作品タイトル不明
密です。密です。密です。
『蜜密洞窟(4F)』
この『密密洞窟』最奥地、そこには従来の虫モンスターを遥かに凌駕する大きさの蜂が居た。
その蜂は背中に巨大な蜂の巣を背負っており、その背中から大勢の小蜂を生み出している。
羽音が、空気を震わせていた。
耳鳴りのように低く重い音。
それはまさしく 圧(・) のようであった。
「女王蜂ってやつか?」
爆弾愛好家がそう呟いた瞬間、蜂の複眼がぎょろりとこちらを捉えた。
幾千もの面が一斉に光を反射し、ぞわりと背筋が粟立つ。
その奥底から来る不快感は、甲高い叫びによって溢れ出すようだった。
「キェィィィィィィィィ!!!」
[ダンジョンボスを発見しました]
[毒蜜女王 ヴェスパ=レギナ]
次の瞬間、背中の蜂の巣が脈打った。
ぼこり。
まるで生きた臓物のように膨れ上がり、無数の穴から黒い影が溢れ出す。
小蜂だ。
掌ほどのそれらが、滝のように吐き出される。
数が、異常だった。
一匹二匹じゃない。十でも百でもない。
群(・) れ(・) という言葉すら生温いほどの奔流が、こちらへと押し寄せる。
「【蛮勇ノ祝福】」
反射的に鬼巫女は味方に攻撃力バフを撒いた。
これは生半可な火力では対処出来ないと、即座に判断する。
「爆弾愛好家、右半分は任せた」
「合点っ!」
爆弾愛好家は『推進弾発射砲』を放ち爆破する。
ドッカァァァァァン!!!
「【極性災雷】」
ババババババン!
ババババババン!
バンッ!
バンッ!
隣の大爆発を横目に、俺と黒豆は左半分の小蜂の奔流を相手に連射する。
リソースを顧みず、出来る限りの弾を撃ち込む。
だが、迫る小蜂は一直線ではない。
空中で何度も軌道を変え、回り込み、俺達の死角へと潜り込んでくる。
統率されている――――
いや、操られていると言ってもいい。
視線を戻せば、ヴェスパ=レギナは微動だにしていない。
ただ静かに宙へ浮かび、羽を震わせるだけ。
それだけで、戦場の全てが支配されているようだった。
「本体は動かない……完全に召喚型ですね!」
「クソがっ……! キリがねぇぞ!」
小蜂が一斉に集まり、肉の壁のように立ちはだかる。
例え『鬼の金棒』を振るっても振るっても、次の瞬間には新たな蜂がその隙間を埋める。
減らない。
減っているはずなのに、減っている感覚が無い。
その間にも、背中の巣は脈動を続けている。
ぼこり、ぼこりと。
――――全く供給が止まらない。
「ならば本体を叩く! 一瞬でいい、穴を開けろ!」
ならばやることは一つ。
この飽和した群れの中から、女王へ至る道をこじ開け、一斉にヴェスパ=レギナへ撃ち込む。
「俺に任せろ!」
爆弾愛好家が前に立ち、『巨黒爆弾』を放り投げる。
「【起爆】ッ!」
ドッカァァァァァン!!!
その瞬間、一瞬の刹那――――
小蜂の群れに、 穴(・) が空いた。
「今だっ!」
赤の雷弾が、青の雷弾が、そして鋼の銃弾が、ヴェスパ=レギナの身体へと撃ち込まれていった。
赤と青が混合し、紫の雷撃が連鎖的に身体を痺れさせる。
鋼の銃弾が脳天を貫通させ、背中の蜂の巣に衝撃が走る。
「キェィィィィィィィィ!!!」
ヴェスパ=レギナの悲鳴が鼓膜を劈くが如く木霊した。
その超音波にも似た叫びが、この『蜜密洞窟』を震わせ、崩されていく。
ガッシァァァン!
ドゴォン!
上から岩が落ちてくる。
余りの衝撃に、天井が耐えきれなくなっていた。
「キェィィィィィィィィ!!!」
身体の節々から 紫(・) の血が流れ出す。
本来、このゲームに流血表現は無い。
血は全てポリゴンで表現されるのが常であった。
――――では何故、紫の血が流れ出たのか。
「皆、岩の上に飛び乗れ!」
俺は即座に指示を出し、皆に岩を登らせた。
次の瞬間、紫の血が地面を満たしていた。
「なる程……多分、 毒(・) ですね」
ヴェスパ=レギナが何故、 毒(・) 蜜(・) 女(・) 王(・) と呼ばれているか。
それは、彼女自身が毒の使い手であるからだ。
毒の液体はヴェスパ=レギナの身体だけではなく、壁からも滝のように流れ続けており、下が毒の湖と化す。
動ける足場は岩の上のみ。
かつてのマグニ=パルスを彷彿とさせる光景だった。
「キェィィィィィィィィ!!!」
いつの間にか、ヴェスパ=レギナの体色が紫色となっており、再度背中の蜂の巣が脈打つ。
まるで生きた臓物のように膨れ上がり、無数の穴から小蜂が溢れ出す。
だが――――
「げっ、小蜂にも毒付いてるのかよ」
その無数の小蜂も、それぞれが紫の体色をしていた。
[第二形態へ移行]