作品タイトル不明
第1334話 創ったものと創られたもの①矜持
「悠さま、ジョギさま、ごきげんよう」
夕方になってから声をかけた。赤い布も結んでもらっておいたしね。
今回も前回同様、魔力を戻してもらっている。
ここはある意味結界の中だから。魔法を使っても、わたしの魔力と気取られることはないだろう。魔法を使わずにいられることを祈るけれど。
フクロウは寝起きって感じ。羽繕いする時間もなく、押しかけているので、頭の後ろの毛が逆らっている。鳥って寝っ転がって寝たりはしないと思うんだけど、どうしてあそこに寝癖がつくんだろう?
いけない、余計なことを考えている場合じゃなかった。
だけど、悠に現実を突きつけるのはやはり辛いことで、無意識が明るい話題を探しているのかもしれなかった。
わたしはお初のロサ、ダニエル、ブライ、イザーク、ルシオを紹介した。
「疫病神にわからないように、悠さまを精霊さまたちの棲み家にお連れする方法が見つかりました」
ダニエルがそう切り出す。
ノエルがわたしの手を握る。
エリンはね、感情を理性で押さえつけるのが難しいタイプ。どう感情が爆発するか計り知れない。悠と対峙するだけでいっぱいいっぱいだと思いので、今日は母さまの淑女教育を受けてもらっている。ノエルには転移をお願いしたいので、辛い経験になってしまうかもしれないけど連れてきた。前情報として、知っていることは共有した。
わたしは大丈夫という思いをこめ、ノエルの手を握り返した。
『うむ。我は何をすればいい?』
ダニエルは小箱の説明をした。
外部と一切切り離すことのできるものであり、1回しか使えないこと。
『……一度? 我はどうやってここに戻るのだ? その小箱でなければ疫病神に知れてしまうのであろう?』
「はい。何かしらの決着がつくまで、悠さまは精霊さまたちの〝棲み家〟で暮らすのがいいと思われます。棲み家に疫病神が来たことはない」
ロサが答えた。
『我はこの大陸。森も集落も我が毎日見守らねばならん。長くここを開けることはできん』
「悠さま。悠さまはおっしゃいました。魔物が夜なぜか凶暴になる。それに困っていると。そのおおよその検討がつきました」
『何!? それもわかったのか? なぜなのだ、教えてくれ』
悠の声が弾む。嬉しそうなその分だけ、胸が痛む。
「確認です。昼は悠さまが見守り、夜は使い魔のジョギさまが森と集落を見守っているのではありませんか?」
夕方ジョギさまが起きてくる。だから夜が使い魔の時間で、昼は悠の担当であると思った。
『よくわかったな。その通りだ。交代していつも見守っておる』
「……ここは悠さまにとって、とても大切な場所なんですね……」
『そうだ。この瘴気の上に生まれてくれた者たちだ。生きながらえて欲しい』
「……足元にあたる南にはベクリーヌという国があります。もうすっかり共存されてますよ」
『そうか。それよりも原因は?』
スルーか。ベクリーヌも大陸の上にちゃんと立った国なんだけどね。
「わたしは瘴気が苦手です。第一大陸はこうした結界の中にいないと動くのが辛いほどです」
悠さまはうなずく。
「けれど、夜はどうしたわけか瘴気が少ないのです」
『我が寝ている夜、瘴気が少ないのか?』
「そうです。恐らく、悠さまは無意識に瘴気を森の魔物たちに注いでいるんだと思います」
『そ、そのせいで、夜魔物が凶暴になっているのか?』
それには答えず続ける。
「瘴気の森の魔物は 歪(いびつ) でした」
『歪?』
「見たことのない魔物でした。まるで、子供が魔物という題材で絵を描いたような」
『そうなのか?』
……ああ、なんて切り出せばいいんだろう。
告げる前に、少し自分の記憶が変ってことを感じて欲しい。
そうじゃないと、受け入れられなくて暴走する確率が高くなる気がする。
「悠さまは集落の人たちの名前を覚えていますか?」
『いいや? 話をするものは一人だしな』
「その者のことを覚えていますか?」
『時々話す』
「いつからその者がその役割を?」
『うむ……長いこと役割を果たしておる』
「交代、代替わりはしましたか?」
『さっきから何をいっておる? 夜に魔物が凶暴になることに、あの者が関係しているのか?』
「いいえ。関係しているのは悠さまだけで、悠さまがここを見守らず棲み家にお帰りになっても大丈夫だという話をしております」
フクロウがバサバサと羽を広げる。
『確かに魔物を凶暴化させるような力があるのは我のみ。我だけが関係しているのだろう。我がいなくなれば、集落は平和だと? だからここから立ち去れといっておるのか?』
わたしの後ろに兄さまが来たのを感じる。
使い魔が何かしたら、守ってくれるつもりなんだろう。
もふさまは相変わらず緊張などせず、あくびしてるけど。
「いいえ、違います。答えてください。人は交代したことがありますか?」
『交代なんかしておらぬ。いつもあの者だった』
ムッとした感じだ。
「人族の寿命は……80年前後です」
そこまで言うと、フクロウのジョギさまは、なんだか悲しそうな顔になった。使い魔はわかっていたのかもしれない。
「もっと長い年月、集落を見守っていらしたのでは? その間、一度も代替わりしていないのですか?」
『……わ、我は深く眠ったりもするゆえ、その時に……』
「代替わりの時にちょうどよく眠っていて、 い(・) つ(・) も(・) 気がつかなかったと?」
『何が言いたいのだ?』
かなりイラッときてる。
「哀しい思いをした方に酷なことを告げます。
けれど、わたしは信じたいと思います。絶望の先にも希望はあると。
悠さまは自我を失わないと。絶望に閉じ込められることはないと。
そう思っているのも、祈っているのも本当ですが。
でもわたしが一番言いたいのは……。
創ったのなら、最期まで向き合って逃げないで。
いくら辛くても哀しくても受け止めろ。それが創り出したものが持つべき矜持だと思う。創り出されたものは、創られたことを感謝して祈ることしかできないんだから!」
言ってて、わたしはきっと元創造神に対して生み出された気持ちなんじゃないかと思えた。あの時は言葉にするまで育っていなくて言えなかったけど。そして今、気の毒な悠さまにわたしは告げている。
「受け止めて、ちゃんと終わらせてください。それがあなたの役目だと思うから。
あの集落と瘴気の森の魔物は、あなたが創り出した幻影です」