軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1335話 創ったものと創られたもの②応酬

『何を言うておる? 言うにことかいて、集落や森が幻影? 我の? 我が生み出した? 馬鹿なことを申すな。命あるものになんて言い草だ』

普通の反応だ。心に届くまで話すしかない。

「時の止まったような集落です。いつも同じことを繰り返している」

『森の民の暮らしはそんなものだ』

「明かり取りの魔具が骨董品です。どこを探しても今はあんなものにはお目にかかれない」

『第一大陸は厳しい地により、人が動かないからだ』

「第一大陸、南のベクリーヌだって、そんな骨董品は使っていません」

『幻影ということにして、棲み家に帰るよう兄姉たちに入れ知恵されたか?』

「怪我をした子供が数時間後、傷がきれいに消えていました。何も起こらなかったことのように」

『子供の怪我はすぐ治る!』

「集落の備蓄や貯水池は量がずっと変わっていません。各家庭は毎日潤されているのに」

『なんなんだ! 言いがかりばかりつけおって。お前たちの話を聞いたのが間違いだった!』

「目を背けないで! 言いがかりだと思うなら、聞いていても問題ないでしょ?」

仮の口であるフクロウが押しだまる。

みんなはわたしとフクロウの応酬を見守っている。

わたしが聞こえて話せるのは、いつもの通りどうしてかわからないけれど、今日もみんなコンタクトが取れるようにしてもらっている。

もふさまたちの声もみんなにも聞こえるように、こちら側も翻訳魔具を使っている。

「悠さまの幻影は優しすぎた。魔物は強いものに挑んでいきます。魔物だって生きるために狩をする。でも悠さまはそんな幻影を作れなかった。だから昼間は人懐っこい魔物たち。

悠さまが寝ている時、無意識は魔物に瘴気を与えた。魔物が凶暴なのは、それが真理だから。変化を起こすために。集落の人が魔物を狩ったり、巡回したりして、幻影を本当っぽくするため。何より自分が〝おかしくないこと〟だと思い込むために」

フクロウから黒いこよりのようなモヤが出てきた。

『もういい。帰れ!』

「目を背けないで」

黒いのは瘴気だ。

わたしの前に兄さまとノエルが出た。

もふさまはのそっと腰をあげる。

『精霊よ、人の子の言葉にお前は何を怯えておる?』

もふさまが尋ねた。

ここは使い魔と精霊・悠の力が親しんだ空間。

そこでももふさまの存在は際立っている。

黒いこよりはジリジリとその勢力を広げている。

『我も絶望に閉じこもりそうになったことがある』

もふさまはそう切り出す。

『我が幼き頃のことだ』

悠は耳を傾けているのか言葉を発しはしないけれど、こよりの勢いが止まった。

『ある人族の子に出会った。その子供は髪の色が変わっていることからいじめられておった。……時折、言葉を交わすようになり。ある日、自分を遠くへと連れ出してくれと言われた。我はそうすることもできた。けれどその新しい場所がその子供にとっていいものか悪いものとなるかは誰にもわからない。我も務めがあるゆえ、いつもついているわけにはいかなかった。あの頃は今よりも力がなかったからな』

もふさまの話を、みんな驚きながら聞き入っている。

そっか、わたしとレオ以外は詳しいことは知らなかったね。

ダンジョンの108階のボス、ローレライの悪夢。希望の箱が出てきたのもあの階をクリアしたからだけど、わたしも夢の中に閉じ込められそうになったんだよね。

ローレライは人を眠らせて養分をとるタイプの魔物だった。

そこでわたしは大好きなものだけに囲まれた夢を見ていた。それはとても素晴らしく甘く魅力ある世界だった。爵位も身分も関係なく大好きな人たちみんなが仲良しで学園に通い、魔物も普通にみんな仲良くできる世界だった。

ローレライは永遠にいたいと思いたくなるような夢を見せていた。大好きなものだけに囲まれていたから、わたしは〝忘れている〟ことを思い出したんだっけ。

アイラの心底わたしを嫌っている睨みつける目。

メロディー嬢の微笑みで覆い隠した、暗い企み。

アンドレ殿下の……。

わたしたちは〝いいこと〟だけじゃ生きていけない。中には2度と味わいたくない気持ちも経験してきた。でも、それでも生きていくにはそれらを糧にして、前をむく必要がある。そうやって大切な何かを守れる力を手に入れていく。辛いことだけど、それが大切なことだから、わたしは甘いだけの夢では満足できなかった、とも言えるのかな。

甘い夢に閉じ込めようとしたローレライの方こそ、辛い現実に閉じ込められた哀しい魔物だった。

あの時、もふさまは魂ひとつで、わたしを起こしにローレライの領域に入ってきてくれた。わたしは出ることができたけれど、今度はもふさまの肉体は眠ってしまったようになって。ふらりときた神獣ノックスさまの診断では、ローレライの魔力に触れて、夢に閉じ込められているのだろうとのことだった。

昔からの友達だったレオは心配した。もふさまが思い出したくないあの時のことに囚われてしまったのではないかと。

もふさまは人族に裏切られたことがある。そのあと、張り詰めたように仕事ばかりをしていて、みんな心配していた。それで聖なる方と話し合い、その裏切られた記憶を封印したらしい。人族とのことだったはずだけど、その頃の友達だったレオのことも忘れてしまったみたいだ。レオは何があったか知っていたから、もふさまに自分が友達だったとは思い出させようとしないで、また友達になった。

わたしはそう聞いて、もふさまは裏切られたことがショックだったって思ったんだけど。そんな思いを、夢の中だとしても体験してほしくないと思ったんだけど。

もふさまが絶望していたことは、思っていたのとは全く違うところでだった。