作品タイトル不明
第1336話 創ったものと創られたもの③絶望の定義
『時が経ち成長した娘は、我とはもう会えなくなると言った。なぜだ?と問えば、明日自分は売られるという。我は逃げる手助けをするかと尋ねた。すると娘は自分がいなくなれば妹が売られてしまう。それは嫌なんだと言った。でも一つだけ方法があると。我はそれに協力してやると約束した。
約束の時間に赴けば、娘の親に捕まった。聖霊石で作った檻に入れられてな。娘は父親に何をするんだと憤ったが、父親は我を王に献上すると言って、娘を蹴った。
我のことを知った父親が我を金にしようと企んだのだと思った。
檻の中取り残された我のところに娘の妹御がやってきて、檻を開け、逃げろと言った。親たちのしたことを謝り人里には降りてきてはいけないとな。人を信じてはいけないと。
そう言われたものの、我は娘が父親に何かされてないかが心配となり家の中に入った。そこで聞いた。それは全て娘が企んだことだった』
みんなが息をのむ。
『娘はいつからか我は恵みを与えるものと思っていたようだ。囚われた我の前で自分を殴れと父親に言っておった。自分が可哀想であればあるほど、我は助けようとするだろうと。そして静かに献上されていくだろうと』
わたしは思う。いくら追い詰められても、裏切ることだけはしたくないと。
『裏切られて絶望したのだな……』
フクロウの口を借りて、悠が呟く。
『いいや、少し違う』
黒いモヤがフクロウの周りを縁取るだけのものへとなった。
『娘が小さい頃、いじめられている娘に森の恵みを置いてきた。見えない我に感謝の言葉を述べた時の娘は歪んではいなかった。我は小さな娘にどこかへ連れて行けと言われた時はしてやらなんだ。その判断が、今こうして娘を歪ませたのだと哀しかった。もし時が巻き戻っても、我は同じことをするだろう。なぜならその時の我の力では一緒にいつもいることは叶わず、そしてまたどうなるかわからないところへ娘を一人送り出すことはできないだろうから』
もふさまは、その時だっていっぱい考えて、思いつく一番いいことをしたんだものね。時にはそうした判断を後悔することもあるけど、でもそれはそう判断したことを後悔するのではなくて、そうしかできなかった自分の実力を後悔するということだ。
だから判断のミスというより〝哀しかった〟というのは、とても実直に心に響く。
『我の力が届いてないことは悔いるべきことだ。でも我は哀しかっただけなのだ。
人族の少女を歪ませるしかできない我が。我が人族と懇意になったことで仲間からやめるべきだと忠告を受けた。守るべきものが多くあるのに一つの種族だけ肩入れすると辛いことになると。言われた時は意味がわからなくてそういうものと思おうとした。だからわかってなかったのだな。こういうことも起こることを。
娘の家はある程度の裕福さだったのだろう。だから聖獣を知っていた。けれど聖獣の不得意とする聖霊石を知っていて用意できるのは王族など立場のあるものだけ。だが人族は知っている。聖霊石だけで聖獣を縛れるものではないと。
娘が親に進言し、親は立場あるものに言ったのだろう。立場あるものは捕まえろと聖霊石を授けた。そして我を差し出せば、父親も娘も、我を出してくれた妹御も、命を消されることだろう。我を助け出すものとして恩を売るために』
フクロウはもふさまの話に驚いているみたいだ。
黒い縁取りが幾分か薄れている。
『逃げたのではなくその親子を処分させないために……その場から離れたということか?』
もふさまは目を伏せる。
『我はひと種族に関わるべきではないとはこの意味だったのかと疑問を抱いた。けれど、ひとつの種族とも対峙できないようなものが森の主人といえるのかとも思った。どれだけ考えても答えはでず、我は与えられた役割だけを忠実にこなそうとした。
我は聖なる方から呼び出された。辛いか?と。辛いなら記憶を封じようと。
我はわからないだけだったが、聖なる方が言われることだから間違いがないと思い、記憶を封じてもらった』
わたしはてっきり、人族の少女を助けてあげたのに、逆に捕らえられ売られそうになり、裏切られたと絶望するほど傷ついたのだと思ったんだけど、それは違っていた。
もふさまは本当の意味で人族の少女を救えてなかったことで葛藤して、傷ついていたのだ。それもできないような自分が森の守り手でいいのかと悩むほどに。
『それから年月が経ち、記憶は封じられたままリディアと出会った』
もふさまと目があう。
『リディアと友達になった。〝ピンチ〟の時にも駆けつける友だ。弱き者でもあるが、リディアは我を救ってくれた。いや、それだけじゃない。我はリディアたちと一緒にいて〝楽しい〟を山ほど経験した。
封印した過去を知っている仲間にはまた人族と接するのを心配もされたが、我はわかった。人族とのことで何かが傷ついたのだとして。一生寄りつかないのも手だ。けれど我は幸運にもリディアと出会えた。リディアとともに多くの人族と接した。それでいくつもわかったこともあるし、思いが育っていったこともある。
触れあわなかったら、一生それ以上人族の情報が入ってくることはなかっただろう。そうすれば人族への思いが変わらないのは当たり前。
……絶望というのは止まった状態。他から何も取り入れられない。だから育たなく変わらないのだと思うのだ。
辛いことは底なしに感じ、事実その通りだという恐怖は知っている。けれど、きっと幸福も天井知らず。我らは変わっていくことでしか、今以外の景色を見ることは叶わぬのだ』