かべたかと思えば、咄嗟に防御の構えを取った。
ガキンッ!
玩具戦士の装甲と蒼白なる弾の衝突。
火花が散り、金属音を周囲に響かせる。
「……中々火力高いじゃないの!」
[吸収の状態になりました]
次の瞬間、玩具戦士から 何(・) か(・) が飛び出した。
「大丈夫か?」
「……皆は奴の弾に触れない方が良いね。 魔(・) 力(・) が吸い取られている」
吸収の状態異常――――
それは魔力の吸収である。
玩具戦士は常に魔力が消耗するようになり、魔力の魂がトライソウル=ドールへと吸い寄せられていく。
突如、玩具戦士の黄緑色の模様が掻き消えた。
「そのスキル、結構魔力使うものね……」
【臨界化】は絶大な防御力と耐性を得る代わりに魔力の消耗が激しいスキルとなっている。
玩具戦士はこのスキルを使うべきではないと判断し、即座に【臨界化】を解除した。
「喰らいやがれ!」
トライソウル=ドールは隙だらけの玩具戦士に、再度蒼白なる弾を放つ。
「飛雷神!」
「分かってる! 【導雷回路】」
玩具戦士の側から飛雷神が飛び出した。
蒼白なる弾が飛雷神の身体を直撃する。
「【博愛】」
そこをエンジェルの【博愛】によって、瞬時に体力を最大値まで回復する。
「……大丈夫なのか?」
「問題ねぇ兄貴! むしろ高まってきた!」
飛雷神の身体から稲妻が迸る。
ゴロゴロと帯電を起こしながら、トライソウル=ドールへと喰らいつく。
「赤月、合わせるぞ!」
「……了解!」
俺とまおうは両端から姿からフィールドを駆け抜ける。
「【極性災雷】」
「【灼熱機関】」
『災極双転銃』には赤と青の帯電が宿り、『滅界双炎』は灼熱の炎が循環する。
赤と青、そして橙の光がトライソウル=ドールと飛雷神を襲う。
「があっ?! 熱ぃ痛ぇ!」
「俺も忘れて貰っちゃ困るぜ!」
その猛攻の中から、飛雷神が飛び出した。
「【過負荷暴走】ッ!」
その刹那、飛雷神の持つ『神罰の雷槍』に稲妻が纏う。
無数の槍先がトライソウル=ドールへと向かい――――
「ぐぎゃぁぁぁぁぁ?!?!」
トライソウル=ドールの身体が 破(・) 裂(・) した。
一瞬の連撃により、鼓膜を劈く叫び声が響き渡る。
「まおう、これは……」
「驚いたようで何より。これこそ、飛雷神の真骨頂。まさしく 自(・) 傷(・) アタッカー!」
自傷アタッカーとは、自身がダメージを負う事で様々な効果を発揮するビルドである。
『神罰の雷槍』に付属する【穿雷突貫】と腕輪の遺物である『雷脈を繋ぐ環』の【導雷回路】にて、体力のコントロールを行っている。
喰らったダメージ量に比例して膨れ上がる蓄電を、奥義となる防具遺物『狂雷暴装』の【過負荷暴走】にて放出する。
それに加え――――
「【博愛】」
エンジェルの単体回復により、極限まで減らされた飛雷神の体力を瞬時に 最(・) 大(・) 値(・) まで回復した。
「エンジェルも中々回復量多いな」
「ふふっ、何せ私 治(・) 癒(・) 量(・) 特化なんですもの!」
「治癒量特化だぁ……?」
治癒量特化にしては、大食喰種に【純愛正拳】を繰り出していたはずだ。
……何かカラクリがあるな?
「――――簡単に壊されては世話がないですね」
次の瞬間、トライソウル=ドールの身体が徐々に修復され始めていた。
「……何?!」
砕けたはずの関節が、まるで見えない糸で縫い合わされるように繋がっていく。
その声は、先程までとは明らかに違っていた。
冷たく、平坦。
まるで感情が削ぎ落とされたような声音だった。
トライソウル=ドールは、ゆっくりと首を傾げた。
だが先程までの歪さは感じられない。
――――むしろ、正確すぎる。
カチ、カチ、と関節が噛み合う音が鳴る。
その一つ一つが、無駄なく、規則的に。
「戦闘データの更新を確認しました。これより、最適戦術へ移行します」
その宣言と同時に、濃い霧が立ち込めた。
『埋葬庭園(内周墓地)』にて散々見かけた、黒く濁ったような霧。
足元が見えない。
仲間の姿も、数歩先で霞んでしまう。
そして、トライソウル=ドールの姿も消えた。
[第二形態へ移行]