軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第852話 逃走劇④依代

薄目を開けて窺えば、店の扉を閉めている。

いざとなれば、もふもふに大きくなってもらって逃げればいい。

今って、いざって時なの?

わたしの前で倒れていたミミが、起き上がるような気配がする。

よかった、ミミもお芝居だったのかな?

うっすら目を片目だけ開けると、ミミの靴が見えた。

わたしも、と起きあがろうとしたら声がした。

「この娘を隠しておけ」

おじさんみたいな声だけど、ミミから発せられている気がする。

ど、どういうこと?

「はい、当主さま。当主さまはどちらに?」

「この娘と 逸(はぐ) れたといい、こちらの娘の体を捨ててくる。目の前で倒れておけば時間が稼げるだろう。 依代(よりしろ) のスキルがあっても魔力がなくて使えない。でも精霊との同期やらこの娘を連れ出せたからな、今まで食べさせてやった働きはしたな」

「さようでございますね」

依代ってあれだよね? 霊体とかを体に降ろせる人。

ミミは依代のスキルがあって、乗っ取られてたんだ。

ちょっとほっとする。

精霊と同期? ミミは組織で体を乗っ取られて何かをやらされていた?

「戻り次第、出られるようにしておけ」

「承知いたしました」

「そうだ。顧客たちが娘の能力を、やり方次第では取り込めることに気づき始めた。娘を探しているようだ。フォルガードの施設が落ちたことから、王都に各国の者が忍んでいる。この娘だとわからないように細心の注意を払え」

「心得ました」

扉を開けて、軽やかに走り出す子供の足音。

「はぁーこんな子供になんの価値があるってんだ。

それにボサボサの髪で、頬もこけて痩せ細って。こんなガリチビを誰が貴族のお嬢さまだなんて思うかっての。当主さまは肩入れしすぎだ」

美女の声だけど、〝当主〟がいなくなったら……こっちが〝素〟だろうね。

足音が遠のく。今だ!

わたしは起き上がって、扉に向かってダッシュ。

その隙間から外へと出た。

こっちがウッド商会通りのはず。

腕をつかまれた!

いやいやいやいや!

「落ち着け、トスカ、僕だ」

アダム?

「本物?」

アダムはものすごく変な顔をした。

「何かあったんだね?」

アダムはピクッとした。手をひかれ、路地に入ってしゃがみ込む。

さっきの毒々しい美女が走ってきた。

左右を見て、慌てたように通りに向かい走っていく。

「あれ、組織の人だと思う。わたし連れて行かれそうになった」

わたしは小さい声で訴えた。

そして順番がめちゃくちゃだった気がするが、食事が終わってからのミミとのことを話した。

アダムは少しだけ目を細める。

足音が聞こえた。

「こっちだ」

アダムに引っ張られる。

「みんなは?」

「とりあえず連絡をとる」

アダムが耳飾りを触った。何か操作するみたいに。

アダムは誰かと話し出した。通話してる? 携帯?

話し終えたのか、また耳飾りを触っている。そしてわたしに向き直る。

「大丈夫だ。ジンたちのことはフォンタナ家に任せる。ミミも大丈夫だ。気を失い……ここに来たことも覚えていなかったそうだ。どうやらこちらのことがいくらかはわかってしまっているようだね。

子供たちはフォンタナ家に任せて、フランツが合流する。僕たちはそのままユオブリアに向かおう」

「え?」

「不確定要素が入りこみすぎた。隠れ家はもう安全ではない。別行動になるがユオブリアを目指そう」

アダムは常にわたしを人目に晒さないように気をつけながら移動して、小さなお店に入った。お客さんが2人入ったら身動きできなくなるような古着屋さんだった。そこでアダムにはどう見ても小さい服を買った。

お店を出てから、いくつも路地を曲がり、小さな家に入った。

埃っぽい。

アダムから先ほど買った服へと着替えるように言われる。男の子用のものだ。

着替えて部屋から出ると、フランツがいた。

アダムに話したことを、今度はじっくり端折らずにふたりに伝える。

ふたりは目を合わせた。

「そいつらが警戒していたなら、本当にまずいかもしれないな」

アダムとフランツが唸っている。

「どういうこと?」

「僕たちは外国人だ。組織を潰す目的で入国し、ひとまずそれを達成している。組織を相手に武力を使っても世界議会が認める犯罪組織だからこそ、それが許された。けれど、今明確な犯罪とわかっていない者であれば、分が悪くなる。ウッド商会は信用しているが、誰が紛れ込んでいるかわからない。だから独自の方法でユオブリアに帰るとしよう」

それはわかるけど、なんかちょっと煙にまかれた感じ。

「どうやって海を渡るの?」

「転移だ」

「転移?」

「ああ。ただ待ち合わせ場所まで自力で向かわないとなんだ。怪しまれないようにしてな」

「ノエルでは弱いか……」

「クジャク公……さまに頼もう」

「そうだな」

今度はフランツが耳飾りを触って、丁寧な話し方をした。

「ねぇ、アダム、それ携帯?」

「え? 思い出したの?」

え?

「……思い出したらこれを〝ケイタイ〟とは言わないか。これは3Dフォンだ」

「3Dフォン? 携帯の一種だよね?」

アダムが困っているようなので、言葉を足す。

「相手もそれを持っていて、リアルタイムで話ができるんだよね?」

「リアルタイム?」

「えーと、今っていうか、実時間で」

「そうだよ。今、フランツがフランツの父上と話している。ちなみにケイタイは相手の映像が浮かび上がって話すこともできるものだ。3Dフォンは音だけの通話」

なるほど。わたしの記憶とは違う。

思い出せてないことがあるからなんだろうけど、こういった知識も覚えてたり覚えていなかったりするのが不思議だ。同じ知識でも住み分けが違うことだったのかな?

「トスカ」

フランツに呼ばれる。

「なに?」

「私の父なんだけど、ちょっと話してくれるかな?」

フランツが耳飾りをいじると、相手の声が聞こえてきた。

「こんにちは、トスカ。私はフランツの父です」

あったかい声の人だ。

「は、はじめまして、トスカです。あの、フランツにもすごくお世話になっています。ありがとうございます」

頭を下げてから、あ、見えないんだっけと思い出した。