軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第854話 逃走劇⑥乗合馬車

考えながらうとうとしていたようだ。

気がついたら、フランツに寄りかかって寝ていた。

日は陰り始め、馬車は止まっている。

街に入る手続きの列に並んでいるみたい。

重かっただろうと思って謝ると、すぐに口を塞がれた。

黙っていろと言われたんだっけ。

手続きが終わり、街中をゆっくり進んだ馬車は、街のターミナルに辿り着いた。

御者さんにお礼を言いながら降りる。

辺りは暗くなろうとしている。

「宿を急いで取らないと……」

そう呟くアダムにフランツは頷く。わたしはなぜかフランツと手を繋いでいる。12歳ってお兄ちゃんに手を引いてもらうものか?

ちょい裏道に入って宿屋を探した。

アダムとフランツが入ると、宿のおばさんニッコニコだ。

挨拶をしてから、部屋は空いてるか尋ねる。

1部屋なら空いているそうだ。

「小さいベッドを入れてもらうことは可能ですか?」

「はい、大丈夫ですよ」

後ろから人が入ってきた。

派手な美女だ。

「すみません、お泊まりでしたら、もう部屋は空いてません」

おばさんが先に告げると、女性は眉根を寄せた。

そしてアダムとフランツに狙いを定める。

「お礼金をお支払いしますわ。部屋を譲っていただけません?」

「すみません、小さい子もいるので早く休ませたいんです」

チロリと見られた。その目つきの鋭いこと! 怖っ。

「では、相部屋してくださらない? 部屋代は私が持つわ」

「……部屋には2つしかベッドがないそうなので」

アダムがやんわり断る。わたしたちは3人。すでにベッド足りないでしょう?と含ませる。

「ここのベッドは広いわ。2人で眠れるでしょ。同じベッドで構わなくてよ」

ツエー。あなたが構わなくても、こちらが構うってことがあるだろう。

服も原色バリバリ。眉とアイメイクでやたら目を強調しているから、派手に見えるんだなーとなんとなく観察していた。

「お断りします」

フランツがキッパリと言った。

まったく柔らかさを見せず、おばさんに向き直り、前払いの代金を払って、鍵を受け取る。

そしてわたしを担ぎ上げた。

おわっ! ひとりで2階にあがれるってば。

でも話しちゃいけないんだろうなと我慢する。

残されたアダムは

「すみません、弟が風邪気味で気が立っていて」

と如才なくフォローしてから、階段をあがってきた。

部屋に入ってしばらくすると、宿の人が簡易ベッドを入れてくれた。

元々あるベッドは広々としていて、なんなら3人でひとつのベッドでも眠れそうだった。

ないとは思うけど襲撃に備え、広いベッド2つの真ん中に簡易ベッドを置いてもらう。

アダムが夕飯を調達してくると部屋から出ていった。

「フランツ、寝ちゃってごめんね。重かったよね?」

謝れば、フランツは微笑む。

「そんなことないよ。トスカはもっとご飯を食べて太った方がいい」

明日も朝から夕方まで馬車に乗ることになるという。

アダムが帰ってきてから、もふもふやぬいたちも一緒にご飯を食べた。

もふもふやぬいたちが食べる食べる。

アダムはそれを知っていたように、すごい量を買い込んできていた。

お肉が大好きな子が多くて、それも知っていたみたいだ。

みんなを満足させるラインナップだった。

わたしにはお菓子も買ってきてくれてた。明日馬車の中で食べてもいいと。

簡易ベッドもわたしには大きかったので、もふもふやぬいたちと一緒に寝ても、問題なかった。

お風呂のない宿だったので、手足を拭いただけだ。今日の宿にはお風呂があるといいな。なんて。〝アリの巣〟にいた時は体も満足に拭けなかったのに、贅沢な子になってしまった。

そんなことを思いながら宿の朝ご飯を食べて、ターミナルに赴く。

もふもふも、ぬいもリュックの中だ。

げっ。

同じ乗合馬車を待つ列の中に、昨日の派手な女性が並んでいた。

今日は赤い服だ。とっても目立つ。

女性がわたしたちに気づいて、一瞬、目を細めた。

フランツがチケットを買いに行き、馬車がきたので乗り込む。

女性と席が離れていたので、胸を撫で下ろす。

12人乗りの乗合馬車は満員だ。

後方の3席。わたしはアダムとフランツに挟まれる。

わたしたちの前は割腹のいい商人さんだった。おじいちゃんに手が届きそうな人で、隣に成人したてのお兄さんを連れていた。使用人ってところかな。

商人のおじさんは、おしゃべりな人で、推しの商品をいろいろ教えてくれた。頼んだわけではないけれど。でもそれで退屈しなかったのは確かだ。

休憩を一度挟み、その次の休憩場で、少し長めのお昼をとる。

冒険者風の2人組が御者さんに呼ばれていた。

今日の買い出し当番のフランツの選んだご飯をいただく。

まだ冒険者と御者さんは話している。

フランツも気になったようで、話しているところに合流した。

戻ってきた時、険しい表情だった。

「どうした?」

近づき、小さな声でアダムが尋ねる。

「一定の距離で追ってくる集団がいるそうだ」

さらに声を小さくしてフランツが答えた。

この街道は一本道なので、方向が同じなのは当たり前。気にすることもないのかもしれないけれど、最初の休憩所の時に彼らに気づいたという。

馬車を引く馬と馬を走らせるのとでは速度が違う。追い越していけばいいのに、そうしないことが気持ち悪かったんだって。次の休憩所まで少しゆっくり走らせた。すると、その集団も速度を緩めた。

ここは一本道、そして左右にそれたり隠れたりすることに向かない地形から、盗賊などは出たことがない。次の街で捕まってしまうからだ。それでこのルートには護衛はついていない。御者さんは昔冒険者をしていて、腕に覚えがあるそうだ。冒険者を引退してから御者の仕事を選ぶ人は多いらしい。

もし盗賊でこの馬車を狙っているとしたら、ここが最後の休憩場所なので、街にある程度近づいたところで襲い、そのままかけ抜けようとする可能性が高いとみている。

一応、乗合馬車組合に伝達魔法を飛ばして、応援を呼んでいるそうだ。

ここで出来る限り時間を潰し、それでもバレたかって思われ襲われたら本末転倒なので、もう少ししたら出発だそうだ。

御者さんの勘が外れることを祈るしかないけど、こういうのは当たるもんだよね。