軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第853話 逃走劇⑤通話

「体は大丈夫かい? 痛いところや辛いところはないかい?」

温かい声だ。わたしを心から気遣ってくれているのが、声だけなのに伝わってくる。

「はい、ありません」

「よく眠れているかい?」

「……あ、えっと、大丈夫です」

ちょっと睡眠不足なので、まごついてしまった。

「……大変な目にあったと聞いたよ。よく頑張ったね」

目の奥が熱いと思った時には、両目から涙がボロボロと溢れていた。

「……父さま」

思わず口にしていてハッとする。

「あ、ごめんなさい。急に、あっ。あの……フランツのお父さんみたいな人がわたしの父さんだったらいいのにって思えて……」

静けさが舞い降りて、怒らせたのかと焦る。

「ごめんなさい、あのっ」

「とても光栄だよ」

鼻の詰まったような少し震えた声。

「とても不安だと思う。でも息子たちを信じてくれ」

「……頼ってばかりです」

「ユオブリアで会えることを楽しみにしているよ」

「……はい」

フランツは耳飾りをいじり、また少し会話をしてからフォンを切った。

「ここから転移をしないの?」

「あ、ええと。転移は人のスキルなんだ。その力で転移させてもらう。転移は一度行った場所にいけるというもので、一緒にいる、その人の近くにいることも条件となる」

そっか。だから隠れ家から転移とかはできなくて、その転移できる人が行ったことのある場所で合流する必要があるのか。

簡易地図を出して、アダムと話はじめる。少しすると水色の鳥が何羽か飛んできた。それぞれ封書になり、フランツとアダムが読みふける。

「少し先の街のナミンコーワでクジャクさまと落ち合うことになった。ロサたちは目眩しのため、ポスキャンに向かい港街に行くふりをしてくれる。お遣いさまは目についてしまうので、ぬいぐるみのままでお願いします」

『あい、わかった』

もふもふの返事をふたりに伝える。

「さて、ここからだ。僕たちの普通の行動でいったら……」

「馬を借りて合流場所に向かうだろうね」

「そう読まれると仮定して、乗合馬車で移動しよう」

「トスカは私の〝弟〟になってくれ。声を出すと女の子だとわかってしまうから、人前では話さないでね。風邪をひいて声が出ないことにしよう」

とマフラーのように喉と口を塞ぐように布を巻かれてしまった。

今が真夏じゃなくてよかった。

目しか見えてないけど、わたしとフランツが兄弟設定は無理がありすぎると思う。

髪の色が大きく違うし、フランツは美形だ。

「アダム、髪の色を頼む」

「はいよ」

え? フランツの髪の色が、わたしと同じような色になった。

……なんかすっごくかっこよく見えた。

「どうした? あ、魔法だよ。目眩しの一種だ」

フランツが微笑む。

「すごいね、そんなこともできるんだ」

「アダムは魔力も多いし、スキル持ちでもある。でも一番すごいのは魔法の法則を読み解いていて、定義によってさらに多角面にも使える魔法を確立しているところだな」

「煽ててもなにも出ないぞ」

「いや、本当に尊敬している。論文を書くべきだ。そうしたら、魔法革命が起こりそうだな。魔法でできることが増える」

「でもそれは同時に魔法格差が起きることでもある……」

よくわからないけど、アダムがそういうと、フランツもきゅっと口を結んだ。

「さ、そろそろ出よう。トスカは絶対にその鞄を下さないこと!」

アダムに注意される。

3人でターミナルのようなところに向かう。馬車が何台も待機していた。目的の場所は違うんだろうけど。

小さな小屋の窓口でチケットを購入。乗る時にそれを渡すみたい。

中央の噴水の淵に腰掛けて、買い物をしに行ったアダムを待つ。

ちょうどいいことに20分後の出発だったって。

12人乗りの馬車だけど、わたしたちの他に3人しか乗客はいなかった。

ずんぐりむっくりしたおばさんと、商人っぽいおじさん。それから若いお姉さんだ。お姉さんはチラチラとアダムとフランツを見ていた。

道悪っ。

どんどこ跳ねるし、椅子の角度は直角で最悪だし、なにせ硬い板の上だ。お尻が痛い。わたしが跳ねてしまうので最初はフランツが押さえてくれていたけれど、めんどくさくなったのか、フランツの膝の上に横座りにさせられた。

フランツの足は細いし硬いから座り心地は良くないけど、馬車の椅子よりはマシで、放り出されるようなことがないので、安心できる。

気恥ずかしさはあるけれど、楽ちんになったので、考え事をする。

そろそろ考えようと思う。

ひょっとして、わたしって重要人物なんじゃない?

なんかさー、わたし狙われているっぽくない?

いや狙われているのは知ってたけど、なんかここまで本格的というか執拗に狙われるとは、なんか不気味。執着されている気がする。

組織では蔑ろにされていたのに。

記憶を失くす前のわたし……光魔法が使えて、加護の何かを知っていた。

それからマルシェドラゴンの加護があるらしい。

もふもふやぬいたちと話せる。

それからテンジモノだっけ? 他の世界の記憶。

意味がよくわからんけど。

特別な価値があるのかな?

だからみんなよくしてくれるのかな? 狙われもするけど。

元組織にわたしを渡したくないから、こうやって守ってくれるのかな?

心配してくれるのかな?

でもそれよりもうちょっとこう、親身になってくれているというか。

どうしてだろう?

ただみんながニュートラルに優しい人たちなのかな?

ミミに化けてたおじさんが言ってた 娘(こ) は、わたしのこと?

だとすると、わたし貴族のお嬢さんっぽいこと言ってたよね?

わたしが貴族? まさか……。

でも貴族なら、みんなが優しいのはすんなりわかる。

わたしは本当に拐われた娘で、その家族がわたしを取り返す依頼をしたのかもしれない。それは依頼してくれる家族がいるかもしれないという点では嬉しく、けれどだからみんなが親身になってくれたと結論が出るのは残念だ。

わたし、確かに贅沢言ってるね。

ただ、いろんな思いを繰り広げても、いつか真実が見えてくるまで、それは想像でしかない。悩むだけ損か。

いつか本当のことがわかるまで、わたしが嬉しい方に考えていていいかな? だって、その時までしか、楽しい想像は続けられないのだから。