軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第818話 笑うことを忘れた少女⑰ターゲット

起きるとベッドにもふもふと寝ていた。

窓から陽が差し込んでいる。

ソファーにへたり込んだ記憶までしかないから、誰かが運んでくれたんだ。

「おはよう」

もふもふに挨拶する。

「もふもふはなんで、わたしと一緒にいてくれるの?」

森の色の瞳がわたしをみつめる。

一瞬、答えが返ってくるかと期待してしまった。

「ねぇ、もし嫌じゃなかったら、これからもずっとわたしと一緒にいてくれない?」

もふもふは返事のように、わたしの頬を舐める。

「いいの? 約束だよ。約束破ったらハリセンボンノマスなんだから!」

もふもふの意向を勝手に決めつける。

ハリセンボンってなんだろう? 思いつくまま言ったけど、自分でも意味がわからない。

もふもふの頭を撫でる。

「わたし怖いんだ。犯罪組織にいたでしょう? 記憶はないけど、わたし悪いことしてたんじゃないかな? 特別に狙われているってそういうことじゃないかな?

わたし悪い人たちの役に立っていたのかもしれない。そうだったらどうしよう」

不安が押し寄せてきて、もふもふをギュッとする。

「今みんなによくしてもらってるでしょう? 看守たちには嫌われていたの。蹴られたり殴られたり。ご飯を落とされたり。わざと傷つける言葉をかけられた。それは痛くてもなんともなかったけど。

わたし、優しくしてくれたみんなに急に背を向けられたら、すっごく痛いかもしれない。すごく悲しくて何もかもがイヤになっちゃうって思える。それが怖くて、組織を潰したいと思っているのかもしれない。わたしが酷いことをした証拠が残らないように。

ねぇ、ずるいよね? 嫌いになった?」

もふもふは反対の頬を舐めてくれた。

そのうち顔中を舐められて、とうとうくすぐったくて笑ってしまった。

もふもふならきっと、わたしのずるいところも分からなくて受け入れてくれる、そう思うから、一緒にいてくれるかもって思ってるんだ、わたし。

もふもふと部屋から出る。2階だったみたいだ。

階段を下りれば、とっくに起きて会議でもしていたみたいだ。

けれどガーシ、フランツ、アダム、ロサしか人が見当たらない。

「おはよう」

アダムに声をかけられる。

「おはよう。ジンたちはまだ?」

「彼らとはフォルガードで落ち合うことにした」

え?

抱っこしていたもふもふをギュッとする。

「……それは、わたしがターゲットだから?」

「ターゲット?」

「えっと、狙いだから?」

ロサが言葉を探し、アダムが真顔になる。

「その通りだ。君が狙われている。安全のため、みんなと君を引き離すことにした」

フランツは容赦ないな。

わたしは唇を噛みしめていた。

「なんで、わたしが狙われるの?」

「記憶をなくしているんだよね? そのことと関係しているかもしれない」

ロサは続ける。

「というわけで、なるべく早くフォルガードに行きたいんだ。少しでも安全なところに行きたい。移動ばかりで辛いだろうけど朝食はなしで隣街まで行って、食事を取る。いいかな?」

わたしはもちろんと頷いた。

この頃いっぱいおいしいものを食べさせてもらっていたけど、〝アリの巣〟では朝と夜の二回の配給で、量もちょっぴりだった。

だから食事を抜くぐらいなんてことない。

それにわたしはガーシの馬に乗せてもらうだけだ。

みんなの方がお腹が空いたままで大丈夫なのかと思っちゃう。

あ、もふもふはお腹空いちゃうよね。

わたしは固くなったパンを出して、もふもふに食べるかを尋ねた。もふもふはふるっと体を震わせる。見向きもしない。いらないって言ってるみたいだ。

みんなはテーブルの上のものをまとめている。簡易地図みたいに見えた。

わたしも見せてほしいな。次の休憩の時に頼んでみよう。

離れ離れになってしまっても、落ち合うところを決めていたんだろう。

2時間ぐらい馬を走らせ、何事もなく隣街につくことができた。

食堂に入った。この時間はスープとパンのセットしかなかった。

みんなで貯めたお金は分配したので、自分の分は持っている。でもお金は使えば消えていく。しばらく薬草とりの仕事をしたりはできないだろうから、収入はないってことだ。

……昨日お腹いっぱい食べたから、まだ食べなくても平気だ。

もふもふのご飯をテイクアウトで頼むことにしよう。そしてわたしはお腹が空いてないからと断ろう。

注文しようとすると、

「彼のご飯は、もう注文したよ」

と言われる。

え?

「でも……」

「それから渡すのを忘れていた。情報料だ」

ロサから小さな布袋を渡された。

え?

「他のみんなにも渡しているはずだから」

情報料ってこんなに?

「食事や身の回りのものは必要経費で出すよ。ただ、もう少し遠くに行くまで買い物の時間は取れない。食事はここを出てから次にいつ取れるかわからないから、無理してでも食べてくれるとありがたい」

ロサにそう言われたので、わたしもスープとパンのセットをいただいた。

それにもふもふのご飯の分も、わたしの分もまとめて払ってくれた。必要経費に入れてもらえたみたいだ。ありがたい。

3人がかっこよかったからか、ハムのお皿をサービスしてくれた。

そのハムをもふもふにもらえないかなと思っていると、フランツがもふもふの分はたっぷり持ち帰りで用意してもらっているから、これは食べていいよとわたしの前に置いてくれた。

3人は強いし、フォンタナの戦士も強い。人の数、馬、それからいくつもある隠れ家。情報料としてこれだけをポンと出せる……対バッカスの組織も規模が大きいし、お金があるみたいだ。

夜は野宿になるかもしれなくて、〝アリの巣〟のことをまた話して欲しいと言われる。わたしは知っていることは少ないけどと前置きのあとに請け負った。

それからはまた馬を走らせ続ける。低めの山も駆け抜けたし、森の中に入った。

陽が暮れたので、そこで野宿することになった。

みんな手慣れている。

わたしだけ何をしていいのかわからない。

「何をすればいい?」

「お湯を沸かしておいてくれる?」

そう言われて、セットされた薪の上にお鍋を掲げた。

大きめの丸太を持ってきたガーシが、焚き火を囲むよう、周りに三角形で並べる。椅子として使うのかな。

フランツの持っている、古い獣の皮でできたような袋から、あり得ないくらいのいろいろなものが出てくる。だって袋は高さが30センチもない。それに膨れあがってもいないのに、コップ、お椀、お皿、フォークやスプーン、お箸まで。

その後に湯気を立てた料理まで!

あ、アイテムボックスか!

「フランツのそれはアイテムボックス?」

「あいてむぼっくす?」

フランツが首を傾げる。

あれ、違うのか?

「あいてむぼっくすとはどんなもの?」

「ええと、亜空間にある、箱のこと。時間停止もできる。だって、その袋に入るわけない量のものが入っているし、お料理が湯気を立てているから、そうだと思った」

「私たちは収納袋と呼んでいる」

あ、記憶に引っかかる。

そう呼んでいたかもしれない。

それじゃあアイテムボックスってなんだろう??

「トスカは……テンジモノなのかもしれないね、ナムルが言っていたように」

「展示物? わたしは物じゃないけど」

なぜかムッとした。

「何を思い浮かべたの?」

「え? 展覧会とかに並べる品のことじゃないの?」

アダムとロサは目を合わせている。